たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸

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 ……これで彼が本当のところどう思っているか、皆理解することができたわね。

 シェリルは冷静に、そう思った。

 それがシェリルの勝算だったからだ。彼は人のために仕方なく大変な役割を理解しているけれど皆のためを思って苦しい思いをしながらも決断をし、多くの人を救った。

 そんな功績が欲しいだけの、ただの部外者だったのだ。

 当事者として同じ苦悩を背負うつもりがあって、だからこそそれを提案できるような顔をして話をしていた。

 しかしいざ自分がその立場になる可能性を帯びていることを目の当たりにしてしまえば彼はそれを否定せざるを得ない。

 ……だって次期国王としての立場をとても大切にしている人だものね。

 あまりに想定内の反応にシェリルはついつい笑みを浮かべて、彼に切り出した。

「ここで否定をするということは、つまりそういうことですね。ルーファス王子殿下、そもそも私はあなたがその提案をすることに覚悟があるという言葉を疑っていました」
「な、なに?!」
「だからこそ試させていただいたのです、その覚悟が本物か。でもあなたは本当の意味で国のためになどと考えてはいない。それはここにいる皆が見ていて理解できたと思います」
「そんなことはないから、ただ、その」

 突然のことに頭が追いつかずに言い訳をしようとする彼に、その間を与えずにシェリルはつづける。

「そもそも私に声をかけて、この国のために行動を起こしたのはハリエット王女殿下です。事件が起こった翌日まだ危険が残っているにも関わらず城から飛び出し、ウィルトン伯爵邸まで来てくださいました」
「なんと!」
「そんな危険なことを……」
「はい。とても危険なことです、けれど私が屋敷を開けるのを不安がると自身の騎士を半分も置いて、安心して城へと足を運ぶことを促してくださいました」

 少しだけ脚色をして彼女に注目を集める。打ち合わせはしていないけれども、きっと彼女ならば理解してくれるだろう。

「その姿に感銘を受けました。それに一人の人間が背負えば狂ってしまうような苦悩を背負わせて不安定にするより、ハリエット王女殿下の望みである負担を軽減させて魔獣に対処する力を身に着けるほうがいいのではありませんか?」

 ルーファスがアルバートを処罰しなくてもいいようにするために使った言い訳を利用して、ハリエットの案を押す。

 あとは視線を向けるだけで彼女は小さく息を吸ってそれから毅然とした態度で言った。

「ええ、ウィルトン伯爵、ありがとうございますわ。……わたくしは今まで通りの契約を望んでいません。たった一人にすべてを背負わせて、平和を得た結果、それが今の状態だとわたくしは考え━━━━」
「まった! 待ってほしい私の話はまだ終わっていない」

 しかし、すぐにルーファスはハリエットの言葉をさえぎって、自分の主張を続けようとする。

 それにピシャリとした声でサイラスは言った。

「ルーファス、お前はもうよい。自ら提案しておいて、いざ自分がその立場になる可能性を見て恐れをなす者の言葉など誰も信用しないだろう。皆当事者なのだ、もちろんウィルトン伯爵もその一人だ」
「ち、父上」
「お前はその気持ちを利用し自分だけは安全なところから、人に苦悩を押しつけるだけの策を提示して自分の功績にしようと利用した。そんな人間の言葉など誰が信用できるか」

 バッサリと切り捨てる様なその言葉に、ルーファスは唖然として、顔を青くしていく。

「私はお前から、すべてがお前の功績であるかのように報告を受けていたが、誰を一番に信用し取り立てるべきかを見誤っていたようだ。会議の邪魔建てをするのならばお前はこの場に必要な存在ではない」
「そんな……そんな、今までだって私は……」
「感情的になって建設的な話をできないようならばなおのこと、今はこれからについて重要な会議なのだ。それ以上、貴族たちの前で恥をさらすのはやめなさい」

 サイラスの言葉に、ルーファスは貴族たちの存在を思いだしたように恐る恐るその目を向ける。

 彼にとってそれがどんなふうに映ったかはシェリルにはわからないけれど、もすぐに顔を俯かせてそれから席を立つ。

 そしてそそくさと会議室を出ていく。

 その行動を多くの人が意外に思ったらしく、目を見開いて扉の方を見つめていた。
 
 ……まさか、本当に出ていくなんて……。

 どう考えてもこれからのための重要な会議の場であるのに、逃げ出すなど名誉挽回の余地もない。

 これほどまでに打たれ弱い人だとはまったく想定していなかった。

 しかし、それによって彼を推していた貴族たちは落胆や呆れのような感情を見せている。

 それもそのはずだ、窮地に立たされて逃げ出すような人に到底国王など務まるはずもない。

 それは誰もが理解していることだ。

 そして、そんな彼との違いを主張するようにハリエットは「続けてもよろしいかしら」ととても冷静な声で言って、彼女を中心に会議は進むことになる。


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