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しおりを挟む「えへへ、何でそんなに私の事好きなんですかね。意味わかんないです」
エイミーは隣に座って硬直するオーガストに、遠慮なくそんなことを言った。
意味わからないといいながらも彼女は、嬉しそうな様子で、少しお酒も入って彼に対する警戒心がやっと解けた様子だった。
「あら、自分を好いてくれた人間にそんな風に言うのってないわ。惚れられて当然だと思っているぐらいが人間健全ですのよ!」
「そんなのわかってます! だって私こんなに可愛い赤毛なんですよ、見てください」
「髪の毛が可愛いんですの? どういうことですの?」
「リディアだって素敵な金髪をしてているじゃないですか、そういう事です」
真面目な顔で言いあう彼女たちにロイは、若干意味が分からない会話を考察した。
リディアは所作や行動やセンスに惚れるのだと思っているから、髪の色が可愛いという言葉に上手く納得できない……のかもしれないという仮説を立てた。
オーウェンに下品だと悪口を言われた時も、三つ編みにしてこうしていれば清楚と言われるはずだと所作にも気を付けていた。
しかしその悪口は変わることがなく、彼女はそれについて意味がわからないと言っていたことがある。
彼女は元からの人間の持っている素材ではなく、行動で大方の人となりを判断している。
だからこそ、一度は説得をしようとしてみるし、行動による責任を重く見ている……のかもしれない。
しかし実際のところ彼女たちは酔っぱらっているので、話がかみ合っていないだけの可能性もある。
だとするならば、特に会話に意味はないということになるが、真偽は特に問題ではない。
リディアとエイミーの会話に置いてけぼりを喰らっているオーガストはエイミーと肩が触れ合っていて、それだけで緊張している様子で、会話に参加できない事など気にしていない様子だった。
「髪の毛の色なんてさして重要ではありませんわ。どれほど手入れをして美しく保つ努力をしているのか、そういう所が大切なのよ」
「それでも素材の持つ美しさというのは大切です。宝石だって元が美しいからカットされてさらに美しくなるんです、小石を削ったって小石です」
「小石だって磨けば光るのですわ。その削る努力もわからないような男に美しいと言われてもわたくし嬉しくないですの」
「それは……その通りですっ。そういう事です、オーガスト、わかりましたか?」
エイミーは意味が分からないタイミングで隣にいたオーガストに話を振った。
彼は、話しかけられて驚いた様子で彼女を見下ろしてから「ああ!」とまったくわかってなさそうな返答をした。
彼がエイミーとぴったりと隣り合って座っているのは、エイミーとの心の距離を物理的に縮めてしまえというリディアの作戦だ。
作戦はそこそこ成功しているらしく、肩が触れ合ってどぎまぎしていたエイミーとオーガストだったが、エイミーの方が彼に慣れるのが早かった。
……エイミー様は心を開くと早いですからね、いつも距離が近いですし、仲を深められそうでなによりです。
ロイは心の中で友人の夫婦関係がうまくいきそうで良かったと考えつつ、リディアの開いたグラスにワインを注いだ。
数時間にわたる飲み会だったが、ロイと、目の前にいるエメラインだけは素面のまま、ゆっくりと時間が流れていった。
明け方になる前に宴会はお開きとなった。
時間は、彼らがやってきてから、実際に馬で王都にこのクラウディー伯爵領から戻るまでの時間を目明日にしており、宴会が終わると、彼らは馬に乗って騎士団全員が密集するように整列した。
エイミーはその前に一人で立ち、騎士団とエイミーを見送るために少し離れた位置で見ていたリディアとロイに視線を送った。
準備ができたという事だろう。
リディアは最後に彼らにお土産の酒まで持たせて、別れの挨拶も済ませているので、特に何も言わずにエイミーに笑みを向けた。
すると彼女は庭園の芝生をけって走り、最後にリディアに飛びつくように抱き着いた。
「リディアッ」
ロイは突然の事に、流石にリディアも酔っているし、ここは自分が支えようと手を伸ばしたが、リディアは予想していたらしく彼女を捕まえて風の魔法で浮かし勢いそのままにぐるっと一周回った。
「ごめんなさい、色々迷惑をかけましたっ」
とんと、地面に置かれて、エイミーはそんな事も気にせず、瞳を潤ませて謝罪をした。
それになんてことないとばかりにリディアは返す。
「こういう時は、ごめんなさいよりも、ありがとうと言われた方が気分がいいですわ」
「あ、ありがとっ」
「ええ、どういたしまして。次に来るときは面倒くさいから、オーガスト王子殿下も連れてらっしゃい、そしたら喧嘩の仲裁くらいは出来ますもの」
流石に次も騎士団を引き連れて来られたら困るので、リディアはそんな風に言った。
それからオーガストに視線を向けた。
彼は始めに会った時よりも、リディアにも信頼を置いている様子で、彼女たちが二人で話し合っているのを見守っていた。
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