ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸

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「いやそうな顔……あはは、まあ、当たり前か……はあ……本当に……優しくするんだけどな」
「……」
「試しに来てみない?だめ?おいしいご飯も出すし、おやつ付きにするから」

 言いつつ彼は、まったくの無害ですというように、ニコニコ笑っていて、酒の影響なのか、それとも元来こういう人間なのかは判断がつかない。

「行くと来ないから、こんな場所にいるんでしょ?春先だけど、夜はひえるし……ね?」

 彼は、動かないボクに手をのばして、腕をつかむ。それから引っ張って立ち上がらせた。

 先ほどまで、鉛のように重く、どうにか動き出さなければと思ってもこのアスファルトに強く根を張ってしまっていたようだった体は、いとも簡単に動くようになり、長く蹲っていたせいか膝から下がジンと痺れた。

 そのまま腕を引かれて一歩踏み出す。

 彼は見てくれ通り力強くて、腕を振りほどくのには、労力がかかりそうだった。その事を「ふざけんな!誰が見ず知らずの人間についてくかよ!」なんて台詞を吐きながら突っぱねて、走り去らない理由にしてしまえば、腕に力を入れることだって億劫だった。

 それに、腹も減ったし、確かに春先でも深夜は冷え込むし、と言い訳が次々と思いつく。

 ……でもダメだろ。これは……どう考えたって、悪いことしか起こる気がしないだろ。

「っ……………」

 一歩、また一歩、と手を引かれて惰性で歩いてしまえば、もう自分の愚行を止めるのだって、けだるくなって、ボクの手を引いて、少し千鳥足で、スプリングコートをなびかせて歩く、彼の後姿を恨めしく睨んだ。

 しかし、とりあえずご飯をくれるというのだから、それだけでも本当なら儲けものだ。それで酔いがさめて、今日のことは忘れてくれなんて言われて、明日の朝あたりにでも解放されれば、一番ことが穏便に済む。

 そうでなくとも、例えばこの男が本当に人間を首輪でつないでペットにしようなんて輩なら、適当にどついて逃げ出せばいい。

 いくら弱っていたって、ボクにだってそのぐらいはできるはずだ。それに、もしそれ以上の何かがあったって……ついさっきのように、捨て犬さながら、一文無しで転がっているより、事態が悪くなる想像ができない。

 ……だから、ついていく事だって、悪くないのかもしれない。一般的には事件に巻き込まれる可能性があったり、常識的におかしいのだとしても、ようは、すべて時と場合によるのだ。

 そういう風に自分を無理やり納得させて、肩から掛けている黄色の旅行鞄を持ち直した。

 大体、こういう風に、もうすでにことが起こってしまっているときにする、自分への言い訳は、自分の選択が失敗している事をできるだけ気が付かないようにさせるためのものなのだ。

 今までのちっぽけな人生で、何度もその言い訳で取り返しがつかなくなったというのに、ボクはやっぱりいつもと同じように、そのことに目をつむって、暗闇の住宅街をふらふら歩いた。



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