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第三章 恋する駄女神
第91話 羨ましいと思う気持ち
しおりを挟む「……セリーヌ……ありが――」
俺達の姿を見るや否や、セリーヌさんは勢い良く駆け出し、居ても立ってもいられぬという様相で俺ごとシャーリーのことを抱きしめた。
「良かった。シャーロットちゃんが無事で本当に良かった!」
セリーヌさんの抱擁は想像以上に力強く、シャーリーの表情も少しばかり苦しんでいるように見える。当然、抱えられたままの俺も被害を被るわけで、美しいセリーヌさんの二子山が、鍔の部分にしっかりと押し当てられていた。
慎ましやかなサイズではあるものの肉付き自体は非常によく、更に反対側からはシャーリーのぷにぷにとしたほっぺに挟まれて……正直に言おう、苦しいながらも幸せである。
「……せ、セリーヌ……苦しい」
「ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい……恥ずかしいところ見せちゃったかな」
シャーリーの言葉に咄嗟に身を引くと照れ笑いを見せるセリーヌさん。第一印象は落ち着いたしっかり者、なんて感じがしたけど、意外と感情的でおちゃめな人なのかもしれない。
「……アサミ……トオルを……お願い」
「かしこま!」
突然シャーリーが俺の体を天道へと預けた。話をするのに俺を抱えたままだと失礼だとか、そんなことを考えたのかも。いかにも王女である彼女らしい対応だな、なんて思ってしまった。
「……セリーヌ……ありがとう……それと……ごめんなさい」
「いいのよ、シャーロットちゃんが無事に帰ってきてくれれば」
感謝の言葉を述べると同時に頭を下げるシャーリー。そんな彼女の頭をセリーヌさんは優しく撫でる。
「……でも……あの剣……大切な」
「剣よりも命のほうが大切だもの。シャーロットちゃんの役に立ったなら、剣も、お父さんも幸せだと思うから」
悔しそうに歯噛みするシャーリーの体を、今度は優しく包み込むように抱きしめるセリーヌさん。普段からクロエちゃんや子供達にしているからだろうか、その慣れた手つきに、落胆していたシャーリーの表情も自然とほころんでいく。こうしてみていると、まるで本物の姉妹のようである。
「先輩は、どっちが羨ましいの?」
二人の少女が戯れる姿をほんわかした気持ちで見守る中、聞こえてきた声に視線を上げてみると、いたずらっぽく笑う天道の瞳が俺のことをじっと見つめていた。
(羨ましいって、お前なぁ)
なんて言ってはみたものの、二人のどちらかになれたらどんなに幸せだろうか。なんて思わないこともない。何せ、今の俺はこんな体だ。自分からじゃ何もできず、不便なことも沢山有るけど、この体にもだいぶ慣れてきたと思う。それに、こんな形でこっちの世界に来なければ、シャーリーと出会うこともなかっただろう。そんな風に考えれば、今の生活も悪くないとある程度は受け入れられる。
けど、こんな体になってしまったことに、少なからず後悔もあるわけで……一番の後悔は、彼女に触れてやれないこと。
俺の想像だけど、彼女は沢山の人に囲まれながらも本質的には一人で生きてきて、そんな中で個としての彼女をしっかりと見てやれたのは、家族を除いて俺だけなんだと思う。だから、彼女を守るのは俺の役目で、いち早く察して包み込んでやれないことがたまらなく情けなくなる。そういう意味では、今のセリーヌさんを羨ましいと感じているのは間違いないだろう。
なんて、カッコよくまとめては見たものの、思い上がりも甚だしかったらどうしよう。でも、あれだよな! 男にはこのぐらいの自信が必要だよな! シャーリーにも自信を持っていいってよく言われるし、少しぐらいの自意識過剰なら許されるはずだ。
「クロエちゃんもいるし、子供達の面倒も随分前から見てたらしいよ。だからかな、セリーヌって凄く包容力ありそうだもんね」
天道の言葉を聞きながら今度はセリーヌさんを中心に見つめてみる。彼女は身長も高めで、清楚で落ち着いた白の普段着がいかにもお姉さんという風体を醸し出している。
もし人間の体であんな風に抱きしめられたら、きっと幸せな気持ちになれるんだろうな。なんて思うと、シャーリーが凄く羨ましく思えてくる。
「でも、そういう感情は程々にね。普段から抱きかかえられてるのに、他の女性に抱きしめられたいとか、またシャーロットに怒られるよ」
確かにそうだ。天道に言われるまですっかり忘れていたが、最近の俺はシャーリーに抱きしめられていることがとても多い。それなのに、他の女性の方がふくよかで抱きしめられ甲斐がありそうだ。そんな風に考ていては浮気と受け取られかねない。
(……気をつけるよ)
人間の慣れって怖い。そう思いながら俺は深く反省した。
「うむ、よろしい。愛っていうのは無償だけど、何もしないで向けられるものじゃないってこと、忘れちゃだめだよ」
なんでお前が偉そうなんだよと思いつつも、たぶんそれは間違いじゃない。
抱きしめてくれるというシャーリーの愛情を、感覚の麻痺した俺はそれが当たり前なんだと思いこんで、それ以外のものを求めてしまう。これは人間の悪い癖だ。自分が今幸せであることを、すぐに忘れてしまうんだから。上を目指すことは悪いことじゃないけど、基盤だけはしっかりしないとな。
「そうそう、先輩は幸せ者なんだぞ。なにせ――」
「けんしのおねえちゃん、おようふくぬれてるよ?」
天道の言葉を遮るように発せられたクロエちゃんの何気ない一言に、俺は視線を高速で彷徨わせる。
俺達の姿を見るや否や、セリーヌさんは勢い良く駆け出し、居ても立ってもいられぬという様相で俺ごとシャーリーのことを抱きしめた。
「良かった。シャーロットちゃんが無事で本当に良かった!」
セリーヌさんの抱擁は想像以上に力強く、シャーリーの表情も少しばかり苦しんでいるように見える。当然、抱えられたままの俺も被害を被るわけで、美しいセリーヌさんの二子山が、鍔の部分にしっかりと押し当てられていた。
慎ましやかなサイズではあるものの肉付き自体は非常によく、更に反対側からはシャーリーのぷにぷにとしたほっぺに挟まれて……正直に言おう、苦しいながらも幸せである。
「……せ、セリーヌ……苦しい」
「ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい……恥ずかしいところ見せちゃったかな」
シャーリーの言葉に咄嗟に身を引くと照れ笑いを見せるセリーヌさん。第一印象は落ち着いたしっかり者、なんて感じがしたけど、意外と感情的でおちゃめな人なのかもしれない。
「……アサミ……トオルを……お願い」
「かしこま!」
突然シャーリーが俺の体を天道へと預けた。話をするのに俺を抱えたままだと失礼だとか、そんなことを考えたのかも。いかにも王女である彼女らしい対応だな、なんて思ってしまった。
「……セリーヌ……ありがとう……それと……ごめんなさい」
「いいのよ、シャーロットちゃんが無事に帰ってきてくれれば」
感謝の言葉を述べると同時に頭を下げるシャーリー。そんな彼女の頭をセリーヌさんは優しく撫でる。
「……でも……あの剣……大切な」
「剣よりも命のほうが大切だもの。シャーロットちゃんの役に立ったなら、剣も、お父さんも幸せだと思うから」
悔しそうに歯噛みするシャーリーの体を、今度は優しく包み込むように抱きしめるセリーヌさん。普段からクロエちゃんや子供達にしているからだろうか、その慣れた手つきに、落胆していたシャーリーの表情も自然とほころんでいく。こうしてみていると、まるで本物の姉妹のようである。
「先輩は、どっちが羨ましいの?」
二人の少女が戯れる姿をほんわかした気持ちで見守る中、聞こえてきた声に視線を上げてみると、いたずらっぽく笑う天道の瞳が俺のことをじっと見つめていた。
(羨ましいって、お前なぁ)
なんて言ってはみたものの、二人のどちらかになれたらどんなに幸せだろうか。なんて思わないこともない。何せ、今の俺はこんな体だ。自分からじゃ何もできず、不便なことも沢山有るけど、この体にもだいぶ慣れてきたと思う。それに、こんな形でこっちの世界に来なければ、シャーリーと出会うこともなかっただろう。そんな風に考えれば、今の生活も悪くないとある程度は受け入れられる。
けど、こんな体になってしまったことに、少なからず後悔もあるわけで……一番の後悔は、彼女に触れてやれないこと。
俺の想像だけど、彼女は沢山の人に囲まれながらも本質的には一人で生きてきて、そんな中で個としての彼女をしっかりと見てやれたのは、家族を除いて俺だけなんだと思う。だから、彼女を守るのは俺の役目で、いち早く察して包み込んでやれないことがたまらなく情けなくなる。そういう意味では、今のセリーヌさんを羨ましいと感じているのは間違いないだろう。
なんて、カッコよくまとめては見たものの、思い上がりも甚だしかったらどうしよう。でも、あれだよな! 男にはこのぐらいの自信が必要だよな! シャーリーにも自信を持っていいってよく言われるし、少しぐらいの自意識過剰なら許されるはずだ。
「クロエちゃんもいるし、子供達の面倒も随分前から見てたらしいよ。だからかな、セリーヌって凄く包容力ありそうだもんね」
天道の言葉を聞きながら今度はセリーヌさんを中心に見つめてみる。彼女は身長も高めで、清楚で落ち着いた白の普段着がいかにもお姉さんという風体を醸し出している。
もし人間の体であんな風に抱きしめられたら、きっと幸せな気持ちになれるんだろうな。なんて思うと、シャーリーが凄く羨ましく思えてくる。
「でも、そういう感情は程々にね。普段から抱きかかえられてるのに、他の女性に抱きしめられたいとか、またシャーロットに怒られるよ」
確かにそうだ。天道に言われるまですっかり忘れていたが、最近の俺はシャーリーに抱きしめられていることがとても多い。それなのに、他の女性の方がふくよかで抱きしめられ甲斐がありそうだ。そんな風に考ていては浮気と受け取られかねない。
(……気をつけるよ)
人間の慣れって怖い。そう思いながら俺は深く反省した。
「うむ、よろしい。愛っていうのは無償だけど、何もしないで向けられるものじゃないってこと、忘れちゃだめだよ」
なんでお前が偉そうなんだよと思いつつも、たぶんそれは間違いじゃない。
抱きしめてくれるというシャーリーの愛情を、感覚の麻痺した俺はそれが当たり前なんだと思いこんで、それ以外のものを求めてしまう。これは人間の悪い癖だ。自分が今幸せであることを、すぐに忘れてしまうんだから。上を目指すことは悪いことじゃないけど、基盤だけはしっかりしないとな。
「そうそう、先輩は幸せ者なんだぞ。なにせ――」
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天道の言葉を遮るように発せられたクロエちゃんの何気ない一言に、俺は視線を高速で彷徨わせる。
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