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第十八章
「弟」
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洋介の突然の行動に、良は二、三度瞬きをして固まる。
「え……ちょ、ちょっと……」
「今までのこと、本当にすまなかった」
良の戸惑いの声を遮って出した洋介の言葉に、良はさらに困惑する。
「……障害のある奴を見ると……どうしても身内のことを思い出しちまうんだ……」
洋介は顔を上げ、眉根を寄せて話し始めた。
「俺には……二つ年下の弟がいて……でも、生まれつき足が悪くてずっと車椅子なんだけど……中学に上がってから急にいじめられるようになって……」
その後、弟は精神的なことが原因で話せなくなり、今の柊真のように筆談でしか会話が出来ないらしい。
それから弟との会話が減り、障害のことを指摘されて落ち込んでいる良や柊真の姿を見ていると、弟のように "負けたことを認めている" ようで、苛立ちを覚えるのだと話した。
「……橋田は、弟が喋れないことを…… "逃げ" だとか、 "甘え" だと思ってるの? 」
今の世の中、精神的なことが原因で障害を追うことは珍しくない。しかし、それを「逃げ」「甘え」「怠け」だと非難する者がいるのも事実。
良はそれらの話題を見ると、世間から責められているような気がして苦しくなる。
良は幸い、家族や周囲の人間がそのことを理解し、受け入れてくれる。
しかし、洋介が弟のことを受け入れられないと言うのなら、弟は……。
そこまで考え、もう一度洋介をじっと見る。
「……いや」
洋介は首を横に振って否定した。
「いじめられて、辛い思いをしてきた弟に、 "逃げるな" なんて言えない。ただ、今の俺には、弟を支えてやることができない。それが、すごくもどかしい……」
洋介の言葉に、良は内心驚いた。
洋介は、弟の置かれている状況を悲観してはいなかった。
ただ自分が無力であると、力になれないのがもどかしいと。
「……力になろうとしなくても、いいんだよ」
良は笑って言った。
「俺もそうなんだけど、こんな状態の自分でも、誰かが傍にいてくれたら……それだけで嬉しいんだ。自分は一人じゃないって、受け入れてくれる人がいるんだって、それがわかるだけでも、すごく心が軽くなるんだ」
ただの気休めかもしれない。自分の言葉は洋介には届いていないかもしれない。それでも、こちらから歩み寄らなければきっと一生わかり合えない。
「だから、橋田が傍にいるだけで、弟はきっと今より楽になる。俺はそう思うよ」
他人の気持ちを百パーセント知ることなど到底できないが、辛いときに誰かに傍にいてほしいというのは、きっと大半の人が感じるものだと良は思っていた。
少しして、洋介はほんの少しだけ穏やかな表情で笑った。
「ありがとう。少し楽になった」
「あ、いや……良かったよ。力になれたみたいで……」
礼を言われて急に恥ずかしくなってしまい、視線を逸らすと、洋介は可笑しそうに笑って保健室を出ていった。
第十八章 終
「え……ちょ、ちょっと……」
「今までのこと、本当にすまなかった」
良の戸惑いの声を遮って出した洋介の言葉に、良はさらに困惑する。
「……障害のある奴を見ると……どうしても身内のことを思い出しちまうんだ……」
洋介は顔を上げ、眉根を寄せて話し始めた。
「俺には……二つ年下の弟がいて……でも、生まれつき足が悪くてずっと車椅子なんだけど……中学に上がってから急にいじめられるようになって……」
その後、弟は精神的なことが原因で話せなくなり、今の柊真のように筆談でしか会話が出来ないらしい。
それから弟との会話が減り、障害のことを指摘されて落ち込んでいる良や柊真の姿を見ていると、弟のように "負けたことを認めている" ようで、苛立ちを覚えるのだと話した。
「……橋田は、弟が喋れないことを…… "逃げ" だとか、 "甘え" だと思ってるの? 」
今の世の中、精神的なことが原因で障害を追うことは珍しくない。しかし、それを「逃げ」「甘え」「怠け」だと非難する者がいるのも事実。
良はそれらの話題を見ると、世間から責められているような気がして苦しくなる。
良は幸い、家族や周囲の人間がそのことを理解し、受け入れてくれる。
しかし、洋介が弟のことを受け入れられないと言うのなら、弟は……。
そこまで考え、もう一度洋介をじっと見る。
「……いや」
洋介は首を横に振って否定した。
「いじめられて、辛い思いをしてきた弟に、 "逃げるな" なんて言えない。ただ、今の俺には、弟を支えてやることができない。それが、すごくもどかしい……」
洋介の言葉に、良は内心驚いた。
洋介は、弟の置かれている状況を悲観してはいなかった。
ただ自分が無力であると、力になれないのがもどかしいと。
「……力になろうとしなくても、いいんだよ」
良は笑って言った。
「俺もそうなんだけど、こんな状態の自分でも、誰かが傍にいてくれたら……それだけで嬉しいんだ。自分は一人じゃないって、受け入れてくれる人がいるんだって、それがわかるだけでも、すごく心が軽くなるんだ」
ただの気休めかもしれない。自分の言葉は洋介には届いていないかもしれない。それでも、こちらから歩み寄らなければきっと一生わかり合えない。
「だから、橋田が傍にいるだけで、弟はきっと今より楽になる。俺はそう思うよ」
他人の気持ちを百パーセント知ることなど到底できないが、辛いときに誰かに傍にいてほしいというのは、きっと大半の人が感じるものだと良は思っていた。
少しして、洋介はほんの少しだけ穏やかな表情で笑った。
「ありがとう。少し楽になった」
「あ、いや……良かったよ。力になれたみたいで……」
礼を言われて急に恥ずかしくなってしまい、視線を逸らすと、洋介は可笑しそうに笑って保健室を出ていった。
第十八章 終
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