親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま

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番外編

有栖の結末

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■side有栖

僕は、綺麗で可愛くて、誰よりも良い香りがして、みんなが僕に注目して見蕩れる。誰よりも視線を浴びなくちゃいけない。そんな、誰からも愛される。特別な子。

──だから、こんなことはおかしい。

「お、お父様?い、今、なんと仰ったんですか?」

父は重いため息をついて、どっかりと椅子に腰掛けた。そして、今まで見た事のないような鋭い瞳で僕を睨む。

「眞鍋家から、我が家家との取引を今後一切中止するという申し出があった。信用を失ったんだ。これは、お前のせいでもある」

「ぼ、僕が⋯⋯?なんで?!」

僕は、可愛く笑って、パーティで沢山の男性の心を射止めていたはずだ。結婚を申し込まれて、家の発展に貢献することはあれど、何か失敗したつもりはない。意味がわからない、と嘆く僕を前に、お父様は頭を抱えた。

「お前がここまで馬鹿だとは思わなかった。⋯⋯少々、甘やかしすぎたか」

「何を、言って⋯⋯」

いつも、お前が1番綺麗で可愛いと褒めてくれるのはお父様なのに。いつもの柔らかい笑顔とは打って変わって、眉間には深い皺が刻まれている。お父様は、渋い顔をしたまま、引き出しの中から紙の束を取り出した。

「これは、お前が今までやってきたことが事細かに書かれた報告書だ。身に覚えがないとは、言わせない。」

沢山の文字が並んでいる。それと、僕が顔の良い男と戯れていたり、飲み物を洋服にかけたり、足をひっかけたりして、笑っている写真が並んでいる。相手は違うけれど、どれも僕の前に立つ邪魔者や、地味でダサいパーティの品格を落とす奴らに、自分の立場を教えにいったときのものだった。

「違う。僕は、そんなつもりじゃない。誰かが、誰が、これを⋯⋯」

「見苦しい言い訳はやめなさい」

鋭い声を出されて怯んだ。そんな僕の様子を見て、お父様はまたため息を吐くと、紙束から、1枚の紙を抜き出す。

「誓約書だ。ここにサインしなさい。自分の責任は自分でとれ」

震える手で、その紙に手を伸ばす。遠くの地に嫁ぐように書いてあった。嫁ぎ先は、全く親交がなく、名前を聞いたこともない家。そのほかに、近くに監視を置くことや、体に位置情報を埋め込むことなど、複数の条件ががつらつらと並んでいる。

「こ、これは⋯⋯?嘘、嘘ですよね。ね、お父様?」

「残念だが本当だ。この誓約書にお前がサインすることを条件に、眞鍋家は一部の取引を続けようと申し入れている。」

口をぱくぱくさせるだけで、言葉が出ない。乾いた空気だけが喉を通った。

「お前は、我が家の顔に泥を塗った。それに対しては相応の処罰で、むしろ優しいくらいだ。」

お父様の言葉が、受け入れられない。信じ難い。許せない。僕が、この僕が、なんでこんなことになるんだ。

「やだ!やだ、やだ!」

いつから、僕の完璧な世界は狂ったんだろう。

「すまないが、もうそんな駄々は聞き入れられないんだ。仕方ないな⋯⋯おい」

横から出てきた男たちが、僕を羽交い締めにした。全部有栖家の護衛だ。こいつら⋯⋯!この前まで、美しい僕の姿に頬を染め、僕の下に傅いていたのに!力強く握られる腕は酷く痛んだが、その痛みを忘れるくらい耐え難い屈辱だった。腕が捕まれ、指に針が突き刺される。そのまま、暴れる腕を抑えて、書類に浮き出た血を押し付けられた。指紋が、くっきりと紙に写し出される。

「では、婚姻の日付に合わせて、準備しておくように」

お父様が手を叩くと、護衛に部屋から連れ出される。僕が部屋に来てから今までの間、お父様は一度も僕の目を見なかった。

どうして、こっちを見てくれないの?


幼い頃のパーティで、父はずっと眞鍋家の方を見ていた。そして、僕に言うのだ。

「きっと、秋人くんと仲良くなりなさい。お前は特別な子だから、出来るはずだ。」

お父様と目が合うのは、そう、念押しするときだけだった。秋人さんに話しかけにいくと、その度に、お父様は笑顔になる。

「よくやったな。お前は特別な子だ。」

特別だから、みんなの注目を集めて、1番になれば、お父様はもっと褒めてくれると思っていた。

けれど、以前のパーティで、秋人さんに駆け寄ると、彼が、何かを熱心に見つめていることがわかった。その目線の先にいるのは、地味で平凡なβ。

許せなかった。邪魔者は、舞台から退場させないと。僕が主役になって、1番目立たなくちゃいけないんだ。

秋人さんの、透き通った瞳の色が思い出される。あの素敵な瞳で、あんなに熱心に、僕も見つめられてみたかった。滲んだ視界の中で、目の前の扉が閉まっていくのが見える。その様子を見て、お父様が、僕を易々と見捨てたことを悟った。

いや、初めから僕のことなんて、見ていなかったのかもしれない。役に立つから褒められて、役に立たないから切り捨てられた。それだけだ。

可愛くて、美麗な有栖家のΩ。

こんな時、そんな称号はまるで役に立たない。どうして、今までそんなものに執着してきたんだろう。

本当は、すごく寂しかっただけなんだ。秋人さんの瞳が、お父様と同じ色だっただけ。僕は、誰かに認められたかった。横の護衛でも、通りがかりの侍従でも、猫でも、虫でも、誰でもいい。誰でもいいから。

──ねぇ、僕を見てよ。

自室へ続く広い廊下で、虚しく散った僕の願いは、誰にも聞き入れられることはなかった。



END


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みんなの感想(1件)

通りすがりの通り雨

視点が変わった所からのアキの内心がとてつもなくて、引き込まれるように一気に読んでしまいました!
なんてこったいこれだからαの執着は美味しいんだもぐもぐ……。

ところで、アキには認識されてもいなかった自称婚約者の当て馬オメガくんの行く末がちょっとだけ気になりましたw
瑞希くんを悲しませたのでね…

執筆お疲れ様でした!どうぞご自愛しつつ、これからも作品を楽しませていただきます。
それでは。

2026.01.26 さるやま

攻め視点自体は、後で追加した部分だったのですが、とても楽しく書き上げた思い出があるので、読んでいただけてとても嬉しいです!

自称婚約者の当て馬オメガくん笑
言葉にすると、悪役を背負わせすぎて、申し訳なくなります⋯⋯

確かに、本編で彼の結末には、ほとんど触れていないです!

有栖くん(当て馬の子)は、幼い頃アキと婚約の約束はしていたものの、向こうから断られて実現しなかった。好きな人を、格下の主人公に奪われて激昂しているという形なので、正直、アキと絡みがほぼなく、アキからすれば本当に認識されていないです。でも、絶対に瑞希くんを迎えに行くまでの3年間で、なんらかの手は打っていると思います。

折角ですし、その展開がないとスッキリしないのも確かだと思ったので、番外編として、また、有栖 sideの結末を追加しようと思います。もし、お時間あるときに、覗いていただければ幸いです。

長い話を読んでくださって、また、感想まで送っていただけて、とても嬉しいです!ありがとうございます!

解除

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