異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

文字の大きさ
26 / 201
第1章 国盗り始め

第24話 斎藤家

しおりを挟む
「わが~~~~~~~~!」

 俺の腰に取り付き泣き喚く若い男。

 情けない事この上なき醜態しゅうたいさらしているのは、俺の元守役にして、大坂屋敷詰めの家老、加治田かじた藤佐とうすけ利守としもりである。

 俺を含め、親しい者からは『とうざ』と呼ばれる人の良い男だが――――。

「お主はもう二十五であろうが! 年甲斐としがいもない! いい加減に離れぬか!」

「何を申されます! 命永らえて再び若と相まみえたのですぞ! これが泣かずにおられましょうか!?」

 腰に回った腕にさらに力がこもった。

「泣くより先に、お主の命を救った二人に礼をせい!」

 藤佐とうざの首を掴み、強制的に反対側へ向ける。「ぐげっ」と変な声が聞こえた気がするがもう知らん!

 その様をミナとクリスが苦笑いして見つめていた。

「この二人がな、回復魔法……とかいう術を使ってお主の傷を治したのだ!」

「なんと……この可憐な南蛮の女性にょしょうが手前を?」

「南蛮ではないが……まあとにかく治したことには変わりない」

「ありがとう……ありがとうござりまする! もはや二度と、若とまみえること適わぬものと覚悟をしておりました! この加治田かじた藤佐とうすけ利守としもり、このご恩は終生忘れませぬ!」

 床に頭を擦り付けるようにして何度も礼の言葉を述べ立てる。

 時折、「天女の如き慈愛!」とか、「薬師如来の御業!」とか、「少彦名神すくなひこなのかみもかくやあらん!」とか、やたらと大袈裟な言葉が聞こえるが触れると面倒そうなので放っておいた。

 最初は誇らしそうな顔をしていたミナとクリスだったが、いつまで経っても終わらない藤佐とうざの礼に「もう結構ですから!」と宥めるのに必死の有り様だ。

 触れると面倒そうなので助けはせんがな。

「はあ……藤佐の感傷的な性格にも困ったものだな……」

「いいえ。そうとも言い切れませぬぞ?」

 口を挟んだのは僧形そうぎょうの中年男。

 医師の曲直瀬まなせ道玄どうげんだ。

 瀕死の傷を負った藤佐が命を繋いだのは、この医師の存在なしには語れぬ。

「先生ほどの腕を持つ医者が藤佐の言い分に賛同するのか?」

「はい。危篤きとくと覚悟していた患者の傷が瞬く間に癒え、目を覚まして大声で泣き喚いておるのですぞ? 神仏の御業と申すより他にありますまい」

「そうか。先生の目から見てもそう思うか」

「医者として今日ほど口惜しく思った日はありませぬ。それなりに医術を修めたと自負しておりましたが、井の中の蛙にございました。まだまだ精進せねばなりませぬ」

 先生の目がぎらつき始めた。

 今にもミナやクリスに弟子入りすると言い出しかねない様子。

 藤佐に加えて先生の相手もせよと丸投げするのは気の毒か――――。

 適当な話題で注意を逸らしてしまうとしよう。

「ところで、先生は何故なにゆえ京屋敷におられたのだ?」

「わたくしでございますか? いえ、京屋敷ではございません。大坂屋敷をお訪ねしておりました」

「そうか。往診の日であったか」

「左様でございます。お陰で京の地震は逃れたものの、気付けばこちらに」

「済まないことをした。当家に用が無ければ、神隠しになぞ遭わずに済んだものを」

「神隠し? ほう、これは神隠しにございましたか。ならばここは異界ですな。丁度良い」

 先生は清々した顔つきで話す。

「太閤殿下の横暴振りには辟易していたところでございます。やれ千宗易殿と付き合いがあった、やれ関白秀次卿と付き合いがあったと、何かにつけて目を付けられ、鬱憤うっぷんが溜まっておりました。息苦しいことこの上ない。異界の方がいくらかマシでございます」

「肝が据わっておられるな」

「医者にございますので。患者を治すことに比べれば、大概のことは驚き慌てるに値しませぬ」

「神隠しは驚き慌てるに値すると思うが――――」

 ドタドタドタドタッ!

 慌ただしい足音と共に、大人数が――――。

「「「「兄上っ!!!!」」」」

「待て――――グフッ!」

 小さいのが次々と俺に飛び掛かって――――誰だ!? 腹を目掛けて飛び掛かって来た奴は!?

「離れんか!」

「兄上!」

「兄上じゃ!」

「本物じゃ!」

「会いたかった!」

「新五郎! お松! お鶴! お千! 離れよと言うのが分からんか!」

 弟一人に妹三人、何を言っても聞き分けず「嫌じゃ離れぬ!」と言ってきかない。

 この大騒ぎを前にして、さすがの藤佐も静かになり、先生は口元を押さえて笑い、ミナは目を丸くし、クリスは――――。

「ふわああああ……。可愛いねぇ……」

と、目を輝かせて「おいでおいで」と犬や猫を誘うように手を差し伸べた。

 すると弟妹達は動きをピタリと止め、クリス――――ではなく、横にいるミナに狙いを定めた。

「南蛮人!?」

「綺麗な髪!」

「目が真っ赤!」

「それいけ掛かれ!」

「ちょ……やめ……そこは触らないで――――!」

 クリスが「どうしてぇ?」と半泣きになる中、ミナは四人がかりで手籠めにされ、あられもない姿になってしまった。

 なかなかそそる――――いやいやそうではない。でかした弟、妹よ――――それでもない!

 おほん……済まぬなミナ。骨は拾ってやるからしばし耐えてくれ……。

「はっはっは……楽しそうだな……」

 弟妹達の騒ぎに紛れ、気付かぬ内に部屋の外には人垣が出来ていた。

 母上、八千代、山県に左馬助。そして――――。

「父上!? お、起きても良いのか!?」

 母上と八千代に支えられて立つ父上の姿。

 思わず先生の顔を見ると、大きく頷いた。

「往診した際は臥せっておられました。ですが、こちらへ来てからお加減がよろしいようです」

「寝たきりだったではないか! たったの数日で歩けるまでに回復するのか!?」

「わたくしも初めての経験です。藤佐とうざ殿もすぐさま事切れてもおかしくない傷にございました。ですがそうはならなかった」

「……神隠しが原因か?」

「確かなことはなんとも……。ただ、わたくしの腕だけでは難しゅうございました。喜ばしくありますが、医者としては悔しくもあり……」

 先生が深く溜息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...