異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第1章 国盗り始め

第25話 祀り

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「やっぱり大きいねぇ……」

 クリスが大岩おおいわを見上げて呟く。

 ミナは物見の砦の三倍の大きさだと言ったが、もっとあるかもしれん。

 大坂城の天守閣を横倒しにすれば、これくらいの大きさになるだろうか?

 さて、父上達と再会した後、俺はミナとクリス、左馬助と十人ばかりの家臣を連れて大岩と大株おおかぶまで足を運んだ。

 加治田や弟妹達も一緒に行くと言ってきかなかったが、病み上がりと子どもを連れて歩くことは出来ない。

 最後は母上と八千代に制圧されて、奴らの目論見はもろくも崩れ去ったのだった。

 だが、今更ながらに連れて来てやっても良かったのではないかと思わされた。

 聖域と呼ばれているだけのことはあり、清浄な雰囲気を感じるのだ。

 これまで通って来た荒れ野には心の休まる所がなく、むしろ心がささくれ立つような緊張感を感じていた。

 ここにはそれがまるでない。

 大きく息を吸って、この場の空気を身体の中へ取り込みたくなってしまう。

 そんな心持ちのまま、何者かに招かれるようにして大岩の割れ目に近付く。

 そこには、焼け焦げの跡が生々しい大株の姿があった。

「……本当に大岩を割って生えておったのだな。見事に真っ二つだ。枝葉の生い茂る巨木であった頃はさぞかし壮観な姿であったであろう」

「この姿を見ていると、胸が締め付けられる気分になるな……」

「皇帝陛下も木の一本くらい残せば良かったのよぉ。大岩と大株があっても魔石探しの邪魔にはならなかったでしょうに……」

 ミナとクリスの嘆きを聞きつつ、大株を見て回った。

 ここまで徹底的に焼かれたとあっては、万に一つも希望はないやもしれぬが――――、

「――――あった。おい、これを見てみよ」

「何を見ろと……あっ! クリス! こっちへ!」

「どうしたのぉ? ……すごい! 芽が出てる!」

 真っ黒な焼け焦げを割るようにして、小さいながら新芽が出ている。

 葉が数枚付いている程度の小さなものだが、間違いなく大株から生えている。

「切り株には新芽が生えるものだ。ここまで焼き尽くされながら生えると言うのは驚きでしかないがな」

「師匠にも見せたかったな」

「うん。きっと喜んだはずだよぉ」

「さすがは聖域といったところか。だが、こんな時に新芽を見付けられるとは縁起が良い。早速始めるとするか」

 不思議そうな顔をしている二人を横目に、家臣達へ指示を出す。

 あらかじめ心得ていた家臣達は淀みなくあん三方さんぽうを用意し、屋敷から持ち出した酒に米、野菜や果物を供えた。

「これは……まるで神々へ供物くもつを捧げているようだな」

「お、分かっているではないか。その通りだぞ」

「何? しかし何処《いずこ》の神に対するものだ?」

「ここには聖堂も無いんだよ?」

「聖堂など不要。神は大岩と大株に宿っておられる」

 ミナとクリスは何を言っているんだと不思議そうな顔をするが、望月や家臣達は「うんうん」と頷いている。

斯様かような巨石と巨木、人の手には余る代物よ。きっと、この地の神が宿るに違いない。新たにこの地へとやって来た者として、挨拶の一つもせねば罰が当たると言うものだ。屋敷にいた者達を守っていただいた恩もある」

「神が岩や木に? 神々は天上におられるのではないのか?」

「天上にもおられるが、人の世の隅々にもおられる」

「シンクローの言う事がさっぱり分からないよぉ……」

「大岩や大株には感嘆させられるが、かと言って神々とは……」

 二人は腕を組んで考え込んでしまう。

 放っておくと頭から煙か湯気が出てきそうだ。

「日ノ本ではよくあることだ。巨木や巨石を神々の依り代として祀る事がな」

「ううむ……異世界の習慣か……。しかし、どうやって岩や木の中に神々が入り込むんだ?」

「古代の習俗や異民族の文化に似たようなのがあったような、なかったような……」

左様さように頭を抱えて考えねばならぬことか?」

「若、南蛮の伴天連ばてれん共も日ノ本の神仏に関して理解出来なんだと聞き及びますぞ」

「神はたった一人だと抜かす連中には理解出来んであろうな。ミナとクリスは少し違う気もするが、神々が天上にしかおられないと言っておる時点で、産土うぶすな鎮守ちんじゅ地主じしゅと言ったところで伝わらんか」

 左馬助と話している間も必死で頭を捻っているようだが、納得のいく答えは出そうになさそうだ。

「二人共、今はそんなものだとでも思っておけ。直に慣れるであろうよ」

「こんな奇妙な感覚に慣れるのか? 本当か?」

「頭が着いて行かないよぉ……」

「試しに拝んでみてはどうだ? この地へやって来たことを報告し、この先お守りくださるようにとお願いするんだ。供え物も用意しておるし、真心を込めて祈れば聞き届けてくださる」

「それだけ? それだけなのか? 神に捧げる祈りの言葉は?」

「神主や禰宜ねぎがおれば祝詞のりとの一つも唱えさせたんだがな。いないものは仕方がない。割愛だ」

「そんないい加減を神様が許してくれるのぉ?」

「ご辛抱いただくしかないな」

「神に我慢を強いるだと……?」

「神様を敬っているのか貶しているのか分かんない……」

「だから考えるなと言っておろうが。さあ、もういいだろう。神に祈るぞ。俺の真似をしてくれ」

 と、言ったはいいものの、果たして異界の神に対して如何様いかように祈れば良いのか?

 真似をしろと言った手前、長々と待たせる訳にもいかず、とりあえず深く腰を折って二度拝をし、二度手を打ち、最後にもう一度深く拝をした後、両手を合わせて祈ってみた。

 ………………うむ。大して何も起こらんな。

 まあ当たり前か。

 祈ったくらいで神仏が現れれば、世の坊主共も苦労はせん。

 俺と同じく祈りを終えた家臣達に対して、ミナとクリスは未だに目を閉じ、難しい顔をして、手を合わせたままだった。

「二人共。そろそろ終えても――――」

「ふ~ん……話の分かる人間もいるじゃない……」

 聞き覚えのない声が耳に届く。

 振り返ると、大岩の割れ目に宙に浮かぶ女子おなごの姿があった。

 新緑の如き髪色に、翡翠の如き瞳をした、妖艶ようえんな娘であった。
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