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5章 辺境伯領 編
真実を語る者
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扉が開いた途端、私に飛びついてきたのは、シオネだった。
その後ろから、エルネスもやって来た。
「えっ? シオネ? どうしてここに?」
「ネス……じゃなかった、エルネスに聞いたらー、公女様はここだって聞いてねー、ついてきちゃった!」
エルネスが無邪気に話すシオネに叱るように言った。
「公女様って呼ぶなって言っただろ! 今はリュシエンヌ嬢だ!」
「あー、そうだったたねー。じゃあ、リュシエンヌさまあ!」
エルネスが呆れ果てたように頭にをやる
「もう……。メイドとして内偵に入っていた邸の使いで街に出た時、こいつに見つかっちゃってさ……。リュシエンヌ嬢の居場所を教えないと、僕の正体を邸の主にばらしてやる、って脅されて、仕方なく連れてきたんですよ。……騒がしくなってすみません、リュシー」
「だってー、会いたかったんだもん! ね、リュシエンヌ様も私に会いたかったでしょー?」
「あ、うん……どうかなあ……ははは」
シオネの屈託のない笑顔に、私は苦笑いした。
「シオネ、久しぶりね。元気だったみたいで安心したわ」
「まー、私は相変わらず。でもー、あのアホ貴族のおかげで、インチキ魔道具師っていう噂立てられちゃったから、店に来る客がめっきり減っちゃってさー。だから、新しい場所でまた店を始めようかなって。ここ、皇都から遠いから、一から始めるのにちょうどいいよね。ん? ……あれ? やっぱりかー」
シオネが急にぐいっと、私に顔を近づける。
「なに?」
「名前、元の名前に戻したって聞いてたから、もしかして、って思ってたんだけど。名前ってさー、誰かに呼ばれたり、自分でそう思ったりするたびに、魂に刻まれていくものなんだよね。呪術師の唱える呪文みたいなもんだからさ。自分で自分にかける呪文ねー! それでもって、一度刻まれた魂は、その記憶を消すことはないんだよ。魂に刻まれた記憶には、姿形も含まれてるからねー。だからさー、元のリュシエンヌ嬢の姿にだんだん変わってきてるんでしょ? 瞳の色もぉ、髪の色もぉ、顔もさー」
そう言えば、初めてシオネの店を訪ねた時、瞳をじっと見つめられて、私が本物のアデリナじゃないと見抜かれたことを思い出した。
シオネによれば、人の記憶は魂に刻まれるものらしい。
だから、私の魂に刻まれていた記憶が失われていなかったため、リュシエンヌという名を呼ばれて生きることで、リュシエンヌの姿形の記憶も発動していくものなのだという。
「そういうことだったのね……」
私が頷いているそばで、マリーも「なるほど……」と、しきりにシオネに感心している。
皆の納得したような視線に、得意げなシオネはさらに続けた。
「所詮、姿形なんて、魂を映したものにすぎないってことー。だから、自分が誰か、ってことをはっきり自覚していれば、そういう姿に変わっていくもんなんだからねー。ネスだってそうでしょ? メイドの格好して、ネスって名乗っている時は、そういうふうに見えるじゃん!」
「もう、ここで僕のこと出さないでよ……」
不思議に思っていたことの謎が少し解けた。
エルネスのいつにない困り顔に、その場の誰からともなく、ふふっと笑いだして、空気が和んだ。
みんなの笑う声に紛れて、「やっぱり、あの時の女騎士さんだったか……」とシオネが小声で呟いて口の端を歪めた気がしたのは、私の考えすぎか。
エルネスが、「そう言えば……」と話し出した。
「セレスティアン陛下が、もうすぐお忍びでやって来るよ。僕たちより数日遅れて発ったはずだから、もうすぐ着くと思うな。表向きは国境の視察ってことになってるけど、リュシエンヌ嬢に会いに来るんだと思うな」
セレスの名に、私の胸がどくんと跳ねた。
その後ろから、エルネスもやって来た。
「えっ? シオネ? どうしてここに?」
「ネス……じゃなかった、エルネスに聞いたらー、公女様はここだって聞いてねー、ついてきちゃった!」
エルネスが無邪気に話すシオネに叱るように言った。
「公女様って呼ぶなって言っただろ! 今はリュシエンヌ嬢だ!」
「あー、そうだったたねー。じゃあ、リュシエンヌさまあ!」
エルネスが呆れ果てたように頭にをやる
「もう……。メイドとして内偵に入っていた邸の使いで街に出た時、こいつに見つかっちゃってさ……。リュシエンヌ嬢の居場所を教えないと、僕の正体を邸の主にばらしてやる、って脅されて、仕方なく連れてきたんですよ。……騒がしくなってすみません、リュシー」
「だってー、会いたかったんだもん! ね、リュシエンヌ様も私に会いたかったでしょー?」
「あ、うん……どうかなあ……ははは」
シオネの屈託のない笑顔に、私は苦笑いした。
「シオネ、久しぶりね。元気だったみたいで安心したわ」
「まー、私は相変わらず。でもー、あのアホ貴族のおかげで、インチキ魔道具師っていう噂立てられちゃったから、店に来る客がめっきり減っちゃってさー。だから、新しい場所でまた店を始めようかなって。ここ、皇都から遠いから、一から始めるのにちょうどいいよね。ん? ……あれ? やっぱりかー」
シオネが急にぐいっと、私に顔を近づける。
「なに?」
「名前、元の名前に戻したって聞いてたから、もしかして、って思ってたんだけど。名前ってさー、誰かに呼ばれたり、自分でそう思ったりするたびに、魂に刻まれていくものなんだよね。呪術師の唱える呪文みたいなもんだからさ。自分で自分にかける呪文ねー! それでもって、一度刻まれた魂は、その記憶を消すことはないんだよ。魂に刻まれた記憶には、姿形も含まれてるからねー。だからさー、元のリュシエンヌ嬢の姿にだんだん変わってきてるんでしょ? 瞳の色もぉ、髪の色もぉ、顔もさー」
そう言えば、初めてシオネの店を訪ねた時、瞳をじっと見つめられて、私が本物のアデリナじゃないと見抜かれたことを思い出した。
シオネによれば、人の記憶は魂に刻まれるものらしい。
だから、私の魂に刻まれていた記憶が失われていなかったため、リュシエンヌという名を呼ばれて生きることで、リュシエンヌの姿形の記憶も発動していくものなのだという。
「そういうことだったのね……」
私が頷いているそばで、マリーも「なるほど……」と、しきりにシオネに感心している。
皆の納得したような視線に、得意げなシオネはさらに続けた。
「所詮、姿形なんて、魂を映したものにすぎないってことー。だから、自分が誰か、ってことをはっきり自覚していれば、そういう姿に変わっていくもんなんだからねー。ネスだってそうでしょ? メイドの格好して、ネスって名乗っている時は、そういうふうに見えるじゃん!」
「もう、ここで僕のこと出さないでよ……」
不思議に思っていたことの謎が少し解けた。
エルネスのいつにない困り顔に、その場の誰からともなく、ふふっと笑いだして、空気が和んだ。
みんなの笑う声に紛れて、「やっぱり、あの時の女騎士さんだったか……」とシオネが小声で呟いて口の端を歪めた気がしたのは、私の考えすぎか。
エルネスが、「そう言えば……」と話し出した。
「セレスティアン陛下が、もうすぐお忍びでやって来るよ。僕たちより数日遅れて発ったはずだから、もうすぐ着くと思うな。表向きは国境の視察ってことになってるけど、リュシエンヌ嬢に会いに来るんだと思うな」
セレスの名に、私の胸がどくんと跳ねた。
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