最後の大太刀 ―柳生左門友矩―

いわん

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其之十一:偽りの達観

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「左門」お栄が、看病中に声をかけた。左門は、お栄の看病を粛々と受け入れるようになっていた。
「しばらく、あなたの看病に来れなくなりました。ごめんなさいね」
「……何かあったのですか?」左門は尋ねた。
「実は、また、子を授かりました。そちらを優先したく思います」お栄は淡々と事実を伝えた。
――お栄さんが、また子を成した。家庭は順風満帆のようで、何よりだ。
「それは喜ばしいことです。どうぞお大事になさって元気な子をお産みください。私のことはお気になさらず」
左門は満面の笑みで答えた。

左門の病状は、回復しつつあるように見えた。久しく行なっていなかった新陰流の鍛錬も、行うようになっていた。
時間を見つけては、柳生の里の子供達とも、仲良く遊ぶようになっていた。その時の顔色は良く見えた。
お栄が無事に子を産んだ時は、我が事のように喜んでいた。誰が見ても、満面の笑顔だった。
「十兵衛様だけでなく、左門様も、子供好きなのか」と、柳生の里の者は、その光景を微笑ましく見ていることも増えた。
それでも、左門の心に時折蘇る「妄執」があった。それが起き上がるたびに、左門は、誰もいない道場で木刀を振った。時折、咳き込み、血を吐いていた。病状の回復は、していなかった。それは左門の偽りの姿であった。
その姿を見て、又十郎は左門に声をかけた。
「左門。それは新陰流ではない」
「……何を申すか、又十郎。単なる素振りである。新陰流の基本、であろうが」
「懸想している相手への想いを断ち切るための『偽りの』修練は、新陰流にはない」又十郎は冷たく言い放った。
「……何を申すかと思えば……」左門が答える。
「ぬしが、お栄殿に懸想していることなど、皆、お見通しじゃ」
左門は口を閉ざした。それが答えだった。
左門は何も言わず、道場を立ち去った。
又十郎は、今後、どのようにすべきか、判断できずにいた。左門に他の相手を見つけて、祝言を上げれば済む話、とは到底思えなかった。そのような相手を見つけたところで、左門は拒否するだろう。お栄殿に看病を止めるように頼んでも、お栄殿は断るであろう。すぐには最善手は浮かばなかった。
「……どうしたものかな……」又十郎の悩みは尽きなかった。

その夜、左門の夢の中にお栄が現れた。夢の中のお栄に思いの丈をぶつける左門。夢から目覚めると、左門は精を漏らしていた。
「……これでは、堀田殿や上様と、何も違いはないではないか……何も、何も違いはない……私は……」
左門は、自らの性根の浅ましさに改めて気づき、絶望するのあった。
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