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42 新しい試み 穂高side
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十一月中旬、各々の足取りで、全校生徒が講堂に集まる。
新しく発足した生徒会の役員を紹介するため、生徒総会が開かれるからだ。
僕も新副会長として舞台に上がるわけだが、大勢の前に出ることははじめてだ。
講堂の席が埋まっていくのを舞台袖から見て、緊張マックスで手を震わせていると、肩に手が置かれた。
「あがらないおまじない、チュウする?」
僕の肩を揉みながら、藤代がからかってくる。
なんとなくホッとするけど、そのおまじないは絶対に効かない。
「しないよ。君は慣れているからいいな。前回もだけど、児童会からこういうの経験しているんだろう?」
「まぁ、生徒会の仕事は慣れているけど。メンバーは毎回変わるわけだから、俺だってその都度緊張はするよ。それに今日は、新しい試みがあるしね」
藤代がなにをするのかは聞いていなかった。
「新しい試みって、なにをするんだ?」
聞くと、藤代はちょっと真剣な眼差しになった。
「…今回のことで、俺の能力の効き目に個人差があるのがわかった。全員が俺の望みどおりに動くんじゃない。俺を獲得するために暴挙に出る輩がいるってこと」
今回のことっていうのは、僕が暴行されたことらしい。
まぁそうだな。須藤先輩や高瀬に限らず、藤代ファンは藤代のいないところではかなり過激だ。陰口や体当たりなどは僕もよく受けていた。
「こちらの都合を考えずにぐいぐい来る輩は今までスルーしてきた。けど、彼らを野放しにすると千雪が危ない」
ようやくそこに気づいたか、と思っていると。藤代が僕の頬を撫でた。
「千雪を守るために、俺の意思をしっかりと示す。俺、千雪にメロメロで、千雪のことしか見えていなくて、千雪の周りがどういう感じだったのか、全然見えていなかった。萩原に聞いたら、結構誹謗中傷があったみたいだな? 気づくのが遅くて、ごめん。でも二度と、誰にも千雪に手出しさせない」
言った矢先に生徒総会の開会時間になり、藤代は壇上に出てしまった。
あ、まだなにをやるのか聞いていないんだけど。
意味深な彼の言葉が気になる。
でも僕も役員として、壇上に並べられた椅子に座った。
生徒会長の藤代は、新任の挨拶と今後の方針などを言うはずだった。
舞台中央にある机の前に立ち、講堂に集まった全生徒、教師たちを見渡す。
「注目!」
彼はひと際大きな声で言い放つ。
僕も、背筋がビビッとなった。
「先日、とても残念な事件が起きた。俺の親友で、今期副会長を務める穂高千雪が、卑劣な者の手によって傷つけられた…」
なにを言い出すのかと思い、僕はギョッとする。
でも生徒たちはざわつくこともなく、藤代にただ見入っていた。
壇上からその様子が見て取れた。
「俺が大事にしている友人を傷つける行為、その加害者を、俺は決して許さない」
生徒たちの目が、心が、藤代の言葉に強く引き付けられている。
その集中の仕方が尋常じゃなく、まるで催眠状態のように見えた。
横を見ると、壇上の他の役員たちも藤代に目を奪われている。
普通に動いているのは、僕と藤代だけだった。
講堂は、五百名ほどの人数がいるというのに、しんとして、息遣いさえも聞こえないほど静かだ。
でも。藤代は今、許さないと言った。
このまま放置したら、もしかしたら生徒の敵意が須藤先輩たちに向いてしまうんじゃないか?
そんなことできない、と冷静な部分は思う。
でも、今のこの異質な状況を目の前にして、そんなことないと断言もできないよ。
僕は席を立ち、藤代のそばで囁いた。
「藤代、そんなこと言ったらダメだ」
演説の途中で僕が藤代を止めても、生徒たちはまったく動かない。
やっぱり催眠状態なんじゃないかな?
「なぜ?」
「なぜって、そんな言い方したら、生徒が須藤先輩たちに危害を加えるかもしれないだろ?」
考えられる最悪なことを藤代に言う。
まぁ、陰口とかがなくなったら、それは嬉しいけど。
今は生徒が暴走することのほうが怖い。
でも藤代は僕の忠告を受けても、笑みを浮かべるだけだ。
「千雪、俺は許さないと言っただけだよ」
「君には生徒たちを誘導できる力があるんだ。藤代が許さないと言ったら、みんなが許さない。僕は許しているんだから、君も許すと言え」
「できないな。立件もせず、停学一ヶ月だけなんて甘すぎるだろう」
当然だという顔で、藤代は言う。
僕は、彼が『この件に関しては暴君になる』と言ったことの本当の意味を知った。
これは、まずい。藤代は確信犯だ。
「でも、生徒が勝手に事を起こしてもいいのか? 僕らの知らないところで、僕らの知らない者が、僕らの始末をつける。それは不本意だ。事件になったら、僕らの知らない者が僕らのことで処罰を受けることになるかもしれないぞ。そんなの、僕は嫌だよ」
僕の言葉に、藤代は軽く首を横に振る。
「せめて…殺すとか傷害とか、警察沙汰にならないよう穏便に…言ってっ!」
なんとかしなければ、という思いで必死に訴えるが、藤代は不満げに腕を組むばかりだ。もうっ!
「なんでもするから…」
そう言ったら、やっと藤代がマイクに向かった。
「決して殺してはならない。警察沙汰もダメだ。穏便に」
強く告げた藤代は、指をパチンと鳴らす。
途端、憑りつかれたように藤代だけをみつめていた生徒たちが動き出し、壇上の僕らを見て私語をはじめた。
講堂の空気が普通に戻ったのを感じ、僕は安堵の息をつく。
講堂での一件はこれで終わり、このあと生徒総会は普通に進んで無事に済んだ。
けれど、生徒たちの意識深くに藤代の言葉はしっかり残っていたようだ。
いわゆる、須藤先輩と高瀬は、生徒たちに許されなかったのだ。
彼らは停学中にもかかわらず非難の嵐にさらされた。
電話、訪問、SNS、ありとあらゆる方面から、友達や部活仲間、見知らぬ生徒からも責められて。結局彼らは一度も学園に顔を出すことなく転校していったのだ。
ちょっと、イジメのようで可哀想だけど。先に手を上げたのは向こうだから、自業自得なのかもしれないね。それにしても、エグイけど。
そしてまことしやかに『王様の逆鱗に触れると学園にいられなくなる』という噂が流れて回り、その結果藤代はこの学園を完全に掌握することになった。怖ぁぁぁ。
僕は王様の親友という特等席を獲得した。
藤代は恋人であることを公言したいみたいだけど。よせ。マジで。
ともかく、そんなことで。僕は、嫌がらせも陰口も、下僕だと蔑まれることもなくなった。
まぁ、丸くおさまったような、おさまっていないような?
新しく発足した生徒会の役員を紹介するため、生徒総会が開かれるからだ。
僕も新副会長として舞台に上がるわけだが、大勢の前に出ることははじめてだ。
講堂の席が埋まっていくのを舞台袖から見て、緊張マックスで手を震わせていると、肩に手が置かれた。
「あがらないおまじない、チュウする?」
僕の肩を揉みながら、藤代がからかってくる。
なんとなくホッとするけど、そのおまじないは絶対に効かない。
「しないよ。君は慣れているからいいな。前回もだけど、児童会からこういうの経験しているんだろう?」
「まぁ、生徒会の仕事は慣れているけど。メンバーは毎回変わるわけだから、俺だってその都度緊張はするよ。それに今日は、新しい試みがあるしね」
藤代がなにをするのかは聞いていなかった。
「新しい試みって、なにをするんだ?」
聞くと、藤代はちょっと真剣な眼差しになった。
「…今回のことで、俺の能力の効き目に個人差があるのがわかった。全員が俺の望みどおりに動くんじゃない。俺を獲得するために暴挙に出る輩がいるってこと」
今回のことっていうのは、僕が暴行されたことらしい。
まぁそうだな。須藤先輩や高瀬に限らず、藤代ファンは藤代のいないところではかなり過激だ。陰口や体当たりなどは僕もよく受けていた。
「こちらの都合を考えずにぐいぐい来る輩は今までスルーしてきた。けど、彼らを野放しにすると千雪が危ない」
ようやくそこに気づいたか、と思っていると。藤代が僕の頬を撫でた。
「千雪を守るために、俺の意思をしっかりと示す。俺、千雪にメロメロで、千雪のことしか見えていなくて、千雪の周りがどういう感じだったのか、全然見えていなかった。萩原に聞いたら、結構誹謗中傷があったみたいだな? 気づくのが遅くて、ごめん。でも二度と、誰にも千雪に手出しさせない」
言った矢先に生徒総会の開会時間になり、藤代は壇上に出てしまった。
あ、まだなにをやるのか聞いていないんだけど。
意味深な彼の言葉が気になる。
でも僕も役員として、壇上に並べられた椅子に座った。
生徒会長の藤代は、新任の挨拶と今後の方針などを言うはずだった。
舞台中央にある机の前に立ち、講堂に集まった全生徒、教師たちを見渡す。
「注目!」
彼はひと際大きな声で言い放つ。
僕も、背筋がビビッとなった。
「先日、とても残念な事件が起きた。俺の親友で、今期副会長を務める穂高千雪が、卑劣な者の手によって傷つけられた…」
なにを言い出すのかと思い、僕はギョッとする。
でも生徒たちはざわつくこともなく、藤代にただ見入っていた。
壇上からその様子が見て取れた。
「俺が大事にしている友人を傷つける行為、その加害者を、俺は決して許さない」
生徒たちの目が、心が、藤代の言葉に強く引き付けられている。
その集中の仕方が尋常じゃなく、まるで催眠状態のように見えた。
横を見ると、壇上の他の役員たちも藤代に目を奪われている。
普通に動いているのは、僕と藤代だけだった。
講堂は、五百名ほどの人数がいるというのに、しんとして、息遣いさえも聞こえないほど静かだ。
でも。藤代は今、許さないと言った。
このまま放置したら、もしかしたら生徒の敵意が須藤先輩たちに向いてしまうんじゃないか?
そんなことできない、と冷静な部分は思う。
でも、今のこの異質な状況を目の前にして、そんなことないと断言もできないよ。
僕は席を立ち、藤代のそばで囁いた。
「藤代、そんなこと言ったらダメだ」
演説の途中で僕が藤代を止めても、生徒たちはまったく動かない。
やっぱり催眠状態なんじゃないかな?
「なぜ?」
「なぜって、そんな言い方したら、生徒が須藤先輩たちに危害を加えるかもしれないだろ?」
考えられる最悪なことを藤代に言う。
まぁ、陰口とかがなくなったら、それは嬉しいけど。
今は生徒が暴走することのほうが怖い。
でも藤代は僕の忠告を受けても、笑みを浮かべるだけだ。
「千雪、俺は許さないと言っただけだよ」
「君には生徒たちを誘導できる力があるんだ。藤代が許さないと言ったら、みんなが許さない。僕は許しているんだから、君も許すと言え」
「できないな。立件もせず、停学一ヶ月だけなんて甘すぎるだろう」
当然だという顔で、藤代は言う。
僕は、彼が『この件に関しては暴君になる』と言ったことの本当の意味を知った。
これは、まずい。藤代は確信犯だ。
「でも、生徒が勝手に事を起こしてもいいのか? 僕らの知らないところで、僕らの知らない者が、僕らの始末をつける。それは不本意だ。事件になったら、僕らの知らない者が僕らのことで処罰を受けることになるかもしれないぞ。そんなの、僕は嫌だよ」
僕の言葉に、藤代は軽く首を横に振る。
「せめて…殺すとか傷害とか、警察沙汰にならないよう穏便に…言ってっ!」
なんとかしなければ、という思いで必死に訴えるが、藤代は不満げに腕を組むばかりだ。もうっ!
「なんでもするから…」
そう言ったら、やっと藤代がマイクに向かった。
「決して殺してはならない。警察沙汰もダメだ。穏便に」
強く告げた藤代は、指をパチンと鳴らす。
途端、憑りつかれたように藤代だけをみつめていた生徒たちが動き出し、壇上の僕らを見て私語をはじめた。
講堂の空気が普通に戻ったのを感じ、僕は安堵の息をつく。
講堂での一件はこれで終わり、このあと生徒総会は普通に進んで無事に済んだ。
けれど、生徒たちの意識深くに藤代の言葉はしっかり残っていたようだ。
いわゆる、須藤先輩と高瀬は、生徒たちに許されなかったのだ。
彼らは停学中にもかかわらず非難の嵐にさらされた。
電話、訪問、SNS、ありとあらゆる方面から、友達や部活仲間、見知らぬ生徒からも責められて。結局彼らは一度も学園に顔を出すことなく転校していったのだ。
ちょっと、イジメのようで可哀想だけど。先に手を上げたのは向こうだから、自業自得なのかもしれないね。それにしても、エグイけど。
そしてまことしやかに『王様の逆鱗に触れると学園にいられなくなる』という噂が流れて回り、その結果藤代はこの学園を完全に掌握することになった。怖ぁぁぁ。
僕は王様の親友という特等席を獲得した。
藤代は恋人であることを公言したいみたいだけど。よせ。マジで。
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