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28 次期副会長に推薦したい 穂高side
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放課後の生徒会室。僕は扉の前に立ち、重いため息をつく。
今回は、いつものように藤代に用を言いつけられてきたわけではない。副会長の萩原先輩から呼び出されたのだ。
でも時期も時期だけに、生徒会勧誘の件だと察してはいた。
藤代には、来期の生徒会入りをきっぱり断っている。
彼が権勢を奮っている間は、選挙は完全に出来レース。藤代が望む者、欲する者に、生徒たちは票を入れる、そういう流れになっているのだ。
アンフェアなものに関わりたくない。自分で言うのもなんだがその点、僕は潔癖なのだ。
しかし、藤代にならきっぱりとノーを突きつけられるが、藤代に魅了されている生徒会役員に断りを入れるのは骨が折れそう。めんどくさっ。
とはいえ、先輩の呼び出しを無視することもできなくて。僕はノックして扉を開けた。
「千雪? なにか俺に用か?」
室内にある執務机の前に座る藤代が、とびっきりの笑顔で僕を迎えた。まぶしい。
呼ばなければ寄りつかない生徒会室に僕が思いがけず現れたものだから、喜びの明度が普段の倍、きらびやかだ。キラキラで陰キャが滅されるから、少しその気持ちを隠してほしい。
「いや、今日は萩原先輩に呼ばれたんだ」
手を彼に向けて制し、ついでに手をかざして彼のキラキラも防ぐ。
というか、自分の部下の動向を把握していないわけないだろう、と思っていたのだが。
自分への用事でないと藤代が拗ねる様子を見ると、僕がなぜ呼び出されたのか藤代も知らないのかな?
「そうなの。よく来てくれたわね、穂高くん。折り入って話があるのよぉ、まぁまぁ、座って。修ちゃん、お茶」
短髪でボーイッシュな萩原先輩に、円卓の椅子をすすめられ、僕は藤代の対面に当たる席に腰かけた。
隣に萩原先輩が座り、その横に深見先輩が立つ。
緊張感漂う室内を、深見先輩がいれてくれた紅茶の湯気がなごやかにする。
そして萩原先輩が口火を切った。
「単刀直入に言うわね、私と修ちゃんは穂高くんを次期副会長に推薦したいと思っています」
それを聞き、僕はギョンとした怒りの目を藤代に向ける。
自分でどうにもできないからって、僕らの話に他人を巻き込むなよ。って眼差しだ。
藤代はワタワタと、手を横に振る。今更誤魔化すな。
しかし藤代のその様子を見たからか、萩原先輩がフォローしてきた。
「あぁ、会長は穂高くんに断られたって言っていたわよ。今日ここに穂高くんを呼んだのは私の独断だから、会長は知らないことなの」
「理由あってのことです。すみません」
素っ気なく、僕は断って頭を下げる。
藤代が誰を頼ろうが、誰も頼っていなくても、僕の答えは決まっている。
「その理由がぁ、納得できないのよね」
ちょっとため息をついて、萩原先輩が紅茶を一口飲んだ。
生徒会役員は藤代の能力に惑わされている。萩原先輩も、藤代の望みを叶えようとして必死なのだろうと思った。
「私と修ちゃんは、会長の能力について大体のことを聞いているわ。だから、唯々諾々と会長に従う役員だと思わないで、話を聞いてほしいの」
その話は初耳だ。自分以外に藤代の能力を知る人がいるなんて。
藤代に目を向けると、彼は本当だとうなずいて見せた。
「千雪みたいに気づかれたわけじゃないんだ。生徒会を適正に運営するのに必要だと思って、自分から話した」
目の力をゆるめ、僕は納得してうなずく。
藤代はそういう、生真面目な気質も持ち合わせている。
人を従わせられる能力を持ちながら、それに溺れず、真っ当に生きようとする姿勢は、藤代の善良な部分だと思っている。
たとえば、藤代はその気になったらハーレムを作ることだってできる。
学園全体を牛耳って、好き勝手に振舞うこともできる。
教師からテスト用紙を提供させることができるなら、勉強をしなくても医大に合格できるだろう。
でも、彼はそれをしない。
僕にはなにかしら雑用をさせたがるけど、他人に無茶な仕事を押しつけることはないし。
自由に采配してもいいのに、生徒会の運営をまともに執行しようとしている。
医者も、なりたくなかったら違うことをしたって親は反対しないと思うけど、室町時代から続く医者の系譜を存続しようとして、自ら勉強をしている。
そういう面については…僕は彼に好感を持っていた。
好感、というか…まぁ、普通にすごいと思うよね。えらいよ、えらい。
逆に、そんな面がなかったら…超軽蔑して、反発しまくったかもしれないけどな。
「会長の能力は特殊よ。だから会長をよく知る者に、彼を補佐して欲しいと思っているの。それは会長のためでもあるけれど、学園のためでもある。なので、その実現に向け、私は穂高くんの主張を論破します」
萩原先輩が宣言し、僕は驚いて背筋を伸ばした。
いったい、なにがはじまるんだ?
今回は、いつものように藤代に用を言いつけられてきたわけではない。副会長の萩原先輩から呼び出されたのだ。
でも時期も時期だけに、生徒会勧誘の件だと察してはいた。
藤代には、来期の生徒会入りをきっぱり断っている。
彼が権勢を奮っている間は、選挙は完全に出来レース。藤代が望む者、欲する者に、生徒たちは票を入れる、そういう流れになっているのだ。
アンフェアなものに関わりたくない。自分で言うのもなんだがその点、僕は潔癖なのだ。
しかし、藤代にならきっぱりとノーを突きつけられるが、藤代に魅了されている生徒会役員に断りを入れるのは骨が折れそう。めんどくさっ。
とはいえ、先輩の呼び出しを無視することもできなくて。僕はノックして扉を開けた。
「千雪? なにか俺に用か?」
室内にある執務机の前に座る藤代が、とびっきりの笑顔で僕を迎えた。まぶしい。
呼ばなければ寄りつかない生徒会室に僕が思いがけず現れたものだから、喜びの明度が普段の倍、きらびやかだ。キラキラで陰キャが滅されるから、少しその気持ちを隠してほしい。
「いや、今日は萩原先輩に呼ばれたんだ」
手を彼に向けて制し、ついでに手をかざして彼のキラキラも防ぐ。
というか、自分の部下の動向を把握していないわけないだろう、と思っていたのだが。
自分への用事でないと藤代が拗ねる様子を見ると、僕がなぜ呼び出されたのか藤代も知らないのかな?
「そうなの。よく来てくれたわね、穂高くん。折り入って話があるのよぉ、まぁまぁ、座って。修ちゃん、お茶」
短髪でボーイッシュな萩原先輩に、円卓の椅子をすすめられ、僕は藤代の対面に当たる席に腰かけた。
隣に萩原先輩が座り、その横に深見先輩が立つ。
緊張感漂う室内を、深見先輩がいれてくれた紅茶の湯気がなごやかにする。
そして萩原先輩が口火を切った。
「単刀直入に言うわね、私と修ちゃんは穂高くんを次期副会長に推薦したいと思っています」
それを聞き、僕はギョンとした怒りの目を藤代に向ける。
自分でどうにもできないからって、僕らの話に他人を巻き込むなよ。って眼差しだ。
藤代はワタワタと、手を横に振る。今更誤魔化すな。
しかし藤代のその様子を見たからか、萩原先輩がフォローしてきた。
「あぁ、会長は穂高くんに断られたって言っていたわよ。今日ここに穂高くんを呼んだのは私の独断だから、会長は知らないことなの」
「理由あってのことです。すみません」
素っ気なく、僕は断って頭を下げる。
藤代が誰を頼ろうが、誰も頼っていなくても、僕の答えは決まっている。
「その理由がぁ、納得できないのよね」
ちょっとため息をついて、萩原先輩が紅茶を一口飲んだ。
生徒会役員は藤代の能力に惑わされている。萩原先輩も、藤代の望みを叶えようとして必死なのだろうと思った。
「私と修ちゃんは、会長の能力について大体のことを聞いているわ。だから、唯々諾々と会長に従う役員だと思わないで、話を聞いてほしいの」
その話は初耳だ。自分以外に藤代の能力を知る人がいるなんて。
藤代に目を向けると、彼は本当だとうなずいて見せた。
「千雪みたいに気づかれたわけじゃないんだ。生徒会を適正に運営するのに必要だと思って、自分から話した」
目の力をゆるめ、僕は納得してうなずく。
藤代はそういう、生真面目な気質も持ち合わせている。
人を従わせられる能力を持ちながら、それに溺れず、真っ当に生きようとする姿勢は、藤代の善良な部分だと思っている。
たとえば、藤代はその気になったらハーレムを作ることだってできる。
学園全体を牛耳って、好き勝手に振舞うこともできる。
教師からテスト用紙を提供させることができるなら、勉強をしなくても医大に合格できるだろう。
でも、彼はそれをしない。
僕にはなにかしら雑用をさせたがるけど、他人に無茶な仕事を押しつけることはないし。
自由に采配してもいいのに、生徒会の運営をまともに執行しようとしている。
医者も、なりたくなかったら違うことをしたって親は反対しないと思うけど、室町時代から続く医者の系譜を存続しようとして、自ら勉強をしている。
そういう面については…僕は彼に好感を持っていた。
好感、というか…まぁ、普通にすごいと思うよね。えらいよ、えらい。
逆に、そんな面がなかったら…超軽蔑して、反発しまくったかもしれないけどな。
「会長の能力は特殊よ。だから会長をよく知る者に、彼を補佐して欲しいと思っているの。それは会長のためでもあるけれど、学園のためでもある。なので、その実現に向け、私は穂高くんの主張を論破します」
萩原先輩が宣言し、僕は驚いて背筋を伸ばした。
いったい、なにがはじまるんだ?
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