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22 モブのしもべ?
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◆モブのしもべ?
ぼくがバスルームの扉を開け放つと。
腕を組んで、厳しい視線を向ける美丈夫が立っていた。
ま、シオンだけどね。
弟に美丈夫と言うのも、手前味噌かもしれないが。
黒い細身のスボンは、これでもかというほど足長に見えるし。
黒シャツをまとう胸筋は、たくましいし。
顔も、鼻たかーい。目が切れ上がってて、かっこいーい。なので。
美丈夫と自慢したくなるでしょ? この弟なら。
でもラヴェルは、見知らぬ男の登場に、ただただ驚き。後退る。
「な、何者?」
「さすがに、面影はないかなぁ? シオンです」
「し? シオン様が。なぜここに?」
ラヴェルとすれば、ここに、僕以外の人物は、いてはならないわけで。
把握していない人物が、城内に入り込んでいるのだから。それは、驚愕するだろう。
この王城に、十年ほど勤めているラヴェルは。王の警護を第一にしていて。不審者を警戒しているだろうからな。
「僕は黒猫を連れていただろう? その猫が、シオンだ」
ラヴェルに説明すると。
シオンがバスルームから部屋に移動してきて、ぼくの肩を抱いてくる。
でも、まだ信じられないという驚きの眼差しで、彼はシオンを見た。
「シオンは、バミネに呪いの液体をかけられてしまった。昼は子猫に。夜はこうして、人型に戻る。月影の呪いって言うらしいんだけど。呪いのエキスを作り出した魔女は、殺されてしまったので。呪いを解くには、効力が切れるのを待つか。己の魔力で、呪いを打ち破るか。なんだって」
「兄上、こいつに、そんなに話して大丈夫なのですか?」
ラヴェルのことを、こいつ呼ばわりするということは。
シオン。彼のこと、覚えていないんだな?
まぁ、ぼくも。一目見て、すぐに思い出すほどではなかったけど。
だって、ラヴェルは離れた当時、十八歳。今は、二十八歳だ。
大人の雰囲気が増して、すぐにラヴェルだとは気づけなかったんだよ。
でも、ぼくは当時十歳で、物心ついていたから。
彼が、ぼくやシオンの世話をしてくれたことは、色々覚えているぞ?
「シオン、おまえは子供の頃、ラヴェルによく遊んでもらっていたじゃないか? あんなに懐いていたのに。忘れたのか?」
「僕が覚えているのは、呪いをかけられた前後辺りからです。だから。こいつも、父親も、覚えていません。僕と母上を助けてくれたのは、兄上だけ。僕には兄上がすべてです」
そう言って、シオンはぼくの首筋に顔を埋めてきた。
こらこら、人前で兄に甘えるなんて。恥ずかしいですよ。
シオンにきっぱり言われ。ラヴェルは、ショックを受けたという顔をした。
そうだよねぇ。四歳のときのシオンは、それはもう、べらぼうに可愛かったのだから。
食べちゃいたいくらい、小さくて丸くて、ふくふくだったのだから。
今は、目つきの悪い、大柄な男だけど。
「でも、シオンは父上の若いときに似ているでしょう? 僕よりも、バジリスク家の男の顔をしているよな? ラヴェル?」
「…そうですね。クロウ様は、夫人のお顔立ちを受け継いでおりますが。シオン様は、旦那様によく似ておいでです。公爵家の血筋だと、この御姿ならばすぐに認められるでしょう。しかし、公爵家の子息なのだから、シオン様も魔力は多くあるはず。呪いを跳ね返せないのですか?」
「別に。このままでも、支障はないしぃ」
シオンが、謎の、負けず嫌いを発揮する。
ぼくはたしなめるように、彼の頭を手のひらでぺしぺし叩いた。
「こら、そんなわけあるか。ラヴェル、シオンはどうやら、子猫になるたびに魔力を抑制されてしまうようなんだ。だから、まだ呪いを跳ね返せるほどの魔力に目覚められない。それで、バミネの依頼の話なんだけど…」
話が長くなりそうなので、ぼくはラヴェルに椅子をすすめた。
ぼくたち兄弟は、ベッドに腰かけて話す。
「母上のペンダントを、公爵家の紋が入っているという理由で、バミネに奪われたんだ。今回の依頼を受けたら、それを返すと言われて。あいつは、そのペンダントを、母上の形見だと思っているのだが。本当は。僕の魔力を解放する指輪が、ペンダントにはめ込まれているんだよね」
「え、クロウ様は魔力を封じられているのですか?」
「そうだ。子供の頃、魔力が強すぎて、怪我をしそうだったので、父上が魔力を眠らせたのだと、母上からは聞いている。僕の魔力がどれほどのものかはわからないが。力が戻れば、シオンに同種の魔力を注ぎ込んで、解呪できるのではないかと考えている。だから。バミネの言うことなど聞きたくはなかったが。依頼を引き受けたんだ」
ぼくの言葉を聞き、ラヴェルは心底、ホッとしたような顔つきをした。
「そのような事情があったのですか? では。陛下の暗殺に来たわけではないのですね?」
「あたりまえだろ、そんな。王家の方々を、僕は敬愛しているよ」
陛下や騎士たちの態度から、自分が疑われていることは、薄々わかっていましたよ。
でも、冷静に考えてみて?
僕がナイフを持っていたって、陛下に傷ひとつつけられやしないよ。
それぐらい、圧倒的な体格差があるのだから。無用の心配というやつですよ?
つか、貧弱ガリガリキャラのこのぼくが、暗殺者とか、ウケるぅ。
だけど。バミネはどんな手を使ってくるかわからないから。用心に越したことはないか。
「シオンのことは、内密にしてほしいんだ。呪いのことなんか、なるべく知られたくないし。存在が妖しげなのは重々承知だが、悪さをしないと約束するから、そこは安心してくれ」
「怪しげとか悪さとか、ひどい言い様です、兄上」
シオンが不貞腐れながら、ツッコむが。
無視して、ラヴェルに話を続ける。
「もちろん、衣装作りも、本気で取り組んでいるぞ。でも、僕たちの都合で城へ来たというのは、誰が聞いても良い気はしないだろうから。言わずにいた方が、良いと思うんだ」
陛下のお衣装に携われるなら、金を払っても来たいという仕立て屋は、多いだろう。
それほど、王族の衣装を仕立てられることは、栄誉なことなのだ。
なのに、ついでみたいな言い方されたら、みんな怒っちゃうよね?
もちろん、ついで、などではない。
ぼくはぼくの技能のすべてをかけて、最高の衣装を仕立てるつもりなんだから。
その先に、ペンダントが戻ってきたら。それでいいのだ。
「ただ、ラヴェルにはちょっとだけ手を貸してほしいから、シオンのことを打ち明けたんだよ。話を聞いてくれるか?」
お願い、という感じで切り出すと。
ラヴェルは至極真面目な顔つきで。うなずいた。
「なんなりとお申しつけください」
ぼくは、彼が引き受けてくれるのを感じ、ホッとして。ずっと気に掛かってきたことを打ち明けた。
「もしも僕がここで死んだら、シオンを本土に返してあげてほしいんだ。本土に戻れば、シオンは母上の元へ帰れるから」
なにもかも、うまくいかなくても。
シオンを、この島に取り残すことだけは、したくない。
でも、事情を知るラヴェルに頼んでおけば。きっとシオンは本土へ、母の元へ帰れるだろう。
そのことだけが、気掛かりだったのだけど。
ラヴェルに頼むことができて、ぼくは安堵の息をついた。
つか、島に来る前に考えておけよっていう話だよね。
すまない。こんなに厳戒態勢だとは、想像していなかったというか。
モブが死ぬとかも、考えていなかったんだよぉ。
でも、成敗危機が何度かあったから。
これはモブでも、胡坐をかいていられないやつだと思って…。
だが、その言葉には。ラヴェルではなく。なんでかシオンが、隣で強く反応した。
「なにを言い出すのですか? 兄上ッ。兄上が死ぬなんて…兄上が死ぬときは、僕も生きていません。ともに逝きますっ」
はぁ? そんなの駄目駄目。
弟というものは、決して兄の目の前で死んではならぬ生き物なのである。
「ともに逝くなどと、言うんじゃない。シオンは僕のボディガードではあるけれど。生き残ったのなら、シオンが母上を守ってくれないと」
「嫌です」
いつも、ぼくの言うことは大概なんでも聞き入れる、可愛い弟なのに。このときばかりは即答とか。
うぬぅ、生意気なっ。
「聞き分けなさい。ここは、なにが起きても、おかしくない場所なんだ。僕がいなくなったら、僕の代わりに母上を守ると、誓え。シオン」
すっかり大きくなったと思っていたのに。
涙目でぼくを睨むところは。やはり、まだまだ子供だ。
「…はい」
ものすごく不本意そうに、それでもうなずくシオンの鼻を、ぼくは指先でつまんで。笑う。
「大丈夫。もしもの話だ。そんな簡単に、僕が死ぬわけない。モブなどに、華麗な死にざまが与えられるわけないんだからな」
「モブだから死なないのなら。兄上はモブでいいです」
おお? ようやくシオンが、ぼくをモブだと認めたぞ? よしよし。
ま、いつの間にかいなくなり、誰もモブの存在を覚えていないという、ヤバい展開も。なくはなくはないけど。
これ以上、シオンを不安にさせられないから。これは言わないでおこう。
「というわけで、ラヴェル。僕が死んで、シオンが生き残ったら。お願い」
「承知いたしました。ですが…私の命に代えても。クロウ様を王城で死なせたりなどいたしません。敵は、バミネでしょう? 刺し違えても。クロウ様をお守りいたします」
いや、当面は、陛下の成敗が一番怖いんですけど。
でも。たぶん、もう陛下は現れないだろうから。
命の危機はないのかもしれないな、うん。
「…ここでは、僕とラヴェルは、初対面の感じだからね? 無理しないでね? あと、ご飯のことなんだけど。夕食って、多くできる? ほら、シオンがこんなだから。昼、食べられない分、夜多く食べさせたいんだよね?」
「では、仕事の合間に食べたいのだということにして、取り置きのできるパンや果物を多めに出すよう、厨房に伝えます。そうすれば、朝昼は小食で、夜は大食という矛盾も、誤魔化せるでしょう?」
「頭良いなぁ、ラヴェル。助かるよ。本当、ここでラヴェルと会えて、良かったぁ。これで、安心して過ごせるよ」
ラヴェルに会う前は、アイリスとセドリックに頼もうと思っていたけれど。
内情を隠して、頼みごとをするのは難しいし。
ご飯の頼み事まではできなかったもん。
ラヴェルが味方になってくれて、ホント助かったぁ。
とりあえず、憂いはすべて晴れたよ。
「…それだけ、ですか?」
なのに。ラヴェルが、なにやら恨みがましい上目遣いで、ぼくを見るので。
ん? なにか、言い忘れたことがあるか? それとも?
「? あ、なにか。対価が?」
タダで頼み事は、ムシが良すぎたのかと思い。聞くと。
ラヴェルは首がちぎれそうなほどに、横に振った。
「とんでもない。そうではなくて。力を貸すというのは、たったそれだけのことなのですか? 陛下の暗殺などには手を貸せませんが。もっと良い部屋に移動するとか…あぁ、ここにいては、貴方様にして差し上げられることがほとんどないのですが、着替えのお手伝いとか、仕立ての介助とか。情報の入手とか。とにかく、もっと、クロウ様のお役に立ちたいのです」
ウルウル目で、聞かれる。なんで?
「いや。ラヴェルは、今は陛下の執事なのだから。僕のことに、わずらわせてしまうだけでも、充分甘えてしまっていて、申し訳ないと思っているよ?」
「そんなっ、クロウ様の執事である私の気持ちに、変わりはありません。十歳の貴方様に、私は永遠の忠誠を誓ったのです。覚えていらっしゃらないのですか?」
ラヴェルに切々と訴えられ、ぼくは。思い出す。
前世の記憶を思い出す前のことは、薄っすらと、モヤがかかったような感じではあるのだが。
あの出来事は、公爵邸に行くほんの少し前だったから。まぁ、覚えている。
別邸を立ち退き勧告されたとき。公爵邸に、ラヴェルが一足先に様子うかがいに行ったのだ。
その、出掛ける前に。ラヴェルは、地に膝をついて。ぼくの手の甲にくちづけを落として、誓った。
一生、ぼくの執事であるということを。
「ラヴェル。あの頃とは、なにもかもが様変わりしてしまった。僕は公爵子息ではなくなったから、君を雇うことはできないし。ラヴェルは王城を切り盛りする、陛下の優秀な執事。十年前の約束なんか、律儀に守ることはない」
そう。そしてぼくはモブで。ラヴェルは攻略対象者。
格差、エグゥ。公式、ひどくね?
「いいえ、私は今でも。クロウ様の執事です。なんなりと、私にお申しつけください。クロウ様の要求に、なんでもお応えいたします」
ん? 執事のラヴェルは、王の忠実なしもべなんだよね?
王の要求になんでも応えると、攻略本に書かれてあった、よな?
なのに、なんでモブのしもべになっちゃってんのぉ?
ぼくがバスルームの扉を開け放つと。
腕を組んで、厳しい視線を向ける美丈夫が立っていた。
ま、シオンだけどね。
弟に美丈夫と言うのも、手前味噌かもしれないが。
黒い細身のスボンは、これでもかというほど足長に見えるし。
黒シャツをまとう胸筋は、たくましいし。
顔も、鼻たかーい。目が切れ上がってて、かっこいーい。なので。
美丈夫と自慢したくなるでしょ? この弟なら。
でもラヴェルは、見知らぬ男の登場に、ただただ驚き。後退る。
「な、何者?」
「さすがに、面影はないかなぁ? シオンです」
「し? シオン様が。なぜここに?」
ラヴェルとすれば、ここに、僕以外の人物は、いてはならないわけで。
把握していない人物が、城内に入り込んでいるのだから。それは、驚愕するだろう。
この王城に、十年ほど勤めているラヴェルは。王の警護を第一にしていて。不審者を警戒しているだろうからな。
「僕は黒猫を連れていただろう? その猫が、シオンだ」
ラヴェルに説明すると。
シオンがバスルームから部屋に移動してきて、ぼくの肩を抱いてくる。
でも、まだ信じられないという驚きの眼差しで、彼はシオンを見た。
「シオンは、バミネに呪いの液体をかけられてしまった。昼は子猫に。夜はこうして、人型に戻る。月影の呪いって言うらしいんだけど。呪いのエキスを作り出した魔女は、殺されてしまったので。呪いを解くには、効力が切れるのを待つか。己の魔力で、呪いを打ち破るか。なんだって」
「兄上、こいつに、そんなに話して大丈夫なのですか?」
ラヴェルのことを、こいつ呼ばわりするということは。
シオン。彼のこと、覚えていないんだな?
まぁ、ぼくも。一目見て、すぐに思い出すほどではなかったけど。
だって、ラヴェルは離れた当時、十八歳。今は、二十八歳だ。
大人の雰囲気が増して、すぐにラヴェルだとは気づけなかったんだよ。
でも、ぼくは当時十歳で、物心ついていたから。
彼が、ぼくやシオンの世話をしてくれたことは、色々覚えているぞ?
「シオン、おまえは子供の頃、ラヴェルによく遊んでもらっていたじゃないか? あんなに懐いていたのに。忘れたのか?」
「僕が覚えているのは、呪いをかけられた前後辺りからです。だから。こいつも、父親も、覚えていません。僕と母上を助けてくれたのは、兄上だけ。僕には兄上がすべてです」
そう言って、シオンはぼくの首筋に顔を埋めてきた。
こらこら、人前で兄に甘えるなんて。恥ずかしいですよ。
シオンにきっぱり言われ。ラヴェルは、ショックを受けたという顔をした。
そうだよねぇ。四歳のときのシオンは、それはもう、べらぼうに可愛かったのだから。
食べちゃいたいくらい、小さくて丸くて、ふくふくだったのだから。
今は、目つきの悪い、大柄な男だけど。
「でも、シオンは父上の若いときに似ているでしょう? 僕よりも、バジリスク家の男の顔をしているよな? ラヴェル?」
「…そうですね。クロウ様は、夫人のお顔立ちを受け継いでおりますが。シオン様は、旦那様によく似ておいでです。公爵家の血筋だと、この御姿ならばすぐに認められるでしょう。しかし、公爵家の子息なのだから、シオン様も魔力は多くあるはず。呪いを跳ね返せないのですか?」
「別に。このままでも、支障はないしぃ」
シオンが、謎の、負けず嫌いを発揮する。
ぼくはたしなめるように、彼の頭を手のひらでぺしぺし叩いた。
「こら、そんなわけあるか。ラヴェル、シオンはどうやら、子猫になるたびに魔力を抑制されてしまうようなんだ。だから、まだ呪いを跳ね返せるほどの魔力に目覚められない。それで、バミネの依頼の話なんだけど…」
話が長くなりそうなので、ぼくはラヴェルに椅子をすすめた。
ぼくたち兄弟は、ベッドに腰かけて話す。
「母上のペンダントを、公爵家の紋が入っているという理由で、バミネに奪われたんだ。今回の依頼を受けたら、それを返すと言われて。あいつは、そのペンダントを、母上の形見だと思っているのだが。本当は。僕の魔力を解放する指輪が、ペンダントにはめ込まれているんだよね」
「え、クロウ様は魔力を封じられているのですか?」
「そうだ。子供の頃、魔力が強すぎて、怪我をしそうだったので、父上が魔力を眠らせたのだと、母上からは聞いている。僕の魔力がどれほどのものかはわからないが。力が戻れば、シオンに同種の魔力を注ぎ込んで、解呪できるのではないかと考えている。だから。バミネの言うことなど聞きたくはなかったが。依頼を引き受けたんだ」
ぼくの言葉を聞き、ラヴェルは心底、ホッとしたような顔つきをした。
「そのような事情があったのですか? では。陛下の暗殺に来たわけではないのですね?」
「あたりまえだろ、そんな。王家の方々を、僕は敬愛しているよ」
陛下や騎士たちの態度から、自分が疑われていることは、薄々わかっていましたよ。
でも、冷静に考えてみて?
僕がナイフを持っていたって、陛下に傷ひとつつけられやしないよ。
それぐらい、圧倒的な体格差があるのだから。無用の心配というやつですよ?
つか、貧弱ガリガリキャラのこのぼくが、暗殺者とか、ウケるぅ。
だけど。バミネはどんな手を使ってくるかわからないから。用心に越したことはないか。
「シオンのことは、内密にしてほしいんだ。呪いのことなんか、なるべく知られたくないし。存在が妖しげなのは重々承知だが、悪さをしないと約束するから、そこは安心してくれ」
「怪しげとか悪さとか、ひどい言い様です、兄上」
シオンが不貞腐れながら、ツッコむが。
無視して、ラヴェルに話を続ける。
「もちろん、衣装作りも、本気で取り組んでいるぞ。でも、僕たちの都合で城へ来たというのは、誰が聞いても良い気はしないだろうから。言わずにいた方が、良いと思うんだ」
陛下のお衣装に携われるなら、金を払っても来たいという仕立て屋は、多いだろう。
それほど、王族の衣装を仕立てられることは、栄誉なことなのだ。
なのに、ついでみたいな言い方されたら、みんな怒っちゃうよね?
もちろん、ついで、などではない。
ぼくはぼくの技能のすべてをかけて、最高の衣装を仕立てるつもりなんだから。
その先に、ペンダントが戻ってきたら。それでいいのだ。
「ただ、ラヴェルにはちょっとだけ手を貸してほしいから、シオンのことを打ち明けたんだよ。話を聞いてくれるか?」
お願い、という感じで切り出すと。
ラヴェルは至極真面目な顔つきで。うなずいた。
「なんなりとお申しつけください」
ぼくは、彼が引き受けてくれるのを感じ、ホッとして。ずっと気に掛かってきたことを打ち明けた。
「もしも僕がここで死んだら、シオンを本土に返してあげてほしいんだ。本土に戻れば、シオンは母上の元へ帰れるから」
なにもかも、うまくいかなくても。
シオンを、この島に取り残すことだけは、したくない。
でも、事情を知るラヴェルに頼んでおけば。きっとシオンは本土へ、母の元へ帰れるだろう。
そのことだけが、気掛かりだったのだけど。
ラヴェルに頼むことができて、ぼくは安堵の息をついた。
つか、島に来る前に考えておけよっていう話だよね。
すまない。こんなに厳戒態勢だとは、想像していなかったというか。
モブが死ぬとかも、考えていなかったんだよぉ。
でも、成敗危機が何度かあったから。
これはモブでも、胡坐をかいていられないやつだと思って…。
だが、その言葉には。ラヴェルではなく。なんでかシオンが、隣で強く反応した。
「なにを言い出すのですか? 兄上ッ。兄上が死ぬなんて…兄上が死ぬときは、僕も生きていません。ともに逝きますっ」
はぁ? そんなの駄目駄目。
弟というものは、決して兄の目の前で死んではならぬ生き物なのである。
「ともに逝くなどと、言うんじゃない。シオンは僕のボディガードではあるけれど。生き残ったのなら、シオンが母上を守ってくれないと」
「嫌です」
いつも、ぼくの言うことは大概なんでも聞き入れる、可愛い弟なのに。このときばかりは即答とか。
うぬぅ、生意気なっ。
「聞き分けなさい。ここは、なにが起きても、おかしくない場所なんだ。僕がいなくなったら、僕の代わりに母上を守ると、誓え。シオン」
すっかり大きくなったと思っていたのに。
涙目でぼくを睨むところは。やはり、まだまだ子供だ。
「…はい」
ものすごく不本意そうに、それでもうなずくシオンの鼻を、ぼくは指先でつまんで。笑う。
「大丈夫。もしもの話だ。そんな簡単に、僕が死ぬわけない。モブなどに、華麗な死にざまが与えられるわけないんだからな」
「モブだから死なないのなら。兄上はモブでいいです」
おお? ようやくシオンが、ぼくをモブだと認めたぞ? よしよし。
ま、いつの間にかいなくなり、誰もモブの存在を覚えていないという、ヤバい展開も。なくはなくはないけど。
これ以上、シオンを不安にさせられないから。これは言わないでおこう。
「というわけで、ラヴェル。僕が死んで、シオンが生き残ったら。お願い」
「承知いたしました。ですが…私の命に代えても。クロウ様を王城で死なせたりなどいたしません。敵は、バミネでしょう? 刺し違えても。クロウ様をお守りいたします」
いや、当面は、陛下の成敗が一番怖いんですけど。
でも。たぶん、もう陛下は現れないだろうから。
命の危機はないのかもしれないな、うん。
「…ここでは、僕とラヴェルは、初対面の感じだからね? 無理しないでね? あと、ご飯のことなんだけど。夕食って、多くできる? ほら、シオンがこんなだから。昼、食べられない分、夜多く食べさせたいんだよね?」
「では、仕事の合間に食べたいのだということにして、取り置きのできるパンや果物を多めに出すよう、厨房に伝えます。そうすれば、朝昼は小食で、夜は大食という矛盾も、誤魔化せるでしょう?」
「頭良いなぁ、ラヴェル。助かるよ。本当、ここでラヴェルと会えて、良かったぁ。これで、安心して過ごせるよ」
ラヴェルに会う前は、アイリスとセドリックに頼もうと思っていたけれど。
内情を隠して、頼みごとをするのは難しいし。
ご飯の頼み事まではできなかったもん。
ラヴェルが味方になってくれて、ホント助かったぁ。
とりあえず、憂いはすべて晴れたよ。
「…それだけ、ですか?」
なのに。ラヴェルが、なにやら恨みがましい上目遣いで、ぼくを見るので。
ん? なにか、言い忘れたことがあるか? それとも?
「? あ、なにか。対価が?」
タダで頼み事は、ムシが良すぎたのかと思い。聞くと。
ラヴェルは首がちぎれそうなほどに、横に振った。
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ウルウル目で、聞かれる。なんで?
「いや。ラヴェルは、今は陛下の執事なのだから。僕のことに、わずらわせてしまうだけでも、充分甘えてしまっていて、申し訳ないと思っているよ?」
「そんなっ、クロウ様の執事である私の気持ちに、変わりはありません。十歳の貴方様に、私は永遠の忠誠を誓ったのです。覚えていらっしゃらないのですか?」
ラヴェルに切々と訴えられ、ぼくは。思い出す。
前世の記憶を思い出す前のことは、薄っすらと、モヤがかかったような感じではあるのだが。
あの出来事は、公爵邸に行くほんの少し前だったから。まぁ、覚えている。
別邸を立ち退き勧告されたとき。公爵邸に、ラヴェルが一足先に様子うかがいに行ったのだ。
その、出掛ける前に。ラヴェルは、地に膝をついて。ぼくの手の甲にくちづけを落として、誓った。
一生、ぼくの執事であるということを。
「ラヴェル。あの頃とは、なにもかもが様変わりしてしまった。僕は公爵子息ではなくなったから、君を雇うことはできないし。ラヴェルは王城を切り盛りする、陛下の優秀な執事。十年前の約束なんか、律儀に守ることはない」
そう。そしてぼくはモブで。ラヴェルは攻略対象者。
格差、エグゥ。公式、ひどくね?
「いいえ、私は今でも。クロウ様の執事です。なんなりと、私にお申しつけください。クロウ様の要求に、なんでもお応えいたします」
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なのに、なんでモブのしもべになっちゃってんのぉ?
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認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
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