【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
43 / 176

32 本日の萌えを反芻するオタク ②

しおりを挟む
 シヴァーディに、バミネに傷をつけられた、あらましを聞きました。
 なにぃ? それぇ…すっごいドラマじゃん?
 アイキンの舞台設定に、そんな濃密な物語が隠されていたなんて。
 でも、全部攻略したら、出てくる話なのかな?
 それとも、シヴァーディルートで語られる真実ってやつかな?
 だとしたら、それを教えてもらえたぼくって、超ラッキーじゃね?

 シヴァーディとセドリックの友情は、王族のミハエル英雄譚の中にあるエピソードにも匹敵するほどの、熱いものだ。
 それを引き裂こうとしたバミネ、許すまじっ。
 感動と憤りで、涙が止まりません。

「一丁前に、美形をねたむんじゃねぇ、ぽっちゃり悪役令息のくせにぃっ」
 学園で、モテをシヴァーディに取られたことを、恨んだ犯行とか?
 浅いっ。バミネよ、動機が浅すぎるぞ。
 ま、あいつ沸点低すぎだし。つか、鏡見ろや。

「シヴァーディ様がいなくても、バミネがモテるわけねぇだろ。最初からイケメン設定じゃないんだから、わきまえろや、ボケェ」
 悪役が動かないと、物語が動かない、とはいえ。やり過ぎなんだよっ。
 もしかして、暴走しているのか?
 だとしたら、バミネのせいで、物語の大筋が変わっていくということもあるかもしれないな?

 しかし、それにしても…。
「そんなことで、公式が造りたもうたご尊顔に傷をつけるなど、なんという暴挙。なんという罪悪。これはゲーム進行を妨げる、究極の蛮行、愚行でありますぞっ。公式よ、悪に裁きの鉄槌をっ」

 ゲームの世界に転生すると、よく、ゲームの強制力が働いて、大筋に無理矢理引き戻そうとする、理由のつかない心の変化とか、あるじゃん?
 公式の力が働くのなら、バミネはもう成敗されてもいいんじゃねぇかな?
 ぼくがこうして、呪詛を吐きまくってやったから。あいつには、きっと罰が当たるだろう。ざまぁ。

 なんて。人をざまぁしている場合ではなかった。

 そういえば、シヴァーディはここに来たとき、成敗とか宣言していなかったか?
 あれ? これって第三成敗の危機じゃね?

「ところで、シヴァーディ様? なにかお怒りでしたか?」
 恐る恐るたずねると、勘違いだって言ってくれたよ。ホッ。

 麗しの騎士様が、剣を振り上げる姿を拝見したいとは思いますが。それで、ぼくの首チョンパは勘弁です。
 もう少し生きたいのです。シオンも心配だしね。

 だけど、続いて。ぼくには魔力がないと断言されてしまい。
 それには、ちょっと反論してしまった。
「魔力…少しは、あるでしょう?」
 だって、全然なかったら、ヤバいじゃん?
 シオンの呪いを解くために、ペンダントをバミネから奪い返して。ぼくの魔力をシオンに注いで、解呪するという作戦なんだよ?
 もし、ペンダントを奪い返しても、ぼくの魔力がカスだったら、どうするぅ?

 いや、眠っていて、シヴァーディに感知できないだけだよね?
 でも魔力が眠っている間に、枯渇してたらどうしよう?
 そういうことってあるの?
 眠っているだけならいいんだけどね。魔力に目覚めたとき、少しはないと困ります。
 せめて、解呪できるくらいは。

 それにさ、せっかく魔法のある世界に転生したんだから、一度くらいは魔法を発動してみたいじゃないか?
 風をそよがせたり、ランプに火をつけたり、氷の剣を作ってバミネにグサッとしたり? してみたいじゃん?

 でも、シヴァーディは、神妙な顔で言うのだ。
「魔力を持つということは、良いことばかりではない」
 そうなの?
 だって、ランプに火を灯せるだけでも、便利でしょ?

 でも、まぁ。日常生活で、魔法はなくても、支障なく暮らせるけどね。
 この世界は機械がない分、不便で。
 便利な世界だった前世を知っているぼくは、この生活に慣れるのにちょっと時間がかかった。
 けれど今は。特に支障なく暮らしているよ。機械がなくても、それなりに暮らせるものだね?
 ミシンがないから、ぼくなんかでも仕立て屋さんをやれているわけだしね。ミシン、苦手だったからな、ぼく。

 シヴァーディは騒がせてすまないと謝ってから、サロンを出ていった。
 いえいえ、またいつでも遊びに来てください。お待ちしております。

 そして、騎士様と入れ替わりに、陛下が現れた。
 えぇ? 第三成敗は回避できましたよね? 大丈夫ですよね?

 イアン様は、少し心配そうに眉間を歪ませて、ぼくにたずねた。
 これが、第三萌え案件である。

「泣いたのか? シヴァーディに、きついことを言われたか?」
 そう言って、ぼくの目元に親指で触れ、涙を拭ってくれた。

 いやぁぁぁ、どこの王子様? 王様だけど。

 もう、少女漫画に出てくる、パーフェクトヒーローじゃん?
 陛下は少し陰があるから、クール系で無口だけど、ヒロインのピンチには駆けつける、絶対無敵のスパダリ彼氏じゃん?
 こんなんされたら、アイリスもメロメロでしょうが?
 ここで、ぼくは。重大なことに気づいてしまった。

 ハッ、主人公ちゃんがいない?

 まさか、このシチュエーションは、イベントではないよね?
 つか、噴水の周り走ったのも、シヴァーディの昔話も、イベントじゃないよね?
 無意識でアイリスのイベント奪ってないよね?
 大丈夫だよね? お邪魔ムシのクロウ、しちゃってないよね?

 でも、イベントかと思っちゃうくらい。陛下のスマートな所作に、ぼくもクラクラです。
「いえ、シヴァーディ様の傷が、お話が、痛々しくて」
 つか、半分バミネへの怒りで、悔し泣きだが。
 本当にむかつく。
 美は、愛でてこその美なのだ。万民が感嘆するものを破壊しては駄目なのだ。美を害する悪はこの世にいらぬ。滅べ。
 と思っていたら、陛下がプッと笑った。
 へ? 王が吹き出すとか、レアシーンなんですけどぉ?
 スクショさせてください。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...