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37 オープニングのアレじゃね?
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◆オープニングのアレじゃね?
刺繍していた手を止めて、ぼくは椅子を降りると、丁寧なお辞儀をする。顔を上げる前に、アホ毛を直すのを忘れずに。
陛下は、ゆっくり進めればいい、などと言うけれど。いやいや、まだまだです。
「イアン様のお顔を拝見し、この衣装をもっと美しいものにしなければ、という意識が強くなりました。華やかで、強さも感じられるような…」
つい先ほどまで刺していた、布地を。ぼくはそっと撫でる。
前身ごろの鳳凰が、ぼくの納得のいくものになったとき、陛下の身を飾ることができたら。どれほどご立派な姿になるだろう。
イアン様の礼装姿を、夢想してみる。
黄金の髪が、刺繍の絹糸を光らせ、フェニックスが今にも飛び立ちそうなほどに浮かび上がる。そんな有様を思い描いて、うっとりした。
完成形は、理想像だから。それはもうきらびやかに脳内を彩っているよ?
「我は、美しいのか?」
なにを、当たり前のことをおっしゃるか?
ぼくは、布地に目を落としたまま、告げる。面と向かって賛辞を並べるのは、恥ずかしいじゃん?
でも、陛下は。どれだけ褒めても、褒め足りないお方だもの。
「はい。まぶしくて、正視できません」
「見なくては、我が美しいか、わからないだろう?」
そばに寄ってきた陛下が、ぼくの顎を指先ですくい上げる。
ほあぁぁぁっ、海色の瞳がキラッキラです。
夏の強い日差しが、水面を輝かせているみたいな。そんな瞳の色です。
無理無理無理。一介のモブに、その美麗さは、受け止めきれません。
「すべてが…僕と同じ人間とは思えないほどに、御美しいです」
それに今は、これからお出掛けなのか、暗めの青色ジャケットを着ている。金糸で縁取られ、きらびやかな刺繍が施されている、貴族の豪華な正装姿だ。
ぼくも、婚礼衣装を金糸で縁取りたいですっ。
もうっ、もうっ、白馬に乗ったら完璧に、白馬に乗った王子様ですっ。王様だけど。
つか…本当にね。公式さんの悪意を目の当たりにしているようですよね。
あれだよね。公式は、ゴージャス陛下と貧相なモブを並べて、そのギャップを見て、腹を抱えて笑っているんだろうね。
ぼくが陛下の美麗オーラに焼かれて、溶かされるところを見たいんだろうね?
えぇ、御想像通り、デロッデロッす。
目の前の陛下は、うなずいて。手を離してくれた。
王の指先ひとつで、ぼくは微動だにできなくなる生き物ですから。ホッとしました。
でも、離れる指先が、ぼくの髪を撫でて、耳たぶをかすめていったから。その些細な感触をビビッと意識してしまい。頬がぶぁっと熱くなった。
もうっ、これ、わざとでしょ? ぼくがキョドってるの見て楽しんでるやつでしょ?
「初めておまえと会ったとき。我も同じ人間だとは思えなかったぞ。小さくて、黒くて。頼りなさそうな死神だと、な」
黒い? あぁ、服装のことかと思い。ぼくはシャツの胸元を引っ張った。
今日も安定の、黒シャツに黒ズボンだ。
「申し訳ありません。黒い服装は、糸くずがついていたら、すぐにわかるようにするため、なので」
それに、モブに似合う服装なんて、そうそうないんですよ。黒が無難です。
「良い。おまえには似合っているからな…死神は黒いものだし」
でしょう? やっぱり黒は万国共通で無難なのだ。
死神のくだりはスルーします。
「それはともかく…あまり根を詰めるのは、良くないな。進行が遅れているのか?」
「いえ。明日には仮縫いに入れると思います」
そう言うと、陛下はちょっと目を見張った。
「は、早いな。思ったより…」
「でも、その先の方が時間がかかるのです。刺繍を施してある前身ごろは、製作時間をかけておりますので。失敗したら、もう一度、同じだけの時間をいただくことになります。なので、丁寧に進めていきます。お目障りでしょうが、やはり納品の期日である四月まで、滞在させていただきたいのです」
「…そうか。四月まではいるのだな」
そうなのだ。バミネに依頼を受けてから、ぼくは、今までの仕事を全部、店のスタッフに引き継いで、陛下の刺繍だけに全力を注いだのだ。
それでも間に合わないのだっ。
大きな刺繍というものは、時間がかかるものなんだぞ、バミネっ。
おまえ知らないだろう? 簡単に作れるもんじゃねぇんだよ。一ヶ月前とか、普通なら無理な話なんだよ。全部手縫いだぞ? ふざけんなよ。もっと早く言ってこいや、ボケェ。
「あぁ、構わぬ。ゆっくり…おまえが納得できる、良いものを作ってくれ」
最初に、長居は許さぬと言われていたので。今、陛下が四月まで居ていいって、許してくれて。ホッとした。
やっぱり陛下は。仕立てのなんたるかが、わかってらっしゃるのだな? さすがです。
そしてお優しい。嬉しいその気持ちのまま、ぼくは笑顔を陛下に向けた。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「あ…ぁ、うん。でも、今日の仕事は終わりにしろ。これから行くところがあるので、付き合え。寒いから、あのコートを着て来いっ」
王の命令は絶対です。
ぼくはうなずいて、サカサカと仕事道具を片付けると。コートを着るため自室に入っていった。
ま、そこには。不機嫌そうに腕を組む、シオンがいるわけだが。
シオンも黒系の服が好きだよね。ブラック兄弟だな。わっ、悪役令息っぽーい。
「兄上、行ってはなりません。暗がりで陛下に殺されそうになったらどうするのです?」
扉の向こうには陛下がいるので、当然、ひそひそ話だが。
それでも、ヒヤリとするから。ぼくは口元に人差し指を当てた。
「陛下は、そのような、理由もなく人を殺す方ではないよ。心配するな」
ぼくはシオンの頭を抱き寄せて、こめかみにチュウした。西洋式の挨拶だ。
前世で日本人だったぼくは、密着度の高い、この挨拶が気恥ずかしいんだけど。
うちの可愛い弟は、これをすると大概、機嫌良くなってくれるから、便利で。慣れた、というか?
でも目の前のシオンは、チュウしても、まだ心配顔をしている。口がへの字だ。
ぼくのそばについていられないのが、ボディガードとして、不安なんだろうな?
でも、陛下がお待ちだ。もう行くよ。
シオンのウェーブしてる黒髪を、ポムポムと撫でて。安心させるように笑みを浮かべてから、部屋を出た。
「お待たせしました、イアン様」
コートをヒラつかせて、陛下に駆け寄ると。ひとつうなずいてサロンを出ていく。
廊下にはシヴァーディがいて、すかさず、陛下の斜め後ろにつく。
ふたりが並ぶと、金髪銀髪美形パラダイスで、壮観ですなぁ。
サロンは、二階の一番端にあるが。陛下は逆方向の、一番端まで廊下を歩いていった。
うわ、足が長いから。陛下たちは普通に歩いているのに、ぼくは小走りでないと追いつけません。
そして、廊下の突き当りには、セドリックがいた。
その突き当りは、鉄格子があって…。
て、鉄格子? もしかして、投獄ですか?
嘘でしょ? シオンがひとりになってしまう。
いざとなったら、ラヴェルをセドリックに呼んでもらおう。そうしよう。
セドリックが、ギィと、古い鉄が軋む音を立てて、鉄格子を開く。そして手に持っていたランプを陛下に渡した。
「不審者はおりません」
王はひとつうなずき。鉄格子の向こう側へ入っていった。
ん? 牢屋に、王も入るの? つか、牢屋じゃないの?
二、三歩先に行った陛下が、ついてこないぼくを、いぶかしげに振り向く。
「クロウ、ついて来い」
「は、はいぃ」
王の命令は絶対です。
ぼくは陛下について、鉄格子の中へ入った。
光源がないから、陛下の持つランプの灯りだけが、辺りを照らす。
そのオレンジ色の光が、上に伸びていく、石組みの螺旋階段を浮かび上がらせた。
陛下は階段を、コツコツと、靴音を響かせながら登っていく。
あれ? 初めて来た場所なのに、どこかで見たことがある。
両手を広げたくらいの、幅の狭い、石組みの階段。ホラーのような、すすけた印象の、長く続く螺旋。ほの暗い灯りのランプを手に持ち、その螺旋状の階段を上っていく王様。コツコツと響く靴音。
『まるで死へのカウントダウンだと、王は思った』
唐突に、ナレーションの声が思い出される。
あっ、これって、オープニングのアレじゃね?
アイキンのオープニングは、憂いた王の台詞から、始まったのだった。
階段を上り切った陛下は、扉の取っ手を握り。古い、黒鉄の扉を開くと、蝶番がギィと軋む。
そして、海の香りがぼくたちを包み込んで、潮風が陛下の黄金の髪をゆらりと揺らした。
「見ろ、クロウ。本土の光だ」
まず目に飛び込んできたのは、夜の闇に浮かぶ上弦の月。
そして、ここは。
あの、ゲームで見た通りの、カザレニア城の塔のてっぺん!!
うわっ、やっべーっ。
興奮のあまり、ぼくは王の横をすり抜けて、突き当りまで歩を進めた。
「す、すごーいぃ」
胸壁のオウの部分は腰高で、トツの部分はぼくの背より大きい、でっかい石で組まれている。
胸壁っていうのは、敵の攻撃を防ぎながら、おうとつのオウの部分から武器を出して攻撃できるような、壁のことなんだよっ。
お城の塔には、よくデコボコしたのがてっぺんにあるだろう?
あれはただの飾りではなく、実用性があるんだよね。
この世界には、銃はないが。王族の方は火炎弾の魔法があるから、こういう仕様なんだよね。
本土から遠くに見ていた、あの王城の特徴的な塔の上に、今いるのだと思うと。
燃えるぅ。萌えるぅ。
胸壁に手をついて、身を乗り出す。
見える景色は、月明かりを映す黒い海。転じて本土を見やると、ちらちら光が見えて。
『生活の光が控えめに輝いていた』っていうナレーション通り。
ヤバヤバヤバ、テンション上がるぅ。
『この海を渡って、明日死神がやってくる』
そして、鼻息荒く興奮している中で、陛下のそのセリフも思い出したのだ。
死神って、よく、陛下がぼくに言うやつだ。
あれ? ここで言うところの死神って、主人公ちゃんのことだったと思うんだけど。
あれ? あれれ? 今の死神キャラ、ぼくみたいなんですけどぉ?
刺繍していた手を止めて、ぼくは椅子を降りると、丁寧なお辞儀をする。顔を上げる前に、アホ毛を直すのを忘れずに。
陛下は、ゆっくり進めればいい、などと言うけれど。いやいや、まだまだです。
「イアン様のお顔を拝見し、この衣装をもっと美しいものにしなければ、という意識が強くなりました。華やかで、強さも感じられるような…」
つい先ほどまで刺していた、布地を。ぼくはそっと撫でる。
前身ごろの鳳凰が、ぼくの納得のいくものになったとき、陛下の身を飾ることができたら。どれほどご立派な姿になるだろう。
イアン様の礼装姿を、夢想してみる。
黄金の髪が、刺繍の絹糸を光らせ、フェニックスが今にも飛び立ちそうなほどに浮かび上がる。そんな有様を思い描いて、うっとりした。
完成形は、理想像だから。それはもうきらびやかに脳内を彩っているよ?
「我は、美しいのか?」
なにを、当たり前のことをおっしゃるか?
ぼくは、布地に目を落としたまま、告げる。面と向かって賛辞を並べるのは、恥ずかしいじゃん?
でも、陛下は。どれだけ褒めても、褒め足りないお方だもの。
「はい。まぶしくて、正視できません」
「見なくては、我が美しいか、わからないだろう?」
そばに寄ってきた陛下が、ぼくの顎を指先ですくい上げる。
ほあぁぁぁっ、海色の瞳がキラッキラです。
夏の強い日差しが、水面を輝かせているみたいな。そんな瞳の色です。
無理無理無理。一介のモブに、その美麗さは、受け止めきれません。
「すべてが…僕と同じ人間とは思えないほどに、御美しいです」
それに今は、これからお出掛けなのか、暗めの青色ジャケットを着ている。金糸で縁取られ、きらびやかな刺繍が施されている、貴族の豪華な正装姿だ。
ぼくも、婚礼衣装を金糸で縁取りたいですっ。
もうっ、もうっ、白馬に乗ったら完璧に、白馬に乗った王子様ですっ。王様だけど。
つか…本当にね。公式さんの悪意を目の当たりにしているようですよね。
あれだよね。公式は、ゴージャス陛下と貧相なモブを並べて、そのギャップを見て、腹を抱えて笑っているんだろうね。
ぼくが陛下の美麗オーラに焼かれて、溶かされるところを見たいんだろうね?
えぇ、御想像通り、デロッデロッす。
目の前の陛下は、うなずいて。手を離してくれた。
王の指先ひとつで、ぼくは微動だにできなくなる生き物ですから。ホッとしました。
でも、離れる指先が、ぼくの髪を撫でて、耳たぶをかすめていったから。その些細な感触をビビッと意識してしまい。頬がぶぁっと熱くなった。
もうっ、これ、わざとでしょ? ぼくがキョドってるの見て楽しんでるやつでしょ?
「初めておまえと会ったとき。我も同じ人間だとは思えなかったぞ。小さくて、黒くて。頼りなさそうな死神だと、な」
黒い? あぁ、服装のことかと思い。ぼくはシャツの胸元を引っ張った。
今日も安定の、黒シャツに黒ズボンだ。
「申し訳ありません。黒い服装は、糸くずがついていたら、すぐにわかるようにするため、なので」
それに、モブに似合う服装なんて、そうそうないんですよ。黒が無難です。
「良い。おまえには似合っているからな…死神は黒いものだし」
でしょう? やっぱり黒は万国共通で無難なのだ。
死神のくだりはスルーします。
「それはともかく…あまり根を詰めるのは、良くないな。進行が遅れているのか?」
「いえ。明日には仮縫いに入れると思います」
そう言うと、陛下はちょっと目を見張った。
「は、早いな。思ったより…」
「でも、その先の方が時間がかかるのです。刺繍を施してある前身ごろは、製作時間をかけておりますので。失敗したら、もう一度、同じだけの時間をいただくことになります。なので、丁寧に進めていきます。お目障りでしょうが、やはり納品の期日である四月まで、滞在させていただきたいのです」
「…そうか。四月まではいるのだな」
そうなのだ。バミネに依頼を受けてから、ぼくは、今までの仕事を全部、店のスタッフに引き継いで、陛下の刺繍だけに全力を注いだのだ。
それでも間に合わないのだっ。
大きな刺繍というものは、時間がかかるものなんだぞ、バミネっ。
おまえ知らないだろう? 簡単に作れるもんじゃねぇんだよ。一ヶ月前とか、普通なら無理な話なんだよ。全部手縫いだぞ? ふざけんなよ。もっと早く言ってこいや、ボケェ。
「あぁ、構わぬ。ゆっくり…おまえが納得できる、良いものを作ってくれ」
最初に、長居は許さぬと言われていたので。今、陛下が四月まで居ていいって、許してくれて。ホッとした。
やっぱり陛下は。仕立てのなんたるかが、わかってらっしゃるのだな? さすがです。
そしてお優しい。嬉しいその気持ちのまま、ぼくは笑顔を陛下に向けた。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「あ…ぁ、うん。でも、今日の仕事は終わりにしろ。これから行くところがあるので、付き合え。寒いから、あのコートを着て来いっ」
王の命令は絶対です。
ぼくはうなずいて、サカサカと仕事道具を片付けると。コートを着るため自室に入っていった。
ま、そこには。不機嫌そうに腕を組む、シオンがいるわけだが。
シオンも黒系の服が好きだよね。ブラック兄弟だな。わっ、悪役令息っぽーい。
「兄上、行ってはなりません。暗がりで陛下に殺されそうになったらどうするのです?」
扉の向こうには陛下がいるので、当然、ひそひそ話だが。
それでも、ヒヤリとするから。ぼくは口元に人差し指を当てた。
「陛下は、そのような、理由もなく人を殺す方ではないよ。心配するな」
ぼくはシオンの頭を抱き寄せて、こめかみにチュウした。西洋式の挨拶だ。
前世で日本人だったぼくは、密着度の高い、この挨拶が気恥ずかしいんだけど。
うちの可愛い弟は、これをすると大概、機嫌良くなってくれるから、便利で。慣れた、というか?
でも目の前のシオンは、チュウしても、まだ心配顔をしている。口がへの字だ。
ぼくのそばについていられないのが、ボディガードとして、不安なんだろうな?
でも、陛下がお待ちだ。もう行くよ。
シオンのウェーブしてる黒髪を、ポムポムと撫でて。安心させるように笑みを浮かべてから、部屋を出た。
「お待たせしました、イアン様」
コートをヒラつかせて、陛下に駆け寄ると。ひとつうなずいてサロンを出ていく。
廊下にはシヴァーディがいて、すかさず、陛下の斜め後ろにつく。
ふたりが並ぶと、金髪銀髪美形パラダイスで、壮観ですなぁ。
サロンは、二階の一番端にあるが。陛下は逆方向の、一番端まで廊下を歩いていった。
うわ、足が長いから。陛下たちは普通に歩いているのに、ぼくは小走りでないと追いつけません。
そして、廊下の突き当りには、セドリックがいた。
その突き当りは、鉄格子があって…。
て、鉄格子? もしかして、投獄ですか?
嘘でしょ? シオンがひとりになってしまう。
いざとなったら、ラヴェルをセドリックに呼んでもらおう。そうしよう。
セドリックが、ギィと、古い鉄が軋む音を立てて、鉄格子を開く。そして手に持っていたランプを陛下に渡した。
「不審者はおりません」
王はひとつうなずき。鉄格子の向こう側へ入っていった。
ん? 牢屋に、王も入るの? つか、牢屋じゃないの?
二、三歩先に行った陛下が、ついてこないぼくを、いぶかしげに振り向く。
「クロウ、ついて来い」
「は、はいぃ」
王の命令は絶対です。
ぼくは陛下について、鉄格子の中へ入った。
光源がないから、陛下の持つランプの灯りだけが、辺りを照らす。
そのオレンジ色の光が、上に伸びていく、石組みの螺旋階段を浮かび上がらせた。
陛下は階段を、コツコツと、靴音を響かせながら登っていく。
あれ? 初めて来た場所なのに、どこかで見たことがある。
両手を広げたくらいの、幅の狭い、石組みの階段。ホラーのような、すすけた印象の、長く続く螺旋。ほの暗い灯りのランプを手に持ち、その螺旋状の階段を上っていく王様。コツコツと響く靴音。
『まるで死へのカウントダウンだと、王は思った』
唐突に、ナレーションの声が思い出される。
あっ、これって、オープニングのアレじゃね?
アイキンのオープニングは、憂いた王の台詞から、始まったのだった。
階段を上り切った陛下は、扉の取っ手を握り。古い、黒鉄の扉を開くと、蝶番がギィと軋む。
そして、海の香りがぼくたちを包み込んで、潮風が陛下の黄金の髪をゆらりと揺らした。
「見ろ、クロウ。本土の光だ」
まず目に飛び込んできたのは、夜の闇に浮かぶ上弦の月。
そして、ここは。
あの、ゲームで見た通りの、カザレニア城の塔のてっぺん!!
うわっ、やっべーっ。
興奮のあまり、ぼくは王の横をすり抜けて、突き当りまで歩を進めた。
「す、すごーいぃ」
胸壁のオウの部分は腰高で、トツの部分はぼくの背より大きい、でっかい石で組まれている。
胸壁っていうのは、敵の攻撃を防ぎながら、おうとつのオウの部分から武器を出して攻撃できるような、壁のことなんだよっ。
お城の塔には、よくデコボコしたのがてっぺんにあるだろう?
あれはただの飾りではなく、実用性があるんだよね。
この世界には、銃はないが。王族の方は火炎弾の魔法があるから、こういう仕様なんだよね。
本土から遠くに見ていた、あの王城の特徴的な塔の上に、今いるのだと思うと。
燃えるぅ。萌えるぅ。
胸壁に手をついて、身を乗り出す。
見える景色は、月明かりを映す黒い海。転じて本土を見やると、ちらちら光が見えて。
『生活の光が控えめに輝いていた』っていうナレーション通り。
ヤバヤバヤバ、テンション上がるぅ。
『この海を渡って、明日死神がやってくる』
そして、鼻息荒く興奮している中で、陛下のそのセリフも思い出したのだ。
死神って、よく、陛下がぼくに言うやつだ。
あれ? ここで言うところの死神って、主人公ちゃんのことだったと思うんだけど。
あれ? あれれ? 今の死神キャラ、ぼくみたいなんですけどぉ?
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