【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
69 / 176

54 秘密の隠し通路

しおりを挟む
     ◆秘密の隠し通路

 ぼくが、この島でお店を出したいと提案したら。
 我が満足する衣装を作れ、と発破をかけられてしまった。
 そのあと陛下は、神妙な顔つきで、黙ってしまって…。

 やっぱり、城下に店を出したいというのは、図々し過ぎたかな?
 王室御用達なんて、欲張りなお願いに、呆れてしまいましたか?
 島に人々が集まってきたら、陛下はもっと喜ぶのではないかと思っていたのに。気に入らなかったのですか?
 それとも、もっと違う案を考えた方が良いのだろうか?

 つか、モブに御用達とか、与えるわけねぇだろ、とか考えてます?
 あり得る。だってぼくはモブだもの。
 そんな栄誉は簡単にあげられませんよね? 納得です。

「イアン様、申し訳ありません。分不相応な夢を語ってしまって…気分を害されましたか?」
 本当に、モブごときが無礼千万でごめんなさいと、頭を下げると。
 陛下は、ぼくと目を合わせ、微笑んだ。

「いや。少し別のことを考えていたのだ。すまない。おまえの夢は、いい夢だ」
 そして、再びぼくの手を引っ張った。
 良いのですか?
「ここにいる間は、バミネのことなど考えなくても良い。おまえが力を尽くせば、我が納得する衣装を作り上げられるだろう。そうすれば、おのずと夢は叶う。それまでは、我のそばで楽しく過ごしてくれ」

 優しく目を和ませて、笑いかけてくれるから。気分を害されたわけではなさそう?
 よく、内情を知りもしないぼくが、小賢こざかしいことを言ったから、怒ってしまったのかと思ったけれど。そうではなさそうだな?
 本当に、なにか別のことを考えていたんだろうな?

 陛下は、城下町へと、どんどんくだっていく。
 島の頂点には、お城がある。そこから、一番端にある港まで、ひたすら、坂や、階段を降りていく形状になっている。
 帰りは、当たり前だが、のぼりだ。
 今から、戦々恐々ですな。行きは良い良い、帰りはフフフんです。

 北側の、城が建っている方の端は、切り立つ険しい崖で。城の敷地以外に、店や屋敷はない。
 本土からは、城だけが見えるようになっているのだ。

 あぁ、本土から見たお城の裏側には、こんなにも、店や屋敷という建物が、いっぱいあったのだなぁ、と。ぼくはこの島に来て、初めて知ったのだ。

 島に、お城だけが建っているように見えるのは。幻想的で、夢があるけれど。
 見えないところで、王家を支える人たちが、裏側にはいっぱいいるということだよね?
 今は、陛下のおそばにいないけど。いつか戻って来たい、陛下を支えたいと思う人たちが、今でもいっぱいいると思うんだ。
 そのお手伝いが、できたらいいと。ぼくは思っている。
 どうしたらいいのかは、まだわからないけど。
 
 町の中ほどまで、降りてくると、陛下は、ショーウィンドの並ぶ、店先を過ぎ。ある路地を曲がった。
 突き当りには、倉庫らしき木戸があり。
 その中に、先にシヴァーディが入った。

「あの、イアン様? ここはいったい…」
 人気のない、倉庫だ。
 もしや、ぼくは隔離されてしまうのでは?
 なんて。ちょっと前のぼくなら、考えたけど。今ではこうして、陛下と手をつないで歩いているのだから、そんなことはない…。
 ないですよね?

 陛下は、ぼくの質問には答えてくれないので。ちょっとドキドキ。
 そのうち、シヴァーディが倉庫から出てきた。
「異常ありません」
「…シヴァーディは、ここで待て」
 小さくうなずくシヴァーディを置いて、陛下はぼくの手を引いて、倉庫の中へと入っていった。

 小屋の中には、ほこりをかぶった木製の樽が、いくつかある。
 酒屋さんかな?
 棚に、古風なランプがいっぱい並べられているが。他にはなにもない、薄暗い空間だ。
 陛下は棚のランプを手に取って、火をつける。
 辺りが炎で照らされると、恐怖感が薄らいでホッとした。

「ここは、歴代の王が受け継いできた、秘密の隠し通路だ」
 そう言って、陛下は先に進んでいく。

 つか、さらりと爆弾発言ではないですか?

 歴代の王が受け継いできた、秘密の隠し通路?
 それって、響きが、もうヤバいんですけど?
 ふおぉぉぉっ、と。テンションが爆上がってきましたよっ?

 一見、倉庫のように見せているその場所の、さらに奥にある木戸を開けると。長い通路が伸びていた。
 今は、昼間なのに。光が全く入ってこない、真っ暗な道だ。

 すごいぃぃ、マジで道があるんですけどぉ?

 その道を、ランプの灯りを頼りに進んでいく。
 でも、ここへきて。ぼくはオタついた。

「あの、よろしいのですか? 歴代の王が受け継ぐなんて、一子相伝のようなところに、ぼくが来てしまって」
 王家の秘密に触れたら、成敗とか、ないですよね?
 なんだか、ドキドキしますっ。

「それほど、厳格なものではない。騎士たちは、入り口までは知っているし。まぁ、知る人ぞ知る、くらいなものだから、気にするな」
 陛下にそう言われたら、それ以上はなにも言えないが。

 それに、それにさ。秘密の隠し通路に、ずっとワクワクしっぱなしなのでっ。
 だって、忍者屋敷みたいじゃーん?
 それなりに、厨二病をこじらせているぼくとしては、この道がどこにつながっているのか、興味津々です。

 成敗がないなら、王家オタクのぼくは、このサプライズはウエルカムですよ?
 王家の秘密は大好物です。

 ウキウキと、ぼくは陛下に続いて歩を進めていく。
 歩く感覚としては、なだらかにくだりながら、ところどころ曲がっている、一本道だ。
 そして、五分以上は歩いたかなぁ? しばらくして、突き当りに行きついた。
 そこにあった木戸を、陛下が手前に引き開ける。
 暗がりから、急に明るい日差しが差し込み。ぼくは目を細めた。
 光に慣れたぼくの目に、飛び込んできた景色は…。

 コバルトブルーの海だーーっ。

 海面を、太陽の光がきらめき、輝かせている。
 え? 海? すごーい。扉の向こうは、すぐに海だよ?
 波しぶきがかかりそうなほどに、近いよっ。
 潮の香りが、濃厚だ。頬に当たる海風は、まだキンキン冷たい。
 波が寄せる感覚に、自分も揺れているみたいに感じる。海水のうねりに、す、吸い込まれそう…。

 陛下は、ぼくが驚いている間に、木戸に扉止めをかまして。ランプをその足元に置いていた。
「ここは、島の中で、本土の岸に一番近い場所だ」

 王が指で示した先、遠目に、本土が見える。
 ぼくは、あの海岸から、いつもこの城を眺めていたんだ。

 扉の枠の先に、一メートル四方の小さな踊り場がある。
 陛下は、扉の敷居の横木に腰かけ、足をその踊り場に投げ出した。
 すぐそこが海だと思うと、落ちてしまいそうで、ちょっと怖いが。
 ぼくも陛下にならって、横に腰かける。

「この踊り場の下、外壁に沿って、石組みの階段が伸びている。この階段は、海底まで続いているんだぞ」
 陛下の説明を聞いて、ぼくは外に顔を出して、見てみる。
 階段は、確かにあるが。五段目辺りから下は、海にのまれている。
 外壁にうちこまれた杭で、鎖が固定されていて。それが手摺り替わりみたい。

 なんか、武骨な作りが、海賊チック。

「でも、これでは使えませんよね?」
 遺跡みたいなものなのだろうか?
 でも、使用意図のわからない古い物って、なんでかワクワクするよな?
 誰が、どういうつもりで、この階段を作ったのか?
 王族の英雄譚にも書かれていない、謎の遺跡。ロマンじゃね?

 たずねるように、陛下を見上げると。
 王の海色の瞳が、本当の海の色と重なり合って。

 透き通って、きらめく、その青色に。ぼくは心を奪われてしまった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...