【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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68 陛下を救ってなんぼのゲーム

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     ◆陛下を救ってなんぼのゲーム

「兄上ぇぇ」
 自室に入ると、途端に、シオンが頼りない声を出した。
 人間形態の弟は、顔はしっかりエロエロビーストだというのに。目尻を下げちゃって。男前が台無しの、情けない顔をするんじゃない。
 と思っていたら、ぼくをガバリと抱き締めてきた。
 弟の肩に、顔がうずまる。長身自慢か?

「大丈夫でしたか? あんなに泣かされて、可哀想に。クソ陛下めぇ」
「陛下は関係ない。僕は、バミネに泣かされたんだぞ?」

 胸を張って、言うことではないが。
 陛下は冤罪だもの。ちゃんと否定しておかないとな?

「クソ陛下の配慮が足らないから、こういうことになったのです」
 でも、陛下を擁護すればするほど、シオンはプンプンになっていく。どうどう。

「っつか、ラヴェル。君も最初から知っていたんだろう? なんで教えてくれなかったのかなぁ?」
 ぼくは、わかりやすく、こめかみに怒りマークを乗っけて、ラヴェルをみつめた。
 彼は、ワゴンを部屋の真ん中へ置くと。
 その場に膝をつき。なんだか潤んだ眼差しで、ぼくを見上げてきた。

「私のあるじ様。大事なことをお伝え出来ず、申し訳ありませんでした。言い訳は、数々あれど。クロウ様の御機嫌を損ねたことは、私の不徳。重々、お詫び申し上げます」
 そんな、べったりと土下座の勢いで頭を下げられたら、怒るものも怒れないではないか。
 ぼくはため息をついて。ラヴェルに立つよう、うながした。

「もういいよ。で、言い訳って?」
 立っていいと言ったのに、その場に正座をしたラヴェルが、話し出す。
 ぼくらはベッドに座った。
 なんだか、叱られた犬が耳を寝かせて、しょんぼりしているみたいで。いたたまれないのだが?

「陛下に口止めをされれば、そのことをお話できないのは、もちろんなのですが。ウキウキと婚礼衣装を作っているクロウ様に、それは死に装束なのだと、どうしても言えませんでした。それは、陛下が口止めをした理由と同じです。私も、貴方様の笑顔を曇らせたくなかった」

 そりゃ、死に装束だと言われたら、ヘラヘラしていられないけどさぁ。
「でも、バミネに暴露されるよりは…ワンクッション欲しかったなぁ、と…」
 不満な思いで、つい口をとがらせてしまう。うぅ。

「貴方が真実を知ったら、すぐにも衣装を処分し、この島から去ってしまったでしょう? 今日、貴方がなさろうとしたように」
 そう、言われてしまうと。
 バミネに言われたから、大ショックだったのはあるが。その話があいつからでなくても、そうしただろうな。というのは想像できます。
 つい先ほど、馬鹿みたいに取り乱したばかりなので。

 そういえば、いっぱい泣いて。さらに陛下とキスしたから、顔がぐちょぐちょだ。
 今更ながらに思い出して、頬を手のひらでこする。
 体裁を整えるのには、だいぶ遅いけど。やらないよりはマシ。

 それでなくても、モブ顔でイケてないんだからねっ?

「私は、一日でも長くクロウ様に、この島に滞在してほしかったのです。陛下と交流され、陛下に同情していただけたら、陛下を救う、なにがしかの手立てを、考えていただけるのではないかと。浅はかにも、期待しておりました」
「それは、もちろん。考えるつもりだったさ。でも、こんなに切羽詰った状態だとは思わなかったよ。まさか、僕の仕立てに、陛下の命を脅かす件が関わっているなんて、思いもしなかったもの」

 死に装束の仕立てが終わったら、すぐにも。とか、考えたくもないし。口にも出したくないから、言わないけれど。
 事実は、そのように動いているということだよね?

 衣装が完成したら、バミネは陛下を殺すつもりでいる。マジか。

 ぼくは、はぁと、重いため息をついて。立ち上がる。
「ラヴェル、君は言ったね? アナベラたちが屋敷に入ったあと、父とは会っていないと。僕は、それを聞いて。父はアナベラたちに操られているんじゃないかと、考えていたよ。だから、仕事を終え、この島を出ることになったら、なんとか父に会って。その真相を確かめようと思っていたんだ」
 ぼくだって、なにも考えずにチクチクしていたわけではない。
 でも、すべては、この島を出たあと。どのようにして父に会うか、その方向で考えていたのだ。

 納品が済んだあとも、陛下のそばにいる。そう、できたらいいとは、思っていたが。
 どちらにしろ、ネックレスの件や、店の引継ぎや、シオンの呪いなどで、一度は島から出なければならないだろうな、と考えていて。

 決戦はそのときだと、画策していたのだ。

「でも、それでは遅いみたいだね」
 ぼくが島を出た時点で、陛下の命が脅かされるのなら。
 父に面会して…なんて、まだるっこしいことをやっていられない。
 それを、つい先ほど、自覚したのだ。

「国民を盾に取られている陛下は、動けない。御自分の命を大事にしてほしいと、僕は思うのだが。国民を第一に考える、情に厚い方だから、死を覚悟してしまったのだろうね? そんな陛下を、僕は絶対に助けたいと思う」
 言って、ぼくは。
 シオンとラヴェルに、視線を向けて。断言する。

「バミネから、ネックレスを取り戻す。そして魔力を取り戻せたら、少しは陛下のお力になれるかもしれない。僕の中に、どれだけの魔力があるのか、わからないが。シオンと力を合わせれば、陛下の火炎魔法を消火できるかもしれないだろう? 父上に会っている時間はないから、もう、これに賭けるしかないと思うんだ」

 ふたりとも、諸手を挙げて賛成してくれると思った。
 でも、ふたりとも、渋い顔つきをしている。

「バミネは。陛下が、兄上を殺すのを待っていたと、言っていたではありませんか? バミネには、兄上への明確な殺意がある。あいつが簡単に、ネックレスを返してくれるとは思えません」
 猫のときはギャーギャー言っていたくせに、人間のときのシオンは冷静に、ぼくを言いくるめようとしている。
 むむ、弟のくせに生意気なっ。

「クロウ様が陛下のことを考えて、いろいろ画策してくださるのは、とても嬉しいし。心強いのですが。シオン様の危惧は、私も感じています。陛下を通じて、クロウ様を害するのは失敗しましたが。では、その次バミネは、クロウ様をどうなさるのか…心配です」
 ラヴェルも、眉間にしわを寄せて、難しい顔をする。
 心配性なんだからっ。

「バミネが、僕を殺すメリットは、もうないんじゃないかな? 有名な仕立て屋に依頼しに来たら、たまさか僕で。以前、見知った顔だったから、嫌がらせをしたにすぎない。あいつが自分の手を汚すほどの価値などない」
「バミネは、バジリスク公爵をおさえているが。公爵家の血筋である兄上を、警戒しているのかもしれませんよ? 僕のことは死んだと思っているかもしれませんが…」

 そうか、だったらシオンはノーマークだな? 
 こちらには、二枚のカードがあるということ。これはこちら側の、大きなアドバンテージだ。
 平民に落とした公爵子息のぼくを、やつは警戒しているかもしれないが。シオンに気づいていないなら、やつの隙をつける。
「ならば、シオン。僕がバミネに殺されたら、その公爵家の血筋とやらで、陛下をお救いしなさい」
「兄上っ」
 ぼくがバミネに殺されたら、という点に、シオンは引っかかったようだ。
 ブラコンめ。だが論点は、そこではない。

「シオンが言うように、これは、バジリスク公爵家の沽券こけんに関わる問題だ。僕たちに公爵家の血が流れているのなら、公爵家の祖先が、ずっとお守りしてきた王家を。陛下を、救わなければならない。そして、陛下に御迷惑をかけている、父の分も。僕らは、陛下に忠義を尽くさなくてはならない」

 信念の元に、ぼくは言い切り。さらに告げる。
「もちろん僕も、死ぬ気はないが。万が一、そういう場面が訪れたら。それはバミネの隙をつく、絶好の機会だ。シオンは、バジリスクの名の元に、陛下をお救いしろ。チャンスを逃しては駄目だぞ?」

 兄的、理不尽命令を下したというのに。
 シオンも、なぜかラヴェルも。そっと頭を下げる。…なんで?

「兄上、そこまでお考えとは。いえ、僕が、考え足らずで、申し訳ありません。兄上は、バジリスク公爵家の尊厳を持って、ご自分の命を危険にさらしても、陛下を救おうとなさっているのですね? その尊いお考えに、僕は従います。兄上のそばに置いてもらえる、弟という立場に感謝して。兄上の御命を、必ず守ってみせますっ」

 いや、そんな重い感じで、話したつもりはなかったんだけど。
 父上があまりに不甲斐ないから、ここにいるぼくらで頑張ろう、みたいな?

 つか、兄の理不尽には、もう少しあらがった方が良いぞ、弟よ。
 ま、陛下を救う気になってくれたのは、ありがたいけど。

「クロウ様。陛下へのその熱い忠誠心、大胆で斬新な洞察力、ラヴェルは感服いたしました。やはり、私の主は貴方でございますっ」
 いや、ラヴェルは陛下の執事なのだから。ぼくに頭を下げなくて、いいんですよ?
 さっきは、ちょっと怒っちゃったけど、そもそも、陛下のお言いつけが一番だもんね? ごめんね?

 なんか、ふたりの目がキラキラしていて、逆にオロオロしてしまう。
「と、とりあえず。陛下には、僕たちが公爵家だということを、引き続き黙っていてもらうからね。そこは、よろしくね、ラヴェル?」
「ですが、クロウ様のお考えをつまびらかにして、陛下や騎士たちにも、協力していただいた方が良いのではありませんか? クロウ様の覚悟は、素晴らしいものですが。万が一は、絶対にあってはならないことです」
 ラヴェルは聡明さを感じさせるブラウンの瞳で、ぼくをみつめる。
 心配してくれているのだろうけど。

「駄目だよ。陛下はきっと、僕が危険なことをしようとしたら、止めるでしょう? バミネと対峙することを禁止されたら、陛下をお救いするチャンスが失われる。陛下は僕を、平民だと思っているから。穏便に、バミネからネックレスを取り戻せると思っている。そのままのお心で、いてもらいたいんだ」
 ぼくが元公爵子息で、バミネがぼくを害する理由があると知ったら。陛下は絶対にダメだと言う。
 王命だと言われたら、ぼくは断れないもん。
 王家の王命には、ぼくはなんだか、本能レベルで従いたくなるんだ。弱々です。

「でもさ、手を汚す価値はないと、さっき言ったけど。相手はバミネだから。もちろん警戒マックスでいくつもりだよ? 死んだりしない。絶対に、大丈夫だからな、シオン?」
 心もとなく、ぼくをみつめるシオンの黒髪を、くしゃくしゃ撫でる。
 ぼくを守ると言っても、猫の姿のときはどうにもならないと、シオンは自覚している。
 だからぼくを、危険な目にあわせたくないのだろうけれど。現状ではそうも言っていられないしね。

 だって、ぼくは。陛下をなにがなんでもお助けしたいのだから。

 できればっ。ここは、ゲームの強制力的なものをお願いしたいところです。
 陛下を救ってなんぼのゲームなんでしょっ?
 ぼく、頑張るのでっ。よろしくお願いしまっす。

「だから、ぼくが言いたいのはね。陛下に、余計な心配をかけたくないから、黙っててってこと。それにね、僕の魔力がどれだけあるか、わからないし。ネックレスを取り戻しても、陛下のお力になれなかったら、陛下もがっかり、僕もがっかり、しちゃうでしょう? 陛下のお力になれるようだったら、僕から陛下にお話するから。それまで内緒にしてね、ラヴェル」
「ですが…陛下に隠し事など…」
「死に装束の件、隠していたでしょう? だから、今度は僕の隠し事もちゃんとしてくれるよねぇぇっ? ラヴェルぅ?」
 なかば脅すように、笑顔でラヴェルに迫ると。
 ラヴェルと同じ濃茶の髪色の三角形の耳が、ペションと寝たような、幻影が見えた…ような気がした。
 なんだか、可哀想な気もするが。ま、これでラヴェルの口封じは出来ただろう。

 あとは、気が重いけど、衣装を作り上げ。
 それまでの期日、陛下を全力で癒すことに尽力しよう。

 決戦は、四月一日だ。

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