【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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84 ネーミング、恥ずっ!!

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     ◆ネーミング、恥ずっ!!

 チョンが、一生懸命、ぼくになにかを言っている。
 けれど、耳には届かなかった。
 ちょっと、うとうとしていたかもしれない。
 ヤバいよ。こんな水に浸かった状態で寝たら、手摺りから手が離れたら、マジで、死ぬよっ?
 命の危機をすぐそばに感じ、ゾワリとしたから。思い切って目を開いた。

 そうしたら。今まで、ぼく、クロウの人生の中で、一度も出てきたことのなかったウィンドが、現れたのだ。

 嘘でしょぉ? なにこれ?
 つか、今?

 ぼくは、驚きに目をしばたたかせる。
 全体が、ちょっと琥珀色がかっていて。金の唐草模様にふちどられた、ウィンドが、確かにあるよ? 
 宮廷を想像させる、豪華仕様で。
 カーソルが、可愛い剣の形になっているやつ。

 これって、アイキンのウィンドのデザインだ。

 ウィンドには、選択肢が出ている。どちらを選びますか?
 ハッピーエンドかバッドエンド。
 そんなの、もちろんハッピーエンドに決まってる。
 ぼくは迷いなく、ハッピーエンドにカーソルを動かす。
 指で触れれば反応して、無事ハッピーエンドが選ばれた。良かった。

 次は、愛を知りましたか? イエスかノー。
 愛ってなにかって、ずっと思ってきたけど。今ならわかる。
 死ぬ前に、もう一度。陛下とお会いしたいと思った。
 最後に、一目だけでも。
 この気持ちは、絶対に愛だと思うのだ。
 死にそうにならなきゃわからないとか、にぶいにもほどがあると。自分でも思うけどな。
 だから、ぼくは。自信を持って、イエスを選ぶことができた。

 そうしたら、次に。王を愛していますか? という質問が出た。
 もちろん、愛している。ぼくが愛しているのは、陛下だ。
 そう思って、カーソルを動かそうとする。

 なのに。剣の形の矢印に指で触れても、動かなくなってしまった。
 なんで? さっきまで、動いていたのに。

「イエス、だよ。イエス。愛してるっ、もう、なんで、動かないんだよぉ?」
 空中で、指をちょこちょこ動かしているぼくを、チョンがいぶかしげな感じで見ている。
 きっと、兄上がおかしくなったぁ、とか思っているんだろうけど。
 今は、構っていられないよ?

 だって、これが動かなかったら。ぼくは、もう、陛下に会えないような気がする。
 もうっ! 指で強く叩いても、反応しないんですけどぉ?

 黄金の髪を揺らし、威厳高く王として立つ。その熱く、一途な、心根を。
「愛してる」

 いつも、控えめに口角を上げて笑う顔を。
「愛してるっ」

 たまにぼくをからかって子供っぽく破顔する、少年の爽やかさも。
「愛してる、愛してる」

 への字口で睨み下ろす、ちょっと怖い陛下も。
 寝台での色っぽい陛下も。全部、全部。

 陛下の全部を愛してる。

「愛してるっ、愛してるってばぁ」
 泣きそうになりながら、カーソルを連打して。
 波しぶきがかかって、溺れそうになりながら。
 ぼくは、愛していると叫び続ける。
 それでも、カーソルは全然動かなくてっ。
 焦りと、怒りと、悲しみと、混乱で、頭がぐちゃぐちゃだけどっ。とにかくっ。

「愛してるっ。ぼくは、陛下を…イアン様を、あいしてるーーっっ!!」

 思いっきり叫んだ。喉から血が出るくらい、なにも構わず叫びあげたっ。
 すると、ぼくとチョンの間に落ちていた、ペンダントトップが。キラーンと光った。
 あの、海に落ちていくときに、光っていた。あのときと、同じ輝きだ。

 さっきから驚きすぎて、ずっと目が丸くなっているけど。
 それが宙に浮き上がったから…。
 う、浮いたーっ?

『アイテム、オープン・ラブ・パワーを手に入れました』

 機械のナレーション音が、頭の中に響く。
 つか、ラブパワーって、恥ずっ。ネーミング、恥ずっ!!

 すると、ぼくの首にかかっていた、シロツメ草の指輪が入った巾着も浮いて。
 そこから、なんか透明なものに覆われた、シロツメ草の指輪と。
 ペンダントトップから離れた、バジリスクの指輪が。

 勝手に、ぼくの指に装着された。

 右手は手摺りを掴んでいるんだけど。どういう原理ですか? それはさておき。
 左の薬指に、シロツメ草の指輪が。
 右の薬指に、バジリスクの指輪が。
 左の小指には、王家の紋章入りの指輪がはまっていたのだが。その、三個の指輪から、ピンク色の光の柱が立って、それが空で、絡まり、渦巻いて。一気にドーンと、ぼくの体に落ちてきた。

 ひえぇぇっ、雷なら死んでるよ、ぼくぅ。

 でも、それは、雷ではなくて。
 ピンクの光に包まれたあと、ブワッと、なんだか温かい力が流れ込んできて。
 それが、体の中心からも湧き上がってくるようで。

 つまり死んでいない。むしろ、気持ちが良い心地だ。
「兄上っ、体がっ」
 チョンの、というか。低くて甘く響く、人型のシオンの声を聞いて。ぼくが目を向けると。
 シオンにも、ピンクの光が降り注いでいる。

 桃色に発光する裸のシオンが、踊り場で、驚きに目を見開いていた。

「どうなっているのですか? 兄上、今、なにが起きているのですか?」
「わからない。わからないけど…」
 まだ、日は高いのに。
 チョンが、シオンが、猫の姿じゃないっ?

 呪いが、解けたんじゃね?

「シオンの呪いが、解けたんだっ? マジかっ? ややや、やったーっ」
 ぼくの、大事な、大事な、弟が。元に戻った。
 愛する、弟。…ま、猫のときも可愛かったけど。

 嬉しくて。最高に、ホッとして。ゆるりと笑う。
 そうしたら、手も緩んで。手摺りから手を離してしまった。

 わわっ、またもや生命のピーンチっ。て、思ったけど。
 慌てて降りてきたシオンがぼくの手を握ってくれて。海にのまれずに済んだ。セーフ。

 そして、その瞬間。ぼくを中心に、海が渦を巻いて。潮がサッと引いた。
 いきなり周りから水がなくなったもんだから、ぼくはストンと階段の上にへたり込む。
 海水の下にあった階段も、露出したのだ。
「兄上、今のうちに…」
 シオンが手を引いてくれて、ぼくはよくわからないままに、それに掴まる。
 重い体をやっとこ動かして、シオンもいっぱい引っ張ってくれて。
 ようやく、階段の踊り場に上がることができた。

 はあぁぁぁ、ヤバかった。今回ばかりは、マジで、死ぬかと思った。

 ぼくは、細くて震えた息をはいた。ひえぇぇぇぇ…。
 そうしたら、シオンが。裸のままぼくをギュッと抱き締めて。肩を震わせていた。

「馬鹿ッ。兄上の、バカっ。兄上ぇ、死んだら、おしまいでしょう? 兄上が死んだら。ぼくも陛下も、おしまいなんだ。兄上が死んで、ぼくらが、生きていける、わけないでしょっ? もう、自分の命と引き換えに、ぼくを助けようなんてしないでくださいよっ。マジ、殺すから」
 えぇ? 救おうとしたら殺されるの? 理不尽な。

 でも、シオンは顔を上げないが。震える声や体で、マジ泣きなのは、わかっている。
 心配かけて、ごめん。弟よ。
「わかった。もう、しない…」

 ぼくの言葉を聞いて、顔を上げたシオンは。感極まっているのか、涙目のままで、ぼくの顔中にキスしてきた。
 もう、猫じゃないんだから。中学生年齢とは思えない、エロ格好いい顔つきで、兄貴にチュッチュするのは、やめなさい。恥ずかしいですよっ。

 とはいえ。たしなめる気力はなかった。
「シオンさんや。ぼくは、今、結構ギリギリなので。その辺で…」
 魔力が戻って、一瞬、力を取り戻したような気もしたけど。
 やっぱ、体力が相当削られているみたいだ。ぐったりで、自力で立ち上がれない。
「あぁ、兄上。すみません。急がなければなりませんね」

 疲労困憊のぼくを、シオンが手助けしてくれて、やっと踊り場で立ち上がる。足がヘロヘロだよ。
 ぼくは、まず。マントを脱いで、一生懸命絞ると、それをシオンに着せた。
 裸で島を歩かせたら、騎士様に成敗されてしまうからな?

 ぼくが階段を上がるときに、引いた潮は。
 もう戻っていて。
 雨と風も強くなって。海が荒れ始めている。
 長くここにいたら、また海に落ちちゃうかもしれない、と思うと。血の気が引いた。
 早く中へ入ろう。

 大事な指輪は、ぼくの指にはまっているけど。階段の途中に落ちていたペンダントを拾って、首にかけ。
 シオンと一緒に、扉の穴を探して。そこを押すと。ロックが外れる。
 ぼくたちは重い扉を押し開けて、ようやく島に上がることができたのだ。ホッ。

 あぁ、陛下。
 マジで、ぼくに、この場所を教えておいてくれて、ありがとうございます。
 兄弟で、命を救われました。感謝感謝ですぅ。

 あのウィンドは、いつの間にか消えていた。

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