【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブの弟、シオン・エイデンの悩み ⑤

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     ◆モブの弟、シオン・エイデンの悩み ⑤

 バミネに、船から突き落とされて。どのくらいの時間が経っただろう。
 水が嫌いな猫である、ぼくを気遣いながら。兄上は、もう長いこと、海を泳いでいた。
 たまには、元気だというアピールなのか。歌を歌ったりして。ぼくを励ましてくれる。
 チョンは~どうしてぇ~か~わいいのぉ~、なんて、創作の、変な歌だけど。

 でも、そろそろ限界なんじゃないか、というときに。砂洲に上がれたことは。本当に幸運だった。
 きっと、兄上の日頃の行いが良いから、神が味方をしてくださったに違いない。

 ぼくは兄上に、本土へ行こうと提案した。
 本土の方が近いように見えたし、一刻も早く兄上を休ませたかったのだ。

 でも、兄上は。島へ行きたいと言って。ひと粒涙を落とした。

 あああぁぁぁ、兄上ぇ、泣かないでくださいっ。島でいいです。兄上が行きたいのなら、そうしましょう。

 兄上は、そんなにも。陛下のことを想っているのだな。
 こんなに、真摯に、一途に、陛下を救うことだけを考えている、兄上の想いが。
 強くて、熱い、想いが。
 少しでもクソ陛下に伝わっていれば良い。

 だけどさぁ。あいつは。クソ陛下は。重い腰を上げず。自分が死ねば、なにもかも穏便に済むと思っているみたいじゃん?
 それでは、駄目なのだ。
 バミネが政権を握ったら。この国は、終わりだろう?
 そんなの、学のないぼくにもわかることだ。

 国は、洪水を免れるかもしれなくても。
 いずれ滅ぶことに変わりはない。

 兄上は。陛下のことをお好きなのかもしれないが。
 たぶん、カザレニアの将来のことも考えている。
 国の頂点に、バミネではなく、クソ陛下に立ってもらいたいのだ。
 そうでなければ、国が滅ぶから。
 だから、こうして頑張っているのだ。
 それを…クソ陛下は。わかっているのかなぁ? ムカッ。

 砂洲のおかげで、島に取り付けるくらいのところまでやってきたが。兄上はもう限界だった。
 溺れる者は、わらをも掴む、感じで。島に上がれる、階段の手摺りを掴んだっ。
 と、いうのに。
 兄上は、すでに体力を消耗していて。階段を登ることができなくなっていた。
 海から頭を出す状態で、ただ、手摺りを握っているだけ。

 兄上は、ぼくに先に上がれと言う。
 ぼくは、兄上を海の中へ置き去りにするのは気が引けたが。ぼくひとりの重みがないだけでも、兄上の負担は減るだろうと思って。言うとおり、階段の踊り場に上がった。
 そのとき、兄上は。それで、ホッとしたみたいな顔をした。

 ダメですっ。まだ、気を抜かないでください。

 だけど、兄上はぼくに。人型に戻ったら、王城へ行けなんて言うんだ。
 そして、魔力解放のキーとなる大事なネックレスを首から外して、ぼくの方に投げる。
 ネックレスは、階段の途中に落ちた、けど。

「ペンダントを、拾って…」
 兄上が、か細い声で、言うけど。
 嫌です。
 ぼく、ひとりでなんて。兄上が、一緒でなければっ。

 そのうち、雨が降ってきて。荒れる波に揉まれて。兄上は、顔にかかる海水に、アップアップしながら。
 愛してると、何度も口にしていた。

 右手で手摺りを掴んで、左手は、なにかにすがるように。空をかいて。
 ぼくの目には、兄上がもがいているようにしか、見えなかったのだ。

 子猫である、ぼくが兄上を助けに行っても。波にさらわれるのがオチで。
 そうしたら、兄上はきっとぼくを助けようとして、手摺りから手を離すだろう?
 それがわかっているから、助けに行けない。

 あぁ、このときほど。猫である小さな体を、忌まわしいと感じたことはない。

 兄上の助けになるような、情報を入手してくることができた、この体には。どちらかというとメリットを感じていたが。いざというときに、兄上を助けられないのであれば。

 そんなもの、いらないっ。

 今、兄上を助けたいのだっ。そう思って。イライラと、踊り場の上を歩き回った。
 そうしたら、いきなり。ピンク色の雷が、ドーンと兄上の上に落ちてきたのだ。

 ぎゃあーーっ、兄上ぇぇぇっ!

 兄上が、死んじゃったぁ。と、一瞬思い。
 尻尾がビビビッとなって、背中の毛も逆立って、顎が外れそうなほどに驚愕したが。

 それは、雷ではなくて。
 兄上が解放した、膨大な魔力だったのだ。
 その力が。ピンク色の温かい光が、ぼくにも降り注ぐ。

 なんて、愛に満ちた、心地よい魔力だろう。
 そして、優しい、ふんわりとした光をまとう兄上の、なんて神々しい美しさか。

 ぼくは、ぼくだけが見られたその光景を、目に焼き付け。この場にいられたことを、神に感謝した。
 そうしたら、いつの間にかぼくは。

 人の姿に、戻っていたのだ。

 まだ、昼間であるのに。小さな丸い手が。人の、大きな手に変わっている。
「どうなっているのですか? 兄上、今、なにが起きているのですか?」
「わからない、わからない、けど…シオンの呪いが解けたんだーっ、マジかっ? ややや、やったーっ」
 ぼくが人型に戻ったことを、呪いが解けたと言って、喜び。勢いで手摺りから手を離してしまった兄上を、ぼくはとっさに捕まえる。
 そうだ、もう、兄上を助けられる。そういう体になっている。
 兄上を掴むこの手を、絶対に離さない。

 でも、兄上をさらおうとする海までも、引いていき。
 兄上の周りには、なにもなくなった。

 ぼくは、奇跡に感動する間もなく。今のうちにと思って。兄上を踊り場に引き上げたのだった。
 つか、喜んで、命綱を離すなんて、駄目でしょう? 兄上っ。
 それに、ぼくを守るために、自分を犠牲にするなんて駄目でしょう? 兄上っ。

 ぼくは大事で、大切な、宝物である、兄上の小さな体を抱き締めて。切々と訴えた。
 ムカつくが、陛下の名を出せば、兄上は反省してくれるので。嫌々ながら、口にする。

「兄上ぇ、死んだらおしまいでしょ? 兄上が死んだら、ぼくも陛下も、おしまいなんだ。兄上が死んで、ぼくらが、生きていけるわけ、ないでょ?」
「わかった、もう、しない」
 兄上は、約束を違えないので。そう言ったら、そうなのだろう。
 ホッとして、ぼくは兄上の顔にいっぱいキスした。

 好き好き、兄上。どうか、もう二度と、ぼくから離れていかないでっ。

 そんな気持ちを込めていたが。
 兄上から漏れ出て、ぼくを包む魔力は、とても暖かいのに。
 兄上の体が、凍るように冷たいことに、このとき気づいた。

 海の中に長時間いたことで、体が冷えてしまったのだろう。
 兄上はぼくの腕の中でぐったりしている。
 早く体を温めないと、兄上が本当に死んでしまう。

 ぼくは、兄上の指示通り、扉のロックを外して島の中へ入り。兄上とともに王城を目指したのだ。

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