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95 愛の力で王を救えっ! ⑥
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公爵家の馬車を借りて、ぼくたち、陛下と騎士様とアイリスは。王都の中心にある王宮へ向かった。
王都は、ど真ん中に王宮があり。その周りを、貴族の邸宅が囲み。さらにその周りを、国民が住まう家並みや、店などが囲っている。
おおよそ、店などは、海岸にほど近い南側にあり。北側に、閑静な住宅地があるという感じ。
王宮と王城の違いは。前世的に言うと。王城はシンデレラ城みたいに、塔が建つ、上にとがったイメージで。王宮はベルサイユ宮殿みたいな、大きな敷地に横広に、豪華絢爛に建っているイメージである。
王城は、国王が家族と住まう、いわゆる国王の生活スペース的役割と。外敵を排除する、防波堤的役割があり。
王宮は、主に政治を司る機関で、官吏や騎士団、国政を担う貴族など、多くの出入りがある。
それで、以前は。イアン様が国王になる、以前は。
国王は普段、王宮で政務をし。余暇があれば、島にある王城に戻って、家族団らんする。という。
ある意味、プライベートと仕事をしっかり切り離した生活をしていたわけだ。
その仕組みを、バミネに悪用されてしまったわけだが。
まぁ、確かに。いちいち島に渡って家に帰るというのは、いささか効率が悪いようにも思える。
時間の使い方が、優雅とか。洗練とか。そんな気もしなくはないが。
ぼくなんかは、移動中もチクチクしたい派なので。
いわゆる貧乏性である。
その時間、チクチクしていたら、お金になるのに、的な?
まぁ、それはともかく。
王宮近くまで来ると、やはり。陛下の演説を放送で聞いた国民の皆さんが、気になって仕方がないのか、王宮の門前に集まってしまっていた。
ぼくらは、王宮の少し手前で馬車を降りる。
陛下のお姿を目にし、民は、道を譲って左右に分かれるが。
もしも兵士が、陛下になにかしたら。ただではおかない、というような殺気にも満ちていた。
お、落ち着いてください。陛下には魔法があるので、大丈夫ですよ。
王宮は、高い塀で囲まれていて。その敷地は、王都の四分の一を占める大きなものだ。
小高い丘の上に建っているので、敷地の外から、王宮の姿は見えるものの。そこへたどり着くには、馬車にしばらく乗らないとならない、くらいの距離感だ。
そして、陛下が王宮の門の前に立つと。
陛下が声を上げるまでもなく、門が開いた。
重厚な鉄扉は、王城の、あのデカい音の鳴る防御門を思い出させた。
でも、防御門は開閉扉だったが。ゴゴゴゴッと音をさせて、開いた、王宮の門は引き戸タイプだ。
ゆっくり開かれた、その先には。王宮に従事している者なのか、大勢の人々が、平伏した状態で、陛下をお迎えした。
その、一番前にいた、初老の男性が。陛下に自己紹介する。
「陛下。私は宰相を務めております、オズワルド・ウィレムと申します。陛下より先に口を開きましたご無礼を、どうかお許しください」
陛下は、オズワルドを睥睨し。
ぼくには、優しい目を向けて『この模様を、先ほどのように皆に伝えられるか?』とたずねた。
ぼくは放送を開始すると、陛下にうなずく。
「構わぬ。続けろ、宰相ウィレム」
オズワルドに先をうながす声が、辺りに響いたので。彼は驚くが。声を震わせ、話を続けた。
「て、天から鳴り響く陛下のお声は、我ら、王宮にて働く者、すべての耳に届きました。バミネ様…いえ、逆賊バミネによって、陛下が島に閉じ込められていたことを、我らは初めて知ったのです。演説では、復権を、ということでしたが。カザレニア国は元より、陛下が統治する国。陛下が国政に関わることを阻止するような愚か者は、ここにはおりませぬ」
「十年も、我や王妃が姿を現さぬことを、疑問にも思わず、調べようとも思わなかったというのに、か?」
宰相の言に、陛下は眉を吊り上げ、怒りを示すが。
「バミネもアナベラも、王族の方ゆえ。彼らに。陛下は先代の死に心を痛めておられる。渡航は認められぬ。と言われてしまえば。我ら、一貴族の者は、逆らえません」
その宰相の言葉には、一理あった。
カザレニアは、王家第一主義であるから。
つまりバミネは、そういう体質をも利用して、おさえるべきところ、いわゆるバジリスク公爵家や騎士団、渡航権限など、を手中に入れることで。狡猾に、陛下を陥れたのだということだ。悪賢いっ。
「しかしながら、こうして、陛下を王宮へ迎えることができたからには、これ以上バミネやアナベラの、良いようにはさせません。バミネは現在、騎士団を引き連れ、王城へ船を出しております。帰ってきたら、すぐにも捕縛いたしましょう」
「…我と、我が伴侶クロウ。前王妃に王妹のシャーロット。我を支えた同胞を。中央に据えることに、異論はないのだな?」
「もちろんでございます。我が国は、陛下あってのカザレニアにございます」
そう言って、門前に並ぶ王宮の官吏や騎士たちは、深々と陛下に頭を下げたのだった。
およそ五百人ほどの大人が、一斉に頭を下げる図は、壮観、というか。おののいてしまうほどに、圧倒されるものだった。
「この話は、カザレニアの民が聞いている。カザレニアの多くの民が、王宮の動向を、国政の在り方を、王家への振る舞いを、監視しているのだと肝に銘じて。カザレニアのために、これから一層、清く正しく、仕事に励むよう望む」
陛下のその言葉のあとに、セドリックが勝鬨の声を上げた。
「イアン・カザレニア二十四世陛下が、国政に返り咲いた。カザレニア国に、勇猛果敢なる王家一族が、戻ってきたぞっ!」
すると、陛下の行く末を見守っていた国民の皆様が、わぁっと、歓声を上げたのだ。
みんなの喜びの声も、放送を通じて遠くまで伝播していき。どこからか、紙吹雪も飛んできて、お祭り騒ぎのような様相になった。
陛下は…自分が帰還したことを、体全体で喜びを表す民たちを見て。感動に打ち震えていた。
そして、ぼくの肩を抱いて。耳にそっと囁いたのだ。
「ありがとう、クロウ。みんな、おまえのおかげだ」
いいえ、陛下。十年も苦難を耐え忍んだ、貴方の勝利なのです。
だけど。ぼくも嬉しいから。
ちょっと、泣いちゃった。
いえいえ、まだ、終わっていないのです。
ラスボスのバミネが残っているでしょう?
ぼくたちは、王宮に入る前に、港に行き。バミネの帰りを待った。
その間、セドリックとシヴァーディは、本土に残っている騎士団を完全に掌握し。万全の体制を整えた。
ここ十年で、バミネによって腑抜けと化していた騎士団だが。
バミネに虐げられながらも、昔ながらの騎士道精神を貫く、気骨のある騎士も残っていて。
バミネ失脚が明らかとなった今、腑抜けた者たちも、手のひらを返して、セドリックたちに従った。
それに関しては、セドリックも、思うところがあるようだが。
騎士団を根幹から立て直すには、それなりの時間と労力がかかるものである。
でも、とりあえず。セドリックたちは。騎士団をまとめて、陛下をお守りする一団を作り上げたのだった。
そうして。バミネが戻ってきたら、船を何隻か、陛下の火炎魔法によって、沈めなければならないかもしれない…。と危惧していた、ぼくたちだったが。
王城のある島から、戻ってきた三艘の帆船は。静かぁに、港に着艦したのだった。
まるで幽霊船のような、その様子に。ぼくと陛下は息をのむ。
救護要員のアイリスも、アイキンのシナリオとは違う雰囲気に、首を傾げていた。
アイキン的には、ラスボスのバミネを、ぼくと陛下とアイリスの、水、火、光の魔法三連弾で撃ち滅ぼす的な? そんな展開になるはずだったのですが?
やがて、船から降りてきたのは。
騎士服の前面を血で真っ赤に濡らした、ひとりの騎士だった。
「ナイジェル…」
シヴァーディが、彼を見て、つぶやいた。
ん? どこかで聞いたことが…あぁ、シヴァーディがしてくれた、過去の話だ。
孤島に、ぼこぼこ状態で捨てられたとき。その状況になるきっかけになった、裏切り者の名前が。確かナイジェルくん? だったような?
ナイジェルは、シヴァーディの前に立つと。自分がバミネを殺した、と告白した。
げっそりと頬がこけた、青い顔つきの彼の自供に。みんな、言葉を失う。
平民であるナイジェルには、溺愛していた妹がいた。バミネは彼女に、貴族との縁談を持ってきたのだ。
兄のナイジェルは、そんな理由で、親友のシヴァーディを裏切ったのだと、以前聞いていた。
それ以来、彼はバミネの忠実なるしもべになった、はずだが?
しかし、語られた話によると。
「妹は、確かに貴族と結婚した。高額な、綺麗なドレスや宝石で身を飾る、美しい妹を見て。俺は間違っていなかったと、そのときは思った。しかし、妹の旦那は、貴族との縁をつなぐために、他人に妹を抱かせたんだ。貴族の妻とは名ばかりの、娼婦扱いだよ。妹は心を病んで、自殺した。俺が妹の結婚相手を締め上げたら、バミネにそうしろと言われたと。妹の身を売った金を、バミネにも流していたと、証言して。俺は…自分の愚かさを呪った。親友を裏切った、その代償が、これだなんて…」
ナイジェルは、ずっと、淡々と話していた。
もう、涙など、とっくに枯れ果てたという様子だった。
なんとも、後味の悪い話だ。
アイリスのことも、バミネは貴族のジジイに売ろうとしていた。
アイリスも、彼の妹のような目にあっていたかもしれないと思うと。本当に、胸糞が悪いな。
「セドリック様が目をかけていた子も、亡くなったんだ。騎士団に入るのが条件で、セドリック様を裏切ったようだが。騎士団とは名ばかりで、微々たる金で、バミネの使いっ走りにされて。最終的には剣闘士大会でバミネになぶり殺しにされた」
「むごいな…剣闘士大会で、死人を出すなんて」
セドリックが、驚きの声を上げる。
剣闘士大会は、騎士の力試しの場であり。真剣勝負ではありながら、殺傷はNGなのだ。
しかしながら、騎士はそれなりに剣術の腕を持っているので、加減ができ。セドリックが知る限りでは、死人など出したことはなかったらしい。
「セドリック様が団長を退いたあとは、なんでもありの、血みどろの大会と成り果てた。女子供も楽しめた大会であったのに、今は集客数もごくわずか。バミネがトップになって、なにもかもが悪い方に転がっていく。町の治安も悪くなり、騎士団は働かなくなり、金がすべてになり、賭博や恫喝は当たり前で。ガラの悪い騎士を、平民は遠巻きに見る有様。騎士団は地に落ちた」
まぁ、確かにそんな感じでしたねぇ。
それでも、島に閉じ込められていた陛下やセドリックたちは、騎士団の横暴な振る舞いは初耳らしく。
王家に礼節を、女子供に優しく、名誉、勇気、気品を持て…というのが騎士の誇りであるのに。あまりにひどい転落ぶりに、閉口するしかなかった。
「バミネは、陛下が乱心したと言い、騎士団を率いて船を出したが。王城はもぬけの殻。そのうち、陛下の演説が、島にも届いた。俺は。あぁ、もう良いんだなと思って。シヴァーディも、島から出られたのだなと思い。それで、帰りの船の中で、バミネを剣で刺した。陛下が脱出されたので。バミネに追従する者はなく。俺の暴挙に、誰も手を出さなかった」
つまり、バミネは誰にも助けてもらえず、命を落としたということか。
ぼくたちが、魔法でバミネをやっつける。という展開ではなかったが。
ラスボスのバミネは、自分の行いのツケを払う形で、制裁を受けたのだった。
バミネをやっつけたナイジェルは、英雄になるのか。私怨による、殺人になるのか。わからなかったため。
とりあえず、シヴァーディによって捕縛され。その流れで、バミネの死も確認された。
それで、みんなは再び、王宮へ戻る馬車に乗り込んだ…のだけど。
なんだか、モヤッとはするな。
だって、前世で読んだ異世界小説みたいに、悪役を断罪する場面はなかったし?
アイキン的に、魔法でやっつけることもなかったし?
ざまぁ展開もなかったから。
でも、バミネはナイジェルに、ある意味『ざまぁ』されたようなものかもしれない。ぼくの見ていないところで『ざまぁ』はなされていた、みたいな?
だけどナイジェルは。復讐を遂げたところで、癒されることはないのだろうな。妹さんが生き返るわけではないのだから。悲しいね。
しかしながら、ぼくには、殺すとか血みどろとか、出来なかったから。ナイジェルが敵を討ってくれて、ありがたかったかな?
ぼくは捕縛するのに、力を貸すので、精いっぱいだったと思うから。たぶん。
陛下や騎士様は、自分の手で遺恨を晴らしたかったという気持ちがあったかもしれないけど…。
ま、終わってしまったものは仕方がないよな? うん。
「主人公的に、あまりお役に立てませんで…」
と、アイリスが、ぼくの隣の席でつぶやいていたけど。
ううん? アイリスはぼくの父を助けてくれたし、アナベラの魔法から、ぼくらを守ってもくれたのだから。立派な主人公でしたよ?
ぼくもいっぱい、助けてもらったし。ありがとうね、アイリス。
それにさ。幽閉された陛下が島から脱出し、王宮に戻り、国政に関わる地位に返り咲ける、それが陛下のハッピーエンドじゃん?
それを成し遂げることはできたのだから、これで良かったのだ。
つまり、大団円ってやつ、だよね?
王都は、ど真ん中に王宮があり。その周りを、貴族の邸宅が囲み。さらにその周りを、国民が住まう家並みや、店などが囲っている。
おおよそ、店などは、海岸にほど近い南側にあり。北側に、閑静な住宅地があるという感じ。
王宮と王城の違いは。前世的に言うと。王城はシンデレラ城みたいに、塔が建つ、上にとがったイメージで。王宮はベルサイユ宮殿みたいな、大きな敷地に横広に、豪華絢爛に建っているイメージである。
王城は、国王が家族と住まう、いわゆる国王の生活スペース的役割と。外敵を排除する、防波堤的役割があり。
王宮は、主に政治を司る機関で、官吏や騎士団、国政を担う貴族など、多くの出入りがある。
それで、以前は。イアン様が国王になる、以前は。
国王は普段、王宮で政務をし。余暇があれば、島にある王城に戻って、家族団らんする。という。
ある意味、プライベートと仕事をしっかり切り離した生活をしていたわけだ。
その仕組みを、バミネに悪用されてしまったわけだが。
まぁ、確かに。いちいち島に渡って家に帰るというのは、いささか効率が悪いようにも思える。
時間の使い方が、優雅とか。洗練とか。そんな気もしなくはないが。
ぼくなんかは、移動中もチクチクしたい派なので。
いわゆる貧乏性である。
その時間、チクチクしていたら、お金になるのに、的な?
まぁ、それはともかく。
王宮近くまで来ると、やはり。陛下の演説を放送で聞いた国民の皆さんが、気になって仕方がないのか、王宮の門前に集まってしまっていた。
ぼくらは、王宮の少し手前で馬車を降りる。
陛下のお姿を目にし、民は、道を譲って左右に分かれるが。
もしも兵士が、陛下になにかしたら。ただではおかない、というような殺気にも満ちていた。
お、落ち着いてください。陛下には魔法があるので、大丈夫ですよ。
王宮は、高い塀で囲まれていて。その敷地は、王都の四分の一を占める大きなものだ。
小高い丘の上に建っているので、敷地の外から、王宮の姿は見えるものの。そこへたどり着くには、馬車にしばらく乗らないとならない、くらいの距離感だ。
そして、陛下が王宮の門の前に立つと。
陛下が声を上げるまでもなく、門が開いた。
重厚な鉄扉は、王城の、あのデカい音の鳴る防御門を思い出させた。
でも、防御門は開閉扉だったが。ゴゴゴゴッと音をさせて、開いた、王宮の門は引き戸タイプだ。
ゆっくり開かれた、その先には。王宮に従事している者なのか、大勢の人々が、平伏した状態で、陛下をお迎えした。
その、一番前にいた、初老の男性が。陛下に自己紹介する。
「陛下。私は宰相を務めております、オズワルド・ウィレムと申します。陛下より先に口を開きましたご無礼を、どうかお許しください」
陛下は、オズワルドを睥睨し。
ぼくには、優しい目を向けて『この模様を、先ほどのように皆に伝えられるか?』とたずねた。
ぼくは放送を開始すると、陛下にうなずく。
「構わぬ。続けろ、宰相ウィレム」
オズワルドに先をうながす声が、辺りに響いたので。彼は驚くが。声を震わせ、話を続けた。
「て、天から鳴り響く陛下のお声は、我ら、王宮にて働く者、すべての耳に届きました。バミネ様…いえ、逆賊バミネによって、陛下が島に閉じ込められていたことを、我らは初めて知ったのです。演説では、復権を、ということでしたが。カザレニア国は元より、陛下が統治する国。陛下が国政に関わることを阻止するような愚か者は、ここにはおりませぬ」
「十年も、我や王妃が姿を現さぬことを、疑問にも思わず、調べようとも思わなかったというのに、か?」
宰相の言に、陛下は眉を吊り上げ、怒りを示すが。
「バミネもアナベラも、王族の方ゆえ。彼らに。陛下は先代の死に心を痛めておられる。渡航は認められぬ。と言われてしまえば。我ら、一貴族の者は、逆らえません」
その宰相の言葉には、一理あった。
カザレニアは、王家第一主義であるから。
つまりバミネは、そういう体質をも利用して、おさえるべきところ、いわゆるバジリスク公爵家や騎士団、渡航権限など、を手中に入れることで。狡猾に、陛下を陥れたのだということだ。悪賢いっ。
「しかしながら、こうして、陛下を王宮へ迎えることができたからには、これ以上バミネやアナベラの、良いようにはさせません。バミネは現在、騎士団を引き連れ、王城へ船を出しております。帰ってきたら、すぐにも捕縛いたしましょう」
「…我と、我が伴侶クロウ。前王妃に王妹のシャーロット。我を支えた同胞を。中央に据えることに、異論はないのだな?」
「もちろんでございます。我が国は、陛下あってのカザレニアにございます」
そう言って、門前に並ぶ王宮の官吏や騎士たちは、深々と陛下に頭を下げたのだった。
およそ五百人ほどの大人が、一斉に頭を下げる図は、壮観、というか。おののいてしまうほどに、圧倒されるものだった。
「この話は、カザレニアの民が聞いている。カザレニアの多くの民が、王宮の動向を、国政の在り方を、王家への振る舞いを、監視しているのだと肝に銘じて。カザレニアのために、これから一層、清く正しく、仕事に励むよう望む」
陛下のその言葉のあとに、セドリックが勝鬨の声を上げた。
「イアン・カザレニア二十四世陛下が、国政に返り咲いた。カザレニア国に、勇猛果敢なる王家一族が、戻ってきたぞっ!」
すると、陛下の行く末を見守っていた国民の皆様が、わぁっと、歓声を上げたのだ。
みんなの喜びの声も、放送を通じて遠くまで伝播していき。どこからか、紙吹雪も飛んできて、お祭り騒ぎのような様相になった。
陛下は…自分が帰還したことを、体全体で喜びを表す民たちを見て。感動に打ち震えていた。
そして、ぼくの肩を抱いて。耳にそっと囁いたのだ。
「ありがとう、クロウ。みんな、おまえのおかげだ」
いいえ、陛下。十年も苦難を耐え忍んだ、貴方の勝利なのです。
だけど。ぼくも嬉しいから。
ちょっと、泣いちゃった。
いえいえ、まだ、終わっていないのです。
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ぼくたちは、王宮に入る前に、港に行き。バミネの帰りを待った。
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ここ十年で、バミネによって腑抜けと化していた騎士団だが。
バミネに虐げられながらも、昔ながらの騎士道精神を貫く、気骨のある騎士も残っていて。
バミネ失脚が明らかとなった今、腑抜けた者たちも、手のひらを返して、セドリックたちに従った。
それに関しては、セドリックも、思うところがあるようだが。
騎士団を根幹から立て直すには、それなりの時間と労力がかかるものである。
でも、とりあえず。セドリックたちは。騎士団をまとめて、陛下をお守りする一団を作り上げたのだった。
そうして。バミネが戻ってきたら、船を何隻か、陛下の火炎魔法によって、沈めなければならないかもしれない…。と危惧していた、ぼくたちだったが。
王城のある島から、戻ってきた三艘の帆船は。静かぁに、港に着艦したのだった。
まるで幽霊船のような、その様子に。ぼくと陛下は息をのむ。
救護要員のアイリスも、アイキンのシナリオとは違う雰囲気に、首を傾げていた。
アイキン的には、ラスボスのバミネを、ぼくと陛下とアイリスの、水、火、光の魔法三連弾で撃ち滅ぼす的な? そんな展開になるはずだったのですが?
やがて、船から降りてきたのは。
騎士服の前面を血で真っ赤に濡らした、ひとりの騎士だった。
「ナイジェル…」
シヴァーディが、彼を見て、つぶやいた。
ん? どこかで聞いたことが…あぁ、シヴァーディがしてくれた、過去の話だ。
孤島に、ぼこぼこ状態で捨てられたとき。その状況になるきっかけになった、裏切り者の名前が。確かナイジェルくん? だったような?
ナイジェルは、シヴァーディの前に立つと。自分がバミネを殺した、と告白した。
げっそりと頬がこけた、青い顔つきの彼の自供に。みんな、言葉を失う。
平民であるナイジェルには、溺愛していた妹がいた。バミネは彼女に、貴族との縁談を持ってきたのだ。
兄のナイジェルは、そんな理由で、親友のシヴァーディを裏切ったのだと、以前聞いていた。
それ以来、彼はバミネの忠実なるしもべになった、はずだが?
しかし、語られた話によると。
「妹は、確かに貴族と結婚した。高額な、綺麗なドレスや宝石で身を飾る、美しい妹を見て。俺は間違っていなかったと、そのときは思った。しかし、妹の旦那は、貴族との縁をつなぐために、他人に妹を抱かせたんだ。貴族の妻とは名ばかりの、娼婦扱いだよ。妹は心を病んで、自殺した。俺が妹の結婚相手を締め上げたら、バミネにそうしろと言われたと。妹の身を売った金を、バミネにも流していたと、証言して。俺は…自分の愚かさを呪った。親友を裏切った、その代償が、これだなんて…」
ナイジェルは、ずっと、淡々と話していた。
もう、涙など、とっくに枯れ果てたという様子だった。
なんとも、後味の悪い話だ。
アイリスのことも、バミネは貴族のジジイに売ろうとしていた。
アイリスも、彼の妹のような目にあっていたかもしれないと思うと。本当に、胸糞が悪いな。
「セドリック様が目をかけていた子も、亡くなったんだ。騎士団に入るのが条件で、セドリック様を裏切ったようだが。騎士団とは名ばかりで、微々たる金で、バミネの使いっ走りにされて。最終的には剣闘士大会でバミネになぶり殺しにされた」
「むごいな…剣闘士大会で、死人を出すなんて」
セドリックが、驚きの声を上げる。
剣闘士大会は、騎士の力試しの場であり。真剣勝負ではありながら、殺傷はNGなのだ。
しかしながら、騎士はそれなりに剣術の腕を持っているので、加減ができ。セドリックが知る限りでは、死人など出したことはなかったらしい。
「セドリック様が団長を退いたあとは、なんでもありの、血みどろの大会と成り果てた。女子供も楽しめた大会であったのに、今は集客数もごくわずか。バミネがトップになって、なにもかもが悪い方に転がっていく。町の治安も悪くなり、騎士団は働かなくなり、金がすべてになり、賭博や恫喝は当たり前で。ガラの悪い騎士を、平民は遠巻きに見る有様。騎士団は地に落ちた」
まぁ、確かにそんな感じでしたねぇ。
それでも、島に閉じ込められていた陛下やセドリックたちは、騎士団の横暴な振る舞いは初耳らしく。
王家に礼節を、女子供に優しく、名誉、勇気、気品を持て…というのが騎士の誇りであるのに。あまりにひどい転落ぶりに、閉口するしかなかった。
「バミネは、陛下が乱心したと言い、騎士団を率いて船を出したが。王城はもぬけの殻。そのうち、陛下の演説が、島にも届いた。俺は。あぁ、もう良いんだなと思って。シヴァーディも、島から出られたのだなと思い。それで、帰りの船の中で、バミネを剣で刺した。陛下が脱出されたので。バミネに追従する者はなく。俺の暴挙に、誰も手を出さなかった」
つまり、バミネは誰にも助けてもらえず、命を落としたということか。
ぼくたちが、魔法でバミネをやっつける。という展開ではなかったが。
ラスボスのバミネは、自分の行いのツケを払う形で、制裁を受けたのだった。
バミネをやっつけたナイジェルは、英雄になるのか。私怨による、殺人になるのか。わからなかったため。
とりあえず、シヴァーディによって捕縛され。その流れで、バミネの死も確認された。
それで、みんなは再び、王宮へ戻る馬車に乗り込んだ…のだけど。
なんだか、モヤッとはするな。
だって、前世で読んだ異世界小説みたいに、悪役を断罪する場面はなかったし?
アイキン的に、魔法でやっつけることもなかったし?
ざまぁ展開もなかったから。
でも、バミネはナイジェルに、ある意味『ざまぁ』されたようなものかもしれない。ぼくの見ていないところで『ざまぁ』はなされていた、みたいな?
だけどナイジェルは。復讐を遂げたところで、癒されることはないのだろうな。妹さんが生き返るわけではないのだから。悲しいね。
しかしながら、ぼくには、殺すとか血みどろとか、出来なかったから。ナイジェルが敵を討ってくれて、ありがたかったかな?
ぼくは捕縛するのに、力を貸すので、精いっぱいだったと思うから。たぶん。
陛下や騎士様は、自分の手で遺恨を晴らしたかったという気持ちがあったかもしれないけど…。
ま、終わってしまったものは仕方がないよな? うん。
「主人公的に、あまりお役に立てませんで…」
と、アイリスが、ぼくの隣の席でつぶやいていたけど。
ううん? アイリスはぼくの父を助けてくれたし、アナベラの魔法から、ぼくらを守ってもくれたのだから。立派な主人公でしたよ?
ぼくもいっぱい、助けてもらったし。ありがとうね、アイリス。
それにさ。幽閉された陛下が島から脱出し、王宮に戻り、国政に関わる地位に返り咲ける、それが陛下のハッピーエンドじゃん?
それを成し遂げることはできたのだから、これで良かったのだ。
つまり、大団円ってやつ、だよね?
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あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
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とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
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認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
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