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前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ? 幽モブ2-プロローグ①
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◆前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ? プロローグ
こんにちは。ぼくはクロウ・バジリスク。モブです。
公爵令息なんですけど、モブです。
そして、なんだか王様と結婚もどきをしているのですけど、モブなんですぅ。
っというのも。ぼくは、前世の記憶を持っていまして。ここは、前世でやりかけていたゲーム『愛の力で王(キング)を救えっ!』通称アイキンの世界観と、全く同じなのです。
その中で、ぼくは。平民の仕立て屋で、モブのクロウに転生した模様。
一応、国一番のドレス職人、という称号はあるのですけどね? 照れ照れ。
それで、我が国、カザレニアの国王であるイアン・カザレニア二十四世陛下の、婚礼衣装を仕立てる栄誉を与えられ、王城の建つ島へ、向かうことになり。
そこで、いろいろありまして。陛下と、恋に落ちちゃったりして?
モブなのに、身分をわきまえず。本土に渡る前に、陛下と結婚しちゃって、どうもすみません。
まぁ、そんなこんなで、今は本土にある王宮にて、陛下と新婚生活中なのです。
男性であるぼくが、男性である陛下の伴侶となることは。王家の繁栄を願う家臣から、苦言を呈されることも多いのですが。
陛下は、ぼくとの結婚を、なにがなんでも進めるつもりらしく。
それは、とても愛されているような気がして、嬉しいのですが。
陛下は十年以上島に閉じ込められていて、政務に携わるのも、王宮の仕事に慣れるのも、日が浅いのです。
そんな中で、家臣との関係が悪くなってしまったら…と。そこは心配しています。
「わっ」
ちょっと、意識をそらしていたら。殿下に、足を踏まれました。
今日は四月七日。陛下の王宮への復帰を、国の内外に知らしめる夜会から、数日が過ぎていて。
今、ぼくは。陛下の妹であるシャーロット殿下の、ダンスレッスンに付き合っているところだ。
今年、十四歳になるシャーロットは、貴族の子女が通うセントカミュ学園に入学する。新一年生。
本当は、四月の初めから、学園に通う予定だったのだが。
島から脱出したのが、つい最近なので。十日遅れの入学になる。
しかし、それまでに。淑女の嗜みとして、ダンスをマスターしておきたいみたいで。
陛下も、シャーロットが恥をかかないようにしてあげたい、ということで。
僭越ながら、ぼくがお相手をしているところだったのだ。
「あぁっ、良い感じだったのに。ターンをすると、ステップがよくわからなくなるのよ?」
レモンイエローのドレスを身につけた、シャーロット殿下が。桜色の唇をとがらせて言う。
初めて顔を合わせたときは、黄金の髪を縦ロールに巻いていて、悪役令嬢さながら…というのはぼくの偏見でしょうか? まぁ、そういう髪型だったのだけど。
今はストレートの髪で、毛先だけくるんとさせている。
シャーロット殿下の専属侍女には、アイリスがついているので。シャーロットイコール悪役令嬢と、連想しないよう。髪型に気を使っているのだろう。
元々シャーロットは、兄の恋人に嫌がらせをする、悪役令嬢ポジだった。
その印象を、学園に引きずって行ったら、シャーロットが可哀想だものね?
その、アイリスは。
アイキンの主人公で。今は、ぼくの斜め後ろにいて、ダンスの男性パートを練習中。
アイリスとシャーロットは、ふたり一緒に、学園に入学するのだが。アイリスが男性パートを踊って、シャーロットのダンスの練習相手をする予定なのだ。
アイリスは主人公補正があるから、なんでも、すぐ、できちゃうんだよね?
男性パートも、もうマスターしそうだよ?
「殿下、ダンスは、反復して体に染みつかせることです。目をつむっても、寝ていても、軽やかに踊れるように、何度もステップを踏むのがコツですよ?」
「クロウは平民だったのに、どうしてこんなにダンスが上手いの?」
シャーロットは気になったことや、素直な気持ちをズバッと言っちゃうタイプなので。横でアイリスがアワアワしているけれど。大丈夫。気にしていませんよ。
「ぼくは、十歳までは、公爵家の跡取りになるべく育てられていましたので。ダンスもその頃には、マスターしていたのですよ。いろいろあって、平民の時期も長かったですが。その間も母に、貴族の嗜みである礼儀作法をきつく指導されましたし。だから、シオンも。ダンスは一流ですよ」
「チョ、チョンちゃんも?」
シオンの名を出すと、ショーロットはポッと頬を赤らめた。
シャーロットとシオンは。島で、シオンが猫の姿のときに出会って、仲良くなった。
今は呪いが解け、シオンは猫の姿ではないが。
そのときの名残で、彼女はシオンをチョンちゃんと呼んでいる。
「えぇ、だから、シオンと踊るときは、シオンに任せていれば大丈夫ですよ?」
「チョンちゃんと、踊るなんて…」
恥じらって、シャーロットは火照った頬に手を当てる。
かーわーいーいーっ。青春だねぇ?
小さくて可愛かった黒猫が、ハイパーイケメンにジョブチェンジしたから。シャーロットはシオンの様変わりっぷりに、若干ついていけていない様子。
意識しすぎて、あんまり話ができなくなっているみたい。
若いときによくある、挙動不審なやつ。あれ、本当に厄介だよねぇ? 頑張れっ。
つか、ぼくは。永遠に挙動不審だけど。うぅ、頑張れっ。
「クロウ様。バジリスク公爵様がお越しです。陛下が、クロウ様の同席を求めております」
部屋に現れたラヴェルに言われ、ぼくは目を丸くした。
バジリスク公爵は、ぼくの父上で。
陛下が島に閉じ込められていた十年間、闇魔法で時間を止められていた。
だから、見た目年齢が、ぼくとあまり変わらなくなってしまった、若い父親である。
「すぐに参ります」
ダンスのお相手を、アイリスとチェンジして。ぼくはシャーロットの部屋を出た。
ダンスのあとは、刺繍の基礎を教える予定だ。
この頃は、刺繍が苦手という令嬢も増えているが。
シャーロットは王妹殿下として、高位の成績を求められている。
大変です。できることはなんでもお教えいたしますから、頑張りましょうね?
そうしてぼくは、ラヴェルに案内されて、王宮の中心にある、応接室に入る。
謁見の間、というと。
人が何百人単位で入れる、大きなホールのことで。壇上に玉座があって。陛下に謁見を許された、用向きのある貴族や民や、外国の大使なんかと会う場所だが。
応接室は、公の面会ではない、政務関係や、親戚などと面会するときに、気安く使う部屋だ。
そうは言っても、王宮の中心にあるサロンなので。
豪華な設えだし、広くて立派なのだが。
落ち着いた水色の壁には、ところどころ白い縁取り飾りがなされていて。部屋の上品さを引き立てている。
中央に、飴色の長机があり。付随した、白い椅子の背当てと座面は、壁と同じ水色で統一されている。
天井には、小ぶりのシャンデリアが、昼間だというのに煌々と光を放っていて、きらびやかだ。
部屋には、すでに父上と、同行者のシオンがいて。椅子に腰かけている。
入室したぼくを、ふたり同時に振り向いて、見た。
うわっ、シンクロ。
シオンと父は、ほぼ同じ顔で。双子の兄弟みたい。
さすがに、父の方が老けているけどね。
シオンが、十四歳とは思えないくらい大人びているから。親子というより兄弟なんだよね?
ふたりとも、ダーク系の色味の上着を着ているので、より、ツインズ味が強い。
さて、ぼくは、どこに座ったらいいのでしょう。
と、思っていたら。父が手招いて、隣を指し示す。
でも、すぐに陛下が部屋に入ってきたので、ふたりは立ち上がって頭を下げた。
陛下は、さりげなく、ぼくの肩を抱き。父と対峙する。
うーん、一連の所作がスマートで。さすが陛下です。
つか、今日の陛下も、とってもお美しく、エレガントです。
濃紺の生地に、銀の刺繍のお衣装は、陛下の上品な雰囲気や、華麗な金の髪を映えさせる。
立ち襟の部分には、王家の紋章があしらわれていた。
これは先代王の衣装である。
前触れなく、陛下が本土へ渡ってきたので。衣装がほぼなかったのだ。
それで王宮に残っていた衣服を、しばらくは着用することにしたらしい。
陛下は、元々衣装持ちではなく。島の王城にも、それほど衣装はなかった。
ぼくが仕立てた婚礼衣装と、あと数着くらい。
ふだんは、白シャツに黒ズボンが定番だった。今もあれが一番楽だと言っている、庶民派の王様であった。
ま、こういう状況なのは、ほぼバミネのせいだけど。
今、陛下の身を飾る衣装を、王宮御用達の服飾店が、総力をあげて作り上げている最中。
あぁ、ぼくも参加したいですぅ。陛下のお衣装作りたい。
でも、陛下は。父の衣装でも構わないと言って、そんなにいっぱい服を作るなと、臣下に指示した。
バミネによって、王宮の財源が食い荒らされており。それを立て直すのに、余計な金銭を使っていられない、ということなのだ。
「我が父と死に別れたのは、まだ八歳の時。あのときは、心も体も、とても大きな方だと思っていたが。服に袖を通し、いつの間にか、父と同じサイズになっていたことを知ると。なんだか感慨深いのだ」
陛下は、古着だからと憤ることなどなく。むしろ、父の衣装を身につけられることを、誇りに思っているようだった。
そういう心の大きさが、陛下の、素晴らしい点だと思い。ぼくはやはり、さすが陛下と思うのだ。
そんな、王の貫禄で。陛下はぼくを伴い、父の面前に座る。
陛下は父とシオンにも、頭を上げて楽にするよう言い、着座をすすめた。
「バジリスク公爵。あの騒動から一週間が過ぎたが、体の加減はどうだ?」
緊張感を漂わせ、父が陛下に挨拶をする。
「はい。おかげさまで。十年の眠りから覚めた割には、体に不調などもなく。家の雑事もなんとか収拾がつきまして。平穏に過ごしております。先日は、状況が掴めないうちに陛下と別れることになり、不調法をしたのではないかと、気を揉んでおりました」
父は、すっかり、公爵の立ち居振る舞いを取り戻していて。落ち着きの払ったシオンという感じである。
ま、シオンも、ぼくよりはだいぶ落ち着いた空気感だが。
たまに兄上ぇ…となるからな?
父は、ゆるやかなウェーブの、艶やかな黒髪。切れ長でシャープな目元に、エメラルド色の瞳。肉厚の唇に自信が乗ると、妙に色気が満載で。セクシーイケオジである。
さすが、エロエロビーストの父だな?
「なにも気に病むことはない。それに、ちょうどいい時期に挨拶に来てくれた。そろそろクロウとの結婚式について、詳細を相談しようと思っていたのだ」
陛下はぼくに目を合わせて、ニコリと微笑む。
ぼくも、エヘッと笑う。だって、ぼくたち新婚生活中でラブラブなんですぅ。
「そのことですが、陛下。一度クロウを、我が公爵家にお返し願いたいのです」
神妙な、シオンと似た低めのセクシーボイスで。父が言う。
なっ、なんですとーっ??
こんにちは。ぼくはクロウ・バジリスク。モブです。
公爵令息なんですけど、モブです。
そして、なんだか王様と結婚もどきをしているのですけど、モブなんですぅ。
っというのも。ぼくは、前世の記憶を持っていまして。ここは、前世でやりかけていたゲーム『愛の力で王(キング)を救えっ!』通称アイキンの世界観と、全く同じなのです。
その中で、ぼくは。平民の仕立て屋で、モブのクロウに転生した模様。
一応、国一番のドレス職人、という称号はあるのですけどね? 照れ照れ。
それで、我が国、カザレニアの国王であるイアン・カザレニア二十四世陛下の、婚礼衣装を仕立てる栄誉を与えられ、王城の建つ島へ、向かうことになり。
そこで、いろいろありまして。陛下と、恋に落ちちゃったりして?
モブなのに、身分をわきまえず。本土に渡る前に、陛下と結婚しちゃって、どうもすみません。
まぁ、そんなこんなで、今は本土にある王宮にて、陛下と新婚生活中なのです。
男性であるぼくが、男性である陛下の伴侶となることは。王家の繁栄を願う家臣から、苦言を呈されることも多いのですが。
陛下は、ぼくとの結婚を、なにがなんでも進めるつもりらしく。
それは、とても愛されているような気がして、嬉しいのですが。
陛下は十年以上島に閉じ込められていて、政務に携わるのも、王宮の仕事に慣れるのも、日が浅いのです。
そんな中で、家臣との関係が悪くなってしまったら…と。そこは心配しています。
「わっ」
ちょっと、意識をそらしていたら。殿下に、足を踏まれました。
今日は四月七日。陛下の王宮への復帰を、国の内外に知らしめる夜会から、数日が過ぎていて。
今、ぼくは。陛下の妹であるシャーロット殿下の、ダンスレッスンに付き合っているところだ。
今年、十四歳になるシャーロットは、貴族の子女が通うセントカミュ学園に入学する。新一年生。
本当は、四月の初めから、学園に通う予定だったのだが。
島から脱出したのが、つい最近なので。十日遅れの入学になる。
しかし、それまでに。淑女の嗜みとして、ダンスをマスターしておきたいみたいで。
陛下も、シャーロットが恥をかかないようにしてあげたい、ということで。
僭越ながら、ぼくがお相手をしているところだったのだ。
「あぁっ、良い感じだったのに。ターンをすると、ステップがよくわからなくなるのよ?」
レモンイエローのドレスを身につけた、シャーロット殿下が。桜色の唇をとがらせて言う。
初めて顔を合わせたときは、黄金の髪を縦ロールに巻いていて、悪役令嬢さながら…というのはぼくの偏見でしょうか? まぁ、そういう髪型だったのだけど。
今はストレートの髪で、毛先だけくるんとさせている。
シャーロット殿下の専属侍女には、アイリスがついているので。シャーロットイコール悪役令嬢と、連想しないよう。髪型に気を使っているのだろう。
元々シャーロットは、兄の恋人に嫌がらせをする、悪役令嬢ポジだった。
その印象を、学園に引きずって行ったら、シャーロットが可哀想だものね?
その、アイリスは。
アイキンの主人公で。今は、ぼくの斜め後ろにいて、ダンスの男性パートを練習中。
アイリスとシャーロットは、ふたり一緒に、学園に入学するのだが。アイリスが男性パートを踊って、シャーロットのダンスの練習相手をする予定なのだ。
アイリスは主人公補正があるから、なんでも、すぐ、できちゃうんだよね?
男性パートも、もうマスターしそうだよ?
「殿下、ダンスは、反復して体に染みつかせることです。目をつむっても、寝ていても、軽やかに踊れるように、何度もステップを踏むのがコツですよ?」
「クロウは平民だったのに、どうしてこんなにダンスが上手いの?」
シャーロットは気になったことや、素直な気持ちをズバッと言っちゃうタイプなので。横でアイリスがアワアワしているけれど。大丈夫。気にしていませんよ。
「ぼくは、十歳までは、公爵家の跡取りになるべく育てられていましたので。ダンスもその頃には、マスターしていたのですよ。いろいろあって、平民の時期も長かったですが。その間も母に、貴族の嗜みである礼儀作法をきつく指導されましたし。だから、シオンも。ダンスは一流ですよ」
「チョ、チョンちゃんも?」
シオンの名を出すと、ショーロットはポッと頬を赤らめた。
シャーロットとシオンは。島で、シオンが猫の姿のときに出会って、仲良くなった。
今は呪いが解け、シオンは猫の姿ではないが。
そのときの名残で、彼女はシオンをチョンちゃんと呼んでいる。
「えぇ、だから、シオンと踊るときは、シオンに任せていれば大丈夫ですよ?」
「チョンちゃんと、踊るなんて…」
恥じらって、シャーロットは火照った頬に手を当てる。
かーわーいーいーっ。青春だねぇ?
小さくて可愛かった黒猫が、ハイパーイケメンにジョブチェンジしたから。シャーロットはシオンの様変わりっぷりに、若干ついていけていない様子。
意識しすぎて、あんまり話ができなくなっているみたい。
若いときによくある、挙動不審なやつ。あれ、本当に厄介だよねぇ? 頑張れっ。
つか、ぼくは。永遠に挙動不審だけど。うぅ、頑張れっ。
「クロウ様。バジリスク公爵様がお越しです。陛下が、クロウ様の同席を求めております」
部屋に現れたラヴェルに言われ、ぼくは目を丸くした。
バジリスク公爵は、ぼくの父上で。
陛下が島に閉じ込められていた十年間、闇魔法で時間を止められていた。
だから、見た目年齢が、ぼくとあまり変わらなくなってしまった、若い父親である。
「すぐに参ります」
ダンスのお相手を、アイリスとチェンジして。ぼくはシャーロットの部屋を出た。
ダンスのあとは、刺繍の基礎を教える予定だ。
この頃は、刺繍が苦手という令嬢も増えているが。
シャーロットは王妹殿下として、高位の成績を求められている。
大変です。できることはなんでもお教えいたしますから、頑張りましょうね?
そうしてぼくは、ラヴェルに案内されて、王宮の中心にある、応接室に入る。
謁見の間、というと。
人が何百人単位で入れる、大きなホールのことで。壇上に玉座があって。陛下に謁見を許された、用向きのある貴族や民や、外国の大使なんかと会う場所だが。
応接室は、公の面会ではない、政務関係や、親戚などと面会するときに、気安く使う部屋だ。
そうは言っても、王宮の中心にあるサロンなので。
豪華な設えだし、広くて立派なのだが。
落ち着いた水色の壁には、ところどころ白い縁取り飾りがなされていて。部屋の上品さを引き立てている。
中央に、飴色の長机があり。付随した、白い椅子の背当てと座面は、壁と同じ水色で統一されている。
天井には、小ぶりのシャンデリアが、昼間だというのに煌々と光を放っていて、きらびやかだ。
部屋には、すでに父上と、同行者のシオンがいて。椅子に腰かけている。
入室したぼくを、ふたり同時に振り向いて、見た。
うわっ、シンクロ。
シオンと父は、ほぼ同じ顔で。双子の兄弟みたい。
さすがに、父の方が老けているけどね。
シオンが、十四歳とは思えないくらい大人びているから。親子というより兄弟なんだよね?
ふたりとも、ダーク系の色味の上着を着ているので、より、ツインズ味が強い。
さて、ぼくは、どこに座ったらいいのでしょう。
と、思っていたら。父が手招いて、隣を指し示す。
でも、すぐに陛下が部屋に入ってきたので、ふたりは立ち上がって頭を下げた。
陛下は、さりげなく、ぼくの肩を抱き。父と対峙する。
うーん、一連の所作がスマートで。さすが陛下です。
つか、今日の陛下も、とってもお美しく、エレガントです。
濃紺の生地に、銀の刺繍のお衣装は、陛下の上品な雰囲気や、華麗な金の髪を映えさせる。
立ち襟の部分には、王家の紋章があしらわれていた。
これは先代王の衣装である。
前触れなく、陛下が本土へ渡ってきたので。衣装がほぼなかったのだ。
それで王宮に残っていた衣服を、しばらくは着用することにしたらしい。
陛下は、元々衣装持ちではなく。島の王城にも、それほど衣装はなかった。
ぼくが仕立てた婚礼衣装と、あと数着くらい。
ふだんは、白シャツに黒ズボンが定番だった。今もあれが一番楽だと言っている、庶民派の王様であった。
ま、こういう状況なのは、ほぼバミネのせいだけど。
今、陛下の身を飾る衣装を、王宮御用達の服飾店が、総力をあげて作り上げている最中。
あぁ、ぼくも参加したいですぅ。陛下のお衣装作りたい。
でも、陛下は。父の衣装でも構わないと言って、そんなにいっぱい服を作るなと、臣下に指示した。
バミネによって、王宮の財源が食い荒らされており。それを立て直すのに、余計な金銭を使っていられない、ということなのだ。
「我が父と死に別れたのは、まだ八歳の時。あのときは、心も体も、とても大きな方だと思っていたが。服に袖を通し、いつの間にか、父と同じサイズになっていたことを知ると。なんだか感慨深いのだ」
陛下は、古着だからと憤ることなどなく。むしろ、父の衣装を身につけられることを、誇りに思っているようだった。
そういう心の大きさが、陛下の、素晴らしい点だと思い。ぼくはやはり、さすが陛下と思うのだ。
そんな、王の貫禄で。陛下はぼくを伴い、父の面前に座る。
陛下は父とシオンにも、頭を上げて楽にするよう言い、着座をすすめた。
「バジリスク公爵。あの騒動から一週間が過ぎたが、体の加減はどうだ?」
緊張感を漂わせ、父が陛下に挨拶をする。
「はい。おかげさまで。十年の眠りから覚めた割には、体に不調などもなく。家の雑事もなんとか収拾がつきまして。平穏に過ごしております。先日は、状況が掴めないうちに陛下と別れることになり、不調法をしたのではないかと、気を揉んでおりました」
父は、すっかり、公爵の立ち居振る舞いを取り戻していて。落ち着きの払ったシオンという感じである。
ま、シオンも、ぼくよりはだいぶ落ち着いた空気感だが。
たまに兄上ぇ…となるからな?
父は、ゆるやかなウェーブの、艶やかな黒髪。切れ長でシャープな目元に、エメラルド色の瞳。肉厚の唇に自信が乗ると、妙に色気が満載で。セクシーイケオジである。
さすが、エロエロビーストの父だな?
「なにも気に病むことはない。それに、ちょうどいい時期に挨拶に来てくれた。そろそろクロウとの結婚式について、詳細を相談しようと思っていたのだ」
陛下はぼくに目を合わせて、ニコリと微笑む。
ぼくも、エヘッと笑う。だって、ぼくたち新婚生活中でラブラブなんですぅ。
「そのことですが、陛下。一度クロウを、我が公爵家にお返し願いたいのです」
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