【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
143 / 176

2-17 悪辣な悪役令嬢はお金が大好き? ①

しおりを挟む
     ◆悪辣な悪役令嬢はお金が大好き?

 ある日のランチタイム。今日も陛下は欠席です。

 実は。孤島から脱出して、しばらくは。陛下のご無事を、喜び称えるために。国内の貴族たちが、ぞくぞくと謁見を申し出て。謁見ラッシュな時期があったのです。
 ですが、十日も過ぎると、それもいったん落ち着いて。
 それで、陛下の学園生活もできそうだな、ということになっていたのですが…。

 しかし四月後半になると、時間差で。今度は、諸外国から。陛下復権の祝辞を述べる、第二次謁見ラッシュがスタートしてしまった、ようなのだ。

 三日前の放課後。陛下は言いました。
「しばらく、クロウには会えぬかもしれない。あぁ、この気持ちを、なんと言えばいいのか。クロウがそばにいないと、イライラするというか。自然に奥歯をかみしめてしまうような。ギリギリしてしまうような…」
 その気持ち、なんとなく、わかります。

 推しの供給が足りない、ってやつですよね?

 もっと、推しを浴びたいとか。推しの笑顔がぁ、とか。推しの私服姿がぁ、とか。
 巴と静が、身悶えながら、叫んでいたことがありました。
 ぼくは…巴と静ほどには、オタク度がヤバくはなかった、と思いますけどぉ。
 でも、陛下に関することならば。
 えぇえぇ、よくわかりますともっ。

「それは、ぼくの…エキスが足りない、的な?」
 いわゆるオタクの、そういう気持ちを。この世界で表現するのは、難しいので。そう言ったら。
 陛下が瞬時に、顔を真っ赤にした。

「そそそ、そのような。まぁ、したくないと言えば、完全な嘘になるが…」
 陛下は、下ネタと勘違いしたようだ。
 わわわ、どこのエキス?
 とか。想像しちゃったら。
 ぼくも、顔が真っ赤になってしまったが。そうじゃなくてぇ。

「あ、あの、そ、そっちのお話ではなくて。なんと申しますか、今の陛下のお気持ちが。もし、ぼくが液体だったらいっぱい飲み干して、体内に貯めておきたい、的な…ぁ」

 なんか、どういう言い方をしても、エロくなるな?
 オタ活は、決してエロいものばかりでは、ないはずだが?

「…なるほど。そういう話なら。クロウエキスを浴びるほど飲みたいぞ。そしてクロウの匂いをまとって、クロウを思い出せるものを眺めて。いつもクロウを感じていられるようにしたい。そういう気持ちで、合っている」
 若干、重くてキモい感情に聞こえるが。
 オタクというのは、重くてキモいものだもの。
 陛下にも、オタク気質があったのですね?

 でも、陛下は。生まれ持った爽やかさで。ともすれば、キモッと言われる発言を。甘い口説き文句に昇華している。
 イケメンは得ですね。
 たぶん、ぼくが言ったら、キモッと一刀両断されて、ゴミムシのごとく踏みつけられるのでしょうね? 知っています。

 たとえば、この世界で。肌身離さず、恋人のものを持ち歩きたい、というときは。
 その人が刺繍したハンカチを、大事に持っておくとか。
 それぐらいしか、できないのだ。

 スマホも写真も、ないからね。
 代わるものだと、肖像画をロケットに入れて持ち歩く、とか?

 わぁ、なんか。大事すぎて、恥ずかしい。
 だって、ぼくの顔を、誰かに描いてもらわなきゃならないんだよ?
 それに、こんなモブ顔のぼくを、陛下がペンダントに入れて持ち歩くとか。
 へ、陛下の美的感覚のなさが、みなさまにバレてしまいますぅ。無理ぃ。

「あぁ、早く。クロウと結婚して。我のかたわらに、いつも置いておきたい。クロウ、早く嫁に来い」
「…イアン様ぁ」
 陛下の言葉に、ぼくはホッとした。
 そうだ。ずっとそばにいれば、肖像画の話にはならない。
 本物が一番ですよね? と、ふたりの世界になりかけたとき。
 無表情のシヴァーディが。陛下を引きずって連れ去ってしまったのだった。

 へ、陛下―ぁっ。手を差し伸べても届かぬ、引き離される恋人たち、みたいな。

 と、そんなことがあってから、三日ほど。ぼくは陛下の顔を見ていないのでした。寂しい。
 それで。そうだ、ランチタイムでしたね。

 学園には、食堂がありまして。でも、単一メニューではないので、どちらかというと、カフェが学校の中にある、みたいな感じです。
 給仕の方がいて。好きな食事や飲み物を注文して。
 その都度作って、給仕が運んでくるという仕様です。

 貴族の子女が集まっているので、ちょっとした我が儘なら、聞くらしいよ。
 苦手な食べ物は入れないで、とか。
 持ってきた茶葉で、お茶をいれて、とかね。

 一般の生徒は、そのとき空いている席に、座るのだけど。ぼくたちは、席が決まっています。
 こう言ってしまっては、ちょっと鼻持ちならない感じですが。
 高位貴族専用席、みたいな?
 まぁ、王族ほどの方たちとなりますと。命の危険というものも、少なからずあるのです。
 いわゆる、警備上の問題、というやつなのですよ。
 ぼくたちは偉いから特別とか、鼻高々なわけでは決してないのですよ?

 でも、なんだかんだ、ぼくもシオンも、腐っても公爵令息ですし。
 カッツェも公爵令息。国の最高権力の家系が、揃っちゃっているもので。そこは、仕方がないようです。

 そして、食事も。基本、アルフレドが用意したものしか、食べてはいけません。
 まぁ、それは。陛下と殿下とぼく、に限るのですが。
 ぼくは、まだ王族ではないので、普通で大丈夫だと思うのですがぁ。
 アルフレドが、せっかく鳥ガラボディを直そうとしてくれているようなので。ご相伴に預かっているのです。

 ガラス張りの、庭が美しく見える場所に、八人掛けの机があり。
 窓際にベルナルド、その隣がぼく。向かい側の窓際に、カッツェ。ひとつ置いて、シオンが座っている。
 ふたりの間には、シャーロットが座る予定。ぼくの横にはアイリスが。席順も、警備に最適な配置になっているんだって。
 ぼくには、よくわからないけど。
 しかし、シャーロット殿下の脇を、騎士モドキで固めるのは、わかります。重要。

「クロウ様、こんにちは。ここ、よろしいかしら?」
 すると、ぼくの隣に、リーリアが座ろうとした。
 すかさず、ギンと。ぼく以外の男どもが、殺気立った。
 えぇ? もう、公女だって、みんな知っているよね? そんな対応で、大丈夫ですか?

 ぼくが戸惑ってしまうと。アルフレドが、ぼくの斜め後ろに立って。告げた。
「失礼ですが、お嬢様。こちらの席は、先約がありますので。他に移動していただけませんか?」

「誰か来るなら、その人が来るまでの間でもいいの。クロウ様にお話があるのよ」
 リーリアは、自分の意志が通るものと信じているような言い方をするが。
 アルフレドは、首を振った。
「申し訳ありません。こちらは高位の方の席でして…」

「なら、私には資格があるわ。それに、席が空いているのだから。良いでしょう?」
 リーリアとアルフレドの攻防に、食堂の、ぼくたちの席の周りにいた生徒が、ざわざわし始める。
 みんな、この席は高位貴族が座るものだと知っていて。なるべく近づかないように配慮してくれているのだ。
 いつもすみません。お騒がせしています。

 というか、ぼくらは公女だって知っているけど。
 リーリアはただの留学生という設定なのに。高位貴族だってバラしちゃったら駄目なのでは?

「お嬢様…」
「しつこいわねぇ。給仕風情が、私に意見しようとしないで」
「がえんじない…」
 アルフレドが低い声でつぶやくと。リーリアは、えっ、と、声を詰まらせた。

「貴方…まさか。陛下の影なの?」
「王族の方々のお食事を任されております、アルフレドと申します。陛下のご友人方とお話になるのに、そのような無礼な態度では、ここを取り仕切る者として許可できません」

 その冷たい声に、ぼくは後ろを振り向く。
 アルフレドは。薄青の短髪に薄青の瞳。垂れ目なところは、優しさを感じられて、親しみやすい印象に見せるのだが。
 ギャルソン風、白シャツに黒のベストと前掛けをつける、今のアルフレドは。最っ高ぅに格好いいのだが。

 まるでダンゴムシを踏みつける直前のような、最っ悪ぅな顔で、リーリアを見ていた。

 うわぁ、殺し屋モードじゃね?
 戦う料理人の、本領発揮ぃ?
 駄目駄目、彼女、一応、公女様だから。カザレニア国の御客人だからね? ね?

「ななな、なにか、話があるのなら。聞きますから。お手短かに、どうぞ」
 なんか。アルフレドが、すぐにもリーリアをっちゃいそうな、不穏な空気を感じたので。
 ぼくは。この場を丸くおさめるべく。公女の話を聞くことにした。

 ぼくの中に眠っていた、日本人の事なかれ気質が大爆発っ!

 もう。アイキンⅡの主人公と、近づきたくないのにぃ。
 でも、陛下のいないところで、問題も起こしたくないので。
 穏便に。穏便に。我慢、我慢。

「ありがとう、クロウ様。優しいのね? あ、コーヒーとチキンの香草焼のセット…」
「注文は、席を移動してから、お願いします」
 ぼくの後ろで睨みをきかせるアルフレドに、冷たく言われ。
 公女は、姫様らしからず、頬を引きつらせた。
 懲りないねぇ。学習してください。

「あのね、クロウ様にお願いがあるの。話を聞いてくださる?」
「とりあえず、聞くだけは」
 ぼくが言うと。向かいからシオンが『兄上ぇ』と、地の底から響いてくるような声で言った。
 し、仕方ないじゃん。話を聞くくらいしないと、彼女動かなそうだし。

 そうしたら。リーリアは、とうとうと語り出した。
 よく、わからない話を。

「私、陛下のお母様、前王妃のお話を、隣国で耳にして。とても胸を打たれたのです。元は仕立て屋の王妃様が、前王をお支えして、強い魔法に目覚めて、王様をお救いしたって。みなさまに祝福されて、愛のあふれた結婚式を挙げたという、身分を越えたシンデレラストーリー。憧れるわぁ」
「…はぁ」
 リーリアの話に、この席にいるシオンたちは、もちろん。
 近くの、聞き耳を立てている生徒たちも、ん? と首を傾げた。

 つか、それ、ぼくの話じゃね?

 王妃様は平民出身じゃないし。
 カザレニア国民なら、王妃様が高貴な出身なのは、みんな知っている話なんだけどな。

「だけど、今の陛下の婚約者ったら。お金目当ての守銭奴しゅせんど令嬢なのでしょう? 悪辣な悪役令嬢はお金が大好き。いずれ王妃になって、王家の莫大な資産を手にする。それが目的で、陛下を孤島からお救いしたらしいじゃない? そりゃあ、陛下を島からお救いしたことは、いいことよ。でも、そこには陛下への愛情なんてひとかけらもないのよ? ひどい話だわぁ」

 なんですか、それ?
 悪辣な悪役令嬢はお金が大好き? それって誰ですかぁ? ぼくですかぁ?

 ぼく、お金のために、陛下を救ったりしてないもーんっ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...