【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
144 / 176

2-18 悪辣な悪役令嬢はお金が大好き? ②

しおりを挟む
 ぼくも、周りの人間も、口をあんぐり開けてしまって。
 ただ、後ろにいるアルフレドは、なにやら笑いをこらえている気配がするが。
 空気を読まない公女の口は、止まる気配がなかった。

「陛下も、悪辣悪役令嬢が危険をかえりみず、孤島からの脱出を手助けしてくれたから、金銭目当ての打算が透けて見えていても、仕方なく、婚約者にしなければならなかったのだろうけど。そんな人への愛情なんか、きっと一切ないわ」
 グサッ。公女の言葉に人知れず傷つく、ぼく。

 ええぇ? ぼくが手助けしたから、恩義で仕方なく婚約したのですか? 陛下ッ。

「陛下は、魔法を制御するのに、彼女の力が必要だから、悪辣悪役令嬢との婚約話を、受け入れるしかなかったのだわ」
 グサッ。確かに、陛下の炎魔法を鎮火できるのは、公爵家の魔法ですけど。
 それを盾にして、婚約を迫ったわけではありません。

 でも、陛下は脅されたと感じたのでしょうか? 陛下ッッ。

「それに、その令嬢。見た目はパッとしない容姿だって、噂じゃない? きっと、顔に悪辣がにじみ出ているのね?」
 グサグサッ。そんなっ、本当のことを、さらりと話に混ぜないでくださいっ。
 モブがパッとしないのは、当たり前じゃないですか。

 否定できません。陛下ぁ(泣)。

「だから私が、王妃様が前国王にされたように。今の陛下をお支えし、愛にあふれる生活が、どのようなものか。温かい幸せとは、どのようなものか。教えて差し上げたいの。きっと、陛下は愛のない婚約に、心が冷え切っているはずなのよ。そんなの、悲しいじゃない? クロウ様は、陛下とお親しいのでしょう? お友達なら、陛下の幸せを願っていただけるわよね? どうか、陛下のために。私の恋路のお手伝いをしてくださいな?」

「心が、冷え切って? 陛下…そ、そうなのですか?」

「「「そんなわけないでしょ」」」
 あえぐようにつぶやいたぼくに、なんか、この話を聞いていた、多くの皆様が、一斉にツッコんだ。
 ひえっ、な、なにごとですか?

「貴方の目は節穴ですか? 陛下が貴方を見る目が、見ているこちらは、砂糖を吐きそうなくらい、甘く蕩けているというのに、見えていないんですかっ?」
 と、ベルナルドが言い。
 いえ、見えてはいるのです。
 まさか、ぼくへ向けられているとは、思いませんが。こちらを見ている、デロデロ甘々な、愛しげな海色の眼差し。

「陛下の愛を信じられないのなら、とっとと破談にいたしますよ、兄上」
 と、シオンに怒られ。
 いえ、陛下を信じていないわけではなく。
 ぼくは、ぼくがどうにも自信がないだけなのです。

「どんだけ自信がないんですか? クロウ様。陰キャにも、ほどがありますっ」
 と、いつの間にかそばに来ていた、アイリスにも責められた。
 い、陰キャは、いいじゃないですかっ。治せるものでもありませんし。
 でも…す、すみませぇん。

「つか、黙って聞いていれば。貴方、クロウ様を直接攻撃するなんて、ひどい仕打ちじゃないの?」
 アイリスは、怒って吊り上げている目を、ぼくからリーリアに移した。
 リーリアは、なんで私を怒るの? と、わかっていない様子で、首を傾げる。

「私、攻撃なんてしていないわ? 私はクロウ様とお友達になって、陛下を紹介してもらおうと思って…」
「クロウ様こそが、陛下の婚約者なの。貴方が言うところの、悪辣悪役令嬢よ。クロウ様は、全然悪辣なんかじゃないけどね。クロウ様が陛下の想い人だと知らない人なんか。王都にはいないのよ!」

 オレンジの髪を揺らして、アイリスが言い切る。
 いやいやぁ? みんな知っているっていうのは、ちょっと言い過ぎじゃない? っと思ったけれど。
 食堂の中にいる生徒はみんな、うなずいていた。
 そうなの?

 まぁ、ここにいる貴族子女は、陛下の生還おめでとうパーティーに、大半は出席していただろう。
 ぼくは陛下と、夜会でファーストダンスを踊ったから。
 知っている人は、知っているかな?

「ええ? なにをおっしゃっているの? クロウ様が陛下の婚約者? クロウ様は男性じゃないの。王族が同性の結婚相手なんか、選ぶはずはないじゃない?」
 リーリアは、この人馬鹿なの? と言うかのような見下げた感じで、アイリスを見た。

 うぅ。また、同性の結婚相手を選ぶはずない、というキラーワードに。ぼくは、密かにぐっさり刺された。

「カザレニアでは、同性の結婚が認められているわ。貴方、なにもご存じないのね? クロウ様は陛下の、凍てついた心を、その温かい心根でときほぐして、陛下に生きる希望を示したのよ? 国王、ひいてはカザレニア国の大恩人なの。それに、アイキンのヘビーユーザーなら、クロウフィーバーを知らないわけない。もしかして、にわか、なのかしらぁ?」
 アイリスが、リーリアを転生者と決めつけて、キモなことを言っちゃったよ?
 でも、リーリアは首を傾げる。
「クロウフィーバー? ってなんですか?」

 あぁ、それを知らないなら。もしかしたら転生者じゃないのかもね?
 でも、ぼくと同じ、にわか、かもしれないのか。
 うーん。この反応では判断つかないな。

 あれ? でもこの人、悪役令嬢って言っちゃってたな。やっぱ転生者だな。

 すると、アイリスが。この紋所が目に入らぬか、な勢いで。机に新聞を広げた。
 その新聞には、一面に、ぼくと陛下の肖像画が書かれていて。

 えぇ? なんですか、これ?
 なんか、仲睦まじく、寄り添っているのですが。これはいつのときですか?
 つか、ぼくの顔、こんなに綺麗じゃないですぅ。これはかなり盛られていますぅ。嘘記事になっちゃいますよっ。

 それはともかく。
 八月一日に、大聖堂にて結婚式が行われることが正式に決まりましたぁ。って、書いてあるよ?
 そうなの? 本人が知らないって、どういうことですか?

「号外の記事が出たって、王宮の方が、持ってきてくださって。それを車止めまで取りに行っていたら、ランチタイムに遅れちゃったのよ。でも、食堂でこんな騒ぎになっているとか。びっくりしたわ。とにかく、この号外、差し上げますから。陛下と仕立て屋クロウ・エイデンの、身分違いのラブストーリー…からのぉ? クロウ・エイデンは、実は公爵子息だったぁ。国王と対の者。誰もが納得のハッピーウェディング…って、全部書いてあるから。読み込んでから、出直していらっしゃぁぁい?」

 リーリアは、アイリスに押しつけられた号外を握り締めて。プルプル震えると。席を立って、食堂を出て行った。
 おおぉ、アイリスが、主人公ちゃんⅡを撃退してくれた。

 ありがとう、女神様。いや、聖女様。良かったぁ。

 ぼくが、ホッと息をつくと。
 背後でアルフレドが、お腹を抱えて笑い出した。
「ク、クロウが、悪辣悪役令嬢? この、頭に花を咲かせた、のほほんさんが? 悪辣? 一周回って笑えるんだが?」
 かかか、という変な笑い声に、食堂の中の緊迫した空気もやわらぎ。
 シャーロットとアイリスが食事の席について。いつものランチタイムが、ようやく始まった。

「っていうか、兄上。なぜ、話を聞くとか、言っちゃうんですか? ぼくは陛下に、あの女を兄上に近づけるなって、厳命を受けているんですけど?」
「そうだったのか? ごめん。なんか、アルフレドがキレてたから。外交問題、待ったなしだと思って…」
 シオンに答えたら、笑いのツボから立ち直ったアルフレドが、給仕をしながら言い訳した。
「あんまりウゼェから、キレたけど。外交問題になるようなヘマはしねぇよ。騎士が学内に入れない代わりに、俺が陛下の警護についているんだからな。陛下の手をわずらわせることは、俺はしないから。安心しろよな? クロウ」
 そう言って、皿に山盛りのビーフストロガノフを盛る。
 もう。そんなに食べられないよっ。

「でも、アイリス。せっかくもらってきた号外、渡しちゃって。良かったのか?」
「大丈夫よ、予備にいっぱい貰ってきているの」
 ビラッと、十枚ほど見せると。机に座る男子勢が、みんな手を出した。

「その、肖像画。兄上の顔立ちがとても緻密に書かれていて、すごいです。ぜひ分けてください」
 特に、シオンがぐいぐい来る。
 いや、似ていないと思うけど。ま、記念に取っておきなさい。ブラコンの弟よ。

 アイリスから号外をもらった面々は、みんなホクホクしていた。
 そんなに? 確かに、陛下の麗しいお姿が、見事に描かれていますけど。
 隣のぼくが、誇大広告寸前だからなぁ?

「っていうか、クロウ様。見て見て。なにか、気づかない?」
 気づく? 号外を見て? なにか載っているの?
 ぼくが首をひねっていると。

「これ、畑野こやし先生のタッチよ。絶対、そうよ。ヘビーユーザーの私が保証するわ。先生もきっと、この世界のどこかに転生しているのよっ」
 ギョギョッ、と思って。よく見てみる。
 確かに、アイキンのパッケージの陛下と、この記事の陛下が、よく似ている。
 いや、陛下は。肖像画のまんま、というか。ぼくと、この肖像画は、似ていないような気がするけど?

「んじゃ、もしかして。クロウフィーバーのクロウは、この顔なの?」
「? そうよ」
 アイリスが、若干きょとん顔で、うなずく。

 あぁ、なるほど。
 畑野こやし先生が、この世界にいるとして。
 ぼくを見ていなくて。
 クロウフィーバーになったなら、こんな感じって。絵を描いたんだな?
 クロウフィーバーのクロウは、モブ顔じゃないようだし。
 なら、綺麗すぎるぼくの絵も、納得です。
 きっと、ぼくがモブ顔なのを、先生は知らないのでしょうね? うん。

 それにしても、悪辣悪役令嬢の話から、ひょんなことで畑野こやし先生の話になって。話のふり幅広くてびっくりしちゃうね。
 とにかく、主人公ちゃんの攻撃を穏便に回避できて、良かった良かった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...