【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-24 剣術大会っ! ①

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     ◆剣術大会っ!

 五月十四日。今日は、胸をワクワクさせながら待ちわびていた、あの、剣術大会ですっ。

 前世では、陰キャで、ボッチで、運チな、ぼくは。体育祭なんか、もう、前日からお腹が痛くなるくらい、嫌な、地獄の祭りだったわけだ。
 友達がいなかったから、基本、ひとりでいなければならなかったしぃ。
 それでも、クラスの一体感とかあるから、競技で足を引っ張るわけにはいかないしぃ。
 そうは言っても、運動音痴だから、なにもないところでコケちゃったりして。
 そういうところで笑いを取らなくてもいいから、なんて。空気を読まない子扱いされるしぃぃ。

 いえっ、この上もなく、ぼくは真剣に臨んでいましたから!

 あぁ…今、思い出しても、胃が痛くなるっつうの。
 でも、今生では。
 剣術大会は、腕に覚えのある者だけが、出る大会だ。
 応援する側は、気楽でいいし。もう、ボッチじゃないから、一緒に観戦してくれるお友達も、いるもんねぇ。

 この日のために、ぼくは、必殺アイテムを携えて、参加していた。
 学園の、白い制服をエレガントに着こなした陛下を。人気ひとけのない、丘の上に呼び出して。
 そのプレゼントを渡す。

 人気がないと言っても、陛下は、もちろんひとりではありません。
 大会に出ない、ベルナルドが、従者としてついています。

 あ、領地から戻ってきたのですね? 池作りは順調? それは良かったです。

 さらに、警護には。大会に賓客として呼ばれた、騎士団長セドリックと。副長のシヴァーディもついているよ。
 陛下がひとりになることなんて、基本的にはないんだよね?

「イアン様、これは、タオルというものです。剣術大会、頑張ってくださいね? 汗が出たら、これで拭いてください」
 ぼくは、白くて、フワフワのタオルを、陛下に手渡した。
 この世界には、タオルがなかった。
 木綿の生地の切れ端のような、いわゆる手拭いというものしかなかったのだ。
 それも、水気はよく吸うので。機能は、充分ではあるけどね?
 やはり、肌触りが良くない。
 前世で、タオルを日常的に使っていたぼくとしては。ずっと、悩ましく思っていたのですよ。

 それで、ぼくは。懇意にしている生地屋さんに相談して。作ってもらったのだ。
 柔らかい、太めの糸を、ねじってひねって、ループ状に布に縫いつける。
 今までにない技法だから、ちょっとお金がかかってしまったが。
 そこは、公爵家子息の、ちょっとした恩恵だと思って。目をつぶってもらいたい。

 もしも、この商品が売れたら。開発費として、元が取れるかもしれないが。
 お高いから、普及はしないかもねぇ?
 でもぼくは。とりあえず陛下に、このタオルを使っていただきたかったのだ。

 陛下は、そのモコモコのものを受け取って。目をみはる。
 それほど、表情の豊かではない陛下の眉を、跳ね上げさせられたら。大成功、だよね?

「なんだ、これは? タオル? どのようにして使うのだ?」
「汗を拭くのです。こうして」
 ぼくは、タオルを持つ陛下の手を取って。頬に当てた。
 ほぉぅら? 柔らかいでしょう?

「糸がループ状になっているので、手拭いよりも吸水性が高まります。なにより肌触りが良いでしょう?」
「あぁ、柔らかくて、くすぐったいな。まるで、おまえのほっぺのようだ」
 陛下はタオルを頬に当てて、スリスリしている。
 なんだか、柔軟剤のCМのようですが。
 とにかく、お気に召してくれたようで、良かったです。

「クロウは、なにかを作り出す天才だな? おまえが初春に着ていた、防寒のコートも。騎士団に配備するよう、検討しているところなのだ。極寒の辺境警備に、活躍しそうだろう?」
「本当ですか? 嬉しいです。あの生地も、生地屋さんに無理を言って作ってもらったものなので。大量発注があれば、生地屋さんが喜んでくれます」

 ニコニコと、陛下と笑い合っていたら。
 陛下は急に、表情を引き締めて。ぼくに言った。
「クロウ。もし、我がシオンと戦うことになっても。我を応援してくれるか?」
 そのような、当たり前のことを、不安げに聞いてくるなんて。
 もうっ、陛下は、ぼくをメロメロにさせる天才ですっ。

 ぼくは麗しい陛下の海色の瞳をみつめて、はっきりと告げた。
「もちろんでございます、イアン様。というか、この頃、シオンは、ちょっと調子づいております。イアン様の剣で、シオンの鼻っ柱を、ポッキリと折ってくださいませ」
 そうなのだ。シオンはつい最近までは、兄上兄上と尻尾ピーーンで、ぼくを慕っていたというのに。
 この頃、ちょいちょい、ぼくをディスってくるようになった。
 この前も、顔面崩壊とか、天然おバカで頭を抱えるとか、言いやがりやがって。
 本当のこととはいえ、生意気な弟めっ。

 兄的威厳を保つため、ここらでひとつ、天誅を加えておくべきだな…陛下が。

「よし、任せろ。では、我が優勝したときは、クロウ、おまえから褒美をもらうとしよう」
「ご褒美、ですか? ぼくに用意できるものなら、なんなりと」
 もしかして、先ほどのタオルがお気に召して、大量発注のご所望だろうか?
 なんて、ホクホクとしながら陛下を見上げていたら。
 陛下は、悪い顔で。ニヤリと笑った。
 これは、嫌な予感がいたします。

「もちろん、おまえにしか用意できないものだ。勝者の褒美と言ったら。恋人からのキスしかないだろう?」
「キッ、ききき…」
 思いも寄らないおねだりに、ぼくは顔を真っ赤にして、言葉もモダモダしてしまう。

 そんなぼくを、陛下は。愉快そうに笑いながら、抱き締める。
 腰に手を回して、ぼくの体を持ち上げ。宙に浮かすと。その場で軽やかに一回転した。
「あぁ、楽しみだ。やる気になってきたぞ? クロウ」

 持ち上げられているから、ぼくの顔が、陛下より上に来る。
 陛下は、うっそりと目を細めて。至極満足そうな微笑みを、ぼくに向けるのだ。
 木漏れ日が、陛下の顔にプリズムを放ち。オーロラ加工のように、キラキラで。目がチカチカします。

 それで、陛下は。ぼくを、悶えさせるだけ悶えさせて。颯爽と去って行ったのだった。
 まぁ…そんなに嫌な要求ではありませんでしたね? むしろ、ぼくにも、ご褒美的な? むふふん。
 でも。でもでも。
 ギャーッ、心臓が破裂しますっ。
 あのように、楽しげで、無邪気で、少年のようなお顔を、ぼくに見せるなんてぇ。
 陛下はきっと、ぼくを結婚式の前までに殺す気なのです。そうに決まっていますっ。

 ぼくの頬の赤みが、落ち着くころ。
 ぼくは、剣闘技場の観客席に用意された貴賓席に、腰かける。
 最前列のかぶりつき。観客席の中でも一番良い席で、申し訳ない気持ちになるが。
 警備上、それがいいのだと、シヴァーディに説明されたので。仕方がない。
 陛下やシオンも、それで安心して試合に臨めるというのなら。そうした方が良いのでしょうね?

 まぁ、貴賓席には。シャーロット殿下も。聖女である、アイリスもいるわけだから。
 ぼくはともかく、そう思えばVIP対応致し方なし、である。

 今日は、陛下の護衛要員が、みんな試合に出るので。陛下の護衛には、セドリックがついている。
 他にも、陰ながら警備している人は、いるみたいなんだけど。パッと見は、全然わかりませーん。

 貴賓席には、シヴァーディとアルフレドが、警護についている。
 あと、ベルナルドと、殿下のお友達のマリー…畑野こやし先生も、いるよっ?

 剣術大会は、晴天…というわけにはいかずに、薄曇りであったが。
 日の日にちのひ、前世で言うところの、日曜日に開催され。
 生徒のご家族も、大勢集まり。観客席を埋めている。

 大盛り上がりの中で、いよいよ剣術大会、開催ですっ。

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