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番外 モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ⑧
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◆モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ⑧
モブを穴に落して、私は意気揚々と、へたくそなスキップをしながら、庭を駆けていく。
万事、おっけー。
これで、モブを陛下の婚約者の座から引きずりおろせるわぁ?
そうしたら、陛下をゲットするのは、もう簡単。難しくても、アルガル公に口添えしてもらえば、楽勝よ。
私以上に、陛下に相応しい女性など、いないのだもの。
食堂につくと、特別席に、すでに陛下とカッツェとシオン様が座っていて。
女性陣も、席についている。
クロウ様、遅いわねぇ…なんて、アイリスは言っているけれど。クロウは待っても来ないわよ?
私は陛下とシオン様の間、クロウの席だったところに座ろうとするけど。
すかさず、シオン様が手でさえぎった。
「公女様、ここは兄上の席ですが」
波打つ、艶やかな黒髪。その前髪からのぞく、鋭い視線が素敵。
でも、今は邪魔しないでくださいね、シオン様。
「陛下にお話があるのです。クロウ様が、私のペンダントを盗んだのですよ?」
「は?」
彼が狼狽した隙に、私はサッと陛下の隣に腰かけた。
シオン様のブモブモが激しいけど、無視無視。
「アルガル公…お父様が、私に持たせてくれたネックレスを、クロウ様が盗んで。ベルナルドに差し上げてしまったの。そして、クロウ様とベルナルドは、仲睦まじく、森へデートに出掛けてしまいましたわ? 盗まれた当事者の私が言うのですもの。嘘じゃなくてよ?」
クロウにとどめを刺すかのごとく、得意げに言ってやったら。
特別席の面々は、黙りこくってしまった。
そうでしょう? ショックよねぇ? クロウ様が浮気なんて。
「公女様は、ご存じないのですね。兄…クロウは。母のペンダントを、ある者に奪われたことで、十年も苦しんできた経緯があるのです。ここにいる者は、そのことを、よくよく知っていますから。兄が貴方のペンダントを盗むなど、するわけがないとわかっていて、貴方の話に、しらけているのですよ」
シオン様が、そんなことを言う。
アイリスや陛下も、白い目で私を見てくるけど。そんなの関係ないわ?
「こ、公女の私が、嘘を言うわけないでしょう? 現に、今、クロウ様もベルナルドもここにいないではありませんか」
「外は今、結構なザーザー降りなのですけど?」
カッツェが、そんなことを言う。
窓の外は、確かに雨がザーザーだけど。そんなの関係ないわ?
「私が見たときは、雨は降っていなかったわ。きっと、森の中で、ラブラブ雨宿りでもしているのでしょう?」
あらあら。穴に落ちただけでなく、雨にも降られるなんて。クロウは運がないわねぇ?
でもモブだから、ドロドロのずぶ濡れになっても、仕方がないわね。
モブの扱いなんて、そんなもんでしょう?
「クロウが盗みを働き、ベルナルドと浮気をしていると、その方向に持っていきたいのだろうが? それはいささか無理のある話だ。ベルナルドは代々、宰相を引き受ける家柄で、彼自身、冷静で、そうそう感情では動かぬ男だ。そのような者が、家の功績を捨て去り、盗品をありがたがり、王妃になるクロウに手を出すなど。考えられないことだ」
ブモ音は鳴っていたけど、それほど私を嫌っていないように見えた、陛下までが。クロウやベルナルドを擁護するようなことを言うから。
ちょいギレしちゃって。声を荒げた。
「陛下まで、私を疑うのですか? 私は隣国の姫よ? その私が、クロウにペンダントを盗まれたと言っているのです。陛下、クロウに罰をお与えくださいっ」
「ペンダントというのは、こちらですか?」
そうして、誰かが、私の目の前に、私のペンダントを置いた。
振り向くと、アルフレドが。薄青の瞳に冷たい色を乗せて、私を見下ろしていた。
「陛下、私の部下からの報告です。クロウ様とベルナルド様は、そちらの公女様に、落とし穴に落されました。幸い、クロウ様の魔法によって、すぐに脱出したのですが。制服が汚れたとのことで。今は、お着替えの最中でございます」
「なに? クロウにケガはないか?」
「ベルナルド様が、身を挺して庇われたので。大事ありません。そちらのペンダントは、その折に公女様が落とされた品でございます。お父様からいただいたものは大事にしなければ、とクロウ様が仰せで。いち早く届けさせていただきました」
「う、嘘よ。この人は、クロウの仲間でしょ? 私を貶めようとしているのよ」
陛下がなにかを言う前に、言い訳して、話を戻そうとしたけど。
そこに、のん気な声がかかる。
「ランチに遅れて、申し訳ありませぇん」
私の背後に現れたのは、体操着姿のクロウだった。
それも、夏仕様の、半そで、短パン。
スラリとした細身の足が伸び、ピンクの膝頭が見えている。
胸の前には、名の入ったゼッケンが縫い付けられていて。カザレニアの単語と単語の間をつなぐ、前世的に言えばひらがな的な使われ方をするヒラ型という文字で『くろう』と書かれている。
あ、あざといっ。
「ショタクロッ、それを愛でる陛下っ、激萌えっ」
マリーが叫んだ。は?
「クロウ、そのようなあられもない姿を、見せてはならぬ」
そうして、かなり慌てた様子の陛下が、制服の上着を脱いで、クロウの肩にかけた。
クロウは袖を通すが、手の先が出ないとか…あ、あざといっ。
「彼シャツならぬ、ブカブカの彼ジャケっ、袖余りっ。尊尊尊尊…」
鼻をおさえるマリーを、手で支えるアイリス。なんなのかしら? この子。
そうするうちに、陛下はクロウをサッとお姫様抱っこして、声をかける隙もなく、食堂を出て行ってしまった。
まさに、電光石火の早業である。
やだぁ、クロウが現れて、これから断罪してやろうと思ったのに。
主役も陛下も退場しちゃったら、なにもできないじゃん?
「マリー嬢、大丈夫ですか? どこか具合が悪いのでは?」
ふらついて、アイリスにしなだれかかるマリーを、心配して。カッツェがたずねるが。
それにアイリスが答える。
「お気遣いなく、カッツェ様。マリー様のこれは、オタクをこじらせた者が、ときどき発症する発作なのです」
そして、アイリスの腕の中でマリーがブツブツ言い出した。キモッ。
「なんてことなの? アイリス。クロウフィーバーがっ、ちゃんと機能しているじゃない? このBL展開は、神回よっ、神回っ。先日の、バラ園でハチに追われてキャッキャウフフの回も、神だったけど。今回のエロヤバいやつは、私の想像を超えたわ。魂抜けるっつうねん」
「バラ園で耐性をつけておいて、良かったですわ? マリー。私なんか、王城で似たやつ見ちゃって、その破壊力に、鼻血の海に沈みましたもの。えぇ、ひとりで乗り越えた私を、褒めてくださいませ」
ふたりでなにやら言っているのを、ぼんやりと見ていたら。
彼女たちがこちらを向いた。な、なによ?
「それよりも、リーリア嬢。ちょっと、私たちとお話しましょうか? シオン様たちは、シャーロット殿下とランチを、先に取っていてくださいませ」
アイリスはそう言い置いて、私を連れて食堂を出て行ったのだ。
人気のない廊下に来たところで、彼女たちと向かい合う。
や、やるの? ビンタ合戦? 毒舌合戦?
でも姫に直接攻撃したら、外交問題になるんだからねっ。
「な、なによ? 私にお説教でもするつもり? でも、クロウ様に指示された、このふたりに、イジメられたわぁって、陛下に言いつけるんだからねっ?」
なにを言われたって、ベソッと泣いて、男にすがれば。コロリと行くのが、男という生き物なんだからね。
そう思っていたら。アイリスとマリーは、顔を見合わせて、ため息をついた。
「なんだか、可哀想になってきたから。早めに教えて差し上げようと思って。貴方、転生者なのよね? アイキンユーザーだけど、それほどヘビーじゃない、くらいの」
アイリスが、そう言うから。
まぁ、そのとおりだから。うなずいたけどっ。
アイリスは、前作の主人公だし。仲間に引き入れれば、利用価値はあると思って。
ちょっとなら、話を聞いてやってもいいわよ?
「それが、なによ?」
「この世界は、そもそもアイキンⅡの発動条件をクリアしていないのよ」
私は、まさかの言葉に、目を丸くした。
は? そんなわけないわ。
アイキンⅡの発動条件は、前作主人公のアイリスが、アルフレドルートを攻略したときに、開くの。
今回は、ちゃんと条件を満たしているはずよ。
実際に、アイキンⅡは開催中じゃないの?
「発動条件は、アイリスが前作でアルフレドを攻略し。陛下の婚約者が悪役侯爵令嬢であること、だわ。でも、クロウフィーバーは、その条件に当てはまらないみたいなのよね?」
「その、クロウフィーバーって、なんなのよ? そんなの聞いたことがないわ?」
この前、アイリスが、そんなことを言っていたけれど。それがなんなのかは、私にはわからない。
そうしたら、マリーが説明してくれた。
「クロウフィーバーは、乙女ゲーも好きだけどBLも好きっ、というアイキンの一部ユーザーに向けて作られた、出現確率五パーセントの、ボーナストラックなの。私が公式に言って、作らせた、幻のレアスチル満載の、神ルートなのよ?」
「ええぇ? 先生が作ったのですか? すごーい」
「プログラミングは、もちろんスタッフだけど。スチルは渾身の出来を、てんこ盛りしたわよっ」
なんか、アイリスとマリーが盛り上がっていて、私は置いてけぼりなんですけど。
「それで、なんでクロウフィーバーだと、条件を満たさないのよ?」
早く教えなさいよ、って気持ちで、牙をむく。
アイリスは慣れた様子で、はいはいとばかりに、説明する。
「クロウフィーバーでは、陛下がクロウ様を溺愛するから。アイキンⅡの発動条件を、クリアできないってわけなの。アイキンⅡでは、陛下はまだ、心に傷を負っていて。婚約者との仲も、うまくいっていないところから始まるでしょう? でもクロウ様が、すでに陛下のお心を、充分に満たして差し上げていて。ラブラブだから。つけ入る隙は、もう無いのよ? つまり、リーリア嬢が、陛下とくっつくのは、ムリっ」
アイリスに、指をさされて、断言されて。私は、ガーンとなった。
「まぁ、私も。マリーに会って、その話を聞くまでは。アイキンⅡが始まったのかと思って、ちょっとクロウ様のことを心配したわ? だから、アイキンにわかユーザーの貴方が、わからなくても、無理ないわね。もしかしたら、うまくやったら、王妃になる確率が、少しはあったのかもしれないけど。まぁ、あの陛下の、クロウ様への溺愛っぷりを見たら、無理だわよねぇ?」
アイリスがそう言い。マリーも訳知り顔で、私に忠告をする。
「さぁ、わかったら、もう、陛下とクロウ様に横槍を入れるのはお控えなさい? 貴方も、公女なのだから。今は、悪役顔まっしぐらだけど。愛され主人公キャラの顔を取り戻したら、どのような殿方からも愛されるでしょう? 早急に路線変更することをおすすめするわ? そうでないと。バッドエンドになっちゃうわよ?」
ペラペラっと、アイキンの裏事情を暴露したふたりは。そのあと、しずしずと食堂へ戻っていった。
その姿を、私はぼんやりとみつめる。
嘘でしょう? そもそも、ゲームが発動していないなんて。
モブが、溺愛とか。信じられないし。
つか、なんで、乙女ゲーにBL要素入れるかなぁ? ないわぁ。
モブを穴に落して、私は意気揚々と、へたくそなスキップをしながら、庭を駆けていく。
万事、おっけー。
これで、モブを陛下の婚約者の座から引きずりおろせるわぁ?
そうしたら、陛下をゲットするのは、もう簡単。難しくても、アルガル公に口添えしてもらえば、楽勝よ。
私以上に、陛下に相応しい女性など、いないのだもの。
食堂につくと、特別席に、すでに陛下とカッツェとシオン様が座っていて。
女性陣も、席についている。
クロウ様、遅いわねぇ…なんて、アイリスは言っているけれど。クロウは待っても来ないわよ?
私は陛下とシオン様の間、クロウの席だったところに座ろうとするけど。
すかさず、シオン様が手でさえぎった。
「公女様、ここは兄上の席ですが」
波打つ、艶やかな黒髪。その前髪からのぞく、鋭い視線が素敵。
でも、今は邪魔しないでくださいね、シオン様。
「陛下にお話があるのです。クロウ様が、私のペンダントを盗んだのですよ?」
「は?」
彼が狼狽した隙に、私はサッと陛下の隣に腰かけた。
シオン様のブモブモが激しいけど、無視無視。
「アルガル公…お父様が、私に持たせてくれたネックレスを、クロウ様が盗んで。ベルナルドに差し上げてしまったの。そして、クロウ様とベルナルドは、仲睦まじく、森へデートに出掛けてしまいましたわ? 盗まれた当事者の私が言うのですもの。嘘じゃなくてよ?」
クロウにとどめを刺すかのごとく、得意げに言ってやったら。
特別席の面々は、黙りこくってしまった。
そうでしょう? ショックよねぇ? クロウ様が浮気なんて。
「公女様は、ご存じないのですね。兄…クロウは。母のペンダントを、ある者に奪われたことで、十年も苦しんできた経緯があるのです。ここにいる者は、そのことを、よくよく知っていますから。兄が貴方のペンダントを盗むなど、するわけがないとわかっていて、貴方の話に、しらけているのですよ」
シオン様が、そんなことを言う。
アイリスや陛下も、白い目で私を見てくるけど。そんなの関係ないわ?
「こ、公女の私が、嘘を言うわけないでしょう? 現に、今、クロウ様もベルナルドもここにいないではありませんか」
「外は今、結構なザーザー降りなのですけど?」
カッツェが、そんなことを言う。
窓の外は、確かに雨がザーザーだけど。そんなの関係ないわ?
「私が見たときは、雨は降っていなかったわ。きっと、森の中で、ラブラブ雨宿りでもしているのでしょう?」
あらあら。穴に落ちただけでなく、雨にも降られるなんて。クロウは運がないわねぇ?
でもモブだから、ドロドロのずぶ濡れになっても、仕方がないわね。
モブの扱いなんて、そんなもんでしょう?
「クロウが盗みを働き、ベルナルドと浮気をしていると、その方向に持っていきたいのだろうが? それはいささか無理のある話だ。ベルナルドは代々、宰相を引き受ける家柄で、彼自身、冷静で、そうそう感情では動かぬ男だ。そのような者が、家の功績を捨て去り、盗品をありがたがり、王妃になるクロウに手を出すなど。考えられないことだ」
ブモ音は鳴っていたけど、それほど私を嫌っていないように見えた、陛下までが。クロウやベルナルドを擁護するようなことを言うから。
ちょいギレしちゃって。声を荒げた。
「陛下まで、私を疑うのですか? 私は隣国の姫よ? その私が、クロウにペンダントを盗まれたと言っているのです。陛下、クロウに罰をお与えくださいっ」
「ペンダントというのは、こちらですか?」
そうして、誰かが、私の目の前に、私のペンダントを置いた。
振り向くと、アルフレドが。薄青の瞳に冷たい色を乗せて、私を見下ろしていた。
「陛下、私の部下からの報告です。クロウ様とベルナルド様は、そちらの公女様に、落とし穴に落されました。幸い、クロウ様の魔法によって、すぐに脱出したのですが。制服が汚れたとのことで。今は、お着替えの最中でございます」
「なに? クロウにケガはないか?」
「ベルナルド様が、身を挺して庇われたので。大事ありません。そちらのペンダントは、その折に公女様が落とされた品でございます。お父様からいただいたものは大事にしなければ、とクロウ様が仰せで。いち早く届けさせていただきました」
「う、嘘よ。この人は、クロウの仲間でしょ? 私を貶めようとしているのよ」
陛下がなにかを言う前に、言い訳して、話を戻そうとしたけど。
そこに、のん気な声がかかる。
「ランチに遅れて、申し訳ありませぇん」
私の背後に現れたのは、体操着姿のクロウだった。
それも、夏仕様の、半そで、短パン。
スラリとした細身の足が伸び、ピンクの膝頭が見えている。
胸の前には、名の入ったゼッケンが縫い付けられていて。カザレニアの単語と単語の間をつなぐ、前世的に言えばひらがな的な使われ方をするヒラ型という文字で『くろう』と書かれている。
あ、あざといっ。
「ショタクロッ、それを愛でる陛下っ、激萌えっ」
マリーが叫んだ。は?
「クロウ、そのようなあられもない姿を、見せてはならぬ」
そうして、かなり慌てた様子の陛下が、制服の上着を脱いで、クロウの肩にかけた。
クロウは袖を通すが、手の先が出ないとか…あ、あざといっ。
「彼シャツならぬ、ブカブカの彼ジャケっ、袖余りっ。尊尊尊尊…」
鼻をおさえるマリーを、手で支えるアイリス。なんなのかしら? この子。
そうするうちに、陛下はクロウをサッとお姫様抱っこして、声をかける隙もなく、食堂を出て行ってしまった。
まさに、電光石火の早業である。
やだぁ、クロウが現れて、これから断罪してやろうと思ったのに。
主役も陛下も退場しちゃったら、なにもできないじゃん?
「マリー嬢、大丈夫ですか? どこか具合が悪いのでは?」
ふらついて、アイリスにしなだれかかるマリーを、心配して。カッツェがたずねるが。
それにアイリスが答える。
「お気遣いなく、カッツェ様。マリー様のこれは、オタクをこじらせた者が、ときどき発症する発作なのです」
そして、アイリスの腕の中でマリーがブツブツ言い出した。キモッ。
「なんてことなの? アイリス。クロウフィーバーがっ、ちゃんと機能しているじゃない? このBL展開は、神回よっ、神回っ。先日の、バラ園でハチに追われてキャッキャウフフの回も、神だったけど。今回のエロヤバいやつは、私の想像を超えたわ。魂抜けるっつうねん」
「バラ園で耐性をつけておいて、良かったですわ? マリー。私なんか、王城で似たやつ見ちゃって、その破壊力に、鼻血の海に沈みましたもの。えぇ、ひとりで乗り越えた私を、褒めてくださいませ」
ふたりでなにやら言っているのを、ぼんやりと見ていたら。
彼女たちがこちらを向いた。な、なによ?
「それよりも、リーリア嬢。ちょっと、私たちとお話しましょうか? シオン様たちは、シャーロット殿下とランチを、先に取っていてくださいませ」
アイリスはそう言い置いて、私を連れて食堂を出て行ったのだ。
人気のない廊下に来たところで、彼女たちと向かい合う。
や、やるの? ビンタ合戦? 毒舌合戦?
でも姫に直接攻撃したら、外交問題になるんだからねっ。
「な、なによ? 私にお説教でもするつもり? でも、クロウ様に指示された、このふたりに、イジメられたわぁって、陛下に言いつけるんだからねっ?」
なにを言われたって、ベソッと泣いて、男にすがれば。コロリと行くのが、男という生き物なんだからね。
そう思っていたら。アイリスとマリーは、顔を見合わせて、ため息をついた。
「なんだか、可哀想になってきたから。早めに教えて差し上げようと思って。貴方、転生者なのよね? アイキンユーザーだけど、それほどヘビーじゃない、くらいの」
アイリスが、そう言うから。
まぁ、そのとおりだから。うなずいたけどっ。
アイリスは、前作の主人公だし。仲間に引き入れれば、利用価値はあると思って。
ちょっとなら、話を聞いてやってもいいわよ?
「それが、なによ?」
「この世界は、そもそもアイキンⅡの発動条件をクリアしていないのよ」
私は、まさかの言葉に、目を丸くした。
は? そんなわけないわ。
アイキンⅡの発動条件は、前作主人公のアイリスが、アルフレドルートを攻略したときに、開くの。
今回は、ちゃんと条件を満たしているはずよ。
実際に、アイキンⅡは開催中じゃないの?
「発動条件は、アイリスが前作でアルフレドを攻略し。陛下の婚約者が悪役侯爵令嬢であること、だわ。でも、クロウフィーバーは、その条件に当てはまらないみたいなのよね?」
「その、クロウフィーバーって、なんなのよ? そんなの聞いたことがないわ?」
この前、アイリスが、そんなことを言っていたけれど。それがなんなのかは、私にはわからない。
そうしたら、マリーが説明してくれた。
「クロウフィーバーは、乙女ゲーも好きだけどBLも好きっ、というアイキンの一部ユーザーに向けて作られた、出現確率五パーセントの、ボーナストラックなの。私が公式に言って、作らせた、幻のレアスチル満載の、神ルートなのよ?」
「ええぇ? 先生が作ったのですか? すごーい」
「プログラミングは、もちろんスタッフだけど。スチルは渾身の出来を、てんこ盛りしたわよっ」
なんか、アイリスとマリーが盛り上がっていて、私は置いてけぼりなんですけど。
「それで、なんでクロウフィーバーだと、条件を満たさないのよ?」
早く教えなさいよ、って気持ちで、牙をむく。
アイリスは慣れた様子で、はいはいとばかりに、説明する。
「クロウフィーバーでは、陛下がクロウ様を溺愛するから。アイキンⅡの発動条件を、クリアできないってわけなの。アイキンⅡでは、陛下はまだ、心に傷を負っていて。婚約者との仲も、うまくいっていないところから始まるでしょう? でもクロウ様が、すでに陛下のお心を、充分に満たして差し上げていて。ラブラブだから。つけ入る隙は、もう無いのよ? つまり、リーリア嬢が、陛下とくっつくのは、ムリっ」
アイリスに、指をさされて、断言されて。私は、ガーンとなった。
「まぁ、私も。マリーに会って、その話を聞くまでは。アイキンⅡが始まったのかと思って、ちょっとクロウ様のことを心配したわ? だから、アイキンにわかユーザーの貴方が、わからなくても、無理ないわね。もしかしたら、うまくやったら、王妃になる確率が、少しはあったのかもしれないけど。まぁ、あの陛下の、クロウ様への溺愛っぷりを見たら、無理だわよねぇ?」
アイリスがそう言い。マリーも訳知り顔で、私に忠告をする。
「さぁ、わかったら、もう、陛下とクロウ様に横槍を入れるのはお控えなさい? 貴方も、公女なのだから。今は、悪役顔まっしぐらだけど。愛され主人公キャラの顔を取り戻したら、どのような殿方からも愛されるでしょう? 早急に路線変更することをおすすめするわ? そうでないと。バッドエンドになっちゃうわよ?」
ペラペラっと、アイキンの裏事情を暴露したふたりは。そのあと、しずしずと食堂へ戻っていった。
その姿を、私はぼんやりとみつめる。
嘘でしょう? そもそも、ゲームが発動していないなんて。
モブが、溺愛とか。信じられないし。
つか、なんで、乙女ゲーにBL要素入れるかなぁ? ないわぁ。
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