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2-38 ガラスの階段を駆け上がる、ぼく
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◆ガラスの階段を駆け上がる、ぼく
学園の生徒が一堂に会することが出来る、大きなパーティー会場。
高い天井には、大きくて豪華なシャンデリアが、ぶら下がっているが。
その水晶に、頭がかするくらいに大きな、ピンクの熊が出現した。
それは公女が、魔力を暴走させて、変化してしまった姿だ。
ぼくは咄嗟に、氷のドラゴンを出して、対抗したけれど。
魔力の多さが、拮抗しているみたいで。
ピンクの熊とぼくのドラゴンは、会場の中でがっぷりよつに組んで、お相撲状態だ。
お互いに一歩も引かない、膠着した状態が続いている。
これは、大変です。さすが、アイキンの主人公ちゃんだけはあるね?
前作主人公のアイリスも、魔力は膨大ですからね?
公女も、アイキンⅡの主人公として、多大な魔力を秘めていたということなのでしょう。
だが、だが、冷静に分析している場合ではありません。
ぼくがドラゴンで押しとどめているうちに、多くの生徒は避難できましたが。
このままでは、せっかくのパーティー会場が、ぐちゃぐちゃになってしまいます。
そして、熊がガオー。ドラゴンがアンギャ―で。収拾がつきませんっ。
「マリー、これがバッドエンドだって知っているなら。これからどうしたらいいのかも、わかる?」
アイキンⅡは、ぼくもアイリスもやったことのないゲームなのだ。
まぁ、なんとなく。公女が陛下を攻略して、王妃になったら、ハッピーエンド、なことくらいはわかるのですが。
バッドエンドの向こう側は、ぼくらは知らないからね。
でも、マリーはアイキンⅡを監修した、畑野こやし先生なのだ。
主人公が、ピンクの熊になっちゃうバッドエンドを知っている先生なら、この先になにがあるのかも、知っているかもしれない。
マリーは小首を傾げて、考えている。
「えっとねぇ、前作主人公がここで登場して、聖魔法で、主人公の魔力を全開放して。空に解き放つのよ? アイキンⅡでのアイリスの出番は、そこだけなのぉ」
マリーの助言を受け、ぼくはアイリスを見やる。
それにしても、公式さん。前回主人公のアイリスを、ないがしろにし過ぎではありませんか?
もう少し、セリフとか、見せ場とか、アイリスにもあげてください。
みんなが、アイリスに注目する中。
アイリスは、背筋を伸ばして、告げた。
「聖魔法で、魔力を解放することは、出来ます。でも、それをしたら、公女様は魔力を溜め込むまで、ただの少女になってしまいますわ? おそらく、何年も大事に溜め込んできた魔力なのでしょう。だから、クロウ様に匹敵するほど膨大なのですわ?」
「仕方がない。カザレニア国民に被害があってはならないからな。アイリス、公女の魔力を解放しろ。責任は我が取る」
アイリスの説明に、陛下はうなずくが。まだ、アイリスは渋った。
「でも、それをするには、彼女に長く触れないとなりません。相撲を取る熊の足にしがみつくのは、怖いのですけどぉ?」
陛下は、相撲はわからないながらも、アイリスの怖い気持ちは理解したようだ。
それに、我が国の聖女様を、危険な目にあわせられないのも、そうだよねぇ、って思う。
あ、そうだ。
「それは、ぼくにお任せを。陛下、マントをお借りしたいのですが?」
ぼくが言うと、いつの間にかそばに来ていたラヴェルが、陛下のマントを外してくれた。
よく見たら、セドリックもシヴァーディも、陛下のそばで守護していて。
アルフレドはアイリスのエスコートをしているし。
これは、アイキンⅠとⅡのキャラ、勢ぞろいではありませんかぁ?
ぼくも、ドキドキワクワクするのに。
生みの親である畑野こやし先生…マリーは、アワアワと泡を吹く寸前です。
「どうするのだ? クロウ」
ドラゴンの制御で、手が離せないぼくに、陛下はマントを渡してくれた。
「ドラゴンは、氷でできているのです。だから、変幻自在なのです」
そう説明したぼくは、ドラゴンの、尻尾から背びれの部分を階段状にして、頭までのぼりやすく作り替えた。
マントを手にしたぼくは、アイリスと手をつないで、階段を駆け上がっていく。
タタタッと軽やかに、ドレスの裾を持ち上げて、アイリスが透明な氷の階段を駆け上がっていく。
ぼくは、階段を登るのに、ドレスの裾を踏んじゃいそうで、ちょっともたもたしていたから。少し後ろから、アイリスの姿を見ていた。
それで、なんか、デジャブだったんだよな?
この光景、どこかで見たことのあるような…。
でも、こんなこと、実際に起こることなんかない事象だけどなぁ。
なんて、思っていたけど。ひらめいた。
あ、あ、これ。
街中で、魔女っ娘に占ってもらったときに出た、オラクルカードの絵柄と同じだ。
ガラスの階段を駆け上がる乙女。その階段の上には、希望しかない。
そういう気持ちで、ドレスをたくし上げて、無邪気に階段を登っているのだ。
今、アイリスは。
もしかしたらぼくも。
階段下のみんなの目には、そう映っているのかもしれない。
あの絵柄の乙女のごとく、ドレスをたくし上げ、ガラスの階段を駆け上がる、ぼく。みたいな?
印象に残ったカードではあったが。まさか。この場面が現実に起こりうるとはねぇ?
そうして、ドラゴンの頭までたどり着いた、アイリスは。
熊の耳の後ろに生えているツインテールを両手掴んで。叫んだ。
「アイリスのぉぉぉ、魔力解放ぅぅぅ」
白く輝く聖なるオーラが、アイリスの周りに光り輝いて。そのまばゆさに、目を開けていられなくなるほどだ。
つか、アイリス。必殺技の名前を、考えつかなかったんだね?
聖魔法は、熊の頭から、ピンクの星の欠片をあふれ出させた。
あの星は、主人公ちゃんⅡの、魔力の具現化だ。
星の形になっている、彼女の魔力が。会場の、空いている窓から外に流れ出て。暗闇をキラキラと、ほのピンク色に照らす。
外に避難していた生徒たちが。空を指差し、その光景を見て、奇跡だ、と。大はしゃぎする声が聞こえた。
そうして、魔力が全部解放された公女は。元の、小さい少女の姿に戻り。
ドラゴンは、彼女を優しく抱き止めた。
熊になったことで、ショッキングピンクのドレスは、当たり前だが破けてしまったので。
陛下の黒マントを、アイリスに預けて。それで彼女の体を包んでもらった。
公女様に恥をかかせられませんからね?
ドラゴンが慎重な手つきで、アイリスと公女を床に下ろすのを確認して。
それからぼくは、背びれを滑り台みたいに変えて、するするストンと、床に着地した。
だって、氷の階段なんか、ドレス姿で降りられないよ。怖くて。
絶対にコケて、怪我するじゃん?
滑り台が最高だよ。
結構高くて、急な斜面だから、なかなかスリリングだったけどね?
一瞬気を失っていた公女が、アイリスの腕の中で目を覚ます。
そして、自分が布一枚だけをまとった格好なのに気づいて。キャーキャー言い始めた。
「やだぁ、なんで裸? つかっ、ま、魔力がっ、魔力が感じられないわぁ? ひどいぃ。私、幼い頃に、アイキンのリーリアになっているって知ったときから、魔力を一生懸命、溜め込んできたっていうのにぃ。全部。全部、ないわぁ?」
ぼくの感覚では。魔力は、体の奥からあふれ出てくるもので、それを溜め込むという感覚が、よくわからないのだ。
なんというか。魔力を溜め込むという行為は、息を止めて我慢する、あの感覚に似ている。
ずっとは、無理。
「どうしてくれるのよぉ? カザレニア王家の一員になるために、相応の魔力を蓄えておいたのに。アイリスのせいで、全部パァだわ?」
「いえ、私がどうではなく、リーリア様に、王妃は無理ですから」
冷静に、アイリスがツッコむが。公女にその声は届かない。
というか、聞きゃぁしない。
「ちょっとぉ、なんで、私、裸なのよぉ? こんな殿方たちの前で布一枚とか。もう、お嫁に行けないじゃない? 陛下、責任を取って、結婚してください」
矛先をアイリスから陛下に変えて、また、公女が、大きくあびせ倒してきたよ。
なんか、表現がずっと、相撲チックですみません。でも、あびせてきたぁって感じだから?
しかし、その攻撃を。陛下はさらりとかわす。
「…無理だ」
半目、ジト目で、さすがの陛下もあきれ顔です。
つか、その顔はレアですよ? オタクは推しがどんな顔をしていても、レアなら嬉しいってもんです。
ってか、ここは『がえんじない』じゃないんだ。もう、飽きた?
それともアイキンⅡが、正式に終了したってことなのかもな? それは朗報です。
あれですか? 公女がピンクの熊になって暴れまくっているとき、それにかぶせてバッドエンド表示、さらにスタッフのエンドロールが流れる。みたいな感じですかね?
だから、そのあとはもう、エンディング終了後、みたいな感じなのですかね?
よっしゃ。と、ぼくは人知れず拳を握ったのだった。
そこに、アルガル国の使者が会場に入ってきて。
陛下にペコペコ謝りながら、公女を連れて行こうとする。
「陛下、みなさま。この度は、本当に、誠に、申し訳ございません。とにもかくにも、申し訳ありませんんん」
「なによ。ちょっと、引っ張らないでよ。まだ、話があるのよぉ。もうちょっとで、陛下と結婚できそうなのぉ」
マント一枚の公女を会場から連れ出そうとする使者の背中に。陛下は言った。
「使者よ。無理だからな」
「もちろんでございます。承知しております。無理なことは、理解しておりますぅぅぅ」
ぅぅ、と後を引きながら。使者と公女は会場を出て行った。
ホッ。もう、心底、ホッである。
そうしたら、ぼくの気持ちの同調するように、ドラゴンがため息のように『アンギャっ』と言った。
あ、ドラゴン消さなきゃ。
その前に、ちょっと労ってあげよう。
「ドラゴン、ありがとう。とっても助かったよ?」
でも、ドラゴンは。ぼくの言葉に反応せず。
陛下に、そっと近寄って。モジモジするのだった。
なにぃ? ぼくじゃなくて、陛下から労われたいって、そういうことぉ?
「あの…陛下。よろしければ。ドラゴンに労いのお言葉を…」
氷の集合体のくせに、なにやら頬を染めて、期待に目を光らせるドラゴン。
いやぁぁぁ、なんか、自分を見ているようで、いやぁぁぁ。
「あぁ、ドラゴン。世話になった。愛してるぞ」
陛下は、とびっきりの麗しい微笑みで、そう言った。
ギャーーっ、そ、そこまでしなくてもいいのにぃ。
そうしたら、やっぱり、ドラゴンは悩殺されて。
短い手を頬に添えて、アンギャ―――ッ、になった。
ですよね。もう回収しましょう。
ぼくは指をさして、ドラゴンを消した。
最後は、とっても幸せそうな笑顔だったので。うん。良かったんじゃね?
「………まぁ、終わったな。というか。夜会はこれからだな? それほど会場も荒れていないし。カッツェ、ベルナルド、生徒たちを呼び戻し、我らの卒業記念パーティーを続行するよう、指示してくれ」
カッツェたちはうなずいて、そのように行動し。
やがて、生徒たちがぞろぞろと、会場に戻ってきた。
夜の闇に、ピンクの星がきらめいて。外に避難した生徒たちは、それなりに宴を楽しんでおり。
怖い目にあったけれど、それほど恐怖が後を引くものではなかったみたいで、安心しました。
それで、ぼくたち卒業生は。
最後の学園での生活を、美味しいものを食べ、踊り明かし、楽しんで、満喫したのだった。
たぶんだけど、アイキンⅡも、なんとか終わったみたいで。
陛下が心変わりすることもなく、みんながぼくを忘れちゃうようなこともなく。
ゲームの強制力は、女装イベくらいで済んだから。まぁ良し、という感じで。
無事に、結婚式を迎えられそうです。
ってことは、アイキンⅡは、悪役令嬢ポジのぼくが攻略したってことでいいのかな? やったね!
学園の生徒が一堂に会することが出来る、大きなパーティー会場。
高い天井には、大きくて豪華なシャンデリアが、ぶら下がっているが。
その水晶に、頭がかするくらいに大きな、ピンクの熊が出現した。
それは公女が、魔力を暴走させて、変化してしまった姿だ。
ぼくは咄嗟に、氷のドラゴンを出して、対抗したけれど。
魔力の多さが、拮抗しているみたいで。
ピンクの熊とぼくのドラゴンは、会場の中でがっぷりよつに組んで、お相撲状態だ。
お互いに一歩も引かない、膠着した状態が続いている。
これは、大変です。さすが、アイキンの主人公ちゃんだけはあるね?
前作主人公のアイリスも、魔力は膨大ですからね?
公女も、アイキンⅡの主人公として、多大な魔力を秘めていたということなのでしょう。
だが、だが、冷静に分析している場合ではありません。
ぼくがドラゴンで押しとどめているうちに、多くの生徒は避難できましたが。
このままでは、せっかくのパーティー会場が、ぐちゃぐちゃになってしまいます。
そして、熊がガオー。ドラゴンがアンギャ―で。収拾がつきませんっ。
「マリー、これがバッドエンドだって知っているなら。これからどうしたらいいのかも、わかる?」
アイキンⅡは、ぼくもアイリスもやったことのないゲームなのだ。
まぁ、なんとなく。公女が陛下を攻略して、王妃になったら、ハッピーエンド、なことくらいはわかるのですが。
バッドエンドの向こう側は、ぼくらは知らないからね。
でも、マリーはアイキンⅡを監修した、畑野こやし先生なのだ。
主人公が、ピンクの熊になっちゃうバッドエンドを知っている先生なら、この先になにがあるのかも、知っているかもしれない。
マリーは小首を傾げて、考えている。
「えっとねぇ、前作主人公がここで登場して、聖魔法で、主人公の魔力を全開放して。空に解き放つのよ? アイキンⅡでのアイリスの出番は、そこだけなのぉ」
マリーの助言を受け、ぼくはアイリスを見やる。
それにしても、公式さん。前回主人公のアイリスを、ないがしろにし過ぎではありませんか?
もう少し、セリフとか、見せ場とか、アイリスにもあげてください。
みんなが、アイリスに注目する中。
アイリスは、背筋を伸ばして、告げた。
「聖魔法で、魔力を解放することは、出来ます。でも、それをしたら、公女様は魔力を溜め込むまで、ただの少女になってしまいますわ? おそらく、何年も大事に溜め込んできた魔力なのでしょう。だから、クロウ様に匹敵するほど膨大なのですわ?」
「仕方がない。カザレニア国民に被害があってはならないからな。アイリス、公女の魔力を解放しろ。責任は我が取る」
アイリスの説明に、陛下はうなずくが。まだ、アイリスは渋った。
「でも、それをするには、彼女に長く触れないとなりません。相撲を取る熊の足にしがみつくのは、怖いのですけどぉ?」
陛下は、相撲はわからないながらも、アイリスの怖い気持ちは理解したようだ。
それに、我が国の聖女様を、危険な目にあわせられないのも、そうだよねぇ、って思う。
あ、そうだ。
「それは、ぼくにお任せを。陛下、マントをお借りしたいのですが?」
ぼくが言うと、いつの間にかそばに来ていたラヴェルが、陛下のマントを外してくれた。
よく見たら、セドリックもシヴァーディも、陛下のそばで守護していて。
アルフレドはアイリスのエスコートをしているし。
これは、アイキンⅠとⅡのキャラ、勢ぞろいではありませんかぁ?
ぼくも、ドキドキワクワクするのに。
生みの親である畑野こやし先生…マリーは、アワアワと泡を吹く寸前です。
「どうするのだ? クロウ」
ドラゴンの制御で、手が離せないぼくに、陛下はマントを渡してくれた。
「ドラゴンは、氷でできているのです。だから、変幻自在なのです」
そう説明したぼくは、ドラゴンの、尻尾から背びれの部分を階段状にして、頭までのぼりやすく作り替えた。
マントを手にしたぼくは、アイリスと手をつないで、階段を駆け上がっていく。
タタタッと軽やかに、ドレスの裾を持ち上げて、アイリスが透明な氷の階段を駆け上がっていく。
ぼくは、階段を登るのに、ドレスの裾を踏んじゃいそうで、ちょっともたもたしていたから。少し後ろから、アイリスの姿を見ていた。
それで、なんか、デジャブだったんだよな?
この光景、どこかで見たことのあるような…。
でも、こんなこと、実際に起こることなんかない事象だけどなぁ。
なんて、思っていたけど。ひらめいた。
あ、あ、これ。
街中で、魔女っ娘に占ってもらったときに出た、オラクルカードの絵柄と同じだ。
ガラスの階段を駆け上がる乙女。その階段の上には、希望しかない。
そういう気持ちで、ドレスをたくし上げて、無邪気に階段を登っているのだ。
今、アイリスは。
もしかしたらぼくも。
階段下のみんなの目には、そう映っているのかもしれない。
あの絵柄の乙女のごとく、ドレスをたくし上げ、ガラスの階段を駆け上がる、ぼく。みたいな?
印象に残ったカードではあったが。まさか。この場面が現実に起こりうるとはねぇ?
そうして、ドラゴンの頭までたどり着いた、アイリスは。
熊の耳の後ろに生えているツインテールを両手掴んで。叫んだ。
「アイリスのぉぉぉ、魔力解放ぅぅぅ」
白く輝く聖なるオーラが、アイリスの周りに光り輝いて。そのまばゆさに、目を開けていられなくなるほどだ。
つか、アイリス。必殺技の名前を、考えつかなかったんだね?
聖魔法は、熊の頭から、ピンクの星の欠片をあふれ出させた。
あの星は、主人公ちゃんⅡの、魔力の具現化だ。
星の形になっている、彼女の魔力が。会場の、空いている窓から外に流れ出て。暗闇をキラキラと、ほのピンク色に照らす。
外に避難していた生徒たちが。空を指差し、その光景を見て、奇跡だ、と。大はしゃぎする声が聞こえた。
そうして、魔力が全部解放された公女は。元の、小さい少女の姿に戻り。
ドラゴンは、彼女を優しく抱き止めた。
熊になったことで、ショッキングピンクのドレスは、当たり前だが破けてしまったので。
陛下の黒マントを、アイリスに預けて。それで彼女の体を包んでもらった。
公女様に恥をかかせられませんからね?
ドラゴンが慎重な手つきで、アイリスと公女を床に下ろすのを確認して。
それからぼくは、背びれを滑り台みたいに変えて、するするストンと、床に着地した。
だって、氷の階段なんか、ドレス姿で降りられないよ。怖くて。
絶対にコケて、怪我するじゃん?
滑り台が最高だよ。
結構高くて、急な斜面だから、なかなかスリリングだったけどね?
一瞬気を失っていた公女が、アイリスの腕の中で目を覚ます。
そして、自分が布一枚だけをまとった格好なのに気づいて。キャーキャー言い始めた。
「やだぁ、なんで裸? つかっ、ま、魔力がっ、魔力が感じられないわぁ? ひどいぃ。私、幼い頃に、アイキンのリーリアになっているって知ったときから、魔力を一生懸命、溜め込んできたっていうのにぃ。全部。全部、ないわぁ?」
ぼくの感覚では。魔力は、体の奥からあふれ出てくるもので、それを溜め込むという感覚が、よくわからないのだ。
なんというか。魔力を溜め込むという行為は、息を止めて我慢する、あの感覚に似ている。
ずっとは、無理。
「どうしてくれるのよぉ? カザレニア王家の一員になるために、相応の魔力を蓄えておいたのに。アイリスのせいで、全部パァだわ?」
「いえ、私がどうではなく、リーリア様に、王妃は無理ですから」
冷静に、アイリスがツッコむが。公女にその声は届かない。
というか、聞きゃぁしない。
「ちょっとぉ、なんで、私、裸なのよぉ? こんな殿方たちの前で布一枚とか。もう、お嫁に行けないじゃない? 陛下、責任を取って、結婚してください」
矛先をアイリスから陛下に変えて、また、公女が、大きくあびせ倒してきたよ。
なんか、表現がずっと、相撲チックですみません。でも、あびせてきたぁって感じだから?
しかし、その攻撃を。陛下はさらりとかわす。
「…無理だ」
半目、ジト目で、さすがの陛下もあきれ顔です。
つか、その顔はレアですよ? オタクは推しがどんな顔をしていても、レアなら嬉しいってもんです。
ってか、ここは『がえんじない』じゃないんだ。もう、飽きた?
それともアイキンⅡが、正式に終了したってことなのかもな? それは朗報です。
あれですか? 公女がピンクの熊になって暴れまくっているとき、それにかぶせてバッドエンド表示、さらにスタッフのエンドロールが流れる。みたいな感じですかね?
だから、そのあとはもう、エンディング終了後、みたいな感じなのですかね?
よっしゃ。と、ぼくは人知れず拳を握ったのだった。
そこに、アルガル国の使者が会場に入ってきて。
陛下にペコペコ謝りながら、公女を連れて行こうとする。
「陛下、みなさま。この度は、本当に、誠に、申し訳ございません。とにもかくにも、申し訳ありませんんん」
「なによ。ちょっと、引っ張らないでよ。まだ、話があるのよぉ。もうちょっとで、陛下と結婚できそうなのぉ」
マント一枚の公女を会場から連れ出そうとする使者の背中に。陛下は言った。
「使者よ。無理だからな」
「もちろんでございます。承知しております。無理なことは、理解しておりますぅぅぅ」
ぅぅ、と後を引きながら。使者と公女は会場を出て行った。
ホッ。もう、心底、ホッである。
そうしたら、ぼくの気持ちの同調するように、ドラゴンがため息のように『アンギャっ』と言った。
あ、ドラゴン消さなきゃ。
その前に、ちょっと労ってあげよう。
「ドラゴン、ありがとう。とっても助かったよ?」
でも、ドラゴンは。ぼくの言葉に反応せず。
陛下に、そっと近寄って。モジモジするのだった。
なにぃ? ぼくじゃなくて、陛下から労われたいって、そういうことぉ?
「あの…陛下。よろしければ。ドラゴンに労いのお言葉を…」
氷の集合体のくせに、なにやら頬を染めて、期待に目を光らせるドラゴン。
いやぁぁぁ、なんか、自分を見ているようで、いやぁぁぁ。
「あぁ、ドラゴン。世話になった。愛してるぞ」
陛下は、とびっきりの麗しい微笑みで、そう言った。
ギャーーっ、そ、そこまでしなくてもいいのにぃ。
そうしたら、やっぱり、ドラゴンは悩殺されて。
短い手を頬に添えて、アンギャ―――ッ、になった。
ですよね。もう回収しましょう。
ぼくは指をさして、ドラゴンを消した。
最後は、とっても幸せそうな笑顔だったので。うん。良かったんじゃね?
「………まぁ、終わったな。というか。夜会はこれからだな? それほど会場も荒れていないし。カッツェ、ベルナルド、生徒たちを呼び戻し、我らの卒業記念パーティーを続行するよう、指示してくれ」
カッツェたちはうなずいて、そのように行動し。
やがて、生徒たちがぞろぞろと、会場に戻ってきた。
夜の闇に、ピンクの星がきらめいて。外に避難した生徒たちは、それなりに宴を楽しんでおり。
怖い目にあったけれど、それほど恐怖が後を引くものではなかったみたいで、安心しました。
それで、ぼくたち卒業生は。
最後の学園での生活を、美味しいものを食べ、踊り明かし、楽しんで、満喫したのだった。
たぶんだけど、アイキンⅡも、なんとか終わったみたいで。
陛下が心変わりすることもなく、みんながぼくを忘れちゃうようなこともなく。
ゲームの強制力は、女装イベくらいで済んだから。まぁ良し、という感じで。
無事に、結婚式を迎えられそうです。
ってことは、アイキンⅡは、悪役令嬢ポジのぼくが攻略したってことでいいのかな? やったね!
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