【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-エピローグ ①

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     ◆エピローグ

 卒業式の翌日。アルガル公国第三公女、リーリア・アルガルは、再び王宮への呼出し命令を下された。
 ぼくと陛下が、謁見の間に入ると。彼女は使者とともに、すでにその場にいた。
 今回は、さすがにきらびやかなドレスと宝石に包まれた、装いではなく。フリルのない、紺色のドレスに身を包んでいる。

 いや、そこまでしなくてもいいんだけど。
 玉座に座る陛下の、その隣の椅子に。居所のないような気持ちで、ちょこんと腰かけている、ぼくは。そんなことを思っていた。

 そういう、ぼくの装いは。今日も、陛下とおそろいです。
 ちょっと赤みがかった、濃いブラウン。
 落ち着いた色合いの衣装なので、これならぼくも浮くことはない、かな? なんて思ったけれど。
 ぼくが着ると、なんでか、七五三? みたいな?

 まぁ、みんな陛下を見ているだろうから、いいです。
 大丈夫です。お気になさらず。

 この服を、身につけたとき。陛下はぼくを見て、言った。
「やはり、この装いの方が、ホッとする。昨夜のドレスは、それは、それは、美しかったが。背中のほくろとか、エロい背筋とか、本当は、我以外の誰にも見せたくないのだ。だから、かっちりした、肌を見せないこの礼装の方が、我は嬉しい。いや、公の席でのドレスは、今後禁止にしよう」
「言われなくても、あのような格好は、二度といたしませんよ。あれは、一回きりの、気の迷いですっ」

 そう、絶対に、アイキンのゲームの強制力に、巻き込まれたに違いない。
 そうでなければ、このぼくが、レイヤーまがいの女装などするわけがないのです。
 しかも、ハルルン。
 なんと大それたことをぉ…。

「そうなのか? 言い切られると、それはそれで、惜しい気になるな」
 陛下は、ほんのちょっとだけ、眉尻を下げた。
 どないやねんっ、と胸の奥でツッコんでおいた。
 もちろん、陛下にツッコミなどいれませんよ? 胸の奥の奥の奥で、です。

 それはさておき。ぼくは陛下の隣。つまり、王妃の座についているのだが。
 まだ結婚していないのに、い、良いのでしょうか?
 王妃様とシャーロットが、一段下なのが。本当に心苦しい限りです。

 前に、この謁見の間で公女と相対したときは。自分ががっつり当事者だったので。陛下の隣でも、いいのかなぁとは思ったのだが。
 それでも、恐縮しきりだった。
 でも、今回は。マジで、次期王妃という立場で、ここにいる。

 あぁ、まだ全然慣れません。つか、慣れる気がしません。
 そう思っていたところに。陛下の低い美声が、おごそかに室内に響き渡った。

「リーリア・アルガル第三公女。そなたは、一度ならず二度までも、が婚約者である、クロウ・バジリスク公爵子息の身を脅かした。卒業記念の夜会に出席した多くの者が、それを目撃している。よって、本国への帰還を命じる」
「陛下。ひとつだけ。どうか質問にお答え願えないでしょうか?」

 カーテシーをしたまま、頭を上げていない公女が。陛下に願い出る。
 王は、それに応える義務はないが。陛下はお優しいから。許してしまうのだろう。
「よい。顔をあげよ」
 陛下の許しを得て、公女は顔を上げ。そして、陛下とぼくを、交互にみつめた。

「お世継ぎを、いかがなされるおつもりなのですか? 王族は血脈を子々孫々へつなげることを責務としているのではないのですか? わ、私は。必ず陛下のお力になれます。魔力は一度、奪われましたが。すぐに溜められます。もう、王妃の座を狙ったりいたしません。クロウ様が王妃で、私は側室で、構いませんから。ただ、カザレニア国の国母になれたら、それで、良いので。後宮の奥に閉じこもっても構いません。だから、御一考願えませんでしょうか?」

 リーリアは、お願いッとばかりに、両手を組んで、陛下の言葉を待った。
 しかし、陛下の答えは、にべもない。

「世継ぎのことを、そなたに話す義務はない。しかし、公の場で、われの意思を伝えるのは、良い機会であるので。述べる。我は、クロウと話し合い。彼以外の誰もめとらないと決めた。後継は、第一王位継承者のシャーロットである。結婚後に、我らが養子を取るなどをして、継承権が移ることはあるかもしれないが。それはリーリア嬢には関係ないこと。そして、普通に考えて、クロウを脅かしたそなたを、後宮に入れるなど、あり得ない」

「クロウ様とは、二度と顔を合わせないようにいたします」
「くどい。はっきり言わないとわからないのか? 我はそなた相手に…」
 ぼくは、不敬だと思いつつも、陛下の口を手でふさいだ。
 でも、グッジョブだと思いますっ。

「陛下、重臣たちの前で、勃つとか、言わないですよね? ねぇっ?」
 こそこそと、陛下をたしなめる。
 陛下は、不満げな顔をぼくに向けるが。こそこそで返した。

「あの勘違い公女は、いつまでも勘違いをしていて、腹立たしい。我は、公女のことなど毛ほども興味がないのだ。はっきりと、勃たないと。宣言してやった方が、親切であろう?」
「それはそうかもしれませんが。大勢の前で女性に勃たないなんて言ったら、セクハラ…えぇと、女性の尊厳が崩壊というか。のちのちまで恨みをつのらせて、執着されてしまいますよ? 怨恨による殺人事件、怨嗟による呪い、などなど。女性を怒らせると修羅の妄執でドロドロございますよぉ?」

 できるだけ、おどろおどろしく言ったら。
 陛下も、ちょっと引いた。
「む、クロウが害される恐れは、避けたいが。しかし。我は、クロウ以外には勃たないのだ。クロウじゃないと駄目なのだ」
「それを、言ってくださいませ。オブラートに包んで。…どうぞっ」

 口をへの字に曲げた陛下は。玉座に居住まいを正し。
 身を乗り出していたぼくも、席に座り直した。
 ひとつ咳払いをした陛下は、もう一度、厳かを立て直して、告げる。

「ゴホン。あぁ…リーリア嬢。何度も言うようだが。我は、クロウ以外を愛することはなく。愛情を持たぬ者をそばに置く気もない」
 リーリアに向けて、そう言い。
 今度は、ぼくに顔を向けて。熱く告げた。

「愛している。クロウしか目に入らぬのだ。抱…我が触れるのはクロウだけである」

 抱ける、か。抱きたい、か。言いそうになったのをのみ込んで。陛下は、ぼくにそう言った。
 えぇ、わかっています。
 ぼくも、陛下だけです。イアン様しか見えない。

「この場にいる皆にも、我らの意向を理解していただきたい。では、使者殿。アルガル公国との国交は、続けるつもりだが。公女の訪問は以後ご遠慮願う。その旨を、アルガル公に伝えてくれ」
 それではご退場を、とばかりに、陛下は口をつぐんだ。
 使者は、ずっと平身低頭で。リーリアを連れ立って、謁見の間を出て行った。
 公女は、カザレニア国重臣たちの前で、これ以上、陛下に言葉をかけることができず。

 それで、本当に。主人公ちゃんⅡは、謁見の間を退くのと同時に、ゲームの舞台からも退場したのだった。

 まぁ、同じく、ゲーム世界に振り回されている、ぼくとしては。ちょっと同情してしまうな。
 主人公ちゃんが、熊になるバッドエンドなんて。
 公式の容赦のなさには、本当に背筋が凍ります。
 主人公ちゃんに、陛下を譲る…などということは。絶対に絶対に出来ませんけど。

 でもどうか、世界の片隅で、幸せな良縁に恵まれますようにと、ぼくは祈るしかなかった。
 失恋しても、人生これでおしまい、なんてことはないんだよ?
 主人公ちゃんⅡ、頑張れっ。


 結婚式まで、あと二週間ほどあるのだが。その期間、ぼくは大忙しだった。
 まずは、王妃様主催のお茶会に参加するよう、言われた。

 会場について、ぼくは王妃様とシャーロットに挨拶をし。
 そして、振り返ると。
 そこには、色とりどりのドレスを身にまとった、御令嬢が。ピカピカした目で、ぼくを見ていた。

 やや、まさか、王妃様?
 これは、ぼくのお見合いですか?
 結婚式が間近に迫った今、やっぱり息子が男と結婚なんて、ないわぁ…と、目を覚まされてしまったのですかっ?
 その気持ちはわかりますがぁ、と眉を下げていたら。
 王妃様が、かたわらに寄ってきて。みなさんに、ぼくを紹介したのだった。

「皆様。今日は、私がもよおしましたお茶会に、お集りくださり、感謝申し上げます。今日は、これから王族の一員になるクロウを、皆様に紹介させていただきます。私共の新しい家族を、どうか皆様、お引き立てくださいませ?」

 挨拶をうながされ、ぼくは胸に手を当てて、紳士の礼を取った。
「王妃様より、ご紹介を受けました。クロウ・バジリスク公爵子息でございます。以後お見知りおきください」
 顔を上げてにっこり笑うと。
 御令嬢方は、パァッと、華やかな雰囲気を出して。拍手で歓迎の意を表してくれた。

 それから、お茶の席に座って談笑したり、庭先の花園を散策したりと、自由な時間になるのだが。
 御令嬢方は、わらわらと、ぼくに寄って来るのだった。

 な、なんなのですか? やはり、お見合いなのですか?

「クロウ様とお話ができる機会をいただき、私、とても嬉しいですわ?」
「本当に。王妃様はなんて、御心の広い御方なのでしょう? 家臣である私たちの望みを、叶えてくださるなんて」

 あわわ、どうしましょう。ぼ、ぼくには、陛下という御方が心にいるので。
 なんて、ワタワタしていたら。アイリスがそばに寄ってきた。

「クロウ様、これは女子会ですわよ。うちの嫁をどうぞよろしく、的な? 王妃様がクロウ様を、見せびらかしたい…いえ、お披露目したい感じの会なので。ワタワタしなくても、大丈夫ですわ?」

 じょ、女子会?
 ぼくは男なのに、なにゆえ女子会? って思い。

 そういえば。シオンは、お茶会の場には入れず。部屋の扉の前で、待機させられているのだった。
 なるほど。見目麗しい、ぼくの弟がいては、しにくい話をするのですね?
 でも、男性のぼくは、ここにいてもいいのでしょうか?

「クロウ様、私。ドレス選びが、どうにも苦手で。クロウ様は、あの、国一番のドレス職人、クロウ・エイデン様だとお聞きしましたわ? ぜひ、私にドレス選びのコツを伝授してくださいませ」
「私も。黄色や黄緑など、明るい色が好きなのに。どうにも似合わなくて」

 ぼくの疑問は、すぐに解消された。
 御令嬢方は、ドレス職人クロウ・エイデンに会いたかったみたいだ。
 なるほど、なるほど、ドレスの件なら。知ってる範囲ですが、いろいろお話は出来ますよ?

「貴方様は、明るい肌のお色なので。明るいドレスを合わせると派手さが際立ってしまいます。落ち着いた色目のドレスになされば、明るい肌色がより際立って、美しく見えるのですが。もしも好きなお色を着たいのならば。同色の、濃いめ暗めのフリルを、デコルテライン添えると。肌の明るさの美しさを表しつつ、好きなお色のドレスも着られると思いますよ?」

「私はシンプルなラインのドレスが好きなのですが。今の流行りではないでしょう?」
「流行は、どなたが発信しても良いもので。流行に乗ることが、必ずしも正解ではないですよ? でも、前面は装飾の少ないものにして、腰元から裾までのバックスタイルに、フリルを持って来ることで。貴方様の好きも、流行も、追えると思いますよ?」
「まぁ、そんなことが出来ますの? 早速、仕立て屋と打ち合わせをしてみますわ? あぁ、クロウ様の花嫁衣装はさぞかし素敵なのでしょうね? 今から結婚式に参列するのが楽しみですわぁ?」

 お茶会に来られた、御令嬢方は。みなさん、ぼくに好意的で。
 はぁ、良かったです。
 主人公ちゃんⅡみたいな、好戦的で、陛下を奪おうとする、アグレッシブな御令嬢は、本日は見当たりませんでした。
 それに、これからは王妃として、御令嬢方とお話する機会も増えそうですし。
 なんとか、うまくやれそうな手応えを掴めて。嬉しかったです。

「クロウ、今日のお茶会では、御令嬢方にモテモテだったようだな?」
 でも、お茶会のあとに、お会いした陛下は。こめかみに怒りマークが浮いていました。

 違います。誤解です。
 モテたのではありません。
 だって、ほとんどが、ドレスに関する助言だったのですから。

 えぇ、そうです。モブにはモテ期などというものは到来しないものなのです。

 ぼくも、お茶会はじめは、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、これはモテ期なんじゃね? なんて思ったりもしましたが。
 やっぱり、そのようなものはありませんでした。
 だから心配ご無用なのです、陛下。

 そんなふうに、一生懸命、陛下に説明したけれど。
 許せないとか言って、いっぱいチュウされた。ひえぇぇ。


 さらに、お茶会以降も。夜会への招待状が、50件以上来て。
 カザレニア国の全貴族が、一斉に夜会をし始めたのかと思って。驚いたのだけど。
 夕食のときに、父上がその理由を教えてくれた。

「これから王妃となるクロウと、結婚前に顔つなぎをしておきたい、と思っている貴族が、大勢いるのだ。今までは、学園に通っていて。学生である、という理由で、突っぱねていたのだが。卒業してしまったからな。ここぞとばかりに夜会を催し、みんな、クロウをもてなしたいのだろう?」
「そんなぁ、これは全部、行かなければなりませんか?」

 まだ、結婚衣装のお直しとか、チクチクノルマが残っているのですぅ。と、情けない顔を父上に向けたら。
 父上は、ぼくの招待状をササッと見て。六通ほど、机の上に置いた。

「バジリスク家と、縁の深い家の夜会には、出てもらいたいのだ。顔を立てなくてはならないからな。あとは執事に言って、断りの手紙を書いてもらう」
 そうして、六通以外の手紙を、執事に全部渡してしまった。

「それで、大丈夫なのですか?」
 だいぶ、件数は少なくなったものの、まだ一日おきに、夜会に出なければならない、強行スケジュール。
 でもでも、断りの数が、あまりにも多いから。恐縮してしまう。
 つか、基本コミュ障のぼくが。連日、夜会巡りなんて。
 人生、なにが起きるかわからないものです。

「元々、我が公爵家が、カザレニア国貴族の中でも、家格は一番高いのだ。おまえが嫌なら、全部、出なくても構わないが?」
「いえ、出ます。ぼくは、バジリスク公爵家に、なんの貢献も出来ていないので。それぐらいはさせてください」
 慌てて、ぼくが言うと。
 父上は、シオンそっくりな顔でフッと笑った。

「馬鹿を言うな。王家に嫁ぐことが、最大の貢献なのだぞ? それに、私を時間の牢屋から救い出してくれた。私たち家族を、おまえが救ったのだ。クロウ、公爵子息として、胸を張って。陛下の元に嫁いでいきなさい」

 父上の言葉に、じんわりと胸が熱くなって。目に涙が浮かぶ。

 なんだか、ヨワヨワで、甘々デロデロで、刺繍ひとつ刺すのに、目をグルグルさせるような、情けない面ばかり目についた父上だったが。
 こうして、貴族の形式的なことや、政治的なことなどは、とても頼りがいのある父上で。尊敬します。

「夜会には、必ず。私かシオンが付き添うから、心配するな。護衛も人数をそろえておく。式の一週間前には、公爵家で大々的に夜会を催すから、そのつもりで」
「なんか、物々しいですね?」

 護衛はシオンがいれば大丈夫なのでは? という顔を向けたら。
 父上は、小さく首を横に振った。

「クロウは次期王妃なのだ。警護の手は抜けない」
 なんか、友達の家に遊びに行く、という軽い感じではないのが。全く慣れないんですけど?
 前世では、夜中にひとりでコンビニに行くとか、普通にしていた、ぼくなので。

 ここへ来ても、ぼくは全く、貴族らしくも王妃らしくもなれなくて。戸惑うばかりなのであった。

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