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第1章 王位を捨てた理由
第36話 貴族の子女護衛クエスト編 旅のひととき
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交易拠点リュミナスを出発して二日目、エリザベート・フォン・ラウレンツの視察隊は、次なる目的地であるヴェルン村へと向かっていた。これまで盗賊の襲撃や魔物の脅威に備え、護衛の者たちは常に警戒を怠らなかったが、この日は比較的穏やかな街道が続き、どこか和やかな空気が漂っている。
そんな中、エリザベートはふと「セリナを馬車に乗せてみたい」と思い立つ。それがきっかけとなり、思いがけず女子三人が同じ馬車に同乗することに。そこでは、普段の旅路では見られない、ちょっとした笑いと温かさに満ちた時間が流れていくこととなる。
早朝に出発してから数時間、晴れ渡る空の下、視察隊は隊列を組んで進んでいた。エリザベートは馬車の中で書簡を読んだり、護衛の騎士と進行状況を確認している。セリナはいつものように荷車の上から周囲を警戒していた。
昼前、穏やかに続く街道の中で、ふとエリザベートの声が届く。
「セリナさん、もしよかったら、馬車に乗りませんか?」
突然の申し出に、セリナは一瞬目を見開いた。フードを深く被ったまま、荷車の上で体勢を保ちながら低く問い返す。
「……馬車?」
馬車に乗る、という発想がなかった。視察隊に加わってからも、彼女は基本的に荷車の上か徒歩で移動していた。貴族の馬車に乗るなど、まるで自分には関係のない話のように思えていたのだ。
そんなセリナの反応を気にすることなく、エリザベートは微笑みながら続ける。
「最近ずっと警戒したり、荷車に揺られてばかりでは疲れないかと思って……。それに、せっかくなら一緒にお話がしたいんです」
その言葉に、セリナは少し戸惑う。これまでの経験で、村や町で馬車に乗る機会がなかったわけではないが、基本的に獣人として目立たぬようフードを被り、人前で目立たぬよう過ごしてきた。ましてや、貴族の馬車に乗るなど、考えたこともなかった。
だが、エリザベートの真っ直ぐな視線には、悪意は一切感じられない。ただ純粋に「一緒に乗ってほしい」という気持ちが伝わってくる。
「……わたしが、馬車に?」
「ええ、もちろん。どうかしら?」
セリナは視線を巡らせ、他の護衛たちの反応をうかがう。騎士たちは特に反対する様子もなく、レオンは少し離れたところから、どこか微笑ましげに様子を見守っていた。
(……別に、断る理由もない)
そう判断し、小さく息を吐いてフードを軽く直しながら答える。
「……なら、乗る」
その言葉に、エリザベートはぱっと笑顔を輝かせ、「やった!」 と小さく声を弾ませた。その瞬間、馬車の横を並走していたカレンが素早く反応する。
「え? セリナちゃんが馬車に乗るの? じゃあ私も乗っていいかな~!」
元々、馬で移動していたカレンだが、「セリナちゃんと一緒におしゃべりできるなら、楽しいに違いない!」 という直感から即決したようだ。本人は獣人のモフモフに興味津々でもあり、一緒に乗れるチャンスを逃すまいと、勢いよく馬を止める。
こうして急遽、セリナとカレンが馬車に同乗することが決まった。エリザベートが侍女たちに「少し席を譲ってもらえないかしら?」と提案すると、侍女たちはそれに応じ、礼儀正しく一礼した後、馬車を降りて荷車へと移動する。荷車には十分なスペースがあり、彼女たちはそこで待機することになった。
だが、ここで新たな問題が生じた。カレンが馬車に乗ることで、彼女が使っていた馬が余ってしまったのだ。ヴィクターが渋い顔でそれに気づき、低い声で言う。
「おい、カレンの馬はどうするんだ?」
すると、馬車の窓からカレンがひょっこり顔を出し、あっさりと答える。
「じゃあ、レオンが乗ればいいんじゃない?」
突然の提案に、セリナは馬車に乗りかけた状態で、思わずレオンの方を見た。
「え?」
レオンが間の抜けた声を上げる。
「いや、俺は……」
「ほらほら、レオンもそろそろ馬に乗れるようになったほうがいいって! ちょうどいい練習の機会じゃない?」
ヴィクターも腕を組みながら、じっとレオンを見る。
「確かにな。お前、いつまでも荷車ばかりじゃ話にならんぞ?」
レオンは軽く肩をすくめ、渋々馬に向かう様子を見せる。しかし、セリナの目には彼の仕草がどこか違和感を持って映った。
(……慣れるのが早い)
ぎこちないフリをしていたのは最初だけで、すぐに馬の動きに合わせて騎乗し、手綱を操り始める。その姿は、不慣れな新米冒険者というより、何度も馬に乗ってきた経験者のものだった。
(やっぱり、すごい)
無駄のない動き、適度な力の加減、そして乗馬の流れにすぐ順応する適応力――まるで以前からずっと馬に乗っていたかのように、レオンは自然に馴染んでいく。
(どうして、こんなに色々できるのに、それを隠そうとするんだろう)
セリナはフードの下で、小さく微笑んだ。
(……レオンは、もっと強くなれる)
その様子をしばらく見守ってから、セリナはそっと馬車へ乗り込んだ。
こうして馬車の中には、エリザベート、セリナ、そしてカレンという奇妙な組合せの女子だけの空間ができあがった。エリザベートは窓側に座り、向かいにはセリナとカレンが並んで座っている。
セリナはフードを深めに被ったまま、窓の外を眺めながら静かにしていた。人間の多い場所ではあまり耳や尻尾を露わにしない。それが当たり前になっているせいか、こうして馬車に乗るのは少し落ち着かない。視線を感じると、そっと横を見た。
エリザベートがじっとこちらを見つめていた。
「セリナさんって、いつもフードを被っているのね?」
その言葉に、セリナは無意識にフードの端を指でつまむ。
「ずっと気になってたの。どうしてフードを被ることが多いのかしら?」
少し考えてから、短く答えた。
「……普通」
すると、エリザベートとカレンが同時に「え~! それだけ?」と声を上げる。仕方なく、セリナは言葉を足して説明した。
「……隠れる時。寒い時。雨の時。人間の多い場所では、耳が目立つから」
エリザベートは「なるほど……そういう使い分けがあるのね」と納得したように頷く。だが、カレンがニヤニヤしながら口を挟んだ。
「でもさぁ、レオンといる時は?」
セリナは一瞬、動きを止める。
「結構フード外してるよね?」
思い返せば、確かにレオンと一緒にいる時は、無意識のうちにフードを取っていることが多かった。戦闘中はもちろん、野営や休憩の時、気づけば風を感じるように耳を出していた気がする。
カレンはさらに楽しそうに続ける。
「あれだけ警戒してるセリナがねぇ? レオン君の前ではけっこう耳をピコピコさせてるじゃない?」
その言葉に、セリナの心臓がドクンと跳ねた。
(……そんなこと、ない)
けれど、否定する言葉がすぐに出てこなかった。意識した途端、妙に落ち着かなくなる。
カレンが期待するような目でこちらを覗き込んでいるのがわかる。エリザベートも興味津々といった表情だ。
セリナは小さく息を吐き、視線を逸らしながらぽつりと呟いた。
「……レオンといる時は、平気」
途端に、エリザベートとカレンが「え~~っ!!?」と大きく身を乗り出してきた。
「それって、すごく仲がいいってことですよね?」
「やだ、もう可愛い~! セリナ、デレてるわね!」
セリナは慌ててフードを深く被り直す。
「……うるさい」
顔を隠したつもりだったが、耳がピクピクと動いているのを、カレンが見逃すはずもなかった。
「ほら、耳が照れてる~!」
エリザベートも「素敵ね……!」と微笑みながら楽しそうに頷く。
セリナはますますフードを深く被るしかなかった。
(……やっぱり、乗るんじゃなかった)
そう思いながらも、どこか温かい気持ちになるのを、セリナは否定できなかった。
昼近くになり、視察隊は小さな草原で休憩を取ることになった。エリザベートが馬車の中で書類を片付けている間に、侍女や冒険者たちは昼食の準備を始める。レオンがカレンの馬を借りて騎乗したおかげで、移動速度もそれなりに保たれ、ここまで特に問題もなく進んでいた。
セリナは馬車から降りると、適当な場所を見つけ、草の上に腰を下ろした。少し離れた場所では、ヴィクターが騎士たちと共に状況を確認し、レオンは馬の手綱を整えている。周囲は穏やかで、旅の緊張感が少しだけ和らいでいた。
そんな中、馬車を降りたエリザベートが小走りでセリナの隣へやって来る。続いて、カレンも「わたしも!」と勢いよく割り込むように座った。セリナはわずかに眉をひそめながら、二人を見やる。
「セリナさん、もう一つお願いしてもいいかしら?」
エリザベートはどこか遠慮がちに言いながらも、その目は輝いていた。
「……何」
警戒しながら短く返すと、エリザベートは少し頬を赤らめつつ、しかし期待に満ちた声で続ける。
「その、セリナさんの耳……少しだけ、触ってもいい?」
その瞬間、カレンが勢いよく身を乗り出した。
「わかる~! モフりたいよね~!」
セリナは一瞬、抵抗するように顔をそむけた。以前、カレンにはすでに耳を触られたことがある。その時も好奇心旺盛にモフモフされたが、今回も同じ流れになりそうだった。
そっとフードを押さえながら、「……別に」とぼそりと呟く。しかし、エリザベートとカレンが目を輝かせながらじっと待っているのを見て、思わずため息をついた。
(……ここまでしつこく頼まれると、断るのも面倒)
しばし逡巡したあと、「……ちょっとだけ」と、小さく呟いた。
「本当!? やった……!」
エリザベートの顔がぱっと明るくなり、カレンも「キャー、わーい!」と歓声を上げる。
セリナは内心で観念しながら、ゆっくりとフードを外した。ふわりと銀狼の耳が露わになり、柔らかな毛並みが陽の光を受けてふわっと揺れる。
二人は同時に息を呑み、エリザベートはそっと指先で耳の端に触れた。カレンは「やっぱりふわふわ~!」と嬉しそうに撫でる。
セリナの耳がピクンと反応する。くすぐったい感覚に、思わず目を細めた。
(……やっぱり、落ち着かない)
しかし、嫌な感じはしなかった。エリザベートは慎重に触れており、カレンも前回よりは多少加減している。それでも、あまりにも幸せそうな二人の顔に、セリナはむずがゆい気持ちになった。
「ほんとにふわふわ……! なんだか、すごく癒やされます……」
「セリナちゃん、これはやばい……! ずっと触っていられる……!」
カレンの手つきが少し大胆になり、セリナは「……加減して」と小さく唸った。
エリザベートは「ごめんなさい」と言いつつも、柔らかく耳を撫で続ける。その仕草がどこか優しく、セリナはふと尻尾を軽く揺らした。
(……こういうの、慣れるのかな)
普段はクールに振る舞う自分が、こうして甘やかされるように扱われるのは妙な気分だった。だが、不快ではない。少なくとも、エリザベートとカレンの手は心地よく、自分を大事に扱おうとしているのが伝わる。
「……そんなに珍しい?」
ぽつりと呟くと、二人は揃って「可愛い……!」と声を上げた。
セリナはむっとして「……うるさい」と呟くが、耳が僅かに気持ちよさそうに動いてしまう。
(……また、揶揄われた)
心のどこかでそう思いながら、彼女は小さくため息をついた。
和気あいあいとしたモフモフタイムが続く中、セリナはくすぐったさに耐えながら、ふと耳をピクリと動かした。どこかで聞き覚えのある足音が近づいてくる。
次の瞬間、低く落ち着いた声が耳に届いた。
「……なにしてるんですか?」
セリナの耳がぴくんと跳ね、顔を上げると、そこにはレオンが立っていた。
どうやら騎士たちと話をしていたらしいが、休憩の場で珍しく笑い声が響いていたため、様子を見に来たようだ。彼の視線がこちらに向けられた途端、セリナは条件反射のようにフードを被り直そうと手を動かした。だが、まだエリザベートの手が耳に触れていたため、うまく動けない。
カレンが真っ先に反応し、「あっ、レオン君! 見て見て、セリナちゃんの耳、最高なのよ!」と手を振る。エリザベートも「セリナさん、こんなにふわふわだったんですね」と、どこか頬を染めながら言葉を添える。
セリナは悟ったような表情で、フードを引き寄せながら小さく呟いた。
「……気にするな」
だが、レオンは苦笑しながらこちらを見つめた。
「……和やかで何よりだけど、セリナは平気なのか?」
セリナがこうして人前で耳を触らせていることが、彼には少し意外だったようだ。
レオンの視線が向けられた瞬間、セリナは自然と頬が熱くなるのを感じた。なんとなく視線をそらし、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「……レオンも、触る?」
その瞬間、エリザベートとカレンが同時に「ええっ!?」「これは!」と大げさに驚き、セリナはますます居心地が悪くなる。自分で言っておきながら、なぜこんなことを口にしたのかと、後悔すら覚えた。
レオンは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく微笑んで首を振った。
「……いや、俺はいいよ」
その言葉に、セリナはどこかほっとしたような気持ちになりながら、「……そうか」とそっぽを向いた。もし「触る」と言われていたら、今頃どんな顔をしていたか分からない。
カレンが「ちぇー、レオン君もモフればいいのに」と茶化してくるが、レオンは苦笑するばかりだった。
「……恥ずかしいからやめろ」
セリナがぼそりと呟くと、エリザベートが微笑みながらフードをそっと頭に被せてくれる。カレンも名残惜しそうに手を離し、「はぁ……やっぱり最高だったなぁ」と呟いた。
こうして、わずか数分間のモフモフタイムは幕を閉じた。セリナはそっとフードの端を握りながら、こっそりと耳を小さく動かす。そこにはまだ、かすかな温もりが残っている気がした――。
昼食を終え、一行は再び馬車や馬に乗り、ヴェルン村へ向かって出発した。
セリナは引き続きエリザベートの馬車に同乗し、カレンも一緒だ。レオンはカレンの馬を借りたまま、馬車のそばを並走している。荷車に移った侍女たちは後方に控え、護衛の騎士たちは周囲を固めながら進んでいた。
馬車がゆっくりと揺れながら進み始めた頃、エリザベートがそっと身を寄せ、控えめな声で囁く。
「セリナさん、耳……また触ってもいい?」
それはまるで、子供がおやつをねだるような遠慮がちな声だった。セリナは窓の外に目をやりながら、軽く耳をピクリと動かす。そして、淡々とした声で短く答えた。
「……もう、だめ」
フードの奥から聞こえたその一言に、エリザベートは「そうですか……」と少し残念そうに微笑む。カレンはそんなやり取りにクスクスと笑いながら、「ふふっ、仲良しなんだから~」と軽く茶化した。
セリナはわずかに顔を赤らめながら、フードを少し深く被る。だが、完全に背を向けるわけでもなく、どこか居心地の良さが残る空気に、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
外では、レオンが馬を走らせながら周囲を警戒している。その姿が馬車の窓越しに見えた。時折、馬車の中から可愛らしい笑い声が聞こえてくるのが気になるのか、レオンが苦笑いをしているのが見えた。
セリナはそれを横目にしながら、ほんの一瞬、彼の姿を目で追った。普段は険しい表情をすることが多い彼が、どこか穏やかな表情をしているのを見て、胸の奥がほんのりと温かくなる。
(……今は、こんな時間も悪くない)
視察隊は、穏やかな空気のまま緩やかな街道を進んでいく。先にはヴェルン村が待ち受けており、まだ見ぬ問題が横たわっている可能性を秘めている。
だが、今はまだ――柔らかな風と揺れる馬車、心地よいぬくもりを感じながら、束の間の旅のひとときが続いていく。
そんな中、エリザベートはふと「セリナを馬車に乗せてみたい」と思い立つ。それがきっかけとなり、思いがけず女子三人が同じ馬車に同乗することに。そこでは、普段の旅路では見られない、ちょっとした笑いと温かさに満ちた時間が流れていくこととなる。
早朝に出発してから数時間、晴れ渡る空の下、視察隊は隊列を組んで進んでいた。エリザベートは馬車の中で書簡を読んだり、護衛の騎士と進行状況を確認している。セリナはいつものように荷車の上から周囲を警戒していた。
昼前、穏やかに続く街道の中で、ふとエリザベートの声が届く。
「セリナさん、もしよかったら、馬車に乗りませんか?」
突然の申し出に、セリナは一瞬目を見開いた。フードを深く被ったまま、荷車の上で体勢を保ちながら低く問い返す。
「……馬車?」
馬車に乗る、という発想がなかった。視察隊に加わってからも、彼女は基本的に荷車の上か徒歩で移動していた。貴族の馬車に乗るなど、まるで自分には関係のない話のように思えていたのだ。
そんなセリナの反応を気にすることなく、エリザベートは微笑みながら続ける。
「最近ずっと警戒したり、荷車に揺られてばかりでは疲れないかと思って……。それに、せっかくなら一緒にお話がしたいんです」
その言葉に、セリナは少し戸惑う。これまでの経験で、村や町で馬車に乗る機会がなかったわけではないが、基本的に獣人として目立たぬようフードを被り、人前で目立たぬよう過ごしてきた。ましてや、貴族の馬車に乗るなど、考えたこともなかった。
だが、エリザベートの真っ直ぐな視線には、悪意は一切感じられない。ただ純粋に「一緒に乗ってほしい」という気持ちが伝わってくる。
「……わたしが、馬車に?」
「ええ、もちろん。どうかしら?」
セリナは視線を巡らせ、他の護衛たちの反応をうかがう。騎士たちは特に反対する様子もなく、レオンは少し離れたところから、どこか微笑ましげに様子を見守っていた。
(……別に、断る理由もない)
そう判断し、小さく息を吐いてフードを軽く直しながら答える。
「……なら、乗る」
その言葉に、エリザベートはぱっと笑顔を輝かせ、「やった!」 と小さく声を弾ませた。その瞬間、馬車の横を並走していたカレンが素早く反応する。
「え? セリナちゃんが馬車に乗るの? じゃあ私も乗っていいかな~!」
元々、馬で移動していたカレンだが、「セリナちゃんと一緒におしゃべりできるなら、楽しいに違いない!」 という直感から即決したようだ。本人は獣人のモフモフに興味津々でもあり、一緒に乗れるチャンスを逃すまいと、勢いよく馬を止める。
こうして急遽、セリナとカレンが馬車に同乗することが決まった。エリザベートが侍女たちに「少し席を譲ってもらえないかしら?」と提案すると、侍女たちはそれに応じ、礼儀正しく一礼した後、馬車を降りて荷車へと移動する。荷車には十分なスペースがあり、彼女たちはそこで待機することになった。
だが、ここで新たな問題が生じた。カレンが馬車に乗ることで、彼女が使っていた馬が余ってしまったのだ。ヴィクターが渋い顔でそれに気づき、低い声で言う。
「おい、カレンの馬はどうするんだ?」
すると、馬車の窓からカレンがひょっこり顔を出し、あっさりと答える。
「じゃあ、レオンが乗ればいいんじゃない?」
突然の提案に、セリナは馬車に乗りかけた状態で、思わずレオンの方を見た。
「え?」
レオンが間の抜けた声を上げる。
「いや、俺は……」
「ほらほら、レオンもそろそろ馬に乗れるようになったほうがいいって! ちょうどいい練習の機会じゃない?」
ヴィクターも腕を組みながら、じっとレオンを見る。
「確かにな。お前、いつまでも荷車ばかりじゃ話にならんぞ?」
レオンは軽く肩をすくめ、渋々馬に向かう様子を見せる。しかし、セリナの目には彼の仕草がどこか違和感を持って映った。
(……慣れるのが早い)
ぎこちないフリをしていたのは最初だけで、すぐに馬の動きに合わせて騎乗し、手綱を操り始める。その姿は、不慣れな新米冒険者というより、何度も馬に乗ってきた経験者のものだった。
(やっぱり、すごい)
無駄のない動き、適度な力の加減、そして乗馬の流れにすぐ順応する適応力――まるで以前からずっと馬に乗っていたかのように、レオンは自然に馴染んでいく。
(どうして、こんなに色々できるのに、それを隠そうとするんだろう)
セリナはフードの下で、小さく微笑んだ。
(……レオンは、もっと強くなれる)
その様子をしばらく見守ってから、セリナはそっと馬車へ乗り込んだ。
こうして馬車の中には、エリザベート、セリナ、そしてカレンという奇妙な組合せの女子だけの空間ができあがった。エリザベートは窓側に座り、向かいにはセリナとカレンが並んで座っている。
セリナはフードを深めに被ったまま、窓の外を眺めながら静かにしていた。人間の多い場所ではあまり耳や尻尾を露わにしない。それが当たり前になっているせいか、こうして馬車に乗るのは少し落ち着かない。視線を感じると、そっと横を見た。
エリザベートがじっとこちらを見つめていた。
「セリナさんって、いつもフードを被っているのね?」
その言葉に、セリナは無意識にフードの端を指でつまむ。
「ずっと気になってたの。どうしてフードを被ることが多いのかしら?」
少し考えてから、短く答えた。
「……普通」
すると、エリザベートとカレンが同時に「え~! それだけ?」と声を上げる。仕方なく、セリナは言葉を足して説明した。
「……隠れる時。寒い時。雨の時。人間の多い場所では、耳が目立つから」
エリザベートは「なるほど……そういう使い分けがあるのね」と納得したように頷く。だが、カレンがニヤニヤしながら口を挟んだ。
「でもさぁ、レオンといる時は?」
セリナは一瞬、動きを止める。
「結構フード外してるよね?」
思い返せば、確かにレオンと一緒にいる時は、無意識のうちにフードを取っていることが多かった。戦闘中はもちろん、野営や休憩の時、気づけば風を感じるように耳を出していた気がする。
カレンはさらに楽しそうに続ける。
「あれだけ警戒してるセリナがねぇ? レオン君の前ではけっこう耳をピコピコさせてるじゃない?」
その言葉に、セリナの心臓がドクンと跳ねた。
(……そんなこと、ない)
けれど、否定する言葉がすぐに出てこなかった。意識した途端、妙に落ち着かなくなる。
カレンが期待するような目でこちらを覗き込んでいるのがわかる。エリザベートも興味津々といった表情だ。
セリナは小さく息を吐き、視線を逸らしながらぽつりと呟いた。
「……レオンといる時は、平気」
途端に、エリザベートとカレンが「え~~っ!!?」と大きく身を乗り出してきた。
「それって、すごく仲がいいってことですよね?」
「やだ、もう可愛い~! セリナ、デレてるわね!」
セリナは慌ててフードを深く被り直す。
「……うるさい」
顔を隠したつもりだったが、耳がピクピクと動いているのを、カレンが見逃すはずもなかった。
「ほら、耳が照れてる~!」
エリザベートも「素敵ね……!」と微笑みながら楽しそうに頷く。
セリナはますますフードを深く被るしかなかった。
(……やっぱり、乗るんじゃなかった)
そう思いながらも、どこか温かい気持ちになるのを、セリナは否定できなかった。
昼近くになり、視察隊は小さな草原で休憩を取ることになった。エリザベートが馬車の中で書類を片付けている間に、侍女や冒険者たちは昼食の準備を始める。レオンがカレンの馬を借りて騎乗したおかげで、移動速度もそれなりに保たれ、ここまで特に問題もなく進んでいた。
セリナは馬車から降りると、適当な場所を見つけ、草の上に腰を下ろした。少し離れた場所では、ヴィクターが騎士たちと共に状況を確認し、レオンは馬の手綱を整えている。周囲は穏やかで、旅の緊張感が少しだけ和らいでいた。
そんな中、馬車を降りたエリザベートが小走りでセリナの隣へやって来る。続いて、カレンも「わたしも!」と勢いよく割り込むように座った。セリナはわずかに眉をひそめながら、二人を見やる。
「セリナさん、もう一つお願いしてもいいかしら?」
エリザベートはどこか遠慮がちに言いながらも、その目は輝いていた。
「……何」
警戒しながら短く返すと、エリザベートは少し頬を赤らめつつ、しかし期待に満ちた声で続ける。
「その、セリナさんの耳……少しだけ、触ってもいい?」
その瞬間、カレンが勢いよく身を乗り出した。
「わかる~! モフりたいよね~!」
セリナは一瞬、抵抗するように顔をそむけた。以前、カレンにはすでに耳を触られたことがある。その時も好奇心旺盛にモフモフされたが、今回も同じ流れになりそうだった。
そっとフードを押さえながら、「……別に」とぼそりと呟く。しかし、エリザベートとカレンが目を輝かせながらじっと待っているのを見て、思わずため息をついた。
(……ここまでしつこく頼まれると、断るのも面倒)
しばし逡巡したあと、「……ちょっとだけ」と、小さく呟いた。
「本当!? やった……!」
エリザベートの顔がぱっと明るくなり、カレンも「キャー、わーい!」と歓声を上げる。
セリナは内心で観念しながら、ゆっくりとフードを外した。ふわりと銀狼の耳が露わになり、柔らかな毛並みが陽の光を受けてふわっと揺れる。
二人は同時に息を呑み、エリザベートはそっと指先で耳の端に触れた。カレンは「やっぱりふわふわ~!」と嬉しそうに撫でる。
セリナの耳がピクンと反応する。くすぐったい感覚に、思わず目を細めた。
(……やっぱり、落ち着かない)
しかし、嫌な感じはしなかった。エリザベートは慎重に触れており、カレンも前回よりは多少加減している。それでも、あまりにも幸せそうな二人の顔に、セリナはむずがゆい気持ちになった。
「ほんとにふわふわ……! なんだか、すごく癒やされます……」
「セリナちゃん、これはやばい……! ずっと触っていられる……!」
カレンの手つきが少し大胆になり、セリナは「……加減して」と小さく唸った。
エリザベートは「ごめんなさい」と言いつつも、柔らかく耳を撫で続ける。その仕草がどこか優しく、セリナはふと尻尾を軽く揺らした。
(……こういうの、慣れるのかな)
普段はクールに振る舞う自分が、こうして甘やかされるように扱われるのは妙な気分だった。だが、不快ではない。少なくとも、エリザベートとカレンの手は心地よく、自分を大事に扱おうとしているのが伝わる。
「……そんなに珍しい?」
ぽつりと呟くと、二人は揃って「可愛い……!」と声を上げた。
セリナはむっとして「……うるさい」と呟くが、耳が僅かに気持ちよさそうに動いてしまう。
(……また、揶揄われた)
心のどこかでそう思いながら、彼女は小さくため息をついた。
和気あいあいとしたモフモフタイムが続く中、セリナはくすぐったさに耐えながら、ふと耳をピクリと動かした。どこかで聞き覚えのある足音が近づいてくる。
次の瞬間、低く落ち着いた声が耳に届いた。
「……なにしてるんですか?」
セリナの耳がぴくんと跳ね、顔を上げると、そこにはレオンが立っていた。
どうやら騎士たちと話をしていたらしいが、休憩の場で珍しく笑い声が響いていたため、様子を見に来たようだ。彼の視線がこちらに向けられた途端、セリナは条件反射のようにフードを被り直そうと手を動かした。だが、まだエリザベートの手が耳に触れていたため、うまく動けない。
カレンが真っ先に反応し、「あっ、レオン君! 見て見て、セリナちゃんの耳、最高なのよ!」と手を振る。エリザベートも「セリナさん、こんなにふわふわだったんですね」と、どこか頬を染めながら言葉を添える。
セリナは悟ったような表情で、フードを引き寄せながら小さく呟いた。
「……気にするな」
だが、レオンは苦笑しながらこちらを見つめた。
「……和やかで何よりだけど、セリナは平気なのか?」
セリナがこうして人前で耳を触らせていることが、彼には少し意外だったようだ。
レオンの視線が向けられた瞬間、セリナは自然と頬が熱くなるのを感じた。なんとなく視線をそらし、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「……レオンも、触る?」
その瞬間、エリザベートとカレンが同時に「ええっ!?」「これは!」と大げさに驚き、セリナはますます居心地が悪くなる。自分で言っておきながら、なぜこんなことを口にしたのかと、後悔すら覚えた。
レオンは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく微笑んで首を振った。
「……いや、俺はいいよ」
その言葉に、セリナはどこかほっとしたような気持ちになりながら、「……そうか」とそっぽを向いた。もし「触る」と言われていたら、今頃どんな顔をしていたか分からない。
カレンが「ちぇー、レオン君もモフればいいのに」と茶化してくるが、レオンは苦笑するばかりだった。
「……恥ずかしいからやめろ」
セリナがぼそりと呟くと、エリザベートが微笑みながらフードをそっと頭に被せてくれる。カレンも名残惜しそうに手を離し、「はぁ……やっぱり最高だったなぁ」と呟いた。
こうして、わずか数分間のモフモフタイムは幕を閉じた。セリナはそっとフードの端を握りながら、こっそりと耳を小さく動かす。そこにはまだ、かすかな温もりが残っている気がした――。
昼食を終え、一行は再び馬車や馬に乗り、ヴェルン村へ向かって出発した。
セリナは引き続きエリザベートの馬車に同乗し、カレンも一緒だ。レオンはカレンの馬を借りたまま、馬車のそばを並走している。荷車に移った侍女たちは後方に控え、護衛の騎士たちは周囲を固めながら進んでいた。
馬車がゆっくりと揺れながら進み始めた頃、エリザベートがそっと身を寄せ、控えめな声で囁く。
「セリナさん、耳……また触ってもいい?」
それはまるで、子供がおやつをねだるような遠慮がちな声だった。セリナは窓の外に目をやりながら、軽く耳をピクリと動かす。そして、淡々とした声で短く答えた。
「……もう、だめ」
フードの奥から聞こえたその一言に、エリザベートは「そうですか……」と少し残念そうに微笑む。カレンはそんなやり取りにクスクスと笑いながら、「ふふっ、仲良しなんだから~」と軽く茶化した。
セリナはわずかに顔を赤らめながら、フードを少し深く被る。だが、完全に背を向けるわけでもなく、どこか居心地の良さが残る空気に、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
外では、レオンが馬を走らせながら周囲を警戒している。その姿が馬車の窓越しに見えた。時折、馬車の中から可愛らしい笑い声が聞こえてくるのが気になるのか、レオンが苦笑いをしているのが見えた。
セリナはそれを横目にしながら、ほんの一瞬、彼の姿を目で追った。普段は険しい表情をすることが多い彼が、どこか穏やかな表情をしているのを見て、胸の奥がほんのりと温かくなる。
(……今は、こんな時間も悪くない)
視察隊は、穏やかな空気のまま緩やかな街道を進んでいく。先にはヴェルン村が待ち受けており、まだ見ぬ問題が横たわっている可能性を秘めている。
だが、今はまだ――柔らかな風と揺れる馬車、心地よいぬくもりを感じながら、束の間の旅のひとときが続いていく。
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88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
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飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
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嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
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魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
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【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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