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18.心配性の恋人と横顔
しおりを挟む倒れた男たち。
その中心に立つ秋。
唖然とする龍也をよそに、夏は駆け寄って秋を抱きしめた。
「秋さんお怪我はっ!?」
「大丈夫だ」
抱きしめていた体を離し、夏は秋の頬を両手で包み込んだ。
「秋さんには隠しナイフなんて必要ありませんでしたね……さすがです」
秋の怪我の有無を確認しながら夏が冗談めかして言うが、秋はその顔を見て苦笑いを浮かべた。なんて顔してんだ。
「喧嘩が強いのなんて今どき流行らねぇよ」
と夏の体を離して、泣きそうになっている夏の頭を撫でた。
「俺の中で秋さんは永遠のトレンドですっ……!!」
「あっそぉ、あんがと」
こんな時にも発揮する夏の嘆美を適当にかわし、秋は落ちていたブレスレットを拾った。
秋は成長期が早かった。
中学前半で成長期が来た秋は、他の生徒よりずいぶんと背が高く目立った。
おまけにこの飄々とした態度。
相手によってはバカにされたと感じたようで、不良の標的にされたのだ。
反射神経がそこそこ良かった秋はすっかり喧嘩慣れしてしまい、出来上がったのが今の秋だ。
そんな、げんなりするような過去を思い出す。
好きで喧嘩が強くなった訳では無い。ならざるを得なかっただけだ。
「悪いな夏。せっかく貰ったのに汚れちゃったから持って帰っててくれ。帰ったら洗うからさ」
砂が付いて汚れたブレスレットを夏に手渡した。
「わざわざ洗わなくても新しいのを買いますよ!」
「買ったら怒るぞ」
またまた散財宣言をする夏を叱咤して、秋は今度こそバイト先へと向かう。
「秋さん」
そんな秋を、夏が呼び止めた。
「今日は……俺のせいですみませんでした」
そう言ってうつむく夏に、秋は「別に夏のせいじゃないだろ?」と笑った。
いつものように笑う秋に、夏は何も言えなかった。
「あーでも、たっくんだっけ? 喧嘩もほどほどにしとけよ」
「へ? あ、あぁ……」
二人のやり取りを呆然と眺めてた龍也。そこで突然話しかけられたものだからまともな返事を出来ない。
しかし秋は特に気にする様子もなく、薄暗い駐車場から出ていく。
そんな秋を見送って、夏は転がっていた龍也の脇腹を蹴り上げた。
「ぐえっ!」
秋を巻き込んだ怒りと、己のせいだと言う後悔をないまぜにして。
※ ※ ※
バイトには間に合ったが、まかないは食べそこねた。
くそぅあの不良どもめ、と置いてきた男たちを恨みながら仕事をこなす。
たまに腹を鳴らしながらも仕事を終え、晩御飯に思いを馳せながら店の裏口から出ると、
「あれ? 夏まだ居たのか」
夏が壁によりかかり秋を待っていた。
「……ンな所で待ってないで帰ってたら良かったのに」
「一度帰りました。晩御飯の用意をして戻って来たんです」
「なんでわざわざ……」
とは言うものの、秋は分かっている。夏は心配してまた戻って来たのだろうと。
心配性の恋人に苦笑を浮かべて、秋は足取り軽く夏の隣にならぶ。
「今日は何を作ったんだ?」
「オムライスです。あとは炒めて卵をのせるだけにしてます……」
やっと飯が食える。その思いが秋を上機嫌にするが、返ってきた夏の声はやや沈んでいる。
夏の顔をうかがうと、その横顔は何か思い悩んでいるように見えた。
「どうした夏?」
「……いえ、お腹すきましたよね? 早く帰りましょう」
「……あぁ」
何となくはぐらかされた気もしながら、秋はそれ以上話しかける事はしなかった。日の落ちるのが早くなってきた帰り道を、二人は黙って歩いた。
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