目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー

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16.誰だ

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 ✧ ✧ ✧


「──……ふぉっ!? 誰!?」

 起きたら、知らない男に抱きしめられて見つめられていた。
 僕を見つめる謎のイケメンは、僕が驚いたら同じように少し驚いた様子を見せた。

「サク?」

「へ……!?」

 驚いたけど離してくれる様子もなくて、どうしようどうしようと起き抜けの頭でパニックになっていたら、名前を呼ばれる。
 知らない男から出た、知ってる声。

「え、マオ?」

「マオだ」

「あ……ですね」

 まだ心臓がドキドキしているが、知り合いの魔王だと分かりホッとする。
 魔王でホッとしても良いのかは今は置いておこう。
 今のマオはまるで別人に見えるが、そうだった、髪を切ったんだった。僕が切ったんだ。
 ベッドから起き上がりながらもすっかり変わったマオを眺めて、うん、やっぱり別人みたい、とつくづく思う。

 昨日の昼過ぎ、僕はマオの髪を切った。
 伸びっぱなしだった黒髪は思い切って襟足ぐらいまでバッサリ切ったのだ。
 長さを整え、ブラシを通し、センター分けにしたらあら不思議。浮浪者風のあやしい男から、なんとイケメンが誕生したのだ。
 まだ目の下の隈はあるがそれも影のある男を演出して似合ってしまう。
 イケメンって凄いなー、としげしげ眺めていたら、顔が近づいてきたので慌ててそらした。
 そうだった、あまり顔を見過ぎたらキスされるんだった。
 昨日、あまりの変わりっぷりに「うわー」となって眺めてて、そしたら嬉しそうにキスされて。
 それが何度もあったのだ。思わず眺めちゃうのを何とかしなくては。

「あー……朝ごはん、作りましょうか!」

「……サクの朝ごはん」

 マオをキスから気をそらさせる為に話題を変えたら、マオは嬉しそうに呟いた。
 たぶん今の呟きは僕の作った朝ごはんにワクワクしているの為の呟きだろう。
 大した物は作れないのに、楽しみにしてもらえたらやっぱり嬉しい。
 今日もマオに着替えさせられ、腕に抱えられて部屋を出た。
 きっと調理場に向かうのだろう。
 しかし部屋にはいつものように僕の服が散乱していて、ワレが帰ってきたら散らかった服を見てまた文句を言いそうだ。

「何が食べたいですか?」

「サクが作ったもの」

 あまり役に立たないリクエストを受け、とりあえず調理場に立つ。
 マオは相変わらずテーブルにちょこんと座って大人しくごはんを待っていた。やっぱりちょっと可愛い。

 今日の朝ごはんはパンと昨日のスープとサラダ。
 サラダは新鮮な野菜に塩とオイルと潰したゆで玉子を混ぜた物だ。
 サラダって実はけっこう贅沢だと思ってる。だって野菜が新鮮じゃないと作れないから。
 前はあまり新鮮な野菜が買えなくて、仕方なくスープに入れてたんだよな。
 そしてついでに好きな果物があったから、軽く潰して砂糖をかけ、ミルクをかけてちょっとしたデザートの完成。

「おまたせしました」

「美味しそうだ」

 できあがった物をテーブルに並べると、マオは言葉通り美味しそうに食べてくれた。
 そんなに嬉しそうに食べてくれたら作った身としても嬉しい。
 パンもスープもサラダも食べ終わり、マオは最後にデザートも残さず食べた。
 甘い果実を食べて、果汁と砂糖の混ざったミルクを美味しそうに飲んだ。
 そのちょっと幼い姿が、誰かの面影とかぶった。

「……マオ」

「どうした?」

「あの……」

 朝の空気はまだ寒い。
 けれど温かなごはんで満たされた体は、心地よくぽかぽかしていた。
 そんな何でも無い今を、幸せそうに過すマオ。

「マオは、今の名前……気に入ってますか?」

 何で今更、こんな事を尋ねているのか。
 けれど幸せなそうな彼を見ていたら、どうしても聞きたくなったんだ。
 じっと僕が見つめる中、マオは不思議そうに首を傾げた。そしてすぐに、当然のように返事をした。

「サクがくれたから」

 大切なんだ、と言うかのように、マオは笑う。

「……そっか」

 マオが笑うと、僕の心の隅っこが喜ぶ気がした。
 だけどもっと真剣に考えて名前を決めたらよかったなぁっと、ちょっと後悔した。
 そんな話しをし終えた頃、ヒギルマが眠たそうな顔で頭をかきながら朝ごはんを食べにきた。
 彼もすっかり同居人だ。
 
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