【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏

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残酷な現実

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「何故、あんなこと…」


 ジオスの行動の理由が分からない。
 もしかしたら、フィオナの言うように、アンティーヌの彼に対する気持ちを察していて。
 少年特有の性的好奇心から、キスをしたのだとしたら。婚約者はフィオナで、それは変えられない真実で、自分はただ



『君を愛しているんだから』


 ジオスのフィオナに向けた言葉が頭の中でまた木霊した。


(違う、ジオはそんな人じゃない!そんな人じゃない、そんな人じゃ…)


 そんな人ではないと思いたかった。弄ばれたのだと思いたくなかった。
 この耳で確かに聞いたのに、白昼夢でも見ていたのかもしれない。そうであればいいと、アンティーヌは心の底から思った。
 彼と私のあの時間は、彼にとっては簡単に壊せてしまう、取るに足らないものだったのだと思いたくなかった。

 まるでいつも見ていた夢の様に、優しくて擽ったくて温かくて、心地良かった彼との時間は、今は思い出せばただただ苦しくて辛くて悲しくて、そして誰にも言うことの出来ない大きな黒い染みとなってアンティーヌの中に残った。

 
 あの後、何のする気も無くしてしまった私は、体調が悪い事を理由に半月ほど学園を休んだ。
 そして部屋に閉じこもってたくさん泣いた。

 自分だけが片想いをしていたのだと、彼の気持ちは自分になかったのだと言う現実に打ちのめされて、食事もろくにとれずに泣き暮らした。

 そうして、何時の頃だろう。

 真夜中、水を飲もうと階下へと降りてダイニングルームの前を通った時。
 私は偶然ジオスとフィオナの話を両親がしているのを聞いてしまったのだった。



『…そう言えば、セルージャ男爵の令息とラビオッテ子爵のご令嬢の婚礼が決まったそうね。』

『ああ、あそこは幼少期から婚約者同士だったからな。令息の方に相手がいなかったら我が男爵家と結びつけたかったが。』

『貴方、それは無理よ。子爵令嬢はとても美しいのだから、では不相応よ。
 あの二人は見た目からして釣り合っているのだから。』

『…それもそうだな。男爵もこれから安泰だな。実に羨ましい事だ。』




 二人の笑い声を聞きながら、私はそっと扉から離れた。

 お父様もお母様も、本当にアンティーヌに興味がないのだろう。食事の席に現れない事も部屋から出ない事も、彼らにとってはどうでも良かったのだ。
 部屋を抜け出して分かったことは、自分がいなくても周りは日常を過しているという事だった。

 


 それがアンティーヌの悲しみに拍車を掛けた。失恋をしただけ、好きだった人が自分を好きではなかっただけ、ただそれだけだと何度思おうとしても、ジオスに求められなかった今、誰からも必要とされていない事が私の心を蝕んだ。

 たくさん泣いて、朝も夜も泣き続けて涙も枯れ果てた頃、もう死んでしまった方が良いのかもしれない、という考えがふと頭の片隅を過ぎった時。

 誰かがアンティーヌの部屋の扉をノックした。

 
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