1 / 23
勘違い男
しおりを挟む「実は好きな人が出来て…さ。」
「え?は?
…あ。だったら別れましょう?」
幼なじみ兼婚約者であるディオル・マニールの言葉に、アリエット・ティンバーランドは一瞬呆気に取られたが、次の瞬間にはずっと思っていたことを口にしていた。
ディオルとは産まれた瞬間から婚約者として過ごしてきた。
お互いに伯爵家同士の家柄。隣同士の領地。領民の数も多少ティンバーランドの治める領地の方が多いが、言ってもほぼ同じくらいで、生産物の果物の種類もほぼ変わらないし、王都へと伸びる道も共同で作ったものなので。
大きな違いは、ティンバーランド領内にて『アグエル消炎薬』という薬草の生産を行っている事くらいだろうか?
この薬は、ティンバーランドの地平線を見渡せるほどに広い平原にある大小多数の沼地に生えている青い花を付けるアグエルという香草にて作られている。
周辺の気温や泥の養分、水質により他の地域では栽培が難しいという事で、唯一無二のものとなっているのだ。
あとは…直通で隣国へと続いているけれど、そこを通らずに山側から回ればマニール領からでも行けるっちゃあ、行ける。
まあ二人が結婚して結び付いても目新しいことは何も無く、この先も可もなく不可もなく安定して暮らしていける、ということが唯一の利点だった。
ただ、この二人。
出会ったのが早すぎたせいなのか、それとも元々性格的に合わないのか、お互いにお互いのことを一向に兄弟以上には思えなかった。
人の目を気にする内向的でナルシスト気味なディオルと、のんびりだが、はっきりとしていて我が道を行くアリエット。
どこの政略結婚でもそんなものだと言われればその通りだったし、アリエットに特に文句は無かったのだが。
成長していき、異性の目を気にするようになると、ディオルの方には何かしらの変化があったようだ。
彼はそこそこ良い見た目(茶に近い金髪に灰色に近い青い目、背丈も近年伸びに伸びた)をしていて、昔から勉強も剣術もそれなりに出来て、馬にもそれなりに乗れた。
なので、学園に入ってから女子生徒にそれなりにモテている、らしい(アリエットは特に興味がなかったので、友人から聞いた程度の話だ)。
対するアリエットは真っ白で透き通るような肌の色に、この国では珍しい真っ黒な髪と瞳を持っていた。何でも先祖返りらしく、ひいひいひいお祖母様が他国から嫁いできたのでそのような色をしていると、母が教えてくれた。
ぱっちりした大きな目と小さな鼻と口を持つ愛らしい顔立ち(家族曰く)のミステリアスな雰囲気を醸し出す少女は、きちんと化粧を施したり着飾ればとても美しくなるだろうと言われていたけれど、何せ自分の見た目に興味が無い。
学園内では才能集まる生徒会執行部(所謂高位貴族の集まり)に所属していて、ディオルよりも勉強ができた。
学園の帰り道や休みの日は彼と特に交流を深めることも無く、王都にある屋敷を飛び出して(もちろん日焼け止めは無理やり母や侍女にされるのだが)半日かけて領地へと戻り、特産物の葡萄の改良に領民たちと共に励んでいた。
ディオルとは月一回のお茶会、誕生日のプレゼントやお祝いなど、交流はしていたけれど、残念なことに全く恋心は育まれなかった。お互いにそうだと思っていた。
そしてその結果が、冒頭の出来事のようだ。
「…えっ。でも、アリーはそれで、いいの…?」
「全然良いわよ。帰ったらお父様に言ってみるわね。あ、でも家同士の契約だからどうなるかは聞いてみないと分からないけど、前向きに検討して貰えるように伝えるわ。貴方もちゃんとおじ様に伝えてね?」
あっさりと別れを告げた長年の婚約者に、ディオルは唖然としたように目を見開いた。何をそんなに驚くことがあるのだろう、とアリエットが首を傾げると。
「…いやでも。アリーは僕のこと、好きなんでしょう?本当にいいの?」
「は?」
「え?いやだから、僕の事好きなのに」
「はあ…?」
「…?!」
ドスの効いたアリエットの声に、ビクッとディオルの肩が跳ねた。信じられない物を見るかのような少女の若干引いた視線が少年に突き刺さる。
「…ディ、さっきから貴方、何言ってるの?」
「え、何って…。だって友達が言ってたんだ。アリーは僕のことが好きだから、他に好きな人がいるなんて言ったら傷ついて怒るって…」
「誰よそんなこと言ったバカタレは」
「バ?!」
「私が傷ついて怒る?どうしてかしら?わたし達、ただの幼馴染じゃない。恋人だったのならまだしもただの幼馴染にそんな気持ちを持つわけないでしょう?」
「あ、いや。まあ…」
「ああそう。誰かがそんな勘違いを貴方にさせたのね。」
「勘違い?」
「勘違いよ。完全完璧正真正銘、貴方の勘違い。」
キョトンとこちらを見るディオルにアリエットはそう言って、にっこりと微笑んだ。
2,398
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる