【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

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勘違い男

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「実は好きな人が出来て…さ。」

「え?は?

 …あ。だったら別れましょう?」

 

 幼なじみ兼婚約者であるディオル・マニールの言葉に、アリエット・ティンバーランドは一瞬呆気に取られたが、次の瞬間にはずっと思っていたことを口にしていた。





 ディオルとは産まれた瞬間から婚約者として過ごしてきた。

 お互いに伯爵家同士の家柄。隣同士の領地。領民の数も多少ティンバーランドの治める領地の方が多いが、言ってもほぼ同じくらいで、生産物の果物の種類もほぼ変わらないし、王都へと伸びる道も共同で作ったものなので。

 大きな違いは、ティンバーランド領内にて『アグエル消炎薬』という薬草の生産を行っている事くらいだろうか?
 この薬は、ティンバーランドの地平線を見渡せるほどに広い平原にある大小多数の沼地に生えている青い花を付けるアグエルという香草にて作られている。
 周辺の気温や泥の養分、水質により他の地域では栽培が難しいという事で、唯一無二のものとなっているのだ。
 あとは…直通で隣国へと続いているけれど、そこを通らずに山側から回ればマニール領からでも行けるっちゃあ、行ける。

 まあ二人が結婚して結び付いても目新しいことは何も無く、この先も可もなく不可もなく安定して暮らしていける、ということが唯一の利点だった。




 ただ、この二人。

 出会ったのが早すぎたせいなのか、それとも元々性格的に合わないのか、お互いにお互いのことを一向に兄弟以上には思えなかった。
 人の目を気にする内向的でナルシスト気味なディオルと、のんびりだが、はっきりとしていて我が道を行くアリエット。

 どこの政略結婚でもそんなものだと言われればその通りだったし、アリエットに特に文句は無かったのだが。
 成長していき、異性の目を気にするようになると、ディオルの方には何かしらの変化があったようだ。

 彼はそこそこ良い見た目(茶に近い金髪に灰色に近い青い目、背丈も近年伸びに伸びた)をしていて、昔から勉強も剣術もそれなりに出来て、馬にもそれなりに乗れた。
 なので、学園に入ってから女子生徒にそれなりにモテている、らしい(アリエットは特に興味がなかったので、友人から聞いた程度の話だ)。


 対するアリエットは真っ白で透き通るような肌の色に、この国では珍しい真っ黒な髪と瞳を持っていた。何でも先祖返りらしく、ひいひいひいお祖母様が他国から嫁いできたのでそのような色をしていると、母が教えてくれた。

 ぱっちりした大きな目と小さな鼻と口を持つ愛らしい顔立ち(家族曰く)のミステリアスな雰囲気を醸し出す少女は、きちんと化粧を施したり着飾ればとても美しくなるだろうと言われていたけれど、何せ自分の見た目に興味が無い。
 学園内では才能集まる生徒会執行部(所謂高位貴族の集まり)に所属していて、ディオル勉強ができた。

 学園の帰り道や休みの日は彼と特に交流を深めることも無く、王都にある屋敷を飛び出して(もちろん日焼け止めは無理やり母や侍女にされるのだが)半日かけて領地へと戻り、特産物の葡萄の改良に領民たちと共に励んでいた。




 ディオルとは月一回のお茶会、誕生日のプレゼントやお祝いなど、交流はしていたけれど、残念なことに全く恋心は育まれなかった。



 そしてその結果が、冒頭の出来事のようだ。






「…えっ。でも、アリーはそれで、いいの…?」

「全然良いわよ。帰ったらお父様に言ってみるわね。あ、でも家同士の契約だからどうなるかは聞いてみないと分からないけど、前向きに検討して貰えるように伝えるわ。貴方もちゃんとおじ様に伝えてね?」


 あっさりと別れを告げた長年の婚約者に、ディオルは唖然としたように目を見開いた。何をそんなに驚くことがあるのだろう、とアリエットが首を傾げると。


「…いやでも。アリーは僕のこと、好きなんでしょう?本当にいいの?」

「は?」

「え?いやだから、僕の事好きなのに」

「はあ…?」

「…?!」


 ドスの効いたアリエットの声に、ビクッとディオルの肩が跳ねた。信じられない物を見るかのような少女の若干引いた視線が少年に突き刺さる。


「…ディ、さっきから貴方、何言ってるの?」

「え、何って…。だって友達が言ってたんだ。アリーは僕のことが好きだから、他に好きな人がいるなんて言ったら傷ついて怒るって…」

「誰よそんなこと言ったバカタレは」

「バ?!」

「私が傷ついて怒る?どうしてかしら?わたし達、ただの幼馴染じゃない。恋人だったのならまだしも幼馴染にそんな気持ちを持つわけないでしょう?」

「あ、いや。まあ…」

「ああそう。誰かがそんな勘違いを貴方にさせたのね。」

「勘違い?」

「勘違いよ。、貴方の勘違い。」




 キョトンとこちらを見るディオルにアリエットはそう言って、にっこりと微笑んだ。






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