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お母様が一番怖い
しおりを挟む「…いやこれ…ツンデレ、ってこんな感じなの?」
読んでいた小説から顔を上げたアリエットは、死んだ魚のような目をしてぽつりと呟いた。
あれからメーベリナの言っていたことが気になった少女は、早速街に繰り出すと書店へと向かい、最近市民の間で人気になっている小説を数冊手に入れてきた。
三冊読むと、傾向が見えてきた。
普段は友人や同僚以外には冷たく寡黙、あるいは女性に興味が無い男性が、主人公である女性と知り合い、その過程のあんな事やこんな事で少しずつ心を開いていく際に、その元の性質のクールな様を『ツン』、時折見せる甘い側面を『デレ』と言っている、ようだ。
言ってはいるようだが。
「ツン、は分かるとして、彼らの何処にデレの要素があるのかしら…?」
メーベリナはランドーソン男爵家はツンデレ、と言っていたが、アシェルもリエナもツンの要素はあるがデレはない、とアリエットは思った。
むしろ、ツンとイヤミの混合なのでは?
ツンイヤ?でもそれ全然萌えないし可愛くない。
「でも今はこういう小説が流行ってるのねえ。」
パラパラと残りの頁を捲り、読み終わっている所へと栞を挟んで本をそっと閉じた。
三冊とも、ツンデレと呼ばれる要素のある人々が登場していた。主役であったり、準主役であったり、時には重要な役割はあるけれど脇役だったり。物語のスパイスとしてどうやら登場してきているらしい。
お話としては面白い。けれど同じような展開ばかりで直ぐにこの先がどうなるのか読めてしまい、三冊目は途中で飽きて読むのをやめてしまった。
「ディオルは当てはまらないわね。」
ふと呟いてみて、アリエットはふっと冷めたような笑みを浮かべた。ツンデレ以前にそこまで相手の事を知る程仲良くなかったわ、と考え直したからだ。全く、どこまでもお互いに興味の無い関係だった。
椅子から立ち上がり、自室から出て階下へと降りながら、婚約解消を伝えた時の父親の様子をアリエットは思い浮かべていた。
自宅に帰り、直ぐにディオルに言われた事を何も隠さずに伝えた時、ティンバーランド伯爵家当主(父)は、こめかみに青筋を立てて怒り狂っていた。思っていた通りの父の姿にアリエットは溜息が込み上げそうになるが、ぐっと堪えた。
父の隣に座る母も、笑顔のままで凍てつくような空気を醸し出しているのが見えていたからだ。
「そうか、あの若造はそう言ったか。」
「ええ。」
「まあまあ、生意気な事ね。たかがマニール家の次男坊の癖に。そんな男との婚約解消は願ったり叶ったりね。伯爵様にお礼を言わなくてはなりませんわ、貴方。」
「あ、ああ、そ、そうだな…。」
「はっきり言ってやってくださいね…。分かったなら返事は?」
「は、はい」
「……。」
(怖いわ…。お父様よりもお母様の方が確実に数段上で怖いわ…。)
目の前では父親の顔色が、どんどん悪くなっていくのが見える。
元々は父親同士が酒の席で盛り上がり、結んだ縁なので今頃その事を頭の隅で思い出しているのだろう、とアリエットは心の中で二回目の溜息をついた。父から、そんな巫山戯た婚約話を聞いた当時の母は同じような冷えた笑みを浮かべていたような気がする。
母はかすみ草のような親しみのある可愛らしい外見の人で、性格も朗らかで優しいが、怒ると口が非常に悪くなる。(アリエットの心の中の罵りは母の言葉遣いの影響が大きい)だから、まだ言葉遣いはそんなに悪くないのでめちゃくちゃキレている訳ではないようなのだが。
隣の領地、同じくらいの地位であっても母親同士はそういえば反りが昔から合っていなかったな、とふと思い至る事が過去何度かあった。
ディオルの母は見た目が薔薇の花のように美しく華やかで、性格も我が強いタイプだった。性格は父親に似たディオルは、アリエットにとっては、自分の外見をとても気にしていて直ぐにくよくよする男らしくないタイプだったが、もちろん彼の母親にとっては一番大事な息子である。
子どもの頃、母達とディオルと四人でお茶会をしていた時に、彼の母親に言われたことがあるのだ。
「貴女みたいな地味な子を娶ることになるディオちゃんが可哀想」
と。
普段はディオちゃんって呼ばれてんのかこいつ、とアリエットはその時思った。
それを聞いた母は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でディオルの母を見ていた。「何言ってんだこいつ。政略なんだから地味もクソもないだろ」とその目が言っていた。(実際にその後、家に帰る馬車の中でブツブツ言っていた)
その頃から、母はディオルとの結婚に対して、父にちょこちょこ「やめた方が良いのじゃないかしら?」「アリーの幸せって何かしら?」「貴方、友達に甘いんじゃありません?」と言葉で刺していたのは知っている。
楽観的な父が「アリーなら大丈夫だろう」と言って家族の賛成もないまま結ばれた婚約は、こうして解消の手続きをする事になった。遅くても十日ほどで全てが完了するだろう。
十年近く結んでいたのに、なんとも呆気ないものである。
2,005
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