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21 人力エレベーター
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ジャンルイジ大公の減量計画は着々と進んでいた。
まだトヴィア卿とガヴァス卿の介助が必要であるが、車いす移乗はスムーズに行えるようになっている。
技術者たちの努力の証とも言うべき、人力エレベーターも完成していた。
「耐久性チェックをしたいけどどうすれば……」
車いす、歩行器はおもりを取り付けることで簡単に行えた。
エレベーターは3階分の昇降を確認しながらチェックすべきだろう。
技術者以外に物理学者にも協力して設計したものだから大丈夫だと思いたいが、万が一事故を起こしてジャンルイジ大公が怪我をしてはたまらない。
「我々のような騎士を5名、あの台へ乗せて動かすのはどうでしょうか」
トヴィア卿の提案は最もである。
筋肉質長身の騎士5名であればジャンルイジ大公の体重と車いすを合わせた以上の重さになる。
しかし、ルドヴィカは難色を示した。
「あの狭い台に5名乗せたとして、もし事故が起きたら……怪我しちゃうじゃない」
車いすの為の台のスペースでは騎士を5名乗せるのはいっぱいいっぱいになる。万が一のことが起きたら受け身も取りづらくなり将棋崩しのようになってしまう。
「大惨事になるわ」
ルドヴィカはぶるっと震えた。
確か、密の空間内に大勢の人が将棋倒しになり下敷きになった者、周りの者たちに押されて呼吸ができなくなった者がいたという事件がある。
「とりあえず殿下の車いすを借りて……私が乗るわ。上に重しをつけて」
「それこそ危ないと思いますよ」
トヴィア卿は反対をした。
「それなら私が車いすに乗って耐久テストを」
「その必要はない」
ここには招待していない男の声に一同は驚いた。
麗しの魔法使いルフィーノが現れたのである。
彼を知らないメイドは思わずほうっとため息をついた。
「ルフィーノ殿……どうしてここへ」
「ごきげんよう、大公妃。面白そうな実験をしていると聞き見に来ました」
彼としてはあくまで器具への興味でやってきたという。
「そ、そう」
まだ彼との距離感に困っているが、人力エレベーターに興味を示してくれるのであれば嬉しいことだ。
彼の意見も聞いてみたい。
「どうかしら……」
「これを人が乗った車いすごと使うという発想は面白いですよ」
一応エレベーターに似たものは存在している。建築物を建てる際、必要な木材や道具を上へ運ぶ為に利用されている。
まさか、大公城の階段脇に増設するとは思わなかった。
大公妃が自分から推進し、大公が許可して可能になったことだ。
「使う前に安全チェックをしておきたいの。大公領の技術者、物理学者を疑っているわけではないけど」
「勿論それは正しいですよ。あの大公が3階からまっさかまに落ちたら大変です」
一番起きては欲しくないことを言われてルドヴィカはうぅと呻いた。
「車いすを持ってきてください。私が耐久試験を行います」
「でも、危ないわ」
ルドヴィカは慌てて止めた。
「大公妃は私の能力を買っていたのではないのですか?」
「それはあなたの知識や技術が欲しくて……」
「そうです。私は魔法使い。重力魔法も使えますし、風魔法も使える。防御魔法だって。いざ人力エレベーターが壊れて、落ちそうになっても問題なく自分の身を守れます」
困った表情のルドヴィカは、考え込んだ。
本当に彼に任せていいのだろうか。
「大公はあなたを信じています。だから、あなたは私を信じるべきでは?」
謎の論理であった。
どうしてそういう流れになるのだろうかと聞きたかった。
「その、お願いできるかしら」
ルドヴィカはおずおずと頼み込んだ。
丁度、ガヴァス卿が車いすを上から運んで来た。
人力エレベーターの台の上へ設置する。揺れで動かないようにベルトを装着して固定した。
その上にルフィーノが座る。
「耐久はどのくらいまでのつもりで設計した?」
ルフィーノが質問すると技術者は答えた。
「2トンです」
「そうだな。さすがにジジもそれ以上になっていない……か」
何かしらの呪文を唱えると、彼の周りの空気が変ったように思えた。重力魔法を展開させたのである。
「大公の推定体重に設定した」
重力魔法でそういうことが可能になるとは。
ルフィーノはちらっと傍にいた騎士二人に視線を送った。
トヴィア卿とガヴァス卿は人力エレベーターの装置へ手をかけた。二人かかりで回転型の装置を回し続ける必要があった。
二人の力で装置は動かされる。
滑車がいくつかついていたもの、それに密着している頑丈なロープ。
ロープが動き、滑車が回る。
かたかたと音が鳴り、ルフィーノの乗った車いすをさらに乗せた台は上へ動き始めた。
ゆっくりであるが、確実に上へあがっている。
人力エレベーターは問題なく使用できた。上まで到着したルフィーノは合図を送り、二人の騎士は今度は台を下ろすように装置を動かした。
再び戻ってきたルフィーノにルドヴィカは不安そうに尋ねた。
「どうだった?」
「揺れが少し気になったが問題ないでしょう。念のため、もう少し重めに設定してチェックを行います」
ルフィーノは再度呪文を唱えて、耐久試験を行った。
今度も重さも問題なく使用できそうである。
「良かった。ルフィーノ殿、ありがとうございます」
「こちらこそ。物理の実験は好きだから、楽しめました」
先日も乗った車いすの調子も確認した。
「それで、まずはジャンルイジ大公をどこへ連れて行くのです?」
ルドヴィカはうーんと考えた。
「まずは食堂で食事をとれるようにしたいわ。騎士の負担があるから1日1回だけど、それでもいつもと違う気分を味わえると思うの。でも、まだ食事まで早いから……お散歩へ誘いたいわ」
ルドヴィカは楽し気に語った。
それは純粋無垢な笑顔で、思わずルフィーノは頬が緩んだ。
視界の端、壁の向こうからちらっと覗き込む存在に気づき、ルフィーノは声をあげた。
「あら」
ルドヴィカもつられてその方へみると、ちらちらと金髪の長い髪がみえる。メイド服とは違う愛らしいスカートの裾がみえた。
「公女様」
ルドヴィカは嬉しそうに声をかけ、壁の向こうへと近づこうとする。
「はっ!」
気づかれたと察したビアンカ公女は急いでその場を走り去った。
まるで猫のような素早さである。
相変わらず彼女には避けられているが、ルドヴィカが行っているものには興味があるようだ。
あれでジャンルイジ大公が下の階まで降りてくるときくとなおさらである。
「もうすぐ、一緒に食堂へ食事をとれますよ」
ルドヴィカはビアンカ公女の後ろ姿を見つめて呟いた。
今日の昼食は自分は自室で食べよう。
久々の兄妹の食事の場なので遠慮しよう。ジャンルイジ大公にはまた何か言われそうだが、今はビアンカ公女に遠慮した方がいい。
「あの、今回は協力してくださってありがとう」
ルドヴィカは思い出して、改めてルフィーノに声をかけた。
「どうです。私の魔法、便利でしょう」
「はい。他にもあなたに尋ねたいこと、お願いしたいことがありますが……」
さすがにそこまでは図々しいだろう。
ルドヴィカは苦笑いした。
「いいですよ」
思ってもいない返事にルドヴィカは「へ」と素っ頓狂な声をあげた。
「あなたのやりたいことは私の魔法や道具があった方が便利でしょう。協力はします」
「でも、私と一緒にいて大丈夫なの……過去のトラウマとか」
「いえ、ないです。あなたは全くアリアンヌ嬢に似ていませんし」
ずしっとルドヴィカの頭にのしかかるものを感じた。
確かに帝都一の美しい令嬢アリアンヌと、鼠色のみすぼらしい髪の令嬢のルドヴィカは似ていない。
悲しいが、それでもルフィーノのトラウマの引き金にならないことを喜ぶべきだろう。
「というわけで改めてよろしくお願いします」
ルフィーノは頭を下げてお願いしてきた。それにルドヴィカはもちろんだと彼を歓迎した。
これにより心強い治療仲間を得ることに成功した。
(ジジから手紙でも書けと言われたが、面倒臭いからエレベーターテストに参加して流れで交渉できたな)
などとルフィーノが内心考えているとはルドヴィカは思いもしなかった。
まだトヴィア卿とガヴァス卿の介助が必要であるが、車いす移乗はスムーズに行えるようになっている。
技術者たちの努力の証とも言うべき、人力エレベーターも完成していた。
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技術者以外に物理学者にも協力して設計したものだから大丈夫だと思いたいが、万が一事故を起こしてジャンルイジ大公が怪我をしてはたまらない。
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トヴィア卿の提案は最もである。
筋肉質長身の騎士5名であればジャンルイジ大公の体重と車いすを合わせた以上の重さになる。
しかし、ルドヴィカは難色を示した。
「あの狭い台に5名乗せたとして、もし事故が起きたら……怪我しちゃうじゃない」
車いすの為の台のスペースでは騎士を5名乗せるのはいっぱいいっぱいになる。万が一のことが起きたら受け身も取りづらくなり将棋崩しのようになってしまう。
「大惨事になるわ」
ルドヴィカはぶるっと震えた。
確か、密の空間内に大勢の人が将棋倒しになり下敷きになった者、周りの者たちに押されて呼吸ができなくなった者がいたという事件がある。
「とりあえず殿下の車いすを借りて……私が乗るわ。上に重しをつけて」
「それこそ危ないと思いますよ」
トヴィア卿は反対をした。
「それなら私が車いすに乗って耐久テストを」
「その必要はない」
ここには招待していない男の声に一同は驚いた。
麗しの魔法使いルフィーノが現れたのである。
彼を知らないメイドは思わずほうっとため息をついた。
「ルフィーノ殿……どうしてここへ」
「ごきげんよう、大公妃。面白そうな実験をしていると聞き見に来ました」
彼としてはあくまで器具への興味でやってきたという。
「そ、そう」
まだ彼との距離感に困っているが、人力エレベーターに興味を示してくれるのであれば嬉しいことだ。
彼の意見も聞いてみたい。
「どうかしら……」
「これを人が乗った車いすごと使うという発想は面白いですよ」
一応エレベーターに似たものは存在している。建築物を建てる際、必要な木材や道具を上へ運ぶ為に利用されている。
まさか、大公城の階段脇に増設するとは思わなかった。
大公妃が自分から推進し、大公が許可して可能になったことだ。
「使う前に安全チェックをしておきたいの。大公領の技術者、物理学者を疑っているわけではないけど」
「勿論それは正しいですよ。あの大公が3階からまっさかまに落ちたら大変です」
一番起きては欲しくないことを言われてルドヴィカはうぅと呻いた。
「車いすを持ってきてください。私が耐久試験を行います」
「でも、危ないわ」
ルドヴィカは慌てて止めた。
「大公妃は私の能力を買っていたのではないのですか?」
「それはあなたの知識や技術が欲しくて……」
「そうです。私は魔法使い。重力魔法も使えますし、風魔法も使える。防御魔法だって。いざ人力エレベーターが壊れて、落ちそうになっても問題なく自分の身を守れます」
困った表情のルドヴィカは、考え込んだ。
本当に彼に任せていいのだろうか。
「大公はあなたを信じています。だから、あなたは私を信じるべきでは?」
謎の論理であった。
どうしてそういう流れになるのだろうかと聞きたかった。
「その、お願いできるかしら」
ルドヴィカはおずおずと頼み込んだ。
丁度、ガヴァス卿が車いすを上から運んで来た。
人力エレベーターの台の上へ設置する。揺れで動かないようにベルトを装着して固定した。
その上にルフィーノが座る。
「耐久はどのくらいまでのつもりで設計した?」
ルフィーノが質問すると技術者は答えた。
「2トンです」
「そうだな。さすがにジジもそれ以上になっていない……か」
何かしらの呪文を唱えると、彼の周りの空気が変ったように思えた。重力魔法を展開させたのである。
「大公の推定体重に設定した」
重力魔法でそういうことが可能になるとは。
ルフィーノはちらっと傍にいた騎士二人に視線を送った。
トヴィア卿とガヴァス卿は人力エレベーターの装置へ手をかけた。二人かかりで回転型の装置を回し続ける必要があった。
二人の力で装置は動かされる。
滑車がいくつかついていたもの、それに密着している頑丈なロープ。
ロープが動き、滑車が回る。
かたかたと音が鳴り、ルフィーノの乗った車いすをさらに乗せた台は上へ動き始めた。
ゆっくりであるが、確実に上へあがっている。
人力エレベーターは問題なく使用できた。上まで到着したルフィーノは合図を送り、二人の騎士は今度は台を下ろすように装置を動かした。
再び戻ってきたルフィーノにルドヴィカは不安そうに尋ねた。
「どうだった?」
「揺れが少し気になったが問題ないでしょう。念のため、もう少し重めに設定してチェックを行います」
ルフィーノは再度呪文を唱えて、耐久試験を行った。
今度も重さも問題なく使用できそうである。
「良かった。ルフィーノ殿、ありがとうございます」
「こちらこそ。物理の実験は好きだから、楽しめました」
先日も乗った車いすの調子も確認した。
「それで、まずはジャンルイジ大公をどこへ連れて行くのです?」
ルドヴィカはうーんと考えた。
「まずは食堂で食事をとれるようにしたいわ。騎士の負担があるから1日1回だけど、それでもいつもと違う気分を味わえると思うの。でも、まだ食事まで早いから……お散歩へ誘いたいわ」
ルドヴィカは楽し気に語った。
それは純粋無垢な笑顔で、思わずルフィーノは頬が緩んだ。
視界の端、壁の向こうからちらっと覗き込む存在に気づき、ルフィーノは声をあげた。
「あら」
ルドヴィカもつられてその方へみると、ちらちらと金髪の長い髪がみえる。メイド服とは違う愛らしいスカートの裾がみえた。
「公女様」
ルドヴィカは嬉しそうに声をかけ、壁の向こうへと近づこうとする。
「はっ!」
気づかれたと察したビアンカ公女は急いでその場を走り去った。
まるで猫のような素早さである。
相変わらず彼女には避けられているが、ルドヴィカが行っているものには興味があるようだ。
あれでジャンルイジ大公が下の階まで降りてくるときくとなおさらである。
「もうすぐ、一緒に食堂へ食事をとれますよ」
ルドヴィカはビアンカ公女の後ろ姿を見つめて呟いた。
今日の昼食は自分は自室で食べよう。
久々の兄妹の食事の場なので遠慮しよう。ジャンルイジ大公にはまた何か言われそうだが、今はビアンカ公女に遠慮した方がいい。
「あの、今回は協力してくださってありがとう」
ルドヴィカは思い出して、改めてルフィーノに声をかけた。
「どうです。私の魔法、便利でしょう」
「はい。他にもあなたに尋ねたいこと、お願いしたいことがありますが……」
さすがにそこまでは図々しいだろう。
ルドヴィカは苦笑いした。
「いいですよ」
思ってもいない返事にルドヴィカは「へ」と素っ頓狂な声をあげた。
「あなたのやりたいことは私の魔法や道具があった方が便利でしょう。協力はします」
「でも、私と一緒にいて大丈夫なの……過去のトラウマとか」
「いえ、ないです。あなたは全くアリアンヌ嬢に似ていませんし」
ずしっとルドヴィカの頭にのしかかるものを感じた。
確かに帝都一の美しい令嬢アリアンヌと、鼠色のみすぼらしい髪の令嬢のルドヴィカは似ていない。
悲しいが、それでもルフィーノのトラウマの引き金にならないことを喜ぶべきだろう。
「というわけで改めてよろしくお願いします」
ルフィーノは頭を下げてお願いしてきた。それにルドヴィカはもちろんだと彼を歓迎した。
これにより心強い治療仲間を得ることに成功した。
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