【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

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25 消えたシフォンケーキ

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 ルドヴィカの執務室でルフィーノはテーブルの上にひっくり返したカップを並べた。
 ルドヴィカは神妙な表情で、ひとつを選んだ。同時に中に入っているものをどのように感じたかを口にする。

「ふわふわしたもののような」

 カップを持ち上げてみるとそこには魔法道具が入っていた。
 小さな獣の尻尾の一部を加工されたものである。ふわふわと言っていたものもあたった。

「だいぶよくなってきたのでは」
「それでも30回中19回、正確性に乏しいです」

 実用性としてはまだまだとルフィーノに烙印を押されてしまう。
 ジャンルイジ大公のリハビリを騎士二人に任せている間、ルドヴィカは魔法の訓練を受けていた。
 開始のきっかけはルドヴィカが今後得たいと思っていた道具についてである。
 超音波検査、といった体を切らなくても臓器の状態を確認できる道具である。
 もちろん、この世界にはまだそういったものは存在しない。
 血液検査があるだけましなありがたいと思う方だった。
 魔法棟で画像検査の道具について聞いても夢物語のように扱われたが、ルフィーノはしばらくルドヴィカの話を聞き試しにと提案してみた。

「そういった道具はまだ難しいですが、大公妃の魔法形態の使いようによっては似たことが可能かもしれません」

 まずは大公妃の魔法技能がどの程度かの把握であった。
 前世のルドヴィカは貧しい修道院時代になってようやく魔法の勉強をした。
 攻撃魔法や治癒魔法などメジャーな魔法はからっきしであったが、修道院にいた老修道女がルドヴィカに基礎を教えてくれた。
 ルドヴィカは自分には才能がないと、すぐに投げ出そうとしたが彼女に熱心に教えられて言われるまま訓練した。
 ようやく得られたものが透視魔法であり残念に感じたが、彼女はそれも大事な能力だとルドヴィカの成長を喜んだ。

 転生してから透視魔法を使ったのは一度である。婚約破棄の場でアリアンヌ
の魔法を確認した時である。
 あの時は魅了魔法としか感じられなかったが、ルフィーノ曰くもうひとつの言霊魔法もあったはずだと指摘した。

「大公妃は透視魔法の多少できるようですが、正確性は微妙。そして、もう一歩先の分析能力を身に着けるべきでしょう」

 魔法使いはひとつの魔法形態を得たらそれに合わせた別の魔法形態を身に着ける必要がある。攻撃魔法の次に、補助の為の調整魔法を身に着けて魔法の範囲、規模を調節していく。これがなければ被害が甚大になってしまう。
 重要性を理解せず身に着けることを怠って、かえって味方の足を引っ張った魔法使いも戦場で見て来たそうだ。
 治癒魔法を使えるものは次に補助魔法を身に着ける。体力や防御を強化したり、弱化させるのが有名であるが、免疫を活発にしたり、乱れた体内サイクルを補正することも補助魔法形態であった。

 ルドヴィカは透視魔法を多少仕えるが、あくまで透視魔法のみ、それも正確性は低い。
 ルフィーノはまずこの正確性をあげる為の訓練を施すこととした。
 それが今行っていることだ。

 同時に分析魔法の取得を支援していった。訓練用の道具が一応存在しており、それが今カップの中にいれていたものだ。
 それで感じるままのものを発言させてみるが、ルフィーノ曰く全然だという。何度ダメ出しされたかわからない。時々丁寧語が抜けていた気もするが、気にする程の余裕がルドヴィカには消えていた。

「大公妃様、少し休憩しましょう」

 ルルはかちゃりと彼女の前にお茶とお菓子を差し出した。

「今日はきなこを使ったシフォンケーキです」
「やった。ルフィーノ殿も折角だから食べていって」

 ルドヴィカは待っていましたとケーキカバーが開かれるのを待った。
 きなこはスムージーを作成させる過程でできた。大豆を炒ってミキサーで作れたし、バルドに入手してもらった東の国の料理本にも精製方法が書かれていた。ルドヴィカはこれを厨房に取り入れるように願った。

 ルフィーノも少し興味があった。大豆を使って菓子が作られるなどぴんとこない。
 実は彼は甘いものに目がなかった。
 頭を使う研究を日常のようにしているため、休憩の合間に甘い果実をとるのが習慣であった。いつぞやの彼の弟子たちがルドヴィカに投げつけた林檎は彼の間食であった。

「あっ!」

 ケーキカバーを開けると中にあるはずのシフォンケーキがなかった。
 食べかすが残されていて誰かが食べたように思える。

「そんな、確かに厨房で受け取って確認したのに」

 どういうことだとルルは青ざめた。

「……」

 ルフィーノは外されたケーキカバーに触れてしばらく沈黙していた。

「申し訳ありません。すぐに厨房へ戻って確認をします」

 ルルは急いで厨房へ向かおうとするが、ルフィーノがそれを止めた。

「必要ない。お前は大公妃にお茶でも淹れておいてくれ」

 ルフィーノは立ち上がり、部屋を出ていった。残されたルドヴィカはとにかく自分の失態だと青ざめたルルを慰めた。

「ルル、落ち着いて」
「私、確かに厨房から持ってきた時はあって……」
「大丈夫よ。あなたが食べたなんて疑っていないから」

 ルドヴィカはとにかくお茶を淹れて欲しいと願い、ルルはようやくティーポットに触れた。
 シフォンケーキは残念であったが、犯人を捜さない訳にもいかない。
 このままだと今日のルルの気分が落ち込んだ状態のままだ。

「何か手がかりがあればいいのだけど」

 そういえば、ルフィーノはこのまま魔法棟へ戻ったきり今日は授業は終わりなのだろうか。
 それであれば別にいい。
 届けられた手紙の整理もしておきたいし、来週行く予定のチャリティーパーティーのオークションで出す商品を考えなければならない。孤児院の視察もそろそろ日程を決めなければ。
 ぶつぶつとスケジュールを確認しながら大公妃としての仕事を整理していると、扉が開かれた。
 帰ったと思ったルフィーノであった。
 彼はむすっとした表情で両脇に二人の少年を抱えていた。
 少年たちはまるで怯えた小動物のように大人しかった。
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