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44 はじめての食堂での朝食
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公女暗殺未遂事件が過去のように感じられる朝であった。
違うのは今まで食堂に足を踏み入れることができなかったルドヴィカが、食堂に入ることが許された。
ルドヴィカは頭の後ろのシニョンが落ち着かない様子であった。ルルが用意したシニョンの付け毛であった。
「おはようございます、公女様」
食堂の扉が開かれ中へ入ると席に座らず待機していたビアンカ公女がいた。
見事な長い金髪は確かにアリアンヌの髪に性質は似ている。
ふたつのおさげの金色の髪が前の方へと流れていく。
ビアンカ公女が上身を傾けて口頭した。
「ルドヴィカ大公妃、先日までの無礼な態度を改めて詫びます」
8歳とは思えない程の大人びた仕草、8歳当時のルドヴィカでもここまで正確な所作ができたか記憶がおぼろげである。
「そして私を二度も救出したことを感謝します」
傾けていた上身を戻したビアンカ公女はじっとルドヴィカを見つめた。
公女の姿をこうしてゆっくりと見つめることができるのははじめてかもしれない。
ルドヴィカの記憶にある彼女はいつでも毅然として、それでいて余裕のない表情であった。
よくみると面差しはジャンルイジ大公に似ている。
やはり兄妹だなと感じられた。
彼と同じ空色の瞳がじっとルドヴィカを見つめていた。
「公女殿下がご無事で何よりです」
ルドヴィカはにこりと微笑んだ。
主人の椅子は空白のまま、ルドヴィカとビアンカ公女はそれぞれの椅子に腰かけた。
会話のない静かな食事であった。
食器の音が時折するだけで、ルドヴィカは何を話して良いのか悩んだ。
ジャンルイジ大公は何かと話しやすい雰囲気を作ってくれていたのだなと感じ入ってしまった。
だが、それでも食堂で一緒に朝食をとれるようになっただけ大きな一歩だと思う。
「あなたが来てから食事の味付けがずいぶん変わったわ」
ビアンカ公女はぽつりとつぶやいた。さくっとフォークでソーセージを貫く。
「味付けが薄くなったように感じるし、お野菜の量が増えたわ」
「大公殿下の血圧の為です。あのお体では血圧はあがりやすくいずれは病気になってしまいます」
とはいえ、まだ8歳の少女には物足りない味付けであっただろう。
一応ビアンカ公女の為に後付けのソースが用意されている。
エネルギー代謝能力もジャンルイジ大公に比べると段違いであり、もう少し食べても問題ないだろう。
「野菜ばっかり食べさせられて家畜のような生活……」
「一見酷い食事にみえますが、料理人の方々も努力されております」
大公城の料理人たちは他国から栄養学の教材をそろえてジャンルイジ大公の嗜好に何とか摺り寄せを行おうとしてくれていた。
「そうよ。無理難題を押し付けて、あなたも結局大公城をこんな風に変えてしまったわ」
ビアンカ公女の言葉にルドヴィカは苦笑いした。
確かに料理人たちには無理な注文をしてきたと思う。
彼らの料理研究費をもっと補助しなきゃいけない。
「公女殿下の料理は元来通り作ってもらうようにしましょう」
「必要ないわ」
ルドヴィカの言葉に対してビアンカ公女はばっさりと切った。
「お兄様の体調は現実よくなっているようだし、あなたのいう食事運動療法というのに私も参加するわ」
「公女殿下は大公殿下と違い健康な身ですし」
「別々の場所で食べている上に別々のメニューなんて嫌よ! それに」
ビアンカ公女はこほんと咳払いした。
「お兄様はお優しいから文句言わずに食べているけど、私はどんどん感想を言ってやるわ。それで料理人らにもっと料理追及してもらうの」
「それは、……大変ですね」
「勿論研究費用は補助するように私からも口添えするわ」
そういえばルドヴィカが来るまで大公城の管理会議に参加するのは大公代理の秘書官か、ビアンカ公女であった。
ビアンカ公女は幼いながらも大公城の運営に発言力を持っていた。
「公女殿下、ありがとうございます」
ルドヴィカは笑顔でお礼を言った。
「別にあなたの為じゃないわ。お兄様が可哀そうだし」
ビアンカ公女はおさげの髪をくるくるといじりはじめた。
先ほどの礼儀作法も考えも大人顔負けであるが、ほんのふとした拍子で彼女はまだ幼い少女だと感じられる。
「お兄様がもっと元気になれば、また会えるのよね」
ビアンカ公女はぽつりとつぶやいた。
その言葉にルドヴィカはぴたっと手を止めた。
応えに困っている様子にビアンカ公女はため息をついて立ち上がった。
「お先に失礼するわ」
朝の授業もあるので先に自室へ戻るとビアンカ公女は食堂を去った。
「また明日」
立ち去り際に言う彼女の言葉を聞きながらルドヴィカは彼女に会釈した。
再び静かになった食堂の中、ルドヴィカは残りのパンを口に含んでいった。
ジャンルイジ大公は言霊魔法の影響で、アリアンヌの影におびえていた。それが酷い作用をおこし金髪の女性をみるとアリアンヌと錯覚して動悸を覚える程だった。
ビアンカ公女がそのうちの一人であるのは何と辛いことか。
ジャンルイジ大公はビアンカ公女に移してしまう病気だと偽りビアンカ公女との面会を断り続けていた。
ビアンカ公女も日に日に違うと気づき始めている。
手紙を読めば、ジャンルイジ大公はビアンカ公女を想っているというのはわかる。それでもビアンカ公女は寂しいだろう。
「何とかならないかしら」
言霊魔法を解除するには力が必要である。
フランチェスカが巡礼を終え、戻ってくれば変わるかもしれない。
だが、前世ではジャンルイジ大公は命を落とした。彼女が帰ってくる前に。
フランチェスカが帰ってくるまでに何としてもジャンルイジ大公を生き永らえさせなければならない。
どういう形であっても命さえあれば神聖魔法で良い方向へ進むかもしれない。
この食事を終えた後、ルドヴィカは医務室へと見学することにした。
彼を生き永らえさせる為に朱美だったころの記憶をふんだんに利用しなければならない。
違うのは今まで食堂に足を踏み入れることができなかったルドヴィカが、食堂に入ることが許された。
ルドヴィカは頭の後ろのシニョンが落ち着かない様子であった。ルルが用意したシニョンの付け毛であった。
「おはようございます、公女様」
食堂の扉が開かれ中へ入ると席に座らず待機していたビアンカ公女がいた。
見事な長い金髪は確かにアリアンヌの髪に性質は似ている。
ふたつのおさげの金色の髪が前の方へと流れていく。
ビアンカ公女が上身を傾けて口頭した。
「ルドヴィカ大公妃、先日までの無礼な態度を改めて詫びます」
8歳とは思えない程の大人びた仕草、8歳当時のルドヴィカでもここまで正確な所作ができたか記憶がおぼろげである。
「そして私を二度も救出したことを感謝します」
傾けていた上身を戻したビアンカ公女はじっとルドヴィカを見つめた。
公女の姿をこうしてゆっくりと見つめることができるのははじめてかもしれない。
ルドヴィカの記憶にある彼女はいつでも毅然として、それでいて余裕のない表情であった。
よくみると面差しはジャンルイジ大公に似ている。
やはり兄妹だなと感じられた。
彼と同じ空色の瞳がじっとルドヴィカを見つめていた。
「公女殿下がご無事で何よりです」
ルドヴィカはにこりと微笑んだ。
主人の椅子は空白のまま、ルドヴィカとビアンカ公女はそれぞれの椅子に腰かけた。
会話のない静かな食事であった。
食器の音が時折するだけで、ルドヴィカは何を話して良いのか悩んだ。
ジャンルイジ大公は何かと話しやすい雰囲気を作ってくれていたのだなと感じ入ってしまった。
だが、それでも食堂で一緒に朝食をとれるようになっただけ大きな一歩だと思う。
「あなたが来てから食事の味付けがずいぶん変わったわ」
ビアンカ公女はぽつりとつぶやいた。さくっとフォークでソーセージを貫く。
「味付けが薄くなったように感じるし、お野菜の量が増えたわ」
「大公殿下の血圧の為です。あのお体では血圧はあがりやすくいずれは病気になってしまいます」
とはいえ、まだ8歳の少女には物足りない味付けであっただろう。
一応ビアンカ公女の為に後付けのソースが用意されている。
エネルギー代謝能力もジャンルイジ大公に比べると段違いであり、もう少し食べても問題ないだろう。
「野菜ばっかり食べさせられて家畜のような生活……」
「一見酷い食事にみえますが、料理人の方々も努力されております」
大公城の料理人たちは他国から栄養学の教材をそろえてジャンルイジ大公の嗜好に何とか摺り寄せを行おうとしてくれていた。
「そうよ。無理難題を押し付けて、あなたも結局大公城をこんな風に変えてしまったわ」
ビアンカ公女の言葉にルドヴィカは苦笑いした。
確かに料理人たちには無理な注文をしてきたと思う。
彼らの料理研究費をもっと補助しなきゃいけない。
「公女殿下の料理は元来通り作ってもらうようにしましょう」
「必要ないわ」
ルドヴィカの言葉に対してビアンカ公女はばっさりと切った。
「お兄様の体調は現実よくなっているようだし、あなたのいう食事運動療法というのに私も参加するわ」
「公女殿下は大公殿下と違い健康な身ですし」
「別々の場所で食べている上に別々のメニューなんて嫌よ! それに」
ビアンカ公女はこほんと咳払いした。
「お兄様はお優しいから文句言わずに食べているけど、私はどんどん感想を言ってやるわ。それで料理人らにもっと料理追及してもらうの」
「それは、……大変ですね」
「勿論研究費用は補助するように私からも口添えするわ」
そういえばルドヴィカが来るまで大公城の管理会議に参加するのは大公代理の秘書官か、ビアンカ公女であった。
ビアンカ公女は幼いながらも大公城の運営に発言力を持っていた。
「公女殿下、ありがとうございます」
ルドヴィカは笑顔でお礼を言った。
「別にあなたの為じゃないわ。お兄様が可哀そうだし」
ビアンカ公女はおさげの髪をくるくるといじりはじめた。
先ほどの礼儀作法も考えも大人顔負けであるが、ほんのふとした拍子で彼女はまだ幼い少女だと感じられる。
「お兄様がもっと元気になれば、また会えるのよね」
ビアンカ公女はぽつりとつぶやいた。
その言葉にルドヴィカはぴたっと手を止めた。
応えに困っている様子にビアンカ公女はため息をついて立ち上がった。
「お先に失礼するわ」
朝の授業もあるので先に自室へ戻るとビアンカ公女は食堂を去った。
「また明日」
立ち去り際に言う彼女の言葉を聞きながらルドヴィカは彼女に会釈した。
再び静かになった食堂の中、ルドヴィカは残りのパンを口に含んでいった。
ジャンルイジ大公は言霊魔法の影響で、アリアンヌの影におびえていた。それが酷い作用をおこし金髪の女性をみるとアリアンヌと錯覚して動悸を覚える程だった。
ビアンカ公女がそのうちの一人であるのは何と辛いことか。
ジャンルイジ大公はビアンカ公女に移してしまう病気だと偽りビアンカ公女との面会を断り続けていた。
ビアンカ公女も日に日に違うと気づき始めている。
手紙を読めば、ジャンルイジ大公はビアンカ公女を想っているというのはわかる。それでもビアンカ公女は寂しいだろう。
「何とかならないかしら」
言霊魔法を解除するには力が必要である。
フランチェスカが巡礼を終え、戻ってくれば変わるかもしれない。
だが、前世ではジャンルイジ大公は命を落とした。彼女が帰ってくる前に。
フランチェスカが帰ってくるまでに何としてもジャンルイジ大公を生き永らえさせなければならない。
どういう形であっても命さえあれば神聖魔法で良い方向へ進むかもしれない。
この食事を終えた後、ルドヴィカは医務室へと見学することにした。
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