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48 月日は流れて
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ルドヴィカがアンジェロ大公家へ嫁いでから6カ月が経過していた。
ジャンルイジ大公の減量計画は着々と進んでいた。
はじめは二人の屈強な騎士の介助なしでは寝返りすらできなかったのに、今はルドヴィカ程度の介助でもスムーズにベッドから車いす移乗できている。
歩行訓練はまだまだ歩行器が必要であるが、30分部屋の中をぐるぐる回るまでに至れた。
ルフィーノの人体研究の成果もあり、超音波魔法による臓器評価も順調にフィードバックされていた。
今は心臓の機能評価方法を実践中である。
心臓の機能評価の計算はほぼ丸暗記でどう説明しようと思っていたが、この世界にはすでにそういった計算方法が存在していた。
南方の外科手術をやっている地方で確定されたものであるが、みると朱美の世界とほぼ同じ内容だった。
その後2週間程、ルフィーノは騎士寮・兵舎・治療院を通い詰めて数百名の騎士兵士、傷病者の心臓を超音波魔法で評価した。
目分量で計算していっていた為正確に測りにかけていないが、その計算結果は臨床初見とほぼ一致していた。
魔法の確率をさせてすぐにここまで実践してしまう彼の行動力にルドヴィカはただ嘆息した。
ルドヴィカは窓際で外の空気に触れながら書類を眺めていた。
ルフィーノがオリンドを使いに送ってきた心臓評価のデータであった。
十分論文として発表できる内容である。
『超音波魔法を使った心臓機能評価方法の提案』とでも題名が掲げられそうだ。
この評価方法によりジャンルイジ大公の心臓機能は問題ないことがわかり一安心した。
それにしても、こんなすごい逸材がこんな近くにいるなんて。
ルドヴィカは改めてルフィーノが大公領にいてくれたことに感謝した。
このような逸材が前世では無惨に殺され、死体は晒されてしまったなんて。
前世の記憶を思い出して、ルドヴィカはめまいを覚えた。
「大公妃、椅子に座ってください」
オリンドがルドヴィカのすぐ後ろへ椅子を運んで来た。
「ありがとう」
ルドヴィカは椅子に腰をかけてふぅとため息をついた。
かちゃっと目の前にお茶が差し出される。今しがたルルが入室してきたのに気づかなかった。
「大公妃様、少しお休みになられたらどうでしょう」
ルルが心配そうに声をかけてきた。それにオリンドが頷いた。
「書類の整理は俺がしておきますので」
二人の提案にルドヴィカは笑った。
「でも、明後日は道路組合と水利組合への視察にいかないと」
ライフライン系の組合への視察はジャンルイジ大公の仕事であるが、ルドヴィカが彼の負担軽減の為に自分の方へ分配していた。
前々から余裕をもって立てた予定日であり、この日は他の執務が進まなくなるのが予想される。
今のうちに片付けられる問題は片付けておかなければ。
「あなたの師匠も大公殿下も頑張っているのよ。これくらいはしないと」
ルドヴィカはルルが淹れてくれたお茶を飲み少し息をつき、机に並んでいる書類に手をとった。
その様子をみてルルとオリンドはお互いの顔を見つめ合った。
◆◆◆
その夜、夕食を終えた後、ジャンルイジ大公はベッドに戻ることなく車いすに腰かけて待機していた。
パルドンに命じてオルランド卿を呼び寄せていた。
内容は前日に起きたビアンカ公女暗殺未遂事件の犯人についてである。
主犯であるアンは部下たちと共に地下牢にて幽閉の身となっていた。
今はオルランド卿が主導で尋問を執り行っている。
ヴァリー卿らは外されていた。
後から判明したが、彼はアンの手先と接触していた。
忠誠はあくまでビアンカ公女に対してで、大公家を裏切るつもりはなかったようだ。
しかし、まんまとアンらの手のひらにまんまと転がされてビアンカ公女派閥貴族と結託しルドヴィカを犯人へ陥れようとしたばかりか、ルドヴィカが危険物に触れることを許した不注意さも許しがたかった。
ヴァリー卿自身、今回の件で何も言えなくなり自主謹慎をしジャンルイジ大公からの罰を待っていた。
騎士位を剥奪することも考えたが、国境付近に出没した盗賊団の討伐、町の復興支援の任を与えた。これで汚名を雪ぐことができるかは彼次第であろう。
「失礼いたします」
パルドンの案内のもとオルランド卿が部屋を訪れた。
彼から主犯の現状を確認した。
「アンは一向に口を割る気配はないか」
「ええ、それどころか見張り兵に魔法をかけようとしておりました。大した魔女ですよ」
ジャンルイジ大公はやはりと頷いた。
「前々から感づいていたがこんなすぐそばに皇帝の魔女が忍びこんでいたとはな」
それもビアンカ公女付きメイドとして何食わぬ顔で大公城で過ごしていた。
おそらく使用人、医務室、騎士団の中に皇帝からのスパイを潜り込ませたのはアンの手動であろう。
「アンの出自は大公家に仕える男爵家のもので間違いなかった……」
大公家の公女のメイドは厳重なチェックの末採用になる。
アンを採用したときの書類をみたが特に問題になる部分は見当たらなかった。魔法棟に依頼して魔力も評価されており、ほとんど魔力を持たない女性であった。
「溺水事件の現場となった池を部下に命じて捜索させたところ、あの中から水死体が見つかりました」
関係ない報告をオルランド卿がするはずがない。
内容を聞きながらジャンルイジ大公は嫌な気分になった。
「死体の数は12体……、うち10体の特徴はアン含めた部下の特徴に類似しております」
例の池はアリアンヌのお気に入りの場所で、よくここでお茶会が開かれていた。
お茶会という名ばかりの標的となった令嬢を虐める陰惨な現場であった。
ジャンルイジ大公もビアンカ公女も池のことを忘れ去りたかった。
嫌でもアリアンヌのことを思い出してしまう場所だったから。
貴族たちもここを触れることを避けていた。
かつては美しい池であったが、一切手入れされなくなり早いスピードで雑草や水草が生えてゴミのたまり場となり水の中を確認できないほど濁ってしまっていた。
この場所に元からいた大公領の使用人らを放り込み、皇帝からきたスパイが入れ替わっていた。
「残りの2体は……」
「まだ判別ができておりません。女性のものでもしかすると貴族令嬢かもしれません」
頭の痛いことだ。
精神を病み、池の存在を拒絶さえしなければ彼らを長い間冷たい水の中に晒させなかったというのに。
ジャンルイジ大公はこめかみに手をあてた。
「彼らのリストを作ってくれ。しかるときに彼らの名誉を取り戻し、盛大に弔ってやりたい」
ジャンルイジ大公の命令をオルランド卿は恭しく受け入れた。
ジャンルイジ大公の減量計画は着々と進んでいた。
はじめは二人の屈強な騎士の介助なしでは寝返りすらできなかったのに、今はルドヴィカ程度の介助でもスムーズにベッドから車いす移乗できている。
歩行訓練はまだまだ歩行器が必要であるが、30分部屋の中をぐるぐる回るまでに至れた。
ルフィーノの人体研究の成果もあり、超音波魔法による臓器評価も順調にフィードバックされていた。
今は心臓の機能評価方法を実践中である。
心臓の機能評価の計算はほぼ丸暗記でどう説明しようと思っていたが、この世界にはすでにそういった計算方法が存在していた。
南方の外科手術をやっている地方で確定されたものであるが、みると朱美の世界とほぼ同じ内容だった。
その後2週間程、ルフィーノは騎士寮・兵舎・治療院を通い詰めて数百名の騎士兵士、傷病者の心臓を超音波魔法で評価した。
目分量で計算していっていた為正確に測りにかけていないが、その計算結果は臨床初見とほぼ一致していた。
魔法の確率をさせてすぐにここまで実践してしまう彼の行動力にルドヴィカはただ嘆息した。
ルドヴィカは窓際で外の空気に触れながら書類を眺めていた。
ルフィーノがオリンドを使いに送ってきた心臓評価のデータであった。
十分論文として発表できる内容である。
『超音波魔法を使った心臓機能評価方法の提案』とでも題名が掲げられそうだ。
この評価方法によりジャンルイジ大公の心臓機能は問題ないことがわかり一安心した。
それにしても、こんなすごい逸材がこんな近くにいるなんて。
ルドヴィカは改めてルフィーノが大公領にいてくれたことに感謝した。
このような逸材が前世では無惨に殺され、死体は晒されてしまったなんて。
前世の記憶を思い出して、ルドヴィカはめまいを覚えた。
「大公妃、椅子に座ってください」
オリンドがルドヴィカのすぐ後ろへ椅子を運んで来た。
「ありがとう」
ルドヴィカは椅子に腰をかけてふぅとため息をついた。
かちゃっと目の前にお茶が差し出される。今しがたルルが入室してきたのに気づかなかった。
「大公妃様、少しお休みになられたらどうでしょう」
ルルが心配そうに声をかけてきた。それにオリンドが頷いた。
「書類の整理は俺がしておきますので」
二人の提案にルドヴィカは笑った。
「でも、明後日は道路組合と水利組合への視察にいかないと」
ライフライン系の組合への視察はジャンルイジ大公の仕事であるが、ルドヴィカが彼の負担軽減の為に自分の方へ分配していた。
前々から余裕をもって立てた予定日であり、この日は他の執務が進まなくなるのが予想される。
今のうちに片付けられる問題は片付けておかなければ。
「あなたの師匠も大公殿下も頑張っているのよ。これくらいはしないと」
ルドヴィカはルルが淹れてくれたお茶を飲み少し息をつき、机に並んでいる書類に手をとった。
その様子をみてルルとオリンドはお互いの顔を見つめ合った。
◆◆◆
その夜、夕食を終えた後、ジャンルイジ大公はベッドに戻ることなく車いすに腰かけて待機していた。
パルドンに命じてオルランド卿を呼び寄せていた。
内容は前日に起きたビアンカ公女暗殺未遂事件の犯人についてである。
主犯であるアンは部下たちと共に地下牢にて幽閉の身となっていた。
今はオルランド卿が主導で尋問を執り行っている。
ヴァリー卿らは外されていた。
後から判明したが、彼はアンの手先と接触していた。
忠誠はあくまでビアンカ公女に対してで、大公家を裏切るつもりはなかったようだ。
しかし、まんまとアンらの手のひらにまんまと転がされてビアンカ公女派閥貴族と結託しルドヴィカを犯人へ陥れようとしたばかりか、ルドヴィカが危険物に触れることを許した不注意さも許しがたかった。
ヴァリー卿自身、今回の件で何も言えなくなり自主謹慎をしジャンルイジ大公からの罰を待っていた。
騎士位を剥奪することも考えたが、国境付近に出没した盗賊団の討伐、町の復興支援の任を与えた。これで汚名を雪ぐことができるかは彼次第であろう。
「失礼いたします」
パルドンの案内のもとオルランド卿が部屋を訪れた。
彼から主犯の現状を確認した。
「アンは一向に口を割る気配はないか」
「ええ、それどころか見張り兵に魔法をかけようとしておりました。大した魔女ですよ」
ジャンルイジ大公はやはりと頷いた。
「前々から感づいていたがこんなすぐそばに皇帝の魔女が忍びこんでいたとはな」
それもビアンカ公女付きメイドとして何食わぬ顔で大公城で過ごしていた。
おそらく使用人、医務室、騎士団の中に皇帝からのスパイを潜り込ませたのはアンの手動であろう。
「アンの出自は大公家に仕える男爵家のもので間違いなかった……」
大公家の公女のメイドは厳重なチェックの末採用になる。
アンを採用したときの書類をみたが特に問題になる部分は見当たらなかった。魔法棟に依頼して魔力も評価されており、ほとんど魔力を持たない女性であった。
「溺水事件の現場となった池を部下に命じて捜索させたところ、あの中から水死体が見つかりました」
関係ない報告をオルランド卿がするはずがない。
内容を聞きながらジャンルイジ大公は嫌な気分になった。
「死体の数は12体……、うち10体の特徴はアン含めた部下の特徴に類似しております」
例の池はアリアンヌのお気に入りの場所で、よくここでお茶会が開かれていた。
お茶会という名ばかりの標的となった令嬢を虐める陰惨な現場であった。
ジャンルイジ大公もビアンカ公女も池のことを忘れ去りたかった。
嫌でもアリアンヌのことを思い出してしまう場所だったから。
貴族たちもここを触れることを避けていた。
かつては美しい池であったが、一切手入れされなくなり早いスピードで雑草や水草が生えてゴミのたまり場となり水の中を確認できないほど濁ってしまっていた。
この場所に元からいた大公領の使用人らを放り込み、皇帝からきたスパイが入れ替わっていた。
「残りの2体は……」
「まだ判別ができておりません。女性のものでもしかすると貴族令嬢かもしれません」
頭の痛いことだ。
精神を病み、池の存在を拒絶さえしなければ彼らを長い間冷たい水の中に晒させなかったというのに。
ジャンルイジ大公はこめかみに手をあてた。
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