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50 夫婦の休暇
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オルランド卿の提案を受けてから1週間、ジャンルイジ大公はパルドンらと綿密な計画を立てて実行に移そうとしていた。
「明日は休暇をとろうと思う」
夕食時のジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカはしばらく考え込んだ。
「そうですね。殿下もたまには休みが必要でしょう」
大公の執務と減量計画を同時にこなすのはなかなかハードスケジュールだっただろう。
たまには何も考えずにゆったりと過ごしてもらった方が良い。
食事療法は継続してもらいたいが過食に気を付けてもらえればいいか。
などとルドヴィカはジャンルイジ大公のみの休日だと考えていたが、続きの誘いを聞いて手が止まった。
「大公妃さえよければ一緒に過ごして欲しい」
ルドヴィカは目をぱちぱちとさせた。
「ええっと、私はまだちょっと」
頭の中で片づけたい仕事のスケジュールを思い浮かべる。
自分が傍にいても何をどう過ごせばいいのかもわからない。
というか私がいて休まるのだろうかとさえ考えてしまう。
「じ、実は……久々に西の庭園へ行きたいと考えている。今はダリアが見ごろだそうだ」
ごほんとジャンルイジ大公は咳払いした。
「殿下が花を愛でられるのですか」
「私にだって花を愛でたくなるときはある」
思わず失礼なことをいうルドヴィカにジャンルイジ大公はむっと唇を尖らせた。
「西の庭園……部屋を出る必要がありますね」
「そうだ。そろそろ、もう一度脱引きこもりを試みようと思っている。いつまでも部屋にいるのも飽きてきたし」
ジャンルイジ大公は内心無理やりすぎる動機だったかなとルドヴィカの反応をみた。
ルドヴィカはしばらく考え込んだ。
「悪くないですね……折角殿下がダリアをみたいと仰せです。目的があれば今度こそ脱引きこもりが成功できるかもしれません」
前回は目的はルドヴィカ自身が用意したものでジャンルイジ大公の自発的なものとは少し異なるように感じた。
今はジャンルイジ大公がどこへ行きたいか、どうしたいかという目的が明確になっている。
人は自発的な目的さえあれば行動変容に至れる。
「ですが、大丈夫ですか? 金髪の女性」
「パルドンに任せて金髪の使用人たちは西の庭園までのルートに近づかないように配置づけている」
「公女様は……」
「ビアンカはその日は外出だ。寄宿学校への視察へ行くので帰るのは次の日になる」
そういえば、今日の朝食で彼女が言っていたのを思い出した。
1年後には寄宿学校に入る予定だから視察にでかけると。前世でもその予定だったようだが、ジャンルイジ大公が崩御し後を継がなければならなくそれどころではなくなってしまったのを思い出した。
ビアンカ公女の外出に合わせて外出するのは気が引けるが、ジャンルイジ大公が部屋から出ることは言霊魔法からの解放の第一歩に繋がるかもしれない。
「わかりました。是非協力させてください」
「うむ、だからお前も明日は休むのだ。いいな、執務はするな」
念を押すようにいうジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカはこくりと頷いた。
明日休みであれば、少し仕事をこなしてから寝てしまおうと考えていた。
部屋へ戻りオリンドが運んで来たお茶を飲んで、しばらくすると強い眠気が出て気づけばベッドで眠っていた。
「ほんの少し眠りの魔法を入れただけなのに……」
ルドヴィカの眠りようをみてオリンドはぽつりとつぶやいた。
それなりの魔力もちであれば効果はない程度であったが、ここまで効いてしまったのは余程疲れていたのだろう。
◆◆◆
朝方朝食が終わった後、準備を整えていたビアンカ公女は何度もルドヴィカに同じことを繰り返した。
「いい? 私が留守の間、お兄様のことをしっかりと頼むわよ」
寄宿学校は大公領内にあるが、主要都市から離れ山を越えた場所に建てられている。往復だけで2日はかかるので3日不在になる。
「はい。お任せください」
ルドヴィカはにこにこと笑って彼女を見送った。
「まぁ、隈がなくなっているから大丈夫なようね」
ビアンカ公女はくいっと自身の目の下を示した。
馬車が出発して、その後姿を眺めながらルドヴィカは自信の瞼と目の下に触れた。
化粧で隠れたと思ったが、彼女にはばれていたようである。
自室へ戻った後、ルドヴィカは前日に用意させたドレスを出させた。
「大公妃様、こちらのドレスで本当に宜しいのですか?」
ルルとしてはもう少し色鮮やかなドレスを提案したいところである。
「これが一番いいのよ。いざとなればスカート部分が外れるの」
ルドヴィカは婦人用のズボンを履いた。ブティックで前もって依頼した外付けスカートのドレスで、下の方には動きやすいズボンと乗馬用ブーツとなっている代物だ。
色合いはルルが提案したものに比べて地味目であるが、秋の木の葉の色合いに合っている色でルドヴィカは気に入っていた。
チェックのかかった紅葉(もみじ)色のスカートに上掛け、銀杏黄葉(いちょうもみじ)色のショール姿だった。
ズボンの色は黒であるが、不快感はなく動きやすい。
鏡の前に立ち特に問題ないと満足していた。
「髪の方ももう一度手直ししますね」
ルルはルドヴィカの後ろへまわり、シニョン型の付け毛を取り外した。
再度ルドヴィカの髪がほどき下ろされる。
首筋まで短くなっていた髪はようやく肩の先まで伸びていった。
これであれば付け毛なしでも問題ないと思う。
大公城内であるし、パルドンが手配して今日の通る道のりは部外者は通らないようにされている。
「ダメです。いつどこで誰がみるかわからないのですから」
ようやく伸びた長さでも淑女の髪の長さとしてはまだまだ足りていない。
ルルが用意したシニョン型の付け毛はルドヴィカが事件の際に切った髪をかき集めてのものだった。
ご丁寧に幽閉された塔の入り口に置かれていたので、ルルは青ざめてそれを拾って彼女の無事を待っていた。そして髪が短くなったルドヴィカをみて卒倒しそうになった。
「できました。髪飾りはどうしましょうか」
「うーん」
ルドヴィカはふとひとつの箱に手をとった。以前、ジャンルイジ大公がルドヴィカに渡した薔薇の髪飾りであった。
金細工の豪華な代物である。
「今の衣装じゃ少し派手すぎるかしら」
「だからあちらのドレスにしましょうと言いました」
ルルは今更だとため息をついた。
折角だからつけていこうと思ったがドレスに合わずに断念した。次の機会にしておくか。
「オリンド、窓の外でよさそうな葉をいくつかとってくれる」
ドレスの着付けが終わった頃に部屋へ入ってきたオリンドに気づいてルドヴィカは声をかける。
オリンドは窓を開き、呪文を唱えるとふぁっと風が舞い彼の手のひらに数枚の銀杏の葉が落ちて来た。
それをルルが受け取り、ルドヴィカの髪に飾り付けた。その前に、何枚も重ね合わせて糸でしっかりとしばりつける。
銀杏の重なり具合から一輪の大きな華のように鮮やかになった。
「よし、さすがルル」
ルドヴィカの思いつきで銀杏から髪を飾って欲しいと言う願いであったが、ここまで仕上がるとは思わなかった。
即興でここまでできる彼女の才能を褒めた。
「明日は休暇をとろうと思う」
夕食時のジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカはしばらく考え込んだ。
「そうですね。殿下もたまには休みが必要でしょう」
大公の執務と減量計画を同時にこなすのはなかなかハードスケジュールだっただろう。
たまには何も考えずにゆったりと過ごしてもらった方が良い。
食事療法は継続してもらいたいが過食に気を付けてもらえればいいか。
などとルドヴィカはジャンルイジ大公のみの休日だと考えていたが、続きの誘いを聞いて手が止まった。
「大公妃さえよければ一緒に過ごして欲しい」
ルドヴィカは目をぱちぱちとさせた。
「ええっと、私はまだちょっと」
頭の中で片づけたい仕事のスケジュールを思い浮かべる。
自分が傍にいても何をどう過ごせばいいのかもわからない。
というか私がいて休まるのだろうかとさえ考えてしまう。
「じ、実は……久々に西の庭園へ行きたいと考えている。今はダリアが見ごろだそうだ」
ごほんとジャンルイジ大公は咳払いした。
「殿下が花を愛でられるのですか」
「私にだって花を愛でたくなるときはある」
思わず失礼なことをいうルドヴィカにジャンルイジ大公はむっと唇を尖らせた。
「西の庭園……部屋を出る必要がありますね」
「そうだ。そろそろ、もう一度脱引きこもりを試みようと思っている。いつまでも部屋にいるのも飽きてきたし」
ジャンルイジ大公は内心無理やりすぎる動機だったかなとルドヴィカの反応をみた。
ルドヴィカはしばらく考え込んだ。
「悪くないですね……折角殿下がダリアをみたいと仰せです。目的があれば今度こそ脱引きこもりが成功できるかもしれません」
前回は目的はルドヴィカ自身が用意したものでジャンルイジ大公の自発的なものとは少し異なるように感じた。
今はジャンルイジ大公がどこへ行きたいか、どうしたいかという目的が明確になっている。
人は自発的な目的さえあれば行動変容に至れる。
「ですが、大丈夫ですか? 金髪の女性」
「パルドンに任せて金髪の使用人たちは西の庭園までのルートに近づかないように配置づけている」
「公女様は……」
「ビアンカはその日は外出だ。寄宿学校への視察へ行くので帰るのは次の日になる」
そういえば、今日の朝食で彼女が言っていたのを思い出した。
1年後には寄宿学校に入る予定だから視察にでかけると。前世でもその予定だったようだが、ジャンルイジ大公が崩御し後を継がなければならなくそれどころではなくなってしまったのを思い出した。
ビアンカ公女の外出に合わせて外出するのは気が引けるが、ジャンルイジ大公が部屋から出ることは言霊魔法からの解放の第一歩に繋がるかもしれない。
「わかりました。是非協力させてください」
「うむ、だからお前も明日は休むのだ。いいな、執務はするな」
念を押すようにいうジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカはこくりと頷いた。
明日休みであれば、少し仕事をこなしてから寝てしまおうと考えていた。
部屋へ戻りオリンドが運んで来たお茶を飲んで、しばらくすると強い眠気が出て気づけばベッドで眠っていた。
「ほんの少し眠りの魔法を入れただけなのに……」
ルドヴィカの眠りようをみてオリンドはぽつりとつぶやいた。
それなりの魔力もちであれば効果はない程度であったが、ここまで効いてしまったのは余程疲れていたのだろう。
◆◆◆
朝方朝食が終わった後、準備を整えていたビアンカ公女は何度もルドヴィカに同じことを繰り返した。
「いい? 私が留守の間、お兄様のことをしっかりと頼むわよ」
寄宿学校は大公領内にあるが、主要都市から離れ山を越えた場所に建てられている。往復だけで2日はかかるので3日不在になる。
「はい。お任せください」
ルドヴィカはにこにこと笑って彼女を見送った。
「まぁ、隈がなくなっているから大丈夫なようね」
ビアンカ公女はくいっと自身の目の下を示した。
馬車が出発して、その後姿を眺めながらルドヴィカは自信の瞼と目の下に触れた。
化粧で隠れたと思ったが、彼女にはばれていたようである。
自室へ戻った後、ルドヴィカは前日に用意させたドレスを出させた。
「大公妃様、こちらのドレスで本当に宜しいのですか?」
ルルとしてはもう少し色鮮やかなドレスを提案したいところである。
「これが一番いいのよ。いざとなればスカート部分が外れるの」
ルドヴィカは婦人用のズボンを履いた。ブティックで前もって依頼した外付けスカートのドレスで、下の方には動きやすいズボンと乗馬用ブーツとなっている代物だ。
色合いはルルが提案したものに比べて地味目であるが、秋の木の葉の色合いに合っている色でルドヴィカは気に入っていた。
チェックのかかった紅葉(もみじ)色のスカートに上掛け、銀杏黄葉(いちょうもみじ)色のショール姿だった。
ズボンの色は黒であるが、不快感はなく動きやすい。
鏡の前に立ち特に問題ないと満足していた。
「髪の方ももう一度手直ししますね」
ルルはルドヴィカの後ろへまわり、シニョン型の付け毛を取り外した。
再度ルドヴィカの髪がほどき下ろされる。
首筋まで短くなっていた髪はようやく肩の先まで伸びていった。
これであれば付け毛なしでも問題ないと思う。
大公城内であるし、パルドンが手配して今日の通る道のりは部外者は通らないようにされている。
「ダメです。いつどこで誰がみるかわからないのですから」
ようやく伸びた長さでも淑女の髪の長さとしてはまだまだ足りていない。
ルルが用意したシニョン型の付け毛はルドヴィカが事件の際に切った髪をかき集めてのものだった。
ご丁寧に幽閉された塔の入り口に置かれていたので、ルルは青ざめてそれを拾って彼女の無事を待っていた。そして髪が短くなったルドヴィカをみて卒倒しそうになった。
「できました。髪飾りはどうしましょうか」
「うーん」
ルドヴィカはふとひとつの箱に手をとった。以前、ジャンルイジ大公がルドヴィカに渡した薔薇の髪飾りであった。
金細工の豪華な代物である。
「今の衣装じゃ少し派手すぎるかしら」
「だからあちらのドレスにしましょうと言いました」
ルルは今更だとため息をついた。
折角だからつけていこうと思ったがドレスに合わずに断念した。次の機会にしておくか。
「オリンド、窓の外でよさそうな葉をいくつかとってくれる」
ドレスの着付けが終わった頃に部屋へ入ってきたオリンドに気づいてルドヴィカは声をかける。
オリンドは窓を開き、呪文を唱えるとふぁっと風が舞い彼の手のひらに数枚の銀杏の葉が落ちて来た。
それをルルが受け取り、ルドヴィカの髪に飾り付けた。その前に、何枚も重ね合わせて糸でしっかりとしばりつける。
銀杏の重なり具合から一輪の大きな華のように鮮やかになった。
「よし、さすがルル」
ルドヴィカの思いつきで銀杏から髪を飾って欲しいと言う願いであったが、ここまで仕上がるとは思わなかった。
即興でここまでできる彼女の才能を褒めた。
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