【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

文字の大きさ
57 / 94

55 胸騒ぎ

しおりを挟む
 ジャンルイジ大公の提案でルドヴィカは女官を三人雇った。
 大公家に仕える貴族の令嬢が2人、寡婦となった夫人が1人である。

「ベルタ子爵家のマリーです。手紙や報告書を作るのを任せていただければと思います」
「ハイリッヒ男爵家のクラリスです。治療院ボランティアをしており、以前より大公妃のお役に立ちたいと思っていました」
「亡きグレゴリー男爵の妻ビーチェです。大学で疫学を専攻したこともあり、大公妃のお役にたてると考えております」

 それぞれの特技、役割を確認して早速分担してもらうことになった。
 書類や手紙、資料作りは女官たちが作成してくれるのでルドヴィカはそれを最後に確認することになった。おかげで負担がだいぶ減った。

(文章書くの、実は苦手だったのよね)

 正直に言えば手紙の文章を考えてくれるだけでもだいぶ助かった。
 数日の仕事ぶりを確認してルドヴィカはグレゴリー夫人を女官のまとめ役、指示令を依頼した。

 おかげで食事の後、ゆっくりと過ごすことができる。

「よかったじゃないの。お兄様に感謝しなさいよ」

 朝食でビアンカ公女の女官についての言葉にルドヴィカはにこりと笑った。

「ええ、おかげで最近は定時あがりできるようになったわ」
「定時あがりってなに?」

 時々意味のわからない言葉を言うのねとビアンカ公女は食後の紅茶を飲む。

「ところで公女様は寄宿学校の視察はいかがでしたか?」

 来年入学予定の学校について尋ねてみる。

「ま、悪くないわね。お兄様が通っていた学校だし」

 正確にはジャンルイジ大公が通っていた寄宿学校の女学校である。授業によっては男子と一緒に受けることもあるらしい。
 入学することに関しては特に不満はないようだ。

「受験は春でしたね」
「そうよ。でも、もう範囲は習っているから後はおさらいするだけだわ。そうそう。あなたのいうスライディングシート作りはもうすぐ完成できそうだから見に来ることね」

 ルドヴィカが考えていたスライディングシート作りについてはビアンカ公女が挙手した。正確には彼女の家庭教師である。生地の滑り具合などは物理学の勉強の実践になるといい一緒に作るという。お裁縫も得意そうな女性だったので、安心して任せてしまった。
 良い教師にも恵まれているようなのでビアンカ公女の勉学については心配していない。
 何事もなく入学できればいいのだが、やはりジャンルイジ大公の病気についてが気がかりだった。

「あと、夏の終わり頃が入学式よ」
「そうですね」
「ちゃんと予定を空けておくように」

 ビアンカ公女の言葉にルドヴィカは目をぱちぱちとさせた。

「私が入学式へ?」
「まさか、あなた公女の私の入学を代理人で済ませようとしたの?」

 寄宿学校の入学の際は保護者同伴が通例だった。ジャンルイジ大公の頃も母親が参加している。
 ビアンカ公女の場合はジャンルイジ大公が参加できれば良いのだが、彼女自身それまで回復は厳しいだろうと感じていた。

「行きたくないなら別にいいわよ。代理を用意しておきなさい」
「いいえ、行くわ。公女様の入学式だもの。何を着て行けばいいのかしら」
「フォーマルスタイルね。あまりひらひらしたものは着る方はいないから」

 そっけない口調であるが、ルドヴィカの質問に答えてくれる。
 食事を済ませた彼女はささっと食堂を去ってしまった。
 まだ1年後のことであるが、すぐにカタログを確認しておこうかなとルドヴィカは笑った。

 窓の外をみると秋の終わりが感じられる。渡り廊下を歩くとひやりと冷たい風が吹き、冬の到来が目前となっていた。
 前世、ジャンルイジ大公が亡くなったのは秋の中頃。
 前世の記憶の彼の急病の時期は過ぎていた。

「このまま何事もなく起きないでくれたらいい」

 冬を越えられれば、春になる。
 春になればフランチェスカが帰ってくる。彼女の神聖魔法は奇跡的な治癒魔法も含まれており、そこまでねばれれば一安心のはずである。
 ルドヴィカはもう巡礼もある程度終わった頃合いだから今から戻ってくるようにお願いできないかとルフィーノに提案したが、スグリ山の巡礼が終わるのは12月の頃でありどうあっても急いでも戻っても1月頃だろうとのことだった。

 執務をこなして、ルドヴィカは本日のジャンルイジ大公のリハビリを確認した。
 部屋を出入りすることはできるようになっていた。
 それも歩行器なし、壁つたえで歩けるようになっていた。
 1階まで降りるには事前の準備が必要になるため、まだまだ自由に出歩くのは難しい。
 それでも彼の歩く姿をみると嬉しくなった。

「ん?」

 リハビリ中にジャンルイジ大公は首を傾げた。

「どうしたの?」
「少し腹が痛いような」

 先ほど腹筋をしすぎたせいだろうとジャンルイジ大公は笑った。

「今日はこのあたりで休みましょう」

 ルドヴィカはガヴァス卿に車いすを持ってくるように依頼した。騎士は車いすをジャンルイジ大公の後ろまで届けてくれて、ジャンルイジ大公はすとんとそれに腰かけた。
 最近は腹筋することもみかけた。自力でするのは厳しいから騎士に介助を頼み行っている。

「腹筋は確か昨日もしなかったかしら」
「ああ、毎日10回3セット」
「1,2日は空けておいていいですよ」
「昔は毎日できていたが」

 昔と今を比較する必要なんてない。少しずつできるようになってきたからこその焦りも出てきている様子だ。

「今は慌てなくていいです。ジジは十分頑張っているのだから」

 ルドヴィカは笑いジャンルイジ大公の額に流れている汗をハンカチでぬぐってやった。
 ジャンルイジ大公は日に日によくなってきている。
 前世の彼の急病の日から随分過ぎ去っていっている。
 なのにどうしてかざわついてしまった。

(冬になると交通の便も悪くなるものね。物資が届きにくいし、もう一度医務室の在庫を確認しておかなきゃ)

 ルドヴィカはそのように考えながら普段のデューティーをこなし、夕食をジャンルイジ大公と一緒にし就寝についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

処理中です...