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55 胸騒ぎ
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ジャンルイジ大公の提案でルドヴィカは女官を三人雇った。
大公家に仕える貴族の令嬢が2人、寡婦となった夫人が1人である。
「ベルタ子爵家のマリーです。手紙や報告書を作るのを任せていただければと思います」
「ハイリッヒ男爵家のクラリスです。治療院ボランティアをしており、以前より大公妃のお役に立ちたいと思っていました」
「亡きグレゴリー男爵の妻ビーチェです。大学で疫学を専攻したこともあり、大公妃のお役にたてると考えております」
それぞれの特技、役割を確認して早速分担してもらうことになった。
書類や手紙、資料作りは女官たちが作成してくれるのでルドヴィカはそれを最後に確認することになった。おかげで負担がだいぶ減った。
(文章書くの、実は苦手だったのよね)
正直に言えば手紙の文章を考えてくれるだけでもだいぶ助かった。
数日の仕事ぶりを確認してルドヴィカはグレゴリー夫人を女官のまとめ役、指示令を依頼した。
おかげで食事の後、ゆっくりと過ごすことができる。
「よかったじゃないの。お兄様に感謝しなさいよ」
朝食でビアンカ公女の女官についての言葉にルドヴィカはにこりと笑った。
「ええ、おかげで最近は定時あがりできるようになったわ」
「定時あがりってなに?」
時々意味のわからない言葉を言うのねとビアンカ公女は食後の紅茶を飲む。
「ところで公女様は寄宿学校の視察はいかがでしたか?」
来年入学予定の学校について尋ねてみる。
「ま、悪くないわね。お兄様が通っていた学校だし」
正確にはジャンルイジ大公が通っていた寄宿学校の女学校である。授業によっては男子と一緒に受けることもあるらしい。
入学することに関しては特に不満はないようだ。
「受験は春でしたね」
「そうよ。でも、もう範囲は習っているから後はおさらいするだけだわ。そうそう。あなたのいうスライディングシート作りはもうすぐ完成できそうだから見に来ることね」
ルドヴィカが考えていたスライディングシート作りについてはビアンカ公女が挙手した。正確には彼女の家庭教師である。生地の滑り具合などは物理学の勉強の実践になるといい一緒に作るという。お裁縫も得意そうな女性だったので、安心して任せてしまった。
良い教師にも恵まれているようなのでビアンカ公女の勉学については心配していない。
何事もなく入学できればいいのだが、やはりジャンルイジ大公の病気についてが気がかりだった。
「あと、夏の終わり頃が入学式よ」
「そうですね」
「ちゃんと予定を空けておくように」
ビアンカ公女の言葉にルドヴィカは目をぱちぱちとさせた。
「私が入学式へ?」
「まさか、あなた公女の私の入学を代理人で済ませようとしたの?」
寄宿学校の入学の際は保護者同伴が通例だった。ジャンルイジ大公の頃も母親が参加している。
ビアンカ公女の場合はジャンルイジ大公が参加できれば良いのだが、彼女自身それまで回復は厳しいだろうと感じていた。
「行きたくないなら別にいいわよ。代理を用意しておきなさい」
「いいえ、行くわ。公女様の入学式だもの。何を着て行けばいいのかしら」
「フォーマルスタイルね。あまりひらひらしたものは着る方はいないから」
そっけない口調であるが、ルドヴィカの質問に答えてくれる。
食事を済ませた彼女はささっと食堂を去ってしまった。
まだ1年後のことであるが、すぐにカタログを確認しておこうかなとルドヴィカは笑った。
窓の外をみると秋の終わりが感じられる。渡り廊下を歩くとひやりと冷たい風が吹き、冬の到来が目前となっていた。
前世、ジャンルイジ大公が亡くなったのは秋の中頃。
前世の記憶の彼の急病の時期は過ぎていた。
「このまま何事もなく起きないでくれたらいい」
冬を越えられれば、春になる。
春になればフランチェスカが帰ってくる。彼女の神聖魔法は奇跡的な治癒魔法も含まれており、そこまでねばれれば一安心のはずである。
ルドヴィカはもう巡礼もある程度終わった頃合いだから今から戻ってくるようにお願いできないかとルフィーノに提案したが、スグリ山の巡礼が終わるのは12月の頃でありどうあっても急いでも戻っても1月頃だろうとのことだった。
執務をこなして、ルドヴィカは本日のジャンルイジ大公のリハビリを確認した。
部屋を出入りすることはできるようになっていた。
それも歩行器なし、壁つたえで歩けるようになっていた。
1階まで降りるには事前の準備が必要になるため、まだまだ自由に出歩くのは難しい。
それでも彼の歩く姿をみると嬉しくなった。
「ん?」
リハビリ中にジャンルイジ大公は首を傾げた。
「どうしたの?」
「少し腹が痛いような」
先ほど腹筋をしすぎたせいだろうとジャンルイジ大公は笑った。
「今日はこのあたりで休みましょう」
ルドヴィカはガヴァス卿に車いすを持ってくるように依頼した。騎士は車いすをジャンルイジ大公の後ろまで届けてくれて、ジャンルイジ大公はすとんとそれに腰かけた。
最近は腹筋することもみかけた。自力でするのは厳しいから騎士に介助を頼み行っている。
「腹筋は確か昨日もしなかったかしら」
「ああ、毎日10回3セット」
「1,2日は空けておいていいですよ」
「昔は毎日できていたが」
昔と今を比較する必要なんてない。少しずつできるようになってきたからこその焦りも出てきている様子だ。
「今は慌てなくていいです。ジジは十分頑張っているのだから」
ルドヴィカは笑いジャンルイジ大公の額に流れている汗をハンカチでぬぐってやった。
ジャンルイジ大公は日に日によくなってきている。
前世の彼の急病の日から随分過ぎ去っていっている。
なのにどうしてかざわついてしまった。
(冬になると交通の便も悪くなるものね。物資が届きにくいし、もう一度医務室の在庫を確認しておかなきゃ)
ルドヴィカはそのように考えながら普段のデューティーをこなし、夕食をジャンルイジ大公と一緒にし就寝についた。
大公家に仕える貴族の令嬢が2人、寡婦となった夫人が1人である。
「ベルタ子爵家のマリーです。手紙や報告書を作るのを任せていただければと思います」
「ハイリッヒ男爵家のクラリスです。治療院ボランティアをしており、以前より大公妃のお役に立ちたいと思っていました」
「亡きグレゴリー男爵の妻ビーチェです。大学で疫学を専攻したこともあり、大公妃のお役にたてると考えております」
それぞれの特技、役割を確認して早速分担してもらうことになった。
書類や手紙、資料作りは女官たちが作成してくれるのでルドヴィカはそれを最後に確認することになった。おかげで負担がだいぶ減った。
(文章書くの、実は苦手だったのよね)
正直に言えば手紙の文章を考えてくれるだけでもだいぶ助かった。
数日の仕事ぶりを確認してルドヴィカはグレゴリー夫人を女官のまとめ役、指示令を依頼した。
おかげで食事の後、ゆっくりと過ごすことができる。
「よかったじゃないの。お兄様に感謝しなさいよ」
朝食でビアンカ公女の女官についての言葉にルドヴィカはにこりと笑った。
「ええ、おかげで最近は定時あがりできるようになったわ」
「定時あがりってなに?」
時々意味のわからない言葉を言うのねとビアンカ公女は食後の紅茶を飲む。
「ところで公女様は寄宿学校の視察はいかがでしたか?」
来年入学予定の学校について尋ねてみる。
「ま、悪くないわね。お兄様が通っていた学校だし」
正確にはジャンルイジ大公が通っていた寄宿学校の女学校である。授業によっては男子と一緒に受けることもあるらしい。
入学することに関しては特に不満はないようだ。
「受験は春でしたね」
「そうよ。でも、もう範囲は習っているから後はおさらいするだけだわ。そうそう。あなたのいうスライディングシート作りはもうすぐ完成できそうだから見に来ることね」
ルドヴィカが考えていたスライディングシート作りについてはビアンカ公女が挙手した。正確には彼女の家庭教師である。生地の滑り具合などは物理学の勉強の実践になるといい一緒に作るという。お裁縫も得意そうな女性だったので、安心して任せてしまった。
良い教師にも恵まれているようなのでビアンカ公女の勉学については心配していない。
何事もなく入学できればいいのだが、やはりジャンルイジ大公の病気についてが気がかりだった。
「あと、夏の終わり頃が入学式よ」
「そうですね」
「ちゃんと予定を空けておくように」
ビアンカ公女の言葉にルドヴィカは目をぱちぱちとさせた。
「私が入学式へ?」
「まさか、あなた公女の私の入学を代理人で済ませようとしたの?」
寄宿学校の入学の際は保護者同伴が通例だった。ジャンルイジ大公の頃も母親が参加している。
ビアンカ公女の場合はジャンルイジ大公が参加できれば良いのだが、彼女自身それまで回復は厳しいだろうと感じていた。
「行きたくないなら別にいいわよ。代理を用意しておきなさい」
「いいえ、行くわ。公女様の入学式だもの。何を着て行けばいいのかしら」
「フォーマルスタイルね。あまりひらひらしたものは着る方はいないから」
そっけない口調であるが、ルドヴィカの質問に答えてくれる。
食事を済ませた彼女はささっと食堂を去ってしまった。
まだ1年後のことであるが、すぐにカタログを確認しておこうかなとルドヴィカは笑った。
窓の外をみると秋の終わりが感じられる。渡り廊下を歩くとひやりと冷たい風が吹き、冬の到来が目前となっていた。
前世、ジャンルイジ大公が亡くなったのは秋の中頃。
前世の記憶の彼の急病の時期は過ぎていた。
「このまま何事もなく起きないでくれたらいい」
冬を越えられれば、春になる。
春になればフランチェスカが帰ってくる。彼女の神聖魔法は奇跡的な治癒魔法も含まれており、そこまでねばれれば一安心のはずである。
ルドヴィカはもう巡礼もある程度終わった頃合いだから今から戻ってくるようにお願いできないかとルフィーノに提案したが、スグリ山の巡礼が終わるのは12月の頃でありどうあっても急いでも戻っても1月頃だろうとのことだった。
執務をこなして、ルドヴィカは本日のジャンルイジ大公のリハビリを確認した。
部屋を出入りすることはできるようになっていた。
それも歩行器なし、壁つたえで歩けるようになっていた。
1階まで降りるには事前の準備が必要になるため、まだまだ自由に出歩くのは難しい。
それでも彼の歩く姿をみると嬉しくなった。
「ん?」
リハビリ中にジャンルイジ大公は首を傾げた。
「どうしたの?」
「少し腹が痛いような」
先ほど腹筋をしすぎたせいだろうとジャンルイジ大公は笑った。
「今日はこのあたりで休みましょう」
ルドヴィカはガヴァス卿に車いすを持ってくるように依頼した。騎士は車いすをジャンルイジ大公の後ろまで届けてくれて、ジャンルイジ大公はすとんとそれに腰かけた。
最近は腹筋することもみかけた。自力でするのは厳しいから騎士に介助を頼み行っている。
「腹筋は確か昨日もしなかったかしら」
「ああ、毎日10回3セット」
「1,2日は空けておいていいですよ」
「昔は毎日できていたが」
昔と今を比較する必要なんてない。少しずつできるようになってきたからこその焦りも出てきている様子だ。
「今は慌てなくていいです。ジジは十分頑張っているのだから」
ルドヴィカは笑いジャンルイジ大公の額に流れている汗をハンカチでぬぐってやった。
ジャンルイジ大公は日に日によくなってきている。
前世の彼の急病の日から随分過ぎ去っていっている。
なのにどうしてかざわついてしまった。
(冬になると交通の便も悪くなるものね。物資が届きにくいし、もう一度医務室の在庫を確認しておかなきゃ)
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