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57 辺境の修道院
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ジャンルイジが目を覚ました時、整然と並べられた簡易ベッドの上で横になっていた。見知らぬ建物、見慣れない天井で自分はどうしてここにいるかわからなかった。
大公城の寝室にいたはずである。
「目が覚めましたか?」
年若い修道女が声をかけてきた。
「よかった。酷い熱でうなされていたのですよ」
屈託のない笑顔がとても明るい。
「ここは……」
「ここは■■修道院です」
ざざっと砂嵐のような音がして、どこの修道院かわからなかった。
修道女がいうにはジャンルイジは森の中で倒れているのを発見されたようだ。
先輩修道女がみつけて、ここまで運んで手当をしてくれた。
「体調が悪いなら無理しちゃいけませんよ。あそこでシスター・ルドヴィカが拾わなければ死んでいましたよ」
ルドヴィカという名にジャンルイジ大公は思わず起き上がった。
「ルドヴィカ、ここにルドヴィカがいるのか?」
修道女の肩に掴みかかった時、ジャンルイジは自分の手をみて驚いた。筋張った手で、少し前までのふくよかな手ではなかった。まるで昔の手の細さだった。
「ええ、知り合いなのですか?」
修道女は首を傾げた。
「シスター・アンナ。食事の配膳を手伝ってくれる?」
がらがらと配膳車を運びながら聞き覚えのある声がかかってきた。
「シスター、シスターが拾った方が目を覚ましました」
扉から入ってきた修道女をみてジャンルイジは声を失った。
鼠色(ブルーグレイ)の髪は首筋にかからないまで短く切られていた。ひどく痩せていて、疲労感の強い表情を浮かべていてそれでも赤い瞳の柔らかい笑顔はジャンルイジの知るものであった。
「よかった。食事はとれるかしら。といってもたいしたものは出せないのだけどね」
簡単なスープであった。野菜くずと、肉の破片が入ったもの。それに合わせて固いパンだった。
「パンが食べれないのなら次からパン粥の方にするから」
彼女はそういい食事を各ベッドに横たわる人の傍へと置いた。起き上がった老人は恭しくルドヴィカに手を合わせて食事を受け取った。
「彼女は……ここで何をしているのだ」
「何って看護ですよ。ここは修道院の病人たちを面倒みるための部屋です。自宅で面倒をみる人がいない病人の場合はこうして面倒をみているのです。そして、行き場のない方も」
シスター・アンナは質問に答えてくれた。ルドヴィカは特に重症そうな男性を支えて、パン粥を食べさせてやる。男は呻きながらももそもそと口を動かしのどを震わせのみこんだ。それを確認してルドヴィカは次のひと掬いを男に差し出した。随分と病人の相手に慣れている様子だった。
食事が終わった後、ルドヴィカとアンナは礼拝堂へと向かった。
「……」
ジャンルイジはベッドから起き上がって、窓にうつる自分の顔をみた。
間違いなく戦争時代の全盛期の頃の体だった。歩行器も支えもなくても立つことができる。
自分は何故ここにいるのだろうか。ここは一体どこで、ルドヴィカはここで何をしているのだろう。
考えてもわからなかった。
「なんだ。お前さんはルドヴィカ様に気があるのかい?」
隣で寝ていた男が声をかけた。
「そ、それは」
ジャンルイジは顔を赤くした。
随分となれなれしい中年の男性であった。顔がにやにやとしている。
入院生活が退屈で若い男の挙動を楽しんでいるようだった。
「やめておけ。ルドヴィカ様はお前さんのような旅人が手をだせるほどの方じゃない」
「どういう意味だ……」
「噂では、アンジェロ大公家の生き残りのルドヴィカ妃という話さ」
男はひそひそと声をかけた。
「滅亡したアンジェロ大公家の財政を逼迫させる程贅沢三昧をした悪女。夫亡きあとは義理の妹に追い出されたって話さ。その後に改心したのか、こうして病人の世話を焼いている」
話を聞くとよくわからない。アンジェロ大公家でルドヴィカが贅沢三昧をした記憶はない。多少減量計画でお金を使った面もあるが、そこまで酷い金遣いではなかった。必要経費レベルである。
「村人たちはみんああの方に警戒したさ。けど、噂が嘘なのではと思うくらい働いて質素な暮らしをしている。人間というのは反省して変われるものなんだねと思ったものさ。まぁ、先代の院長先生が良い方で優しく導いてくださったのだろう」
先代院長は魔法棟所属で医学にも詳しい女性であった。
この病院を開いたのも先代院長だった。
ルドヴィカは彼女の指南を受けて、修道女として病人の看護をはじめた。
魔法も教えられたそうだが、治癒魔法は使えなかったがその分院長から学んだ薬草の知識で多くの人を助けようとしている。
男の話は信じられないことだった。
ジャンルイジは病室から出ていった。病院は3つ部屋があって。
1つは感染症の隔離部屋、1つは重症部屋、もう1つが先ほどジャンルイジがいた部屋であった。
修道院の人たちは手分けして病人たちの世話をしているという。
病人の看護をしている修道女に声をかける。
「シスター・ルドヴィカは今はお洗濯中です」
言われるまま洗濯物を干している場所へと向かった。
「ご苦労様。干すのは私がやっておくから先に中へ入りなさい」
「え、でも……」
「私よりも多めに洗ってくれたのよ。大丈夫よ」
ルドヴィカに言われて二人の修道女は申し訳なさそうに建物へと入っていった。
ルドヴィカは慣れたてつきで洗濯物を干していく。一枚一枚丁寧に。
元大公妃とは思えない程の慣れたてつきで。
「あ……」
最後の一枚を干し終えてルドヴィカは足を崩した。
ぽすっと後ろからジャンルイジが支えた。
「ありがとうございます。もう良いのですか?」
ルドヴィカは優しく微笑む。
「ああ、……その」
「はい」
「ちゃんと食べているのか?」
思わず声にでた言葉。言いたくなってしまった。
今のルドヴィカを支えた時、あまりにも軽いものだったので。
ルドヴィカはふふっと笑った。
「はい。しっかりと食べていますよ」
嘘だ。
すぐにわかった。
これは無理をしているときの顔だ。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はルドヴィカ。この修道院でお世話になっている者です。あなたは……」
「私は……■■」
ざざっと砂嵐のようなものが出て、思うように名前を出せなかった。
「あ、いいのですよ。ここにはわけありの方もいらしておりますし、本名をかたらなくても大丈夫です」
ルドヴィカはジャンルイジが名乗るのを躊躇していると考えた。
「今度は体調悪い時はきちんと休んでくださいね」
彼女は笑った。やはり笑うとルドヴィカに似ていると思った。
大公城の寝室にいたはずである。
「目が覚めましたか?」
年若い修道女が声をかけてきた。
「よかった。酷い熱でうなされていたのですよ」
屈託のない笑顔がとても明るい。
「ここは……」
「ここは■■修道院です」
ざざっと砂嵐のような音がして、どこの修道院かわからなかった。
修道女がいうにはジャンルイジは森の中で倒れているのを発見されたようだ。
先輩修道女がみつけて、ここまで運んで手当をしてくれた。
「体調が悪いなら無理しちゃいけませんよ。あそこでシスター・ルドヴィカが拾わなければ死んでいましたよ」
ルドヴィカという名にジャンルイジ大公は思わず起き上がった。
「ルドヴィカ、ここにルドヴィカがいるのか?」
修道女の肩に掴みかかった時、ジャンルイジは自分の手をみて驚いた。筋張った手で、少し前までのふくよかな手ではなかった。まるで昔の手の細さだった。
「ええ、知り合いなのですか?」
修道女は首を傾げた。
「シスター・アンナ。食事の配膳を手伝ってくれる?」
がらがらと配膳車を運びながら聞き覚えのある声がかかってきた。
「シスター、シスターが拾った方が目を覚ましました」
扉から入ってきた修道女をみてジャンルイジは声を失った。
鼠色(ブルーグレイ)の髪は首筋にかからないまで短く切られていた。ひどく痩せていて、疲労感の強い表情を浮かべていてそれでも赤い瞳の柔らかい笑顔はジャンルイジの知るものであった。
「よかった。食事はとれるかしら。といってもたいしたものは出せないのだけどね」
簡単なスープであった。野菜くずと、肉の破片が入ったもの。それに合わせて固いパンだった。
「パンが食べれないのなら次からパン粥の方にするから」
彼女はそういい食事を各ベッドに横たわる人の傍へと置いた。起き上がった老人は恭しくルドヴィカに手を合わせて食事を受け取った。
「彼女は……ここで何をしているのだ」
「何って看護ですよ。ここは修道院の病人たちを面倒みるための部屋です。自宅で面倒をみる人がいない病人の場合はこうして面倒をみているのです。そして、行き場のない方も」
シスター・アンナは質問に答えてくれた。ルドヴィカは特に重症そうな男性を支えて、パン粥を食べさせてやる。男は呻きながらももそもそと口を動かしのどを震わせのみこんだ。それを確認してルドヴィカは次のひと掬いを男に差し出した。随分と病人の相手に慣れている様子だった。
食事が終わった後、ルドヴィカとアンナは礼拝堂へと向かった。
「……」
ジャンルイジはベッドから起き上がって、窓にうつる自分の顔をみた。
間違いなく戦争時代の全盛期の頃の体だった。歩行器も支えもなくても立つことができる。
自分は何故ここにいるのだろうか。ここは一体どこで、ルドヴィカはここで何をしているのだろう。
考えてもわからなかった。
「なんだ。お前さんはルドヴィカ様に気があるのかい?」
隣で寝ていた男が声をかけた。
「そ、それは」
ジャンルイジは顔を赤くした。
随分となれなれしい中年の男性であった。顔がにやにやとしている。
入院生活が退屈で若い男の挙動を楽しんでいるようだった。
「やめておけ。ルドヴィカ様はお前さんのような旅人が手をだせるほどの方じゃない」
「どういう意味だ……」
「噂では、アンジェロ大公家の生き残りのルドヴィカ妃という話さ」
男はひそひそと声をかけた。
「滅亡したアンジェロ大公家の財政を逼迫させる程贅沢三昧をした悪女。夫亡きあとは義理の妹に追い出されたって話さ。その後に改心したのか、こうして病人の世話を焼いている」
話を聞くとよくわからない。アンジェロ大公家でルドヴィカが贅沢三昧をした記憶はない。多少減量計画でお金を使った面もあるが、そこまで酷い金遣いではなかった。必要経費レベルである。
「村人たちはみんああの方に警戒したさ。けど、噂が嘘なのではと思うくらい働いて質素な暮らしをしている。人間というのは反省して変われるものなんだねと思ったものさ。まぁ、先代の院長先生が良い方で優しく導いてくださったのだろう」
先代院長は魔法棟所属で医学にも詳しい女性であった。
この病院を開いたのも先代院長だった。
ルドヴィカは彼女の指南を受けて、修道女として病人の看護をはじめた。
魔法も教えられたそうだが、治癒魔法は使えなかったがその分院長から学んだ薬草の知識で多くの人を助けようとしている。
男の話は信じられないことだった。
ジャンルイジは病室から出ていった。病院は3つ部屋があって。
1つは感染症の隔離部屋、1つは重症部屋、もう1つが先ほどジャンルイジがいた部屋であった。
修道院の人たちは手分けして病人たちの世話をしているという。
病人の看護をしている修道女に声をかける。
「シスター・ルドヴィカは今はお洗濯中です」
言われるまま洗濯物を干している場所へと向かった。
「ご苦労様。干すのは私がやっておくから先に中へ入りなさい」
「え、でも……」
「私よりも多めに洗ってくれたのよ。大丈夫よ」
ルドヴィカに言われて二人の修道女は申し訳なさそうに建物へと入っていった。
ルドヴィカは慣れたてつきで洗濯物を干していく。一枚一枚丁寧に。
元大公妃とは思えない程の慣れたてつきで。
「あ……」
最後の一枚を干し終えてルドヴィカは足を崩した。
ぽすっと後ろからジャンルイジが支えた。
「ありがとうございます。もう良いのですか?」
ルドヴィカは優しく微笑む。
「ああ、……その」
「はい」
「ちゃんと食べているのか?」
思わず声にでた言葉。言いたくなってしまった。
今のルドヴィカを支えた時、あまりにも軽いものだったので。
ルドヴィカはふふっと笑った。
「はい。しっかりと食べていますよ」
嘘だ。
すぐにわかった。
これは無理をしているときの顔だ。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はルドヴィカ。この修道院でお世話になっている者です。あなたは……」
「私は……■■」
ざざっと砂嵐のようなものが出て、思うように名前を出せなかった。
「あ、いいのですよ。ここにはわけありの方もいらしておりますし、本名をかたらなくても大丈夫です」
ルドヴィカはジャンルイジが名乗るのを躊躇していると考えた。
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