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73 魔法でエネルギー消費を狙え
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新しく与えられた女主人の部屋は暖房がよく効いて温かかった。
朝起きると、既に暖炉の火がともり寝台から出やすかった。
「とても快適に過ごさせていただいています」
朝食へ向かう途中ルドヴィカはジャンルイジ大公に改めてお礼を言った。
「暖炉の火が弱くなれば言ってくれ。すぐに付け直す」
その言葉にルドヴィカは首を傾げた。
執務が一通り終わった後、ルドヴィカは日課となっていたルフィーノと魔法学の勉強を開始した。
ルルが淹れてくれたお茶と新作のケーキを堪能しながらルフィーノは最近のルドヴィカの身の回りの魔法応用について解説した。
知識を無理やりつめこんでいたスパルタな時期とは異なり今はゆったりと雑学を挟みながら授業をしてくれている。
「暖炉の火は大公の魔法で灯されているのでしょう」
ルフィーノは説明した。
「大公の魔法は炎魔法、基本的に攻撃魔法特化型だが魔力を器用に抑え込めば暖炉の火をくべるのに丁度よくなる」
「そんなことが可能なのですか」
「攻撃魔法も使い方次第では生活に用立てることができる。幼い頃の魔法学の師が口癖のように言っていました」
ルフィーノに魔法学の基礎を教えた魔法使いであった。
大公領に滞在している間、衣食住を得る代わりに当時公子だったジャンルイジ大公の家庭教師を仰せつかっていた。同時にルフィーノ、フランチェスカにも教えていた。
穏やかな老人であったと言われる。
「その師匠は今はどこへいるのでしょう」
「東の方へ旅立たれました。何でも生まれ故郷に似た国があるとか、老後はそこで過ごしたいと」
大公領出身の大賢者とは古い友人関係だったようで、旅立つ前に訪れたという。彼も1年滞在していなくなった。
「実際賢者に名を連ねてもおかしくない実績を持ち、国内滞在を求められたが彼はやんわりと断ったそうです」
「もしかして転生者……」
賢者という単語を聞き、ルドヴィカはふと零した。
「転生者、ではなく転移者だったそうです。島国出身で釣りをしていたら大波に攫われて気づけばこの世界へやってきたとか……釣り好きで魔法の杖は釣り竿の形をしていましたね」
その師匠は日本人なのではとつい考えてしまう。
主な功績は歴史書の編纂と、古代遺跡の探検、分析であった。
これにより忘れ去られた古代魔法学が発掘されたという。
また北の辺境の小国に滞在していた時、周辺の異民族からの害意から身を守れるように成長させたという。
「あー、疲れたー。私もお茶にしていい?」
フランチェスカはへとへとになりながら訪問してきた。
「お茶ではなく、大公妃の勉強会」
「なら、私も勉強を手伝いたい。だから私もケーキを食べさせて」
目をうるうるとさせて頼み込むフランチェスカにルドヴィカはルルに持ってきてもらうように目配せをした。
大公城にいる間、彼女は大公家が管理している治療院へ行き来していた。治癒魔法を使い、新しい傷病者の治療に協力している。
神職者の汚職の事件はようやく片付いたようだが、聖女候補暗殺未遂の件に関しては秘密裡に動いており大公城に滞在するようにと指示がでているようだ。
「さっき害獣にやられた患者の治癒魔法をしていたからすごいお腹空いちゃって」
ケーキをおいしそうに頬張るフランチェスカは本日起こった出来事を伝えた。
「お腹が空く……」
魔法を使い続けると魔力切れが出るが、それがどういう形で身体に影響するかは術者によって異なる。
一番多いのは疲労感であり、休息をとるのが基本である。
ルドヴィカ自身も透視魔法を練習し続けると疲労が出てくる。
魔力消費が大きすぎる場合、補う方法が多いのが三大欲求を満たす。
食欲、睡眠欲、性欲のどれかであり、ルドヴィカの場合は睡眠欲を満たす行為へ繋がる。そこまで魔法を使うことはないので軽い休息、お昼寝で十分なのだが。
フランチェスカの場合は食欲のようである。
「エネルギー消費が大きいからねぇ。おかげで食べても太らないの」
「魔法を使わなければ太るけどな」
ルフィーノの発言にフランチェスカがべしっと肩を叩いた。
「エネルギー消費。……大公殿下は魔法を使うとどちらで補って」
「性欲だったらどうします?」
ルドヴィカの疑問にこそっとフランチェスカがからかってみる。
今度はルフィーノがフランチェスカの頭を叩いた。
「大公殿下は戦争の間、女性と共に夜を過ごすことはありません」
確かにジャンルイジ大公にはそういった噂は聞いたことがなかった。
一瞬だけでも動揺してしまっていたのでルドヴィカはほっとした。
「ということは睡眠欲か、食欲……」
「はい。フランと同じ食欲です」
「戦争時代はとにかくハードスケジュールで、運動もやばかったし、炎魔法もかなり火力高かったからエネルギーがすごかったのよね。おかげで彼の1日の食事量はかなりのものだったそうよ」
ジャンルイジ大公の食事量は元々かなりのものだったということか。
それがストレスでますます食事量が増えてしまった。
デスクワークメインになり運動量も減り、アリアンヌによって引きこもり生活となりどんどん体重が増してしまった。
「それなら……色んなお部屋の暖炉に彼の魔法で火をくべたら消費エネルギーはどのくらいになるのかしら」
最近、すっかり寒い季節になってしまいジャンルイジ大公の散歩の時間は減ってしまった。
車いすや歩行器がすべって転ぶとそれこそ危険である。
部屋の中での運動もマンネリ化しつつあるので他の打開策を講じる必要があった。
「私たちの部屋だけじゃなくて使用人たちの仕事部屋の暖炉を彼の魔法で火をつけてみる。夜はそこから火を拝借して使用人たちは暖をとる」
「あら、それはいいかもしれないわね。普通の火より薪の消費量は削減できるし、彼の炎魔法の火は翌朝までもつわ。彼の減量にもつながるし」
ルドヴィカの計画にフランチェスカは後押しした。
早速、ジャンルイジ大公にあちらこちらの暖炉に火をつけさせる日々を送らせた。毎日ルーティンとして課せられ、使用人たちもはじめは遠慮していたが快適な冬の夜を過ごせるようになったので今は感謝の日々であった。
「お腹、空いた……」
さすがに30部屋の暖炉に火をともしたのでジャンルイジ大公の空腹感は普段より倍増しであった。
「頑張ってください。あと一部屋で、おからクッキーでお茶にしましょう」
最後の一部屋はサロンの部屋であり、既にルルたちにお茶の準備をさせていた。
「おからクッキーな……。隣のフランはいちごたっぷりショートケーキらしいが」
甘いものを好んでいるジャンルイジ大公はついつい他人の間食に気がいってしまっているようだ。
「しょうがないじゃない。私は問題ないもの。あなたは肥満だもの」
あまりにあけすけな言葉にジャンルイジ大公は恨めし気にフランチェスカを睨んだ。
「くそ、私と同じように太ったら後悔させてやる」
「まぁ、心配しなくてもいいのよ」
普段のジャンルイジ大公であれば聞き流していたであろうが、今は空腹感マックスにより許容できる心を喪失しつつあるようだ。
ルドヴィカはため息をついてフランチェスカに声をかけた。
「あまり殿下をからかわないでください」
自分は減量用の食生活なのに、目の前で親しいものが美味しいものを食べていればそれは確かに気になってしまうことだろう。
「フランチェスカ嬢、殿下をからかうのであれば今後一緒にお茶はできません」
「わかったわ。ジジの目の前で美味しいものを食べるのは控えるわ」
ルドヴィカのことを気に入っているフランチェスカとしては絶交宣言に近いものを感じて大人しく引き下がった。
それから春がくれば散歩を取り入れた運動を行い、夏になれば水泳というものも始めてみた。
体重は途中リバウンドすることもあったが、順調に目標へと進んでいっていた。
朝起きると、既に暖炉の火がともり寝台から出やすかった。
「とても快適に過ごさせていただいています」
朝食へ向かう途中ルドヴィカはジャンルイジ大公に改めてお礼を言った。
「暖炉の火が弱くなれば言ってくれ。すぐに付け直す」
その言葉にルドヴィカは首を傾げた。
執務が一通り終わった後、ルドヴィカは日課となっていたルフィーノと魔法学の勉強を開始した。
ルルが淹れてくれたお茶と新作のケーキを堪能しながらルフィーノは最近のルドヴィカの身の回りの魔法応用について解説した。
知識を無理やりつめこんでいたスパルタな時期とは異なり今はゆったりと雑学を挟みながら授業をしてくれている。
「暖炉の火は大公の魔法で灯されているのでしょう」
ルフィーノは説明した。
「大公の魔法は炎魔法、基本的に攻撃魔法特化型だが魔力を器用に抑え込めば暖炉の火をくべるのに丁度よくなる」
「そんなことが可能なのですか」
「攻撃魔法も使い方次第では生活に用立てることができる。幼い頃の魔法学の師が口癖のように言っていました」
ルフィーノに魔法学の基礎を教えた魔法使いであった。
大公領に滞在している間、衣食住を得る代わりに当時公子だったジャンルイジ大公の家庭教師を仰せつかっていた。同時にルフィーノ、フランチェスカにも教えていた。
穏やかな老人であったと言われる。
「その師匠は今はどこへいるのでしょう」
「東の方へ旅立たれました。何でも生まれ故郷に似た国があるとか、老後はそこで過ごしたいと」
大公領出身の大賢者とは古い友人関係だったようで、旅立つ前に訪れたという。彼も1年滞在していなくなった。
「実際賢者に名を連ねてもおかしくない実績を持ち、国内滞在を求められたが彼はやんわりと断ったそうです」
「もしかして転生者……」
賢者という単語を聞き、ルドヴィカはふと零した。
「転生者、ではなく転移者だったそうです。島国出身で釣りをしていたら大波に攫われて気づけばこの世界へやってきたとか……釣り好きで魔法の杖は釣り竿の形をしていましたね」
その師匠は日本人なのではとつい考えてしまう。
主な功績は歴史書の編纂と、古代遺跡の探検、分析であった。
これにより忘れ去られた古代魔法学が発掘されたという。
また北の辺境の小国に滞在していた時、周辺の異民族からの害意から身を守れるように成長させたという。
「あー、疲れたー。私もお茶にしていい?」
フランチェスカはへとへとになりながら訪問してきた。
「お茶ではなく、大公妃の勉強会」
「なら、私も勉強を手伝いたい。だから私もケーキを食べさせて」
目をうるうるとさせて頼み込むフランチェスカにルドヴィカはルルに持ってきてもらうように目配せをした。
大公城にいる間、彼女は大公家が管理している治療院へ行き来していた。治癒魔法を使い、新しい傷病者の治療に協力している。
神職者の汚職の事件はようやく片付いたようだが、聖女候補暗殺未遂の件に関しては秘密裡に動いており大公城に滞在するようにと指示がでているようだ。
「さっき害獣にやられた患者の治癒魔法をしていたからすごいお腹空いちゃって」
ケーキをおいしそうに頬張るフランチェスカは本日起こった出来事を伝えた。
「お腹が空く……」
魔法を使い続けると魔力切れが出るが、それがどういう形で身体に影響するかは術者によって異なる。
一番多いのは疲労感であり、休息をとるのが基本である。
ルドヴィカ自身も透視魔法を練習し続けると疲労が出てくる。
魔力消費が大きすぎる場合、補う方法が多いのが三大欲求を満たす。
食欲、睡眠欲、性欲のどれかであり、ルドヴィカの場合は睡眠欲を満たす行為へ繋がる。そこまで魔法を使うことはないので軽い休息、お昼寝で十分なのだが。
フランチェスカの場合は食欲のようである。
「エネルギー消費が大きいからねぇ。おかげで食べても太らないの」
「魔法を使わなければ太るけどな」
ルフィーノの発言にフランチェスカがべしっと肩を叩いた。
「エネルギー消費。……大公殿下は魔法を使うとどちらで補って」
「性欲だったらどうします?」
ルドヴィカの疑問にこそっとフランチェスカがからかってみる。
今度はルフィーノがフランチェスカの頭を叩いた。
「大公殿下は戦争の間、女性と共に夜を過ごすことはありません」
確かにジャンルイジ大公にはそういった噂は聞いたことがなかった。
一瞬だけでも動揺してしまっていたのでルドヴィカはほっとした。
「ということは睡眠欲か、食欲……」
「はい。フランと同じ食欲です」
「戦争時代はとにかくハードスケジュールで、運動もやばかったし、炎魔法もかなり火力高かったからエネルギーがすごかったのよね。おかげで彼の1日の食事量はかなりのものだったそうよ」
ジャンルイジ大公の食事量は元々かなりのものだったということか。
それがストレスでますます食事量が増えてしまった。
デスクワークメインになり運動量も減り、アリアンヌによって引きこもり生活となりどんどん体重が増してしまった。
「それなら……色んなお部屋の暖炉に彼の魔法で火をくべたら消費エネルギーはどのくらいになるのかしら」
最近、すっかり寒い季節になってしまいジャンルイジ大公の散歩の時間は減ってしまった。
車いすや歩行器がすべって転ぶとそれこそ危険である。
部屋の中での運動もマンネリ化しつつあるので他の打開策を講じる必要があった。
「私たちの部屋だけじゃなくて使用人たちの仕事部屋の暖炉を彼の魔法で火をつけてみる。夜はそこから火を拝借して使用人たちは暖をとる」
「あら、それはいいかもしれないわね。普通の火より薪の消費量は削減できるし、彼の炎魔法の火は翌朝までもつわ。彼の減量にもつながるし」
ルドヴィカの計画にフランチェスカは後押しした。
早速、ジャンルイジ大公にあちらこちらの暖炉に火をつけさせる日々を送らせた。毎日ルーティンとして課せられ、使用人たちもはじめは遠慮していたが快適な冬の夜を過ごせるようになったので今は感謝の日々であった。
「お腹、空いた……」
さすがに30部屋の暖炉に火をともしたのでジャンルイジ大公の空腹感は普段より倍増しであった。
「頑張ってください。あと一部屋で、おからクッキーでお茶にしましょう」
最後の一部屋はサロンの部屋であり、既にルルたちにお茶の準備をさせていた。
「おからクッキーな……。隣のフランはいちごたっぷりショートケーキらしいが」
甘いものを好んでいるジャンルイジ大公はついつい他人の間食に気がいってしまっているようだ。
「しょうがないじゃない。私は問題ないもの。あなたは肥満だもの」
あまりにあけすけな言葉にジャンルイジ大公は恨めし気にフランチェスカを睨んだ。
「くそ、私と同じように太ったら後悔させてやる」
「まぁ、心配しなくてもいいのよ」
普段のジャンルイジ大公であれば聞き流していたであろうが、今は空腹感マックスにより許容できる心を喪失しつつあるようだ。
ルドヴィカはため息をついてフランチェスカに声をかけた。
「あまり殿下をからかわないでください」
自分は減量用の食生活なのに、目の前で親しいものが美味しいものを食べていればそれは確かに気になってしまうことだろう。
「フランチェスカ嬢、殿下をからかうのであれば今後一緒にお茶はできません」
「わかったわ。ジジの目の前で美味しいものを食べるのは控えるわ」
ルドヴィカのことを気に入っているフランチェスカとしては絶交宣言に近いものを感じて大人しく引き下がった。
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