【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

文字の大きさ
75 / 94

73 魔法でエネルギー消費を狙え

しおりを挟む
 新しく与えられた女主人の部屋は暖房がよく効いて温かかった。
 朝起きると、既に暖炉の火がともり寝台から出やすかった。

「とても快適に過ごさせていただいています」

 朝食へ向かう途中ルドヴィカはジャンルイジ大公に改めてお礼を言った。

「暖炉の火が弱くなれば言ってくれ。すぐに付け直す」

 その言葉にルドヴィカは首を傾げた。
 執務が一通り終わった後、ルドヴィカは日課となっていたルフィーノと魔法学の勉強を開始した。
 ルルが淹れてくれたお茶と新作のケーキを堪能しながらルフィーノは最近のルドヴィカの身の回りの魔法応用について解説した。
 知識を無理やりつめこんでいたスパルタな時期とは異なり今はゆったりと雑学を挟みながら授業をしてくれている。

「暖炉の火は大公の魔法で灯されているのでしょう」

 ルフィーノは説明した。

「大公の魔法は炎魔法、基本的に攻撃魔法特化型だが魔力を器用に抑え込めば暖炉の火をくべるのに丁度よくなる」
「そんなことが可能なのですか」
「攻撃魔法も使い方次第では生活に用立てることができる。幼い頃の魔法学の師が口癖のように言っていました」

 ルフィーノに魔法学の基礎を教えた魔法使いであった。
 大公領に滞在している間、衣食住を得る代わりに当時公子だったジャンルイジ大公の家庭教師を仰せつかっていた。同時にルフィーノ、フランチェスカにも教えていた。
 穏やかな老人であったと言われる。

「その師匠は今はどこへいるのでしょう」
「東の方へ旅立たれました。何でも生まれ故郷に似た国があるとか、老後はそこで過ごしたいと」

 大公領出身の大賢者とは古い友人関係だったようで、旅立つ前に訪れたという。彼も1年滞在していなくなった。

「実際賢者に名を連ねてもおかしくない実績を持ち、国内滞在を求められたが彼はやんわりと断ったそうです」
「もしかして転生者……」

 賢者という単語を聞き、ルドヴィカはふと零した。

「転生者、ではなく転移者だったそうです。島国出身で釣りをしていたら大波に攫われて気づけばこの世界へやってきたとか……釣り好きで魔法の杖は釣り竿の形をしていましたね」

 その師匠は日本人なのではとつい考えてしまう。
 主な功績は歴史書の編纂と、古代遺跡の探検、分析であった。
 これにより忘れ去られた古代魔法学が発掘されたという。
 また北の辺境の小国に滞在していた時、周辺の異民族からの害意から身を守れるように成長させたという。

「あー、疲れたー。私もお茶にしていい?」

 フランチェスカはへとへとになりながら訪問してきた。

「お茶ではなく、大公妃の勉強会」
「なら、私も勉強を手伝いたい。だから私もケーキを食べさせて」

 目をうるうるとさせて頼み込むフランチェスカにルドヴィカはルルに持ってきてもらうように目配せをした。
 大公城にいる間、彼女は大公家が管理している治療院へ行き来していた。治癒魔法を使い、新しい傷病者の治療に協力している。
 神職者の汚職の事件はようやく片付いたようだが、聖女候補暗殺未遂の件に関しては秘密裡に動いており大公城に滞在するようにと指示がでているようだ。

「さっき害獣にやられた患者の治癒魔法をしていたからすごいお腹空いちゃって」

 ケーキをおいしそうに頬張るフランチェスカは本日起こった出来事を伝えた。

「お腹が空く……」

 魔法を使い続けると魔力切れが出るが、それがどういう形で身体に影響するかは術者によって異なる。
 一番多いのは疲労感であり、休息をとるのが基本である。
 ルドヴィカ自身も透視魔法を練習し続けると疲労が出てくる。
 魔力消費が大きすぎる場合、補う方法が多いのが三大欲求を満たす。
 食欲、睡眠欲、性欲のどれかであり、ルドヴィカの場合は睡眠欲を満たす行為へ繋がる。そこまで魔法を使うことはないので軽い休息、お昼寝で十分なのだが。
 フランチェスカの場合は食欲のようである。

「エネルギー消費が大きいからねぇ。おかげで食べても太らないの」
「魔法を使わなければ太るけどな」

 ルフィーノの発言にフランチェスカがべしっと肩を叩いた。

「エネルギー消費。……大公殿下は魔法を使うとどちらで補って」
「性欲だったらどうします?」

 ルドヴィカの疑問にこそっとフランチェスカがからかってみる。
 今度はルフィーノがフランチェスカの頭を叩いた。

「大公殿下は戦争の間、女性と共に夜を過ごすことはありません」

 確かにジャンルイジ大公にはそういった噂は聞いたことがなかった。
 一瞬だけでも動揺してしまっていたのでルドヴィカはほっとした。

「ということは睡眠欲か、食欲……」
「はい。フランと同じ食欲です」
「戦争時代はとにかくハードスケジュールで、運動もやばかったし、炎魔法もかなり火力高かったからエネルギーがすごかったのよね。おかげで彼の1日の食事量はかなりのものだったそうよ」

 ジャンルイジ大公の食事量は元々かなりのものだったということか。
 それがストレスでますます食事量が増えてしまった。
 デスクワークメインになり運動量も減り、アリアンヌによって引きこもり生活となりどんどん体重が増してしまった。

「それなら……色んなお部屋の暖炉に彼の魔法で火をくべたら消費エネルギーはどのくらいになるのかしら」

 最近、すっかり寒い季節になってしまいジャンルイジ大公の散歩の時間は減ってしまった。
 車いすや歩行器がすべって転ぶとそれこそ危険である。
 部屋の中での運動もマンネリ化しつつあるので他の打開策を講じる必要があった。

「私たちの部屋だけじゃなくて使用人たちの仕事部屋の暖炉を彼の魔法で火をつけてみる。夜はそこから火を拝借して使用人たちは暖をとる」
「あら、それはいいかもしれないわね。普通の火より薪の消費量は削減できるし、彼の炎魔法の火は翌朝までもつわ。彼の減量にもつながるし」

 ルドヴィカの計画にフランチェスカは後押しした。
 早速、ジャンルイジ大公にあちらこちらの暖炉に火をつけさせる日々を送らせた。毎日ルーティンとして課せられ、使用人たちもはじめは遠慮していたが快適な冬の夜を過ごせるようになったので今は感謝の日々であった。

「お腹、空いた……」

 さすがに30部屋の暖炉に火をともしたのでジャンルイジ大公の空腹感は普段より倍増しであった。

「頑張ってください。あと一部屋で、おからクッキーでお茶にしましょう」

 最後の一部屋はサロンの部屋であり、既にルルたちにお茶の準備をさせていた。

「おからクッキーな……。隣のフランはいちごたっぷりショートケーキらしいが」

 甘いものを好んでいるジャンルイジ大公はついつい他人の間食に気がいってしまっているようだ。

「しょうがないじゃない。私は問題ないもの。あなたは肥満だもの」

 あまりにあけすけな言葉にジャンルイジ大公は恨めし気にフランチェスカを睨んだ。

「くそ、私と同じように太ったら後悔させてやる」
「まぁ、心配しなくてもいいのよ」

 普段のジャンルイジ大公であれば聞き流していたであろうが、今は空腹感マックスにより許容できる心を喪失しつつあるようだ。
 ルドヴィカはため息をついてフランチェスカに声をかけた。

「あまり殿下をからかわないでください」

 自分は減量用の食生活なのに、目の前で親しいものが美味しいものを食べていればそれは確かに気になってしまうことだろう。

「フランチェスカ嬢、殿下をからかうのであれば今後一緒にお茶はできません」
「わかったわ。ジジの目の前で美味しいものを食べるのは控えるわ」

 ルドヴィカのことを気に入っているフランチェスカとしては絶交宣言に近いものを感じて大人しく引き下がった。

 それから春がくれば散歩を取り入れた運動を行い、夏になれば水泳というものも始めてみた。
 体重は途中リバウンドすることもあったが、順調に目標へと進んでいっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

処理中です...