【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

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74 成長した大公様

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 ルドヴィカが大公妃になってから5年の月日が流れた。
 5年も経てば基本的な仕事はすぐに済ませられるようになった。
 とはいえ、安心したところでケアレスミスが発生する。
 そんな時にいてくれて助かるのが女官たちであった。

「大公妃殿下、こちらの計算がずれています」

 マリー・ベルタは提出前の書類をチェックしてルドヴィカに指摘した。

「あら、本当」

 簡単なミスであるが、人の生活がかかっているのであり積もれば大事になっていた。

「大公妃殿下、書類作成終わりました。問題なければ印をいただきたいのですが」

 再計算している間に、クラリス・ハイリッヒが作成した書類の束を持ってきてくれた。

「ちょっと待ってて。急がないのならこっちに置いておいてくれる。これが終わったら確認するから」

 ルドヴィカがそういうとクラリスは頷き指定された場所へ置いた。

「あ、オリンドさん。戻ってきたばかりで悪いのですが、こちらの書類を財務官の方へ届けてください」

 マリー・ベルタは部屋へ入ってくるオリンドに声をかけた。
 成人姿のオリンドは従僕見習いから正式にルドヴィカ大公妃の従僕となっていた。本業は魔法棟の魔法使いなので、週3勤務でその他は魔法棟でルフィーノの助手として働いていた。
 ルフィーノも超音波魔法をさらに洗練させ、他の魔法使いたちに学ばせていた。絵の得意なものが優先的に選ばれ、治療院で役立てている。
 そのデータを収集して、統計化しているのはヴィートであった。
 今年中に論文が完成できそうだとヴィートが張り切っていた。論文の連盟にも記載されているのと、学会発表ではヴィートが演者をするとか。

 オリンドはお留守番だという。残りの研究の管理を任されているし、彼は特に気にした様子はなかった。ヴィートが学会で発表し少しでも名を残せる方がよいと考えている。
 確かにオリンドであれば10年しないうちに単独で何かしらの発表ができそうだし。

 フランチェスカはというと2年前に修道院へと帰還した。身の安全は保障された為という。
 今は大公領内の修道院、教会を巡回しているが、ジャンルイジ大公曰くそろそろ限界だろうとのことだった。

「窮屈な暮らしが肌に合わないからな。ヒポポに乗って、他国巡礼の旅にでかけるだろう」

 昨晩、そのようなことを言っていたのを思い出した。
 フランチェスカが大公城に長居していたのは、自由に過ごせるからだったようだ。
 一応聖女候補だし、色々大変なんだな。
 暗殺の件に関しては、今回はルフィーノから護身用の護符やスクロールを大量に拝借したから心配ないとのことだった。
 一応手紙が送られてくるので元気にしているようである。
 あと、巡礼の途中に聖国から再度聖女叙任式の打診がかかったという。
 たいへん喜ばしいことであるが、次は無事終われるのだろうか。

「大公妃殿下」

 部屋を一度出ていたマリー・ベルタが戻ってきた。
 彼女は外に対して礼をして一歩下がる。部屋に現れたのはジャンルイジ大公であった。
 5年前は一人で歩くこともままならなかったというのに、今は問題なく歩き回ることができる。
 恰幅の良い体格は今ではすらりと細くなっていた。太っていた時期と比較すると細くみえるが、よくよく見れば鍛え上げられた筋肉質を全体的に感じることができる。
 肖像画の姿をそのまま年を重ねた厚みのある偉丈夫の姿となっていた。

 5年でここまで成長するなんて。

 長い間減量計画につきあっていたルドヴィカは思わずほろりと涙をこぼしてしまいそうになる。
 彼の努力に感服しつつ、一番に感じるのは子の成長の母の心境であった。

「殿下、いかがいたしましたか」
「少し話したいことがあるのだが……外が折角よい天気なのだから、庭園でお茶を飲まないか?」

 ほんの些細なデートの誘いである。城内であるが初々しい夫婦のやりとりに周りの女官たちは思わずきゅんとしてしまっていた。

「あー、少し待っていただけるかしら。この部分の計算だけ先にすませたくて」

 軽い計算直しと思っていたが、間違った部分を訂正するのに思ったよりもてこずっていた。

「大公妃様、それは後でもいいですよ」

 特に急いでいる訳でもないのだからとマリア・ベルタは叱咤した。

「でも、あなたたちの仕事に響くし」
「それくらい問題ありません。他の仕事を先にこなしていますのでゆっくりじっくりと過ごされてください」

 でもと呟くルドヴィカにジャンルイジ大公は彼女の傍まで近づき、じっとルドヴィカの持つ書類を見つめた。

「ここを、このように直せば問題ないだろう」

 指を差した部分をみてルドヴィカは「あ」と口を開いた。

「ありがとうございます」

 ルドヴィカは急いで、言われた部分を訂正する。もう一度マリア・ベルタに見せて、問題ないのを確認して印をつけた。

「さぁ、後は私に任せて行ってください」

 マリア・ベルタに追い出されるような形でルドヴィカは執務室を出た。
 ルドヴィカはジャンルイジ大公の腕をとり、彼の勧めるまま庭園へと向かった。
 2階の執務室から1階へと階段を下り、建物の外へと出る。

「すっかりエレベーターがいらなくなりましたね」
「ああ、だが道具を入れた荷台を運ぶのに利用するから問題ないだろう」

 治療院でも実用化されて、スタッフの負担が大きく減ったという。
 食事を運んだり、動けない患者を上の部屋へと搬送するのに役立っていた。

「治療院から感謝の品が届いているから後で確認するといい」
「感謝だなんて……エレベーターは建設でも利用されているし、私独自の発案ではありませんわ」

 何だか気恥ずかしかった。前世の記憶でこういうのがあればいいなと無理して建物内に、階段横に設置させただけである。

「室内に設営するのははじめてだし、色々と実用可能と気づかせてもらったのだから気にすることはない」

 治療院で設置されるとき当初は病人を荷物のように乗せるなどもっての他だと否定されたが、他でもないジャンルイジ大公がそれに乗って1階から3階を行き来していたと聞き大公城内のエレベーターを見学させたらすぐに受け入れてくれた。
 時の権力者が新しいことをはじめるとすんなりと受け入れてくれるのはよくあることだ。

 東の庭園には今は桜が見ごろであった。
 ルドヴィカが桜を好んでいると知り、ジャンルイジ大公が庭師に依頼して植えさせた。
 正確にはルドヴィカの前世朱美が桜を見るのが好きだったのであるが。
 花びら舞う中、テーブルにはお茶の準備を整えたパルドンがいた。
 席につき、温かい紅茶を飲みルドヴィカはふぅっと息を吐き桜を眺めた。
 小ぶりな木であるが、記憶と変わらぬ桜の姿にルドヴィカは安らいだ。

「それで、お話というのは」

 ルドヴィカは本題に乗り出した。
 ジャンルイジ大公はパルドンに目配せした。パルドンは手紙を載せた盆を持ってきた。

「皇帝家から手紙が届けられた。私宛とお前宛に……」

 ルドヴィカ宛てという手紙を確認すると、差出人の名はアリアンヌであった。
 そういえば、そろそろ前世のビアンカ大公が叛意を示した頃合いだったはず。
 前世とは違う道のりの世界ですっかり忘れてしまっていた。
 この5年、皇帝家から特に大きな動きがなかったためもう破滅への道は途切れたのだろうと思ってしまっていた。
 やはり切っては切れないのね。
 ルドヴィカはため息をつき、手紙の内容を確認した。

『お姉様、いかがおすごしですか。
 私は1カ月前に男の子を出産しました。待望の皇太子です。
 盛大にお祝いのパーティーを開く予定ですので是非いらしてくださいね。
 昔のことは気にしないでください。陛下も待望の皇太子の誕生で多くの者たちに恩赦を出すと言っていましたので。
 来てくれるのを楽しみにしております。
 アリアンヌ』

 ルドヴィカの表情はくもっていった。

「行きたくないのであれば行く必要はない。代理をたてよう」

 既にジャンルイジ大公にも同様の招待状を届けられたようである。

「行かなければ何といわれるか」

 皇帝家の祝いごとに大公家が出席しないとなると後で波風が立つかもしれない。
 この数年、皇帝家は思った以上に静かであった。自身が送りつけたスパイが捕らえられて自殺した為、大公家がどう出るかと警戒していたようにも思える。少しでも不審な点があれば、潰すつもりなのだったがその証拠を掴めずについにしびれを切らし呼び出すことにした。
 ジャンルイジ大公はそう考えた。

「行きます。私のことは気にせず」
「では、私も準備をしよう」

 ジャンルイジ大公はパルドンに命じて祝賀会用の服を仕立てるよう指示を出した。翌日には大公家お抱えのテーラーが訪問してくる。

「ルカのドレスもそこに依頼しよう。できれば色を合わせたいが……希望の色はあるか?」
「え、いえ……とくには」

 ルドヴィカはじぃっとジャンルイジ大公を見つめた。

「何だ?」
「いえ、皇帝家に行っても大丈夫なのですか? アリアンヌがいるのに」

 当然拝謁しなければならない。アリアンヌがいるであろう場所で。
 ジャンルイジ大公を破滅させようとした女である。
 ルドヴィカの妹であるが、彼にとっては忘れたい存在であろう。

「一応大公だし、いつまでも隠れるわけにはいかないだろう」

 ジャンルイジ大公は苦笑いした。

「それにお前が嫌な想いをしないように配慮するのが私の役目だ」
「あ、ありがとうございます」

 全面的に味方になってくれると言われルドヴィカは頬を赤くした。
 最近ジャンルイジ大公は妙に頼もしく見えてしまう。
 あの初々しいジャンルイジ大公はどこへ行ってしまったのだと少し寂しくも思える。
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