エテルノ・レガーメ

りくあ

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第9章︰エーリ学院〜中級クラス〜【後編】

第76話

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「ツヴェル~!おはよー!」
「…。」

上級吸血鬼と合同で行った実習を終わった翌日、教室にやって来たツヴェルに声をかけた。私の方をチラりと見た彼は無言のまま、横を通り過ぎて自分の席に座った。

「なんやあいつ…愛想悪いわぁ。」
「ツヴェルは照れ屋さんなんだよ~。」
「あれのどこが照れてるのよ。」
「そういえば…ツーくん、あんまり他の人と喋ってるの見た事ないなぁ…。」
「近寄り難いからでしょ?って、そんな事より実習よ。更衣室行きましょ。」
「う、うん…。」

実習で魔法の練習をしていると、ホールの端の方で座って本を読んでいるツヴェルの姿を見つけた。

「ツヴェル~。」
「…。」
「何の本?あ、魔導書?」
「…。」

彼の隣に座ると、開かれた本を覗き込んだ。

「…念力魔法のかぁ…使い道が難しいよね、念力魔法って。」
「…。」
「へ~。…ふんふん。」
「…何故一緒に読んでいるんですか。」
「え?だって何も言わなかったから、いいんだと思って。」
「普通は遠慮するものでしょう。」
「ところでなんで実習なのに本を呼んでるの?せっかくなら試したりすればいいのに。」
「時間の使い方は人それぞれです。実習では本を読んだらいけないのですか?」
「そ、そうじゃないけど…。」
「余計なお世話です。」

彼は本を閉じてその場に立ち上がると、ホールから出ていってしまった。



「おはようツヴェル!」

それから数日の間、私はしつこいくらい彼に付きまとうようになっていた。彼が心を開いてくれないのが悔しいのか、仲良くしたいという単純な考えなのか、自分でもよく分からないが、常に1人で行動している彼をほっておけなかったのかもしれない。

「…毎日毎日懲りない人ですね。」
「挨拶したいからしてるんだもん。懲りないよ。」
「そうですか。」

しつこさの甲斐があってか、少しずつ会話をする事が出来るようになっていた。いち早く私から逃れようと、横を通り過ぎようとした彼の腕を掴み、動きを止めた。

「あー待ってツヴェル!」
「今度はなんですか。」
「教えて欲しい魔法があるんだけど…。」
「魔法ですか?それならあなたの方が扱え…」
「ツヴェルは、“ミシク”の魔法得意でしょ?コツとかあったら教えて欲しいなーって…。」

彼は掴まれた腕を上から下に動かし、私の手を振り払った。

「あなたの魂胆は見え見えです。自分に教えて欲しい振りをして、あの人達に教えさせようとしているのでしょう?嫌ですよ。」
「うっ…。」
「…僕はこれを読んで勉強しました。」

鞄の中から1冊の本を私の前に差し出した。

「魔導書?」
「つべこべ言わず読んで下さい。」
「え?借りていいの?」
「教えるのは嫌ですから、それを読んであなたが彼等に教えて下さい。」
「ありがとうツヴェル!助かるよ~。」



実習の時間になり、私は彼に借りた本を持ってホールへ向かった。

「何よこれ…書いてある内容がさっぱり分からないわ…。」
「ツーくんこんな本普段から読んでるんだ…。」
「見てると頭痛くなりそうだよね…。字も細かいし…。」
「なー。ルナ読んでくれへんー?俺こんなん見てられんわ~。」
「私も~なんだか頭が痛くなってきたわぁ~。」
「じゃ、じゃあ読むね。」

私が手にした本を、後ろから伸びてきた手が奪い取った。

「全く…。あなた達は本の1冊も読めないんですか?」
「あ…ツヴェル…!」
「あんたとは違うのよ。一緒にしないで欲しいわ。」
「ユ、ユイちゃん…!」
「そうですね。爆破魔法にしか興味のないあなたと一緒にして欲しくありません。」
「何よ!あんたはどの上級属性も扱えないくせに!」
「適正はあります!だからこうして勉強しているんですよ。本を読む努力もしない人に言われたくありませんね!」
「なんですって!?」
「もー!やめてよ2人共!」

タックが睨み合っていた2人の間に立つと、ツヴェルが私達に背を向けた。

「これだから余計な事はしたくないんですよ。本はもう必要ないですよね?返してもらいます。」
「あ…ツヴェ…」

彼は本を腕に抱え、私達から遠ざかって行った。

「あいつ嫌い!」
「ユイちゃん落ち着いて…?」
「なんであんなのがララの幼なじみなのよ。納得いかないわ。」
「昔は…あんな感じじゃなかったのに…。」
「何かあったのかもしれないね。…それで彼は変わっちゃったのかも。」
「あたしは別に興味ないわ。むしゃくしゃするから、向こうの方で魔法ぶっぱなしてくる。」
「わ、私…付き合うよ…!」
「私も!」

私とララは歩き出したユイの後ろをついていった。



「“…アナイアレイション!”」

ドカーン!と大きな音を立てて、離れた場所ある模型を粉々に爆破した。

「ユイ、落ち着いた?」
「…まぁ。ちょっとはね。」
「もう…4つも模型壊したよ…?」
「…ちょっと休憩しない?」
「そうね。流石にちょっと疲れたし。」

ホールの壁際にある扉を開けて、外に足を投げ出すようにして腰を下ろした。空はどんよりとした灰色で、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

「ねーララ。昔のツヴェルってどんな感じだったの?」
「え?えーっと…。」

隣に座っているララが、ユイの方に視線を向けて言葉を濁した。

「あたしの事は気にしなくていいわ。ルナは気になるんでしょ?あいつの事。」
「なんとなく、ほっておけなくて…。」
「ララもルナも本当にお人好しよね。あたしはあいつの事なんて興味ないわ。」
「ララも気にしてるでしょ?」
「う、うん…。昔は、毎日一緒に遊んでたから…。」

彼女は少し俯きながら、そう口にした。

「毎日一緒だったんだ?近くに住んでたの?」
「家が隣だったの。それぞれの部屋の窓が近かったから、よく窓辺でお話してたんだよね。」
「へー。どんな話をしてたの?」
「ほ、本の話…。」
「その頃から既に本の虫だったわけね…。」
「うん…。まだ小さかったのに、その時からツーくんは魔法を使えたんだよね。私に魔導書を読んでくれたり、楽しそうに魔法の事教えてくれたの。…全然わからなかったけど。」
「あはは…。」
「その時はまだ仲が良かったのね。」
「そういえば再会した時、エーリに入ってた事知らなかったって言わなかった?」
「うん。ある日突然引っ越しちゃってから、どこで何をしてるか全然知らなくて…。」
「そっか…引っ越しちゃったんだね。」
「突然ねぇ…。その時に何かあったのかしら。」
「そうなのかなぁ…。」
「なんとかしてツヴェルとも話せればいいんだけど…。」
「あたしはあいつと話すのは嫌よ。」
「そ、そうだよね…。」
「…そうだ!いい事思いついた!」

私は思いついた事を、彼女達に耳打ちした。その後、他のみんなと合流して話し合いをした結果、翌日の休みに私達の作戦は決行される事となった。



「ねぇ…本当に来るかな?」
「どうやろなぁ…。あいつ頑固そうやし…。」
「私達は見守るしかないわよ~。彼を信じましょう?」
「全く…なんであたしまで見守らなきゃいけないのよ…。」

私達は全員で、エーリの裏の森へやって来た。丘の上で草木の影に隠れ、ツヴェルが来るのを待っていた。

「…あ!来たよ!」

封筒を握りしめたツヴェルが、丘の上にやって来た。彼の視線の先には、ララとフランの姿がある。ララは手足を縛られて動けない状態になり、フランは仮面をつけて彼女の後ろに立っている。

「…ララ!」
「ツーくん!」
「止まれ。」

フランが低い声で短く声を発した。その声に反応して、ツヴェルが歩みを止めた。

「…あなたは誰ですか?」
「貴様のような小僧に名乗る必要は無い。」
「では…なぜ彼女を人質に取るような真似をしているのですか!」
「ふん。そんなのお前には関係ないだろう。この娘が、お前にとって一体なんだと言うんだ。」
「そ、それは…。」

「な、何よあれ…フランなの?別人みたいな喋り方してるけど…。」
「ほんと…すごい演技力だわ~…。」

『本当は別人なんだよなぁ…。』と心の中で思いつつ、声に出さないようにぐっと堪えた。

「て、手紙を書いたのはあなたですよね!?」
「そうだ。この俺様がわざわざ書いてやったんだ。有難く思え。」
「あれのどこが有難いんですか!」

「なぁタック…。手紙になんて書いたん?」
「ララシスレイシエを人質に取った。返して欲しければエーリの裏の森にある丘の上に来い。…って書いて、簡単にだけど地図も書いて同封しておいたよ?」
「それ、もう脅迫ね…。」
「地図を書くあたりがタックらしいわぁ…。」

「お前は何の為にここに来た。」
「何って…彼女を返してもらう為です。」
「お前にとって、こいつはなんだ。」
「そ、それを答える必要が…」
「答えなければ返せないな。」
「…幼なじみです。」
「それだけか?」
「それだけです。」
「…嘘だな。他にも思ってる事があるはずだ。言っておくが…この俺様に嘘を突き通せると思うな。」
「………お、幼い頃の…友達で…。」

ツヴェルは彼等から視線を逸らし、俯きがちにそう口にした。

「それから?」
「いつも…一緒に居てくれるのが…嬉しかった…。」
「では、なぜ今は冷たく接している。」
「……僕と一緒にいれば…彼女も冷たくされると思ったから…です。僕は1人でも構いませんが…彼女は、寂しがり屋ですから…。」
「ツーくん…。」
「何を言っている。お前がこの娘と一緒にいれば、1人ではなく2人だ。」
「え…?」
「さらにこの娘には、沢山の友がいるではないか。」
「え?何故それをあなたが知って…。」
「お、俺様にはなんでもお見通しだ!」
「は、はぁ…。」
「娘は返そう。…ただし条件がある!」
「じょ、条件…ですか?」
「思っている事を全て、この娘に言え。」
「思っている事…?」
「言いたい事、伝えたい事、残さず全て言い尽くせ。それが条件だ。」
「わ、わかり…ました。」

ツヴェルは足を踏み出し、ララに向かって歩き出した。フランは数歩後ろに下がり、少し離れて様子を見ている。

「初めて出会った時、驚きました。ララが僕に話しかけて、笑いかけてくれた。友達がいなかった僕に、友達になろうと言ってくれましたよね。」

彼はララの前で立ち止まると、しゃがみこんで彼女の足を縛っている紐を解き始めた。

「その…嬉しかったです。興味のない魔法の話でも、どうでもいい天気の話でも、楽しそうに聞いてくれた事が…。」
「うん…。よく分からない話でも、ツーくんが楽しそうに話してたから…それだけで嬉しくて。」

今度はララの後ろに回り込むと、腕の紐を解きながらぽつりぽつりと言葉を漏らした。

「ごめんなさいララ。僕は…そんなあなたに冷たくして…」
「ううん。いいよ…!だってツーくんは…」
「よくありません!…この際だからこれも言っておきます!その優しすぎる、お人好しな性格をどうにかしてください。」
「え!?ど、どうにかって言われても…。」
「あと、弱気な発言もやめてください。それと、自分に自信がないような振る舞いや言動もやめてください。」
「え…?……えぇ…?」

紐を解き終えてララの前に立つと、彼女の顔を真っ直ぐ見つめた。

「もっと自分に自信を持ってください。あなたは努力家で、やれば出来る人なんですから。出来ない事は、すぐに投げ出さずに努力で乗り切ってください。それでも駄目だったら…僕が力になりますから。」
「ツーくん…っ…。」
「あぁもう…泣かないで下さいよ…。全く…そういう所も昔から変わってないんですね…。」

彼は、ポケットから取り出したハンカチで、彼女の頬に垂れた涙を拭き始めた。

「だって…。そ、そういうツーくんだって…!昔は泣き虫だったくせに!」
「そ、それは昔の話です!今は泣くなんて事は…」
「ええ話やな~。」
「なっ…!?」

突然後ろからやってきた私達を見て、ツヴェルが驚いて後ずさりをした。

「感動したわ~…。いいわね、幼なじみって。」
「あなた達、いつからいたんですか!?」
「えーっと…最初から…。 」
「まさか…僕を騙したんですか!?」
「そ、そんな騙すなんて!話を聞きたいなーと思っただけで…」
「え、じゃあ…この手紙は!?」
「あ、それは俺が書いたよ。」

手紙と地図を書いたタックが、顔の横で小さく手を挙げた。

「じゃ…じゃあ、僕が話していた人は!?ローブを着て、仮面をつけた彼は…」
「僕だよ~。ごめんね?騙すような事しちゃって。」

フランは仮面をとり、頭にかぶっていたローブを脱ぎながら、こちらに歩み寄って来た。

「え!?あなただったんですか!?」
「私もびっくりしちゃった…。実はフランくんじゃなかったらどうしようかと…。」
「名演技だったでしょ?」
「………よく言うよ…。」
「ルナ、何か言った?」
「う、ううん!なんでも!」
「でもよかった…!ツーくんと話が出来て。」
「ま…まぁ…そうですね。」
「随分と恥ずかしい事言ってたみたいだけどね~。」
「…なんですか?僕は間違った事は言ってません。」
「そう?ならよかったわ。あんたが冷酷なロボットみたいな奴じゃなくて。」
「別にあなたと仲良くしたい訳じゃありませんから。…話が済んだのなら、僕は戻ります。」
「ま、待ってよツーくん…!帰るなら私も一緒に…!」

彼は背を向けて歩き出し、ララが彼の背中を追いかける様に駆けて行った。

「一件落着かしら?私達も戻りましょう~。」
「安心したら腹減ったわ~。なんか食べに行かへん?」
「あんたは家近いんだから、家帰って食べて来れば?」
「あ、それいいね。僕も、チトセさんの料理食べたいな~。」
「私も~!」
「ほんならみんなで行こか?」
「あらいいの?じゃあ行ってみようかしら~。」
「俺も行ってみたいな。」
「み、みんなが行くなら…あたしも行くわ。」
「よっしゃ!ほんなら出発しよか!」

こうして私達は、アレクの家へ向かう事になった。
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