エテルノ・レガーメ

りくあ

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第14章︰ルカソワレーヴェ

第129話

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「あら~。おはようルカ。」
「おはようサエ!随分早起きだね。」

階段を下りてリビングへ向かうと、ソファーに座って本を読んでいる彼の姿があった。外は日が昇ったばかりで薄暗く、テーブルの上に置いてあるランタンが、彼の手元を明るく照らしている。

「考え事をしてたらあんまり眠れなかったのよ~。」
「そうなんだ…それは何の本?」
「緋水晶について書かれてる本よぉ。ルカも一緒に読む~?」
「読みたい読みたい!」
「なら、読んであげるわねぇ。」

向かいのソファーに腰を下ろした僕をみて、彼は口を開いた。

「緋水晶。5つの属性を秘めた5大属性晶の1つ。火の属性を多く含んだ物を言い、マグマの影響を受けやすい地下深くに多く見られる。」
「この辺りは、昨日サエが教えてくれた事だよね?」
「そうね。けど、さっき読んでたら…見落としてた所があったのよぉ。」
「見落とし?」
「この続きなんだけどねぇ?…属性の力を多く含んだ物は高温になる為、扱いが難しくなる。また、素手で触ると火傷をする恐れがある為、注意が必要。」
「え!緋水晶って熱いの!?」
「属性の力を多く含んだ物はねぇ?見た事はないのだけれど…まぁ、備えておけば安心よね~。」
「あ…あのさ、サエ!また、水晶を探しに行きたいんだけど…サエがいないと採掘場に入れないから、今日も付き添ってくれない…?」
「あたしは別に構わないわよぉ。あっ!その前に、昨日の女の子2人がどこに行ったのか知らないかしら?」
「僕は知らないけど…どうかしたの?」
「あの子達に話があるのよぉ。探しに行くしかないかしら~?」
「あの2人なら、昨日宿屋に入って行くのを見たわ。」

別室で休息を取っていたヴェラが、階段を下りてこちらにやってきた。

「本当?なら、僕が呼んでくるよ!」
「ありがとうルカ~。お願いねぇ。」



「話ってなんですか?」 
「昨日あなた達が話してた、気温上昇の原因についてわかった事があったのよぉ。これを見てちょうだい。」

宿屋から連れて来たユイとユノをソファーに座らせると、向かいに座っていたサエが持っていた本をテーブルに広げた。

「この本には、ルカが探してる緋水晶って言う鉱物の事が書いてあるの。それを昨日、彼と探しに行ったのよぉ。」
「見つかった?」

ユノが僕の方を向いて、小首を傾げた。

「ううん。あの場所、すごく暑くて長居出来るような所じゃなくて…見つけられなかったんだ。」
「この街は、他と比べてどこも暑いけど…長く居られない程暑い場所なんてあるの?」

今度はユイが僕の方を見て、呆れたような表情を浮かべている。

「イフェスティオの採掘場はほとんどが地下に続いてて、マグマに近くなるせいで高温になるのよぉ。ただ…前に採掘場の最深部に行った時よりも、さらに暑くなってるような気がしたわ。」
「それって…採掘場が、気温の上昇や火山の活発化に影響してるって事ですか?」
「正確には、最深部にある緋水晶ねぇ。あたしの推測だと…緋水晶の力が強くなり過ぎてマグマに影響を及ぼし、火山が活発化して気温の上昇に繋がってるんじゃないかと思うのよぉ。」

学者という事もあって、彼の説明は理解するのが難しい。しかし、緋水晶のせいで良くない事になっている事はわかった。

「悪循環というやつだな。ますます緋水晶を除去しなければならなくなった訳だ。」
「ヴェラは除去したいんじゃなくて欲しいだけでしょ?」
「同じ目的のお前に言われたくはない。」

彼女は僕の方を睨みつけ、小さく鼻を鳴らした。

「まあまあ。確実とは言えないけど…緋水晶を持ち帰って調べてみたら、詳しい原因が突き止められる筈よぉ~。」
「なら、あたし達もお手伝いします!」
「ユノもいいの?」
「ん。」

彼女は首を降って、短い返事を返した。

「ならばまずは作戦会議だな。」
「確か…採掘場って、通行証が必要なんですよね?」
「それなら大丈夫!サエが通行証を持ってるんだ。」
「昨日は2人だったから良かったけど…1枚の通行証につき2人までっていうのが決まりなのよ~。いくらあたしでも、4人も連れてたら通して貰えないわぁ。」
「どこで発行して貰えるんですか?」
「通行証は、役所で発行してるわ。学院要請の紙を見せて、事態を説明をしたら大丈夫だと思うわよ~。」
「なら、私と姉様はそれで大丈夫だね。」
「僕は昨日、サエの助手って事で1度通ってるから…問題はヴェラだね。」
「サエ。人でなければ通行出来るか?」

ヴェラが突然、意味のわからない質問をサエに投げかけた。彼は突然の事に驚いたのか、目を丸くしている。

「え?そうねぇ…たまに動物が入り込んでるのを見た事があるけどぉ…。」
「なら、私の事は構わず先に行ってくれればいい。最深部で合流しよう。」

何か考えがあるのか、彼女は口角を上げてニヤリと笑ってみせた。滅多に笑う事の無い彼女が笑っているのを見ると、何故だか嫌な予感しかしなかった。

「後は暑さ対策ねぇ。」
「暑いの苦手だから心配…。」

寒い場所が好きなユノは、これから暑い場所へ向かう事を考えただけで不安になっている様子だった。

「脱げば問題ないだろう?」
「ちょっとヴェラ…!僕とサエは男なんだからね!?」
「あら!あたしは男じゃなくて女…」
「お前も女みたいなものだから問題ないな。」
「男だってば!」
「ル、ルシュ様!脱ぐにも限界がありませんか…!?」

ヴェラの強引な提案に、大人しく口を閉じていたユイも異を唱え始めた。

「そうだよ!ヴェラは気にしないかもしれないけど、ユイとユノは女の子なんだから!」
「…今の発言は、喧嘩を売っていると解釈していいのか?」
「ち、違う方法を探そうって事だよ…!えっと…。」

慌てて否定すると、頭を回転させて別の方法を考え始めた。すると、隣に座っていたヴェラが再び口を開いた。

「他の方法がなくもない。」
「本当!?それってどんな方法?」
「肌に塗る事で体温を下げる薬がある。それを作れば、暑い場所でも大丈夫だろう。」
「一応聞くけど…それってヴェラが作るんだよね…?」
「さすがにお前に作れとは言わない。ただし、薬草を探すのは手伝ってもらうぞ?」
「ならそっちは2人に任せていいわねぇ~。」
「あたし達は、その間に通行証をもらいに行ってきます。」

こうしてユイとユノは通行証を取りに、僕とヴェラは薬草を集めにそれぞれ家を出発した。



洞窟の向こうにある森へやって来た僕達は、必要な薬草を籠に集め始めた。

「こういう時、転移魔法ってすごく便利だよね。時間が無くてもすぐに移動出来て。」
「今のうちに沢山歩いておきなさい。後々、転移魔法も覚えさせるから。」
「教えてくれるのは嬉しいけど…。前にルナが練習した時は、遠くにある知らない場所に飛んじゃったんでしょ?僕もそうならないといいけど…。」
「ルナの場合は、イメージを固めきれないまま魔法を発動したせいだな。少しの迷いで、全く意図していない場所に飛ばされた訳だ。」
「なんだか怖いね…。」
「魔法とは常にそういうものだ。あれこれ考えず、一点に集中するのがコツだな。」
「ふーん…。」
「ま、お前も同じように飛ばされても、また私が探してやろう。」
「そ、そうならないように頑張るよ…。」

会話と共に作業は進み、必要な薬草を全て摘み終えた。
それをサエの家に持ち帰ると、彼女はリビングに薬草を広げて薬を作り始めた。

「凄いわねぇ…!あたし、薬を作る所なんて初めて見るわぁ~。」
「すごく楽しいよ!最初の方は、薬草の違いがわからなくて失敗ばっかりだったけど…。薬草の組み合わせを変えるだけで、全く効果の違う薬が出来たりするんだよ。」 
「あぁ~。お前は、全く効果の無い薬を作るのが得意だったわね~。」

彼女は嫌味を込めた言い方で、僕に言葉を投げかけた。ルナの身体の中にいた頃、やる事が無かった僕は薬草を摘んでは手当り次第に薬を作り、数え切れない程の失敗作を作り上げていた。恐らく彼女は、その時の事を馬鹿にしているのだろう。

「それは失敗した時の話でしょ!?わざと作ってるんじゃないよ!」
「はいはい。」
「それにしてもほんと、2人は仲がいいわねぇ~。」

僕達のやり取りを見ていたサエは、微笑みながらそう口にした。

「えー?どの辺が?」
「あなた達は、なんでも言い合える仲でしょう~?それって素敵な事だと思うわぁ。」
「さすがになんでもは言えないな。体重とスリーサイズは教えていない。」
「きょ、興味ないから言わなくていいよ///!」
「何をムキになっているんだ?…ふふっ。これだからお前をからかうのは止められない。」
「うふふ。あなた達が仲のいい理由、なんとなくわかったわ~。」
「もー!」



「それじゃあ、行くわよぉ~。」

通行証を手にしたサエとユイを先頭に、採掘場の入り口を通って奥へと歩き出した。

「本当にヴェラを家に置いて来てよかったのかしら?何か考えがあるって言ってたけれどぉ…。」
「先に行ってくれって言ったのはヴェラなんだから大丈夫だよ~。」
「あたしも、ルシュ様なら大丈夫だと思うわ。薬の効果があるうちに進んだ方がいいと思う。」
「わかったわ~。なら、このまま最深部へ向かいましょ。」
「…暑くないといいなぁ。」

最深部に辿り着くと、ヴェラの作った薬のおかげで昨日よりも涼しく感じるような気がした。

「なんだ。私の方が早いじゃないか。」
「わ、ヴェラ!」
「え!?これがヴェラなの!?ただの猫じゃない!」

黒猫に変身していた彼女は魔法を解き、座っていた岩の上から飛び降りた。

「わぁ~…魔法ってすごいわねぇ…。」
「こんな事出来るのヴェラくらいだよ…。」
「何を言っている。お前にもその内させるからな?」
「えっ!?…嘘でしょ?」
「話をしている時間はない。さっさと探すぞ。」

僕達は手分けして、緋水晶を探す作業を始めた。至る所にある岩を次々と砕いていくが、水晶と呼べるものは1つも見つからない。

「無いなぁ…。」
「これだけ探しても無いなら、別の採掘場なんじゃないの?」
「ここの採掘場が、1番火山に近くて深い所なのよぉ?ここに無いんだったら、他の場所はいくら探しても無いと思うわぁ。」

別の場所にあるかもしれないというユイの推測を、サエはハッキリと否定した。

「サエ。本当にここが最深部なのか?」
「そうよぉ?この下はマグマが流れているから、ここが掘り進められる限界の場所なのよ~。」

疑い深いヴェラの疑問にも、サエはハッキリと答えを返した。

「まさか、そのマグマの中にあるなんて事は無いだろうな?」
「そんな訳…」

ヴェラの突拍子もない憶測に、そんな訳があるはずない…と僕は否定しかけた。

「…有り得るわねぇ。」

サエは薄らと髭の生えた顎に手を触れ、意外な言葉を口にした。

「ええー!?マグマってすごく熱いんでしょ?そんな中にある物をどうやって取り出せば…!」
「流れているマグマは、とてもじゃないけど近づけないわ~。けど…マグマが冷えて固まった中になら、水晶が残ってる可能性もあるわね。」

彼の話は不確かだが、今の僕達にはその言葉を信じる事しか出来なかった。

「ここより下…どうやって行く?」
「床に大穴でも開けるか?」
「下がどうなってるかわからないのに、それは危険すぎない!?」
「よく言うだろう?当たって砕けろと。」
「砕けたくないよ!!」

こうした彼女の強引さが、時に頼りなるが恐ろしく感じる時もある。

「姉様。この奥…道があるみたい。」
「本当!?」

ユノが指さした壁には小さな岩が積み上げられていて、奥へ続く通路が隠されていた。

「大穴開けるならここにしようよ!」
「お前も案外乗る気じゃないか。」
「そ、そういう訳じゃ…!」
「ならあたしが壊すわ。離れて。」

ユイは得意の爆破属性魔法を唱え、見事に大穴を開けてみせた。

「きゃ~!ユイってば、ド派手にやるわねぇ~。」
「ユ、ユイ…さすがにやりすぎなんじゃ…」
「こ、これでも抑えたんだから…!通れればそれでいいでしょ!?」
「音を聞いて他の奴らが集まると厄介だ。さっさと進むぞ。」

道は地下に続いているようで、奥へ進むにつれて暑くなるのが伝わってくる。

「うわぁ…。」

少し離れた場所に、ドロドロとしたオレンジ色の液体が流れていた。お湯が煮え立つようにコポコポと気体が湧き上がっていて、かなりの熱さになっているのが見て取れる。

「あれがマグマ?」
「そうよぉ。皮膚なんて簡単に溶けちゃうから、近付かないようにね?」
「うわぁ…。」
「固まっているマグマと言うのはどこにある?」
「あの辺りの黒くなってるのがそうよぉ。」
「早く見つけて、ここから出た方がいいね…。」

先程の場所は薬のおかげでほとんど暑さを感じなかったが、流石に流れているマグマの近くだという事もあって汗が吹き出すような暑さだった。

「あった!これじゃない?」
「こっちにもあったわ!」
「私も見つけた。」
「ちょっとちょっと~!緋水晶がこんなにあるなんて聞いてないわよぉ!あたし達だけじゃ取りきれないわ~。」

先程まで1つも無かった水晶が、冷えたマグマの中からいくつも発見された。

「必要な分だけもらって、水晶の除去をするのは他の人に協力してもらった方がいいんじゃない?」
「そうねぇ。これだけ緋水晶が増えてるなら、やっぱり原因はこの水晶ね。あたしも一応持ち帰って、詳しく調べてみるわ。」

僕とヴェラは必要な量の緋水晶を手に入れ、1度サエの家へ引き返す事になった。



「お世話になりました!」

翌日、僕とヴェラは家の前に立ち、数日の間お世話になったサエに別れの挨拶をしていた。
大量の緋水晶を見つけた後、ユイとユノは役所に協力を求め、日を改めて水晶の除去作業を行う事となった。一方サエは、他の学者の協力を得て、水晶が増えてしまった原因などを明らかにしていくらしい。

「何よ~急に改まったりしてぇ。元はと言えば、あたしがルカを気絶させたのが悪かったのよ~?」
「だ、だって…あの時サエとぶつかってなかったら、水晶を探すのにもっと時間がかかってたと思うし…」
「お互い様よぉ。あたしもルカが緋水晶を探してなかったら、いつまで経っても原因なんて分からなかったと思うわ~。」
「そっか…ならよかった!」
「サエ。1つ聞きたいんだが、暗水晶(やみすいしょう)はどこにあるか知っているか?」

やや強引に話に入ってきた彼女は、残り1つとなった水晶についてサエに問いかけた。

「暗水晶ねぇ~…。あたしはこの街で色々と調査してたから、緋水晶の事は知ってたけど…他の水晶に関してはさっぱりだわぁ。」
「そうか…。なら、一旦イリスシティアに戻って聞き込みだな。」
「あ!その前に、ユイとユノにも挨拶したいんだけど…。」
「…好きにしなさい。」
「ありがとう!」

僕は彼女をその場に残し、2人が寝泊まりしている宿屋へ駆けて行った。



「おはようルカ。」
「おはようユノ!」

宿屋に入ってすぐの所で、ソファーに座っている2人の姿を見つけた。僕を見て声をかけてくれたユノに対し、ユイは口をへの字に曲げて不機嫌そうな表情を浮かべている。

「何の用?」
「えと…街を離れる前に、2人にお礼が言いたくて…!」
「そんな事でわざわざ?…別に何もしてないわよ。あたし達が勝手についてっただけだし。」
「それでも一緒に探してくれたでしょ?ありがとうユイ。」

お礼のつもりで手を差し出したが、彼女はそれを握り返そうとはしなかった。

「…ねえ。あんたに聞きたい事があるんだけど。」
「え?何?」
「あたしが街で会ったフランって、別人なんでしょ?」
「それは…。」

最近、自分でも嘘をつくのが下手だと思う時がある。言葉を詰まらせている僕を見たユイは、その答えを察したようだった。

「やっぱりね…。あんなのフランじゃないもの。」
「別人なら…あの人誰?」

あまり表情を表に出さないユノだが、どこか不安そうな表情を浮かべているように見える。

「…僕の口からは言えないよ。」
「なんでよ!あたし達に隠したい、やましい事でもあるの!?」
「違うよ!フランの事は…僕の口からじゃなくて、本人の口から言うべきだと思うんだ。」
「確かにそうだけど…。じゃあ…ララには何て言ったらいいのよ…。」

彼女がフランの事を気にしているのは、ララの為だった。ルナもララとは親しいが、ユイも同じくらいララと親しい友人だ。フランの事で気を揉んでいる彼女の事が、心配で放っておけないのだろう。

「僕、ここに来る前ララの手紙をフランに渡したんだ。」
「え!…どうだった?」
「それが…今のフランは、記憶とか言葉を失っちゃってるんだ。手紙の内容が伝わったかどうかは、よくわからなかった…。」
「何よそれ…。何でそんな事に…。」
「レジデンスに戻ったら、フランの事は僕が何とかするよ!僕もこのままじゃ嫌だし、ユイ達だって嫌だろうから…。だからララには、手紙を渡したって事とフランが元気だって事だけ伝えてくれない?」
「…わかったわ。」
「ルカ。ルシュ様来たみたい。」

ユノの言葉を聞いて窓の外を見ると、腕を組んで民家の壁にもたれかかっているヴェラの姿があった。

「あ、じゃあ…そろそろ行くね。」
「…ルナの事も、何かわかったら教えなさいよ?」
「うん…!2人共元気でね。」
「ルカもね。」

こうして2人に別れを告げると、外で待っていたヴェラと共にイリスシティアへ向かった。
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