20 / 20
20
しおりを挟む
瀬戸と本当に恋人になった。
そんな夢のような現実を与えられ、新坂は上手く眠れないまま天井を見ていた。セックスで汗ばんだ肌も今ではすっかり乾いて、寝苦しさはないはずなのにやはり眠くはならなかった。
(もしかして全部ドッキリだったりして)
そんなわけはないのだがそんなことを思いながら、新坂は隣で寝る恋人を見た。瀬戸は新坂の肩に頬をくっつけて眠っている。先程まで新坂を求めていた男とは別人のような可愛らしい寝顔に、新坂はひとりで笑った。少し開いている唇に触れるとキスをしたくなってしまって、新坂は自分に正直に顔を寄せた。
重なった唇は、前と違って新坂の心を満たしていく。
「……好きだよ、ユキトくん」
あの夜言えなかった言葉を言って、新坂は幸せと照れ臭さを感じた。口元を緩ませたまま枕に頭を戻すと、
「寝てる俺にしかキスしてくれないんですか?」
そう言う声と共に半身を起こした瀬戸が顔を覗き込んできた。
++
微睡みの中で、唇に何かが触れる感覚があった。
「……好きだよ、ユキトくん」
声がして、新坂にキスされたんだとわかって目を開けると、新坂が離れていくところだった。バレずにキスをした気でいる恋人に、瀬戸は笑いながら近づく。
「うわっ、起きてたの」
「途中で起きちゃったんですよ」
これ前もそうでしたけど、と瀬戸が眉を上げると新坂は恥ずかしそうに毛布を口元まで引き上げる。可愛くて抱き締めたくなって、以前からあったこの感情が『愛』だとわかるまで長かったなと瀬戸は思った。
元を正せば、潜在的に新坂を好きだったのだろうと思う。自分でもわからないほどに埋もれていた感情が、新坂と過ごすうちに芽を出して花を咲かせるまでになったという表現が近い。
「ちゃんと起きてる俺にもしてください」
そして1度好きだとなれば、瀬戸は愛情表現に遠慮がなくなるタイプだった。緩む顔を隠さない瀬戸を、新坂の三白眼がジッと見つめてくる。
「……ドッキリじゃなさそう」
「何がですか」
「なんでもない」
追及を塞ぐようにキスをされ、そっと頬を撫でられる。
「……好き、愛してる」
「俺も愛してます」
新坂と額を合わせて、瀬戸は目を細めた。瀬戸からもキスをすると、新坂はクスクスと喉を鳴らしながら起き上がる。瀬戸の顎下を撫でて構ってから、新坂はサイドテーブルに置かれた花束に顔を向けた。
「これドライフラワーにできるかな」
「あ、俺ヒョンにもらったラベンダーでやったんでやり方わかりますよ」
窓に飾ってあってと続けようとしたら「飾ってくれてたよね」と先に言われる。新坂が嬉しそうに見えて、気付いてくれていたことに瀬戸も嬉しくなった。
「俺もあとでお花、お返しするから。ドライフラワーいっぱい作ろ」
新坂がぽんと頭に手を置いてきて、瀬戸の頭に欲しい花が浮かぶ。
「そしたら白い薔薇が欲しいです」
「いいよ。好きなの?」
「店で花選ぶときに告白するんですって伝えたら、店員さんが花言葉を色々教えてくれて」
説明しながらスマホで検索を進めて、瀬戸は新坂に白い薔薇の花言葉を見せた。
「……『私は、あなたに相応しい』」
「いい花言葉でしょ。新坂さんからそんな言葉贈られたら最高だなって思って」
新坂は照れたように唇を舐めてから、「相応しいとか言ってる俺、偉そうじゃない?」と眉を下げて笑う。
「でもユキトくんの希望なら叶えるよ。いっぱい贈らせて」
「俺も用意するから、白い薔薇贈り合いましょうね」
「え、それじゃお返しにならないよ」
「だって俺、あなたに相応しいから。世界中で競っても俺が勝ちます」
新坂の分まで補うように瀬戸が堂々と言うと、新坂はパチパチと瞬きしてから「はは」と口元を緩めて感情を溢した。身体を寄せた新坂が瀬戸の肩にもたれて、体温が混ざる。
「……俺から、離れないでね」
独り言のような言葉は、瀬戸の腕を弱く撫でる指先と一緒に伝えられた。
(あぁ、この人とずっと一緒にいたい)
瀬戸はそう思って、新坂の手を取って指を絡める。
「離れたいって言われても、離しません」
微笑むと、顔を上げた新坂は瀬戸の表情をなぞるように微笑んだ。2人は穏やかに見つめ合って、そのまま唇を重ねる。
誓いの言葉も、指輪もないけど。それは紛れもなく、これからを約束する契りの口づけだった。
おわり
そんな夢のような現実を与えられ、新坂は上手く眠れないまま天井を見ていた。セックスで汗ばんだ肌も今ではすっかり乾いて、寝苦しさはないはずなのにやはり眠くはならなかった。
(もしかして全部ドッキリだったりして)
そんなわけはないのだがそんなことを思いながら、新坂は隣で寝る恋人を見た。瀬戸は新坂の肩に頬をくっつけて眠っている。先程まで新坂を求めていた男とは別人のような可愛らしい寝顔に、新坂はひとりで笑った。少し開いている唇に触れるとキスをしたくなってしまって、新坂は自分に正直に顔を寄せた。
重なった唇は、前と違って新坂の心を満たしていく。
「……好きだよ、ユキトくん」
あの夜言えなかった言葉を言って、新坂は幸せと照れ臭さを感じた。口元を緩ませたまま枕に頭を戻すと、
「寝てる俺にしかキスしてくれないんですか?」
そう言う声と共に半身を起こした瀬戸が顔を覗き込んできた。
++
微睡みの中で、唇に何かが触れる感覚があった。
「……好きだよ、ユキトくん」
声がして、新坂にキスされたんだとわかって目を開けると、新坂が離れていくところだった。バレずにキスをした気でいる恋人に、瀬戸は笑いながら近づく。
「うわっ、起きてたの」
「途中で起きちゃったんですよ」
これ前もそうでしたけど、と瀬戸が眉を上げると新坂は恥ずかしそうに毛布を口元まで引き上げる。可愛くて抱き締めたくなって、以前からあったこの感情が『愛』だとわかるまで長かったなと瀬戸は思った。
元を正せば、潜在的に新坂を好きだったのだろうと思う。自分でもわからないほどに埋もれていた感情が、新坂と過ごすうちに芽を出して花を咲かせるまでになったという表現が近い。
「ちゃんと起きてる俺にもしてください」
そして1度好きだとなれば、瀬戸は愛情表現に遠慮がなくなるタイプだった。緩む顔を隠さない瀬戸を、新坂の三白眼がジッと見つめてくる。
「……ドッキリじゃなさそう」
「何がですか」
「なんでもない」
追及を塞ぐようにキスをされ、そっと頬を撫でられる。
「……好き、愛してる」
「俺も愛してます」
新坂と額を合わせて、瀬戸は目を細めた。瀬戸からもキスをすると、新坂はクスクスと喉を鳴らしながら起き上がる。瀬戸の顎下を撫でて構ってから、新坂はサイドテーブルに置かれた花束に顔を向けた。
「これドライフラワーにできるかな」
「あ、俺ヒョンにもらったラベンダーでやったんでやり方わかりますよ」
窓に飾ってあってと続けようとしたら「飾ってくれてたよね」と先に言われる。新坂が嬉しそうに見えて、気付いてくれていたことに瀬戸も嬉しくなった。
「俺もあとでお花、お返しするから。ドライフラワーいっぱい作ろ」
新坂がぽんと頭に手を置いてきて、瀬戸の頭に欲しい花が浮かぶ。
「そしたら白い薔薇が欲しいです」
「いいよ。好きなの?」
「店で花選ぶときに告白するんですって伝えたら、店員さんが花言葉を色々教えてくれて」
説明しながらスマホで検索を進めて、瀬戸は新坂に白い薔薇の花言葉を見せた。
「……『私は、あなたに相応しい』」
「いい花言葉でしょ。新坂さんからそんな言葉贈られたら最高だなって思って」
新坂は照れたように唇を舐めてから、「相応しいとか言ってる俺、偉そうじゃない?」と眉を下げて笑う。
「でもユキトくんの希望なら叶えるよ。いっぱい贈らせて」
「俺も用意するから、白い薔薇贈り合いましょうね」
「え、それじゃお返しにならないよ」
「だって俺、あなたに相応しいから。世界中で競っても俺が勝ちます」
新坂の分まで補うように瀬戸が堂々と言うと、新坂はパチパチと瞬きしてから「はは」と口元を緩めて感情を溢した。身体を寄せた新坂が瀬戸の肩にもたれて、体温が混ざる。
「……俺から、離れないでね」
独り言のような言葉は、瀬戸の腕を弱く撫でる指先と一緒に伝えられた。
(あぁ、この人とずっと一緒にいたい)
瀬戸はそう思って、新坂の手を取って指を絡める。
「離れたいって言われても、離しません」
微笑むと、顔を上げた新坂は瀬戸の表情をなぞるように微笑んだ。2人は穏やかに見つめ合って、そのまま唇を重ねる。
誓いの言葉も、指輪もないけど。それは紛れもなく、これからを約束する契りの口づけだった。
おわり
66
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています
大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。
冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。
※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
アイドルですがピュアな恋をしています。
雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。
気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。
見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。
二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。
まさか「好き」とは思うまい
和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり……
態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語
*2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる