人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ

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矢代頼

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  ホテルへ無事到着しみんなで夕飯を食べ終わる頃には、颯も涼真や翔太郎と笑って雑談するくらいには元気になっていた。

「このホテル、大浴場0時までなんだけど0時から事務所が俺たちのために貸し切りにしてくれたらしい」

  俺がマネージャーからのラインを見ながら伝えると、「ちょうど0時過ぎですよ」と涼真が腕時計を見る。

「みんなで入りに行こうよ~疲れを癒そう!ほらハヤテちゃんも疲れたでしょ今日」

  翔太郎が笑顔で立ち上がり颯の手を取ったので、颯もつられて立ち上がった。

「わかったからショウさん落ち着いて」
「落ち着いてらんないよ、僕お風呂大好きなんだから」
「じゃ着替え取りに部屋戻るか」
「ちょっと!ジョーさん髪ぐしゃぐしゃすんのやめてって」

  翔太郎に手を引っ張られ、丈に髪を乱暴にいじられた颯は文句を言いながらも終始笑っていた。
  元気を取り戻した様子に嬉しくなりつつ、「よし、廊下で待ち合わせな」と俺もメンバーに笑顔を向けた。



  JETのメンバーはみんな同じ階の部屋に泊まっていた。フロアごと貸し切っていたので、客は俺たちしかいないはずだった。

「……ハヤテ、遅くないですか?」

  エレベーター前のソファの横で、涼真がそう言った。
  俺と丈と翔太郎はふたり掛けのソファに無理矢理座っていたが、涼真の発言を受けて丈が俺の背中を押しやったので、俺が椅子取りゲームに負ける形となる。

「ライ、様子見てこいよ」
「確かに遅いよね。寝ちゃってたりして」
「ハヤテすぐベッドで横になりますもんね」
「わかったわかった。見てくるからお前らちゃんとここにいろよ」
「あ、俺も一緒に行きます!」

  ふてぶてしくソファで長い脚を組むふたりを尻目に、健気についてきてくれる涼真にはアイドルスマイルを向けてやる。

「ありがとな~可愛い可愛いリョウマにはあとでアイス奢ったげるからな~」
「180センチもある21の男を子供扱いすんのやめろよ、おじいちゃんか」
「ライ~アイス買うなら僕もほしい」
「お前らは黙ってろ」

  そんなことを言い合って、俺たちは平和で能天気だった。
  ハヤテの部屋の前について、インターフォンを押すまでは。

  ──リンゴーン。

  出てこない。

「ハヤテ~寝てんのかー?」

  ──リンリンゴーン。

  出てこない。

「マジで爆睡してんのかな」
「でもさすがに起きそうな音鳴ってま……」

  答えたかけた涼真が何かに気づいたように黙った。
  どうしたと口を開くと、涼真は「しっ」と指を口に当て耳をドアに寄せた。

「……何か聞こえませんか」
「なにかって」

  なんだよ。

  ドアに耳をくっつけると確かに何かの音が聞こえた。
  この音は……いや、声か?

「……これ、呻き声じゃ」

  涼真がそう言ったとたん、本当に呻き声にしか聞こえなくなった。
  目を見開いて見つめあった俺たちは、次の瞬間には扉を手で叩いていた。

「おい、ハヤテ!大丈夫!?」
「そうだ、カギ!カギ開けるぞ……!」

  リーダーである俺は、メンバーのカードキーの予備を預かっていた。
  焦る手でスマホケースに挟んでいたカードキーを出しドアにかざせば、あっさりとドアが開く。
  入ろうとノブに手をかける直前、物凄い勢いでドアが中から開き、俺と涼真はお互いを支えながら倒れ込んだ。
  部屋から飛び出してきたのは女だった。
  地味な顔の女で、しかし車に乗る前に颯に絡んできた女とも違った。
  唖然と見上げると女は俺たちに見向きもせずに廊下を走り出す。
  何がどうなってるのかわからないが、異常事態だということはわかる。俺は女が逃げた方にいる丈と翔太郎に向かって叫んだ。

「ジョー!ショータロー!その女、捕まえろ!!」

  叫ぶだけ叫んで、部屋に駆け込む。
  颯はベッドの上にいて、先に入っていた涼真に身体を支えられていた。

「っ……ぁ、っう………」

  泣くのを堪えられずに歪んだ顔を涼真の肩にうずめた。
  荒れた室内と、破かれた颯の服。
  そして飛び出していった女。
  それだけで何があったのか察するに十分だった。

「ハヤテ……!怪我は!?」

  颯は泣くばかりで、否定なのか肯定なのかわからなかった。

「俺はマネージャーに連絡する。リョウマは一緒にいてやって」
「はい……」

  涼真は今にも泣きそうな顔で、震える颯の頭を優しく撫でた。颯はマネージャーやスタッフがやってきても、涼真から離れなかった。
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