ミスターコン1位と1位が仲良くなりすぎる話

タタミ

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3話

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「わー全然普通の部屋ですね……」
「だから言っただろ。大金持ちの彼女も出てこないよ」

 大学の講義が終わり、約束通り天は晴馬を家に連れてきていた。
 山手線圏内にあるごく一般的な賃料の1Kをうろうろと見渡す晴馬に、天はコップにコーラを注ぎながら「適当に座って」と伝える。不揃いのコップをローテーブルに置いてクッションに座ると、晴馬は振り返って棚の上の写真立てを指差す。

「これ、お友達ですか?」
「ああ、そうそう。一番最近のは幼馴染の吉場京介ってやつと高尾山行ったときの写真」
「へ~吉場さんは大学生?」
「いや、京介はフリーター。八王子の古本屋でバイトしてる」

 写真立ては複数並んでいて、大学進学を機に離れてしまった旧友たちがどの写真でも笑っている。最新の近影は唯一親交が続いている幼馴染、京介と撮ったものだ。

「天さん、大学だと誰とも一緒に居ないから勝手に人付き合い嫌いなのかと思ってました」
「まぁ、うん。元々は俺、人といるの好きなんだよ。大学は色々疲れちゃってひとりでいるだけ」

 男は天を妬むか利用しようとし、女は天との交際を目論んで陰で蹴落とし合いをする。
 まだまだ男子も女子も純粋だった高校までと、良くも悪くも欲を覚える大学では天を取り巻く環境がまるで異なった。異常なほどモテる状態では真の友はできないという悲しき摂理を実感した天は、2年に上がってから恋人も友人も一切作っていなかった。
 美形というのは黙っていると、普通の人よりも威圧感があり怖いものだ。愛想を失った天が誰ともつるまないという状況は、当然天を孤高の存在にした。だから天にとって晴馬の登場は、味気ない大学生活に色を添える貴重なものだった。

「あー……、じゃあ、俺といるのは疲れてません?」

 晴馬は「なぜ疲れてるのか」という追及をせずに、気にした様子で天を見た。ほんと良いやつだよなと天は改めて思いながら、コーラに口をつける。

「一緒にいて疲れるやつを家に呼ぶわけないじゃん。なんならずっと晴馬といたいくらいだよ」

 口許にコップを添えたまま天がおどけて眉を上げると、晴馬は天に向けて目を細めた。その表情は今までになく大人びていて、天は何故かうまく反応を返せなかった。

「そうなれば、もう俺だけの天さんですね」

 晴馬はそう言って、隣に座ってくる。
 言葉はちゃんと冗談めかされていたのに、天は心の弱いところを撫でられたようで、何も言えずに晴馬を見つめた。

「こうやって部屋に呼んでもらえると、優越感あっていい気分です」

 天が何か反応を返す前に、晴馬はいつもの年下らしい顔つきで得意気にコーラを飲み始める。

「部屋なんて別に……いつでも来ていいよ」

 天はやっと無反応を解いて、コップをテーブルに戻しながら答えた。

「言いましたね。今度泊まりに来るから首洗って待っててください」
「晴馬こそ首洗っとけ」
「なにその返し」

 おかしそうに笑ってから、晴馬は棚の上の写真立てに目を向けた。

「それにしても天さんは昔からカッコいいんですね」
「そう?晴馬って俺のことめっちゃ誉めてくれるけど、正直俺はお前の方がカッコいいと思う」
「えっ……えへへ。そんな、いやでも、ありがとうございます、ふふ」

 晴馬は照れているのがよく分かる笑いで歯を見せて、天はそんな晴馬の腕を小突いた。大学に入ってからここまで親しいスキンシップをできる相手は初めてで、可愛がりたい気持ちのまま晴馬の髪をぐしゃぐしゃいじる。

「晴馬は芸能人になるとか考えたことないの?」
「その言葉、天さんにそのまま返しますよ」
「俺はなぁ、うーん、興味がなくて。でももし晴馬がなるなら、なってもいいかも」
「はは、そしたらユニットでデビューします?」
「ユニットってなにすんの。あ、わかった!お笑いだな」

 天がひらめき顔で提案すると晴馬は笑いながら天の肩を叩いてくる。天も晴馬にくっついて一緒に笑った。
 ただただ、楽しかった。

「俺、晴馬と友達になれてホントよかったよ」

 笑いが落ち着いて微笑みになった頃、天は晴馬にそう伝えた。晴馬はきれいな目を大きくして固まって、瞬きだけをした。

「俺って……天さんの友達だと思っていいんですか」

 固まったまま、晴馬は『知らなかった』という声音を出した。ほぼ毎日大学で一緒にいるのに、友達じゃないという考えがあるのかと天も目を見開くことになる。

「え。じゃあ逆になんなの俺たち」
「せ、先輩と後輩……?」
「マジか、俺のことそのくらいの距離感に思ってたんだ……友達だと思ってんの俺だけだったんだ……」

 わざと悲壮な顔をすると、晴馬は見るからに焦って「ちがっ、友達ならすごい嬉しいです!」と天の手を握ってきた。

「友達!友達ですよ、俺たちは。超友達」

 激しく握手をされて、天は悲しい顔を保てなくなって吹き出した。

「ふは、いいね、超友達って。俺たちは超友達」
「はい。天さんが先に大学卒業しちゃっても、仲良くしてくださいね」

 天は晴馬の肩を叩いて「約束だ」と小指を出すと、晴馬は晴れやかに笑って小指を絡める。

「俺、天さんといる時間が1番好きです」

 晴馬の笑顔は花咲くようだった。天はまた心の弱い部分が刺激されるのを感じて、同時になんだか鼓動が早まって、温かくて照れるような、不思議だけど心地よい感覚を覚えた。

「……俺も晴馬といるのが、1番好きだよ」

 その感覚は天の顔をゆっくりと綻ばせて、いつまでも晴馬と一緒にいたいと思わせていた。
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