8 / 31
来訪
しおりを挟む
シャワーと朝飯を済ませた久遠さんは玄関で再三俺に礼を言った。
「この恩には必ず報いるから!なんか欲しいもの考えといて、何でも買う」
「わかりましたから、早く出ないと間に合わなくなりますよ」
言いながら靴を履こうとすると「一太くんも出掛けんの?」と無邪気に聞かれる。
「いや、駅まで送ってこうと思って」
西野に久遠さんが殴られた日から、俺はとりあえず久遠さんを駅までは送ることにしていた。それでなにが解決するというわけじゃないとわかっていても、暴行を知っている身として何かしておきたいエゴがあった。あの一件の後、久遠さんが西野と接触してるのか知らないが、キレて一方的に殴るようなやつは何をしでかしてもおかしくはない。
西野のことかと察したらしい久遠さんが無邪気さを消して眉を下げた。
「俺のことは気にしなくて平気だよ。西野と連絡も取ってないし、もちろん会ってもない。あいつ、一太くんに目撃されて大人しくなってんだよ。西野も体裁があるからさ。だから……ホントに平気」
ふにゃっと笑う久遠さんを見て、困ったときにこの笑い方をするんだなとわかってしまった。
「それにマンション下にタクシー呼ぶし」
「……わかりました、気をつけて。それと仕事頑張ってください」
「うん。俺のこと心配してくれてホントにありがと。また連絡する」
華やかに手を振る久遠さんがドアの外に消えて、俺は玄関の壁に身を預けた。頭を抱える。キスのことはなかったことにして友達を続けるのか、やはり言及すべきなのかわからない。久遠さんはいい人だけど、だからこそ言及しにくい。
玄関で悩んでいても仕方がないので、とりあえず部屋に戻って俺はもう一度頭を抱えた。ヤフー知恵袋に聞いてみようと思い立ってスマホを手に取り、高速で同じ悩みを抱える人間を検索していく。
『キスして悩むってことは嫌じゃなかったってことですよね?つまりそういうことですよ』
だからどういうことなんだよ。
『酔った勢いとか1番よくない!』
それは、ホントにそう。
『過ちから始まる恋ってのもいいもんだなと思います』
感想文?
「ダメだ!役に立たん!」
俺は怒りながら『友達 キス』『友達の基準 キス』『友情とは キス』という何に悩んでいるのか丸わかりの検索履歴に羞恥を感じて長押しで消していった。
──ピロン♪
そこに久遠さんからLINEが来て、スマホを床に落としそうになりながら間違ってトークを開いた。即既読つける俺、キモいな。
『元気に行ってきます』
という文と家で着替えたらしい久遠さんの自撮りが連投される。自撮りの高すぎるクオリティに目をしょぼつかせつつ、「頑張って下さい」と返す。『任せとき!』と言っているユルいラッコのスタンプが返ってきて、ラッコ好きなのホントなんだと思った。それでやりとりは終わって、スマホをベッドに置く。
久遠さんの休日が唐突に終わり、俺の非日常も唐突に終わった。シンとした室内はいつも通りのはずなのに少し寂しさを覚える。
「はー……一旦寝よ」
久遠さんと喋ったり笑ったり飲んだりキスしたりした記憶がすべて凝縮されている部屋に気圧されて、俺は倒れるようにベッドに横になる。気が抜けた俺はすぐに泥に沈むように意識を失った。
──ピンポーン。
──ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴らされている。
俺は呻きながら薄目を開けてスマホを見た。
20時18分。
「20時18分!?」
何時間寝てんだよ。
慌てて起きて、寝すぎて痛む頭に顔をしかめる。
──ピンポンピンポン。
チャイムが止まらないので覚束ない足取りでインターホンまでたどり着き、画面を見る。
ネットでなんか買ってたっけ?とボーッと考えていたが、画面に写っている人物を見てむせた。
マンションのエントランスでチャイムを鳴らしているのは西野だった。
「この恩には必ず報いるから!なんか欲しいもの考えといて、何でも買う」
「わかりましたから、早く出ないと間に合わなくなりますよ」
言いながら靴を履こうとすると「一太くんも出掛けんの?」と無邪気に聞かれる。
「いや、駅まで送ってこうと思って」
西野に久遠さんが殴られた日から、俺はとりあえず久遠さんを駅までは送ることにしていた。それでなにが解決するというわけじゃないとわかっていても、暴行を知っている身として何かしておきたいエゴがあった。あの一件の後、久遠さんが西野と接触してるのか知らないが、キレて一方的に殴るようなやつは何をしでかしてもおかしくはない。
西野のことかと察したらしい久遠さんが無邪気さを消して眉を下げた。
「俺のことは気にしなくて平気だよ。西野と連絡も取ってないし、もちろん会ってもない。あいつ、一太くんに目撃されて大人しくなってんだよ。西野も体裁があるからさ。だから……ホントに平気」
ふにゃっと笑う久遠さんを見て、困ったときにこの笑い方をするんだなとわかってしまった。
「それにマンション下にタクシー呼ぶし」
「……わかりました、気をつけて。それと仕事頑張ってください」
「うん。俺のこと心配してくれてホントにありがと。また連絡する」
華やかに手を振る久遠さんがドアの外に消えて、俺は玄関の壁に身を預けた。頭を抱える。キスのことはなかったことにして友達を続けるのか、やはり言及すべきなのかわからない。久遠さんはいい人だけど、だからこそ言及しにくい。
玄関で悩んでいても仕方がないので、とりあえず部屋に戻って俺はもう一度頭を抱えた。ヤフー知恵袋に聞いてみようと思い立ってスマホを手に取り、高速で同じ悩みを抱える人間を検索していく。
『キスして悩むってことは嫌じゃなかったってことですよね?つまりそういうことですよ』
だからどういうことなんだよ。
『酔った勢いとか1番よくない!』
それは、ホントにそう。
『過ちから始まる恋ってのもいいもんだなと思います』
感想文?
「ダメだ!役に立たん!」
俺は怒りながら『友達 キス』『友達の基準 キス』『友情とは キス』という何に悩んでいるのか丸わかりの検索履歴に羞恥を感じて長押しで消していった。
──ピロン♪
そこに久遠さんからLINEが来て、スマホを床に落としそうになりながら間違ってトークを開いた。即既読つける俺、キモいな。
『元気に行ってきます』
という文と家で着替えたらしい久遠さんの自撮りが連投される。自撮りの高すぎるクオリティに目をしょぼつかせつつ、「頑張って下さい」と返す。『任せとき!』と言っているユルいラッコのスタンプが返ってきて、ラッコ好きなのホントなんだと思った。それでやりとりは終わって、スマホをベッドに置く。
久遠さんの休日が唐突に終わり、俺の非日常も唐突に終わった。シンとした室内はいつも通りのはずなのに少し寂しさを覚える。
「はー……一旦寝よ」
久遠さんと喋ったり笑ったり飲んだりキスしたりした記憶がすべて凝縮されている部屋に気圧されて、俺は倒れるようにベッドに横になる。気が抜けた俺はすぐに泥に沈むように意識を失った。
──ピンポーン。
──ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴らされている。
俺は呻きながら薄目を開けてスマホを見た。
20時18分。
「20時18分!?」
何時間寝てんだよ。
慌てて起きて、寝すぎて痛む頭に顔をしかめる。
──ピンポンピンポン。
チャイムが止まらないので覚束ない足取りでインターホンまでたどり着き、画面を見る。
ネットでなんか買ってたっけ?とボーッと考えていたが、画面に写っている人物を見てむせた。
マンションのエントランスでチャイムを鳴らしているのは西野だった。
80
あなたにおすすめの小説
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
僕らのトライアングル
竜鳴躍
BL
工藤ユウキには好きな人がいる。
隣の家に住んでいる大学生のお兄さん。
頭が良くて、優しくて、憧れのお兄さん。
斎藤久遠さん。
工藤ユウキには幼馴染がいる。ちょっとやんちゃでみんなの人気者、結城神蔵はいつもいっしょ。
久遠さんも神蔵が可愛いのかな。
二人はとても仲良しで、ちょっとお胸がくるし。
神蔵のお父さんと僕のお父さんがカップルになったから、神蔵も僕のお家にお引越し。
神蔵のことは好きだけど、苦しいなぁ。
えっ、神蔵は僕のことが好きだったの!?
久遠さんは神蔵が好きで神蔵は僕が好きで、僕は……
僕らの青春スクランブル。
元学級委員長パパ☓元ヤンパパもあるよ。
※長編といえるほどではなさそうなので、短編に変更→意外と長いかもと長編変更。2025.9.15
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる