隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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告白

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「いや、いやあの。丁寧に説明してほしいんですが……?」
「その前に、俺が怒ってる件について言いたいんですけど」

  俺の動揺をさておいて、一太くんは再び腕を組んだ。

「久遠さん、俺のこと好きだって言いましたよね」
「えっはい。言いました。好きです」

  ソファの上に正座するような気持ちで畏まって答えると、一太くんは口を押さえた。自分で聞いておいて、俺の回答が恥ずかしかったようだ。
  気を取り直すように咳払いをして、一太くんは姿勢を正した。

「あのバス停で言うだけ言って、終わりにしようとしてましたよね。それに対して俺は怒ってるんです。告白してそれっきりにしようとするのは、あんまりじゃないですか」

  一太くんの非難めいた目に、俺は胸が苦しくなった。
  告白して勝手にスッキリして、怖くて返事は聞かないというのは傲慢な弱虫だ。自分でもそう思っていた。
  ちょっと考えれば自分がどれだけ身勝手に振り回しているかわかったはずなのに。

「……ごめん。俺の気持ちを押しつけて、告白だけでもできたっていう自己満足に付き合わせてしまって、本当にごめん。それから……怒ってる内容、教えてくれてありがと」

  静かに頭を下げると、一太くんは怒りを失ったかのように背中を丸めた。
  一太くんの前髪がはらりと目元に落ちる。

「……確かに俺怒ってましたけど、謝らせてばっかりですみません」

  そう言う一太くんの声は落ち着いていた。

「告白されてめちゃくちゃ驚いたんです。そういう意味で好かれてるって思ってなくて。ちゃんと返事をしたかったけど、久遠さんは俺の気持ち、ハナから聞く気がないってことが……そのことが悲しかったんです」

  静かに言葉を紡ぐ一太くんから目が離せなかった。
  今までの一太くんの言葉を繋ぎ合わせると、嫌でも期待してしまう答えがあって、俺は毛が逆立つような感覚を覚えた。

  早まるなよ、落ち着け。

  先走る心臓に無意識に手を当てると、一太くんは居住まいを正して俺の方に少しだけ体を乗り出した。
  
「怒ってた話はこれで終わりです。もう怒ってないので、気にしないでください。別件でもう1個話があります」

  一太くんは冷静な話しぶりから一転、落ち着かない様子で口元を触る。

「というかもう、気付いてると思いますけど」

  1度唇を舐めてから、一太くんの両目が俺を捉えた。
 
「俺は、久遠さんのことが好きです」
  
  期待してしまっていた言葉が、そのまま一太くんから告げられた。
  期待してしまっていたくせに、俺はにわかには信じられなかった。

「う、ウソ、なんで?」
「え、なんでって……好きだから好きなんですけど」

  そりゃそうだ、何を聞いてんだ俺は。
  俺だってなんで一太くんが好きかと聞かれたら、好きなもんは好きだと言う。

「ごめん、でも、だってその……夢かと思って……!俺のこと、好きでもなんでもないって聞いてたから」

  動揺を隠すことも出来ずに言うと、一太くんは分かりやすく眉を寄せた。

「なんですか、その話」
「いやあの、西野が水族館で会ったときにそう言ってたって……」
「なっ、あのクソ野郎……!」

  一太くんは寄せていた眉をさらに寄せてデカめに暴言を吐いた。

「確かに西野に、久遠さんに惚れてるか聞かれましたけど、そんな言い方してないです。『惚れてるとかではない』っていう話をしたんですよ。……その時はまだ、好きか自覚なかったんで」
「そ、そっか」

  否定してもらって一安心しながら、俺の卑屈な心配性はまだ抑えられていなかった。

「あと、俺一太くんは女の人と良い感じなのかと思ってたんだけど」
「え!?今度はなんですか……!」
「一太くん、俺が最後に部屋に行ったとき花飾ってたじゃない?今まで花なんて飾ってなかったし、それになんか態度がぎこちなかったから、彼女とか出来たのかなって……」

  一太くんは俺の話を聞き終わって、寄せていた眉を今度は下げた。
  「それは……」と言いかけて恥ずかしそうに口元を押さえる。

「……あの時、本当は久遠さんに告白しようと思ってたんですよ」
「へっ!?」

  予想外の返答に、俺の声はひっくり返った。

「今まで告白したことなくて、とりあえず花でも飾って綺麗な雰囲気を醸そうかと思ったっていうダサい理由があっただけで……女の人にもらったものじゃないし、俺をぎこちなく感じたのは、俺が告白することにバカみたいに緊張してたからです」

  じゃあ、俺があの時早合点して逃げなければ、俺は一太くんに告白されてもちろんOKしてめちゃくちゃハッピーだったてことじゃん。
  週刊芸能の記事はなんにせよ出ただろうけど、セックスしろだの薬を口移しで飲ませろだのワガママ放題のメンヘラをかまさずに済んだんじゃん。
  俺はバカか?

「うあー……そうなんだ……素直にケーキ食べてたら良かった……」
「誤解、解けました?」
「うん……とけた。そして俺が愚かってことがわかった」
「誤解させるようなことばっかりですみません」

  一太くんはそう言って、緊張をほぐすように細く息を吐いた。

「……改めて言いますが」

  俺の顔を上げるように、一太くんは俺の頬に手を当てた。
  唐突な体温に胸が跳ねる。

「俺は久遠さんが好きです」

  見つめるとしっかりと見つめ返してくれた。

「久遠さんが好きだって気づいてから、ずっと久遠さんのことばかり考えていました」

  間近で紡がれる言葉は、吐息すら感じさせた。

「久遠さんがいない部屋で、今久遠さんがいたらって何度も思いました。どうしたら好いてもらえるか、何をしたら喜んでくれるか。頭の中はそればかりで。それほど好きで、好きでたまらなくてどうしようもない」

  これほどの愛の言葉を、俺は聞いたことがない。
  この言葉が俺に向けられているという事実が、俺の心臓をかつてないほど高鳴らせ、息が詰まる。

「あ……ありがと。ごめん、うまいこと言えなくて」

  俺の視界は滲んで、一太くんがぼやけてしまう。
  慌てて目元を拭った。

「とにかく、ありがと。俺も一太くんが、だいすき……」

  一太くんの告白の半分の語彙力もない俺の言葉は、一太くんに抱き締められることで彼の胸に飲まれた。

「付き合ってもらえますか」
「あたり、まえだよ……」

  一太くんが少し笑ったのが空気でわかる。
  力一杯抱き締め返した。

「ありがとうございます。俺、今めっちゃ幸せです」
「俺が、いちばん幸せだから」
「なんで張り合うんですか」

  この瞬間から恋人同士だなんて、また涙が出そうだ。
  一太くんの胸に顔をこすりつけて誤魔化す。

「ね、一太くん」
「なんですか」
「キスしたい」

  胸元で顔をあげると照れ臭そうな一太くんと目が合った。

「……キス、なるほど」
「照れてるじゃん」
「照れますよ!」

  もうしちゃったことあるのに、可愛いな。
  そんなことを思って笑うと一太くんが俺の顔を包んだ。

「し、しましょう」
「あ、うん。お願いします」

  一太くんの手から緊張が伝わってきて俺も妙に緊張した。
  ゆっくり近づく一太くんに合わせて近づく。
  そうして唇が重なって、すぐに離れた。

「……ありがとうございました」
「なんでお礼言うの」

  赤面している一太くんは可愛いけど、俺はもっとしたい。
  離れていこうとする一太くんの顔を両手で挟んで、俺からキスをした。キスというより唇を奪ったという表現があっているような勢いだった。

「っ!ん……」

  一太くんはビクッと体を固めたけど、俺が唇を食むうちに俺に重心を傾けた。柔らかい唇が触れ合って、幸せだけどそれだけでは満足できない欲が首をもたげる。
  求めるままに唇を舌で舐めたら、一太くんは目を開いて顔を背けた。

「ごめん嫌だった?」
「全然、嫌じゃないです。ただ、このままだと俺……我慢できなそうで」

  目だけ俺に向けた一太くんから、滲み出る本能と抑え込もうとする理性が垣間見える。

「我慢しなくていいよ」
「いやでも……本当にいいんで……っあ、ちょっと……!」

  生真面目に再度確認を取ろうとする一太くんをソファに倒して、シャツのボタンに手をかけた。

「セックスしたい。つまり、俺を抱いてほしい」

  分かりやすく言葉で伝えると、一太くんはボタンを触っていた俺の手を掴んだ。
  ほんの一瞬見つめ合って、何かが瓦解するようにキスをされた。
  一太くんの体温が口に入ってきて、脳が痺れて。
  一太くんの上に乗っていたはずの俺は、気づけば一太くんの下に組み敷かれていた。
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