インテリヤクザは子守りができない

タタミ

文字の大きさ
2 / 51

皆木冬馬

しおりを挟む
 兼城は一度思いついたら実行するまで気が済まない。ガキのお守りをさせられることが決定してしまっている状況に、初瀬は半グレの耳を削ぎ落した時の何倍も疲れを感じた。

「こいつはな、うちのシマで立ちんぼやってたんだ。しかもあろうことか俺に声かけてきやがった。男たち引き連れてるからそっち系の金持ちだと思ったんだと。バカだろ?どう見てもヤクザなのによ。まぁ適当に若い衆に処分を任せようと思ったんだが、ちょうどその時ガクの顔が浮かんでな。身寄りもないみてえだから連れて帰ってきたってわけだ」

 なんでそんな場面で俺のことを思い出すんだよとうんざりしたが、初瀬はすべての感情を消して「……なるほど」と返した。売りをしていたというガキは、売りをするにしてはかなり若い。色んな背景がちらついて嫌な気分になる。

「それでこのガキをペット代わりに俺に与えて、俺の情操教育をしようって魂胆ですか」
「お前いちいち難しい言葉使うんじゃねえよ。大卒のプライドか?」
「大学は中退です」
「ま、ペット代わりだろうが何だろうがいいからお前んちに住み込みで育ててみろ。1年間死なずに世話出来たら合格だ。おら、お前ガクに自己紹介しろ」

 1年間赤の他人と同居するということが当たり前のように提示され、初瀬はイラつきが隠せなくなってきた。兼城の口ぶりからして、おそらく1年以内に死なせたら別の人間が用意されるだろう。真剣に取り組まなければ終わらないペット地獄に陥る。

「……ミナギ、トーマ。……です」

 睨む視線はそのままに、ガキが名乗った。声変わりは終わっているらしく、思ったよりもハスキーな声だった。

「こっちはお前の飼い主になる初瀬岳だ。うちの若頭で慶應卒のエリートだぞ。勉強も教えてもらうといい」
「だから俺は中退です」
「これはこいつのデータだ。死なせないように頑張れよ」

 組員が頭を下げながら初瀬に書類を渡してくる。A4ペラいちの紙にはすぐに読み終わる量の文章が載っているだけだった。

 名前・皆木冬馬みなぎとうま(持っていた学生鞄に記載あり)
 生年月日・不明(15か16くらい※本人談)
 学歴・中学にはほとんど行っていない※本人談
 家族構成・なし※本人談──……

 名前以外ろくな情報がない。と思ったら、一番下に『性病検査・すべて陰性』とあった。立ちんぼをやっていたのに陰性なのは奇跡的だが、何の役に立つ情報なんだと息を吐きながら初瀬は紙を折り畳んだ。

「ガク。お前はうちの狂犬だ。どんなことにも容赦ねえ。その姿勢はたった5年でお前を若頭にまでのし上げた。だが極道ってのは仁義も必要だ。お前が人間味を手に入れれば無敵だぜ」
「親父は俺を買い被ってます。元から器の小さい人間だから、仁義がなってない。俺は本来平の組員で十分な男です」
「ごちゃごちゃ言うな。この俺が期待してんだから、それに応えりゃいいんだよお前は。話は以上だ」

 言い切った兼城が手を打つと、冬馬の腕を掴んでいる組員が初瀬の前に進み出る。

「ご自宅までお送りします。こいつも一緒に」
「はぁ……。適当に服着せてから乗せろ。親父、最後に一つ聞きたいんですが、俺が皆木を死なせてもペナルティはないですよね」
「ペナルティなんてねえよ。捨て猫拾ったみたいなもんだしな。ただ死体の処理はお前がやれよ」

 一番面倒な部分をぶん投げられて、初瀬は言いたいことを全部飲み込みながら「それじゃ俺は失礼します」と兼城に頭を下げた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

アンダーグラウンド

おもち
BL
本命には弱い関西のヤクザと、東京から転校したが高校に馴染めていない高校生の甘酸っぱい恋のお話です。 好きだからこそ手が出せない攻めが、唯一の心の拠り所の受け。二人がのんびりイチャイチャ生活しています。

交わることのない二人

透明
BL
憧れの大阪の大学に通うため、東京から単身やって来た白井菖蒲は、推している芸人が下積み時代によく訪れていた喫茶・トミーで働く事に。 念願だったトミーで働け、とても充実感で満たされていた。働き始めてから三日目までは。 朝の10時、振り子時計と共に、革靴を鳴らし店内に入って来たのはガタイの良く、真っ黒な髪を真ん中でかき上げ、目つきが悪い黒いスーツに身を包んだヤクザだった。 普通の大学生と、ヤクザのお客さん。決して交わるはずの無い二人。 な筈なのだが何故か、二人の仲はスイーツを通して深まっていくのだった。 ※一応BLですが、ブロマンス寄りです ※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

処理中です...